その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム 作:超天才清楚系病弱魔法少女
◇アンブレン
アンブレンは魔法の国の外交部門に属する実力派魔法少女だ。
これは決してアンブレンの過大評価ではない。
だって、いくらレディ・プロウドが幼子とのスキンシップが好きな人だからといって、未知の脅威が待ち受ける案件に足手まといを連れて行くわけがない。
プロウドがアンブレンを誘ってS市に赴いた。
アンブレンに実力がある証だ。
そう、アンブレンは強い魔法少女だ。
なのに。アンブレンはいつの間にか魔法のロープで体を拘束され、どことも知れぬ空間に投げ込まれていた。
魔法を封じられ、ロクに身動きもできず。
眼前にはアンブレンと同じくロープで拘束された2人の魔法少女がいて。
アンブレンたちは命を握られている。
アンブレンは否応なしに事の深刻さを突きつけられた。
しかし、絶体絶命の窮地は思わぬ形で幕を閉じた。
スイムスイムがアンブレンたちを助けてくれたからだ。
スイムスイムは魔法で『アンブレンたちが普段生活しているカラフルな空間』と『白黒な空間』とを行き来できるらしい。
この『白黒空間』では呼吸ができなかったり、『カラフルな空間』側にある物体に触れなかったりといった制約があるようだ。
けれど、これらの制約を差し引いても、『カラフルな空間』側の人間の視認をかいくぐって隠密行動できる『白黒空間』はとんでもなく便利だ。
実際、スイムスイムは『白黒空間』を使って、誰にも気づかれることなくアンブレンたちを救出してみせた。
スイムスイムがいなければ、アンブレンは今頃どうなっていたことか。悲惨な結末が待ち受けていたことは想像に難くない。
現在、スイムスイムは人目を避けるために、アンブレンたち3人を両腕と背中で抱えながら『白黒空間』に潜りつつ、砂漠エリア・水場エリア・モニターの部屋・岩場エリアの順に地下研究所を巡っている。
スイムスイムは各エリアを訪れてはピュアエレメンツこと人造魔法少女を探し、いないとわかればすぐに次のエリアへと駆けている。
スイムスイムが『白黒空間』から『カラフルな空間』に戻るのは、スイムスイムたちの息継ぎの時と、各エリアの隔壁を開閉させるための壁のパネルを押す時だけだ。
「……」
スイムスイムの左脇に抱えられているアンブレンは、スイムスイムの横顔をジッと見つめる。
その瞳に宿るは、警戒心。
スイムスイムは恩人だ。
けれど信用できない。
スイムスイムは常に無表情で、声色も単調だ。
所作から得られる情報が非常に少ない。スイムスイムの性格は謎に包まれている。
アンブレンと一緒に助け出された喪服の魔法少女と妖精っぽい人造魔法少女の2名は、スイムスイムに信頼を寄せているようだ。
だが、アンブレンは2人ほど妄信的にはなれない。
これまでの状況から、グリムハートとシャッフリンがアンブレンたちに害意を抱いていることは理解した。しかし、スイムスイムがグリムハートたちとグルじゃない確証はない。
アンブレンがスイムスイムに疑念を抱いた一番の理由は、スイムスイムが先ほど、モニターの部屋をあっさり通過したからだ。
この地下研究所には悪魔の召喚装置がある。
他にも、人造魔法少女の研究データもあるだろうし、各部屋の監視や各部屋を隔てる障壁へのパスワードの設定だってできるだろう。
モニターの部屋には様々な機械装置が鎮座していた。
あの部屋はきっと、いや間違いなくこの地下研究所の心臓部だ。
けれど、スイムスイムはモニターの部屋に人造魔法少女がいないことを確認すると、すぐに岩場エリアへと移動した。この行動があまりに疑わしい。
スイムスイムはモニターの部屋の価値を理解していないのか。あるいは、グリムハートとシャッフリンにモニターの部屋を明け渡すつもりなのではないか。
「ねぇスイムスイム。さっきの部屋なのだけど、離れても良かったのかしら?」
岩場エリアにて、スイムスイムたちの息継ぎのために『カラフルな空間』に切り替わったタイミングで、スイムスイムに背負われている喪服の魔法少女が問いかける。
喪服の魔法少女はスイムスイムを信用している一方で、アンブレンと同種の疑問に思い至ったらしい。
「ブリーフィングルームのこと?」
「ええ。あの部屋はこの研究所の中枢ではなくて?」
「大丈夫、対策があるから」
スイムスイムの発言は、まるで人造魔法少女を巡る地下研究所の騒動を予期していたといわんばかりだ。
「ここにも誰もいないみたいだから、きっとみんなは森林エリアに集まってる。行こう」
スイムスイムは喪服の魔法少女との会話を早々に切り上げて、アンブレン共々『白黒空間』へと移動し、森林エリアへと向かい始める。詳細を話すつもりはないらしい。
スイムスイムは怪しい。
何を企んでいるか、わかったものではない。
とはいえ、アンブレンがスイムスイムに助けられた事実は変わらない。スイムスイムが他の魔法少女との合流を望んでいることもウソではなさそうだ。
なので、アンブレンはうずまく疑念を表に出さず、大人しくスイムスイムに抱えられたままでいることにする。
とにもかくにもプロウドとの合流が先決だ。
立ち回りを決めるのは合流後でも遅くはないだろう。
(早くプロウドに会いたいなぁ)
アンブレンは内心で心細い本音を吐露した。
◇◇◇
◇スノーホワイト
スノーホワイト、レディ・プロウド、袋井魔梨華、スタイラー美々、トットキーク、ウッタカッタ、フィルルゥ、シャッフリン。
寄せ集めの魔法少女8名は現在、人造魔法少女と接触し、行方不明の魔法少女について問いただすために、地下研究所の森林エリアから奥の部屋を目指している。
――事態は好転している。
これは『困っている人の心の声が聞こえる』魔法で入手した、スノーホワイトだけが知っている情報だ。
なにせ、先ほどまで聞こえていなかった行方不明者3名(アンブレン、カフリア、プリンセス・テンペスト)の心の声が途切れ途切れで聞こえ始めたからだ。
彼女たちの心の声が断続的なのは、袋井魔梨華が話していたように、『スイムスイムが魔法で次元を行き来できるから』だろう。
スイムスイムは行方不明者を救出するために姿をくらまし、単独行動に打って出た。
同時に、袋井魔梨華は過激な言動を繰り出して自身に注目を集め、スイムスイムの隠密行動をアシストした。
結果、スイムスイムは行方不明者を助け出してくれた。
救助された3名は仲間との合流を望んでいる。
また、彼女たちの心の声により、3名を拘束した犯人がグリムハートとシャッフリンだと判明した。
よってスノーホワイトの役目は、スイムスイムたちと合流する前に人造魔法少女たちと出会った際に、無益な争いを避けることだ。
とはいえ、争いの回避は難しい。
現在、プロウドを筆頭に、アンブレンとカフリアをさらった犯人は人造魔法少女だという風潮になっている。
一方で、人造魔法少女たちからは、スノーホワイトたちがスイムスイムとプリンセス・テンペストをさらった犯人だとする心の声が聞こえている。
お互いがお互いを犯人だと結論付けている以上、両者が出会った際に、スノーホワイトが「まずは話し合いを」などと主張したところで、両者が矛を収めることは望めない。
けれど、策はある。
人造魔法少女の1人、プリンセス・インフェルノの心の声から、彼女が姫河小雪の小学生時代の友達:緋山朱里であることはわかっている。
それに、人造魔法少女側に与している、S市担当の正規の魔法少女プリズムチェリー。彼女から『スイムスイムの作戦が失敗したら困る』との心の声が聞こえている。プリズムチェリーはスイムスイムの意図を大なり小なり知っている。
まずはプリンセス・インフェルノにスノーホワイトの正体を明かし、人造魔法少女側の戦う動機を削ぐ。
それからスノーホワイトが魔法で得た情報をみんなに共有する。プリズムチェリーから上手く発言を引き出せれば、スノーホワイトの話に信憑性が生まれる。
それでお互いの疑心を少しでも晴らせるのなら上々だ。
スノーホワイトはあくまで、スイムスイムが行方不明者を引き連れてやってくるまでの時間稼ぎを果たせば良いのだから。
ただ、時間稼ぎに集中してばかりもいられない。
シャッフリンの警戒が必要だ。
シャッフリンは敵だが、まだ捕まえてはいけない。
今、安易に手を出してしまえば、スノーホワイトは仲間に危害を加えた裏切り者として扱われ、誰もスノーホワイトの主張に耳を貸さなくなる。
そもそもシャッフリンの心の声はあまりに薄弱なため、シャッフリンの意図を紐解けていない。下手にシャッフリンに敵対意思を表明し、刺激するのは危険だ。
「ウッタカッタ。シャッフリンが不穏な動きをしたら拘束して」
「委細承知でございますです」
スノーホワイトがウッタカッタにこっそり指示を出すと、ウッタカッタは顔色一つ変えずに即答する。
ウッタカッタの『しかし彼女は常にビクビクキョドキョドと挙動不審でございますから、判断に困りますねぇ』との心の声に、スノーホワイトは内心で共感した。
フリーランスの魔法少女は生計を立てるために金銭やコネクションを欲する傾向にある。
ウッタカッタも同様のようで、だからこそ信用できる。『魔法少女狩り』として実績が知れ渡っているスノーホワイトとの繋がりは、多少なりともウッタカッタを惹きつけるはずだ。
フィルルゥではなくウッタカッタに頼んだのは、ウッタカッタの方がスノーホワイトの指示の理由を聞かないでくれそうだったからだ。
あとは、フィルルゥの心の声が不安や恐怖で満たされていて、心配だったのも一因だ。
――と、ここで。森林エリアの奥の隔壁が上にスライドし始める。
赤と、青と、黒を基調とした人造魔法少女たち、そしてプリズムチェリーの姿があらわになる。
「さっきぶりだな、下郎ども」
プロウドがギンと人造魔法少女たちを睨みつける。プリズムチェリーがビクリと肩を震わせ、人造魔法少女たちがプリズムチェリーを守るように前へ出る。
スノーホワイトは先手を打つべく、プロウドの前に音もなく進み出て、変身を解除した。
「「「ッ!?」」」
周囲の魔法少女たちが見るからに動揺している。信用のできない同業者の前で魔法少女が変身を解くのは自殺行為だからだ。
スノーホワイトとて、魔法でみんなの性格を把握していなければ、みんなに変身前の学生服姿をさらすことはなかっただろう。
スノーホワイトはインフェルノに強く視線を送りつつ、再び魔法少女に変身した。これで朱里ちゃんにスノーホワイトの正体が姫河小雪だと伝えられた。
「こっちもさっきぶりだね、朱里ちゃん」
「小雪、あんたも魔法少女だったの!?」
「うん」
スノーホワイトが首肯すると、インフェルノは「マジかよ……」と呟き、口元に手を当てて考え込む。敵だと思っていた面子にかつての友達がいることに困惑する心の声がスノーホワイトに伝わってくる。
一方、プロウドの心からは『お前らの関係なんて知ったこっちゃないからさっさと本題に入らせろ』との圧が発せられている。
悠長にはしていられない。
作戦どおり、人造魔法少女側の気勢を削ぐことに成功した。次は――
(……え?)
刹那。インフェルノからスノーホワイトに酷く冷たい視線が投げかけられた。
「で、小雪は犯罪にでも手を染めたわけ? 人身売買でも始めたわけ? テンペスト、スイムスイム。8歳の子供ばっか狙いやがって! 何が目的だよ、このロリコンどもがッ!」
「!!」
仲の良かった友達に怒りの矛先を向けられていることにスノーホワイトは内心でショックを受け、しかし表には出さない。インフェルノの誤解を解くべく、冷静に反証しようとする。
「ちが――」
「違わないだろ! だいたい小雪、あんたさっきロープで縛ったスイムスイムを担いでただろ! 監視カメラで筒抜けなんだからな!」
「……」
どうしよう、事実だ。反論できない。
スノーホワイトは一瞬、言葉に詰まった。
(いや待て、待つんだ。私はただアンブレンが特別なだけで、あのもちもちとした肌がすべすべで気持ちいいなって気に入っているだけで、断じて
(!???)
その時。スノーホワイトにプロウドの心の声が届いた。さっきまで怒り心頭だったはずのプロウドが一転して、狼狽しまくりの長文のお気持ちを心の中で表明してきた。
あまりに不意打ちだったため、スノーホワイトがインフェルノを説得するべく構築中だった主張が吹き飛んでしまった。
「ロ、ロリコンはどっちだ! あんなに小さくてかわいいアンブレンをさらっておきながらその言い草、ふてぶてしいにもほどがあろう!」
売り言葉に買い言葉でプロウドが人造魔法少女を責め立てる。一触即発の雰囲気のはずなのに、プロウドの発言がまるでスノーホワイトの頭に入ってこない。
(いやいやいや違うよ? ロリコンじゃないよ、ホントだよ? 私はただかわいい子供を遠くから眺めて愛でて心の栄養にしたいだけだから……プールで遊んでる子供たちをスケッチとかもしてるけどこれは家族とか学校の先生とかだってたぶんやってることだから普通だし……スイムスイムと一緒の布団で寝たのだって、あれは家出したスイムスイムが少しでも安心できるようにするためのピュアエレメンツのリーダーとしての当然の行いだから……決して私はロリコンじゃないから……)
(!???)
ここでさらに人造魔法少女側からも長文のお気持ちが心の声としてスノーホワイトになだれ込んでくる。
どうやらこの場には偶然にも犯罪者予備軍が集まっているようだった。
わけがわからない。こんな偶然が許されていいのか。
「あくまで認めねぇってか。いいぜ、こうなりゃこいつで白黒つけてやる!」
「上等だ!」
スノーホワイトが動揺から立ち直るよりも早く、インフェルノが偃月刀を掲げ、プロウドがマントの内側に手を忍ばせる。他の面々も、もはや両陣営の衝突は不可避だと判断し、次々と得物を構え始める。
ダメだ、止めないと。
この場の全員は手を取り合えるのに。何が悲しくて同士討ちしなければならないのか。スノーホワイトたちがここで戦って消耗したところで、グリムハートとシャッフリンを喜ばせるだけだ。
でもどうすれば。どうすればいい。
――だれかたすけて。
「そこまで」
ついスノーホワイトの脳裏に、他者に助けを求める情けない
見れば、いつの間にかスイムスイムがプロウドとインフェルノの間に割って入っていて。スイムスイムはアンブレンとプリンセス・テンペストを両脇に抱え、カフリアを背負っていた。
◇◇◇
◇スイムスイム(憑依)
エッホエッホ!
行方不明だったみんなを助けたって伝えなきゃ!
エッホエッホ!
グリムハートとシャッフリンが敵だって伝えなきゃ!
カフリア、プリンセス・テンペスト、アンブレンの3名を救出したボクは、なるべく裏世界に潜りながら地下研究所をぐるっと一周し、ようやくスノーホワイトたちを発見した。
すると研究所への侵入者陣営と人造魔法少女陣営とが一触即発だったため、ボクは急いで両者の間に入り、裏世界から表世界に帰還する。
「そこまで」
ボクの出現に驚く面々をよそに、ボクはプリンセス・テンペストとアンブレンを下ろす。カフリアにも背中から降りてもらう。
その間、ボクは小心者アピールに事欠かないシャッフリンに視線を注ぎ続ける。
「カフリア」
「ええ」
カフリアはボクに返事をするや否や、一息にシャッフリンとの距離を詰める。シャッフリンの懐に潜り込み、シャッフリンの顎を掌底で打ち抜いた。
「ギッ!?」
悲鳴とともにシャッフリンの体が吹っ飛ばされ、頭から地面に墜落する。哀れシャッフリンは数回ビクリと体を震わせたのを最後に、まもなく気絶した。
よし、これでグリムハートとシャッフリン以外の全員で情報共有できる場が整った。あとは言葉を選んでみんなに事情を説明し、共闘関係を構築するのみだ。
不意のボクたちの登場と、カフリアによるシャッフリンの襲撃。度重なる予期せぬ事態に場の空気は固まっている。
愉快そうに口笛を吹く魔梨華姐さんや「おおー、ビューティホーね」とパチパチ拍手するトットキークのような例外もいるけれども。
「おやおや。生きていたでございますか、カフリアのお姉さん。しっかし、再会して早々、派手にやっちゃってますですね?」
「そうですよカフリアさん!? 一体何をして――」
「シャッフリンは敵だから。先手必勝」
「へ?」
ウッタカッタが面白がりながら、フィルルゥが慌てながらカフリアに問いかけようとするのをボクが即座にシャットアウトする。
暗に『ボクが一番、今の事情に明るい』とアピールし、後ほど発言権を得るためだ。
「さっきはありがとう」
「ククッ、何のことやら」
ボクは困惑中のフィルルゥをいったん放置して、魔梨華姐さんに歩み寄る。お礼を告げるとすっとぼけられてしまったが、それがまた姐さんの魅力を際立たせている。
「アンブレン! 良かった、無事だったんだな!」
「心配かけてごめんね」
ボクの視線の端で、プロウドとアンブレンが再会を果たしている。アンブレンの小さな体をプロウドが抱きしめ、アンブレンがプロウドの背中をヨシヨシと撫でている。
「無事で本当に良かった。怪我してない?」
「うん、うん。スイムスイムが助けてくれて……」
ボクがピュアエレメンツの下へ向かうと、テンペストがクェイクに抱き着いてボロボロ涙をこぼしていた。
ピュアエレメンツ全員と合流できたことでテンペストの緊張の糸が切れ、抱えていた感情が堰を切ってあふれ出したのだろう。
「ありがとね、スイムスイム。テンペストを助けてくれて」
「さっすがスイムスイムだぜ!」
デリュージからは感謝の言葉とともに頭を撫でられ、インフェルノからは容赦なく頭をワシャワシャされるボクだったが、いつまでもこうしてはいられない。ボクはプリズムチェリーに視線を向ける。
「無事だって信じてたよ、スイムスイム」
「ありがとう」
「それで、私は何をしたらいい?」
「ブリーフィングルームのモニターの映像を変えてほしい。森林エリアに誰もいないように見せかけたい」
「わかった」
プリズムチェリーの『鏡に映し出すものを自由に変えられる』魔法は特訓の果てに大幅に進化している。厳密に鏡でなくても、少しばかり離れた場所にある物でも、プリズムチェリーが望んだ映像を投影できる。
グリムハートたちはおそらく人造魔法少女の技術の独占を目的としている。ならば今頃、ブリーフィングルームを占拠中だろう。
ボクはあえてグリムハートたちにブリーフィングルームを差し出すよう立ち回った。
グリムハートたちに己の作戦が順調に進んでいるものと錯覚させることで、ボクたちが情報共有し結束するまでの時間を稼ぐためだ。
とはいえ、遅かれ早かれ、捕らえた魔法少女が忽然といなくなっていることはグリムハートたちにバレる。
その時に備え、プリズムチェリーの魔法で森林エリアの監視映像を捏造してもらい、消えた魔法少女の所在を特定しにくくする。
「フィルルゥ。手伝ってほしいことがある」
「え、なんで私が……」
「ここは従っておくのが吉でございますよ、フィルルゥのお姉さん」
「……どういうことですか?」
「今、この場を掌握しているのは誰か。一番情報を持っているのは誰か。そのことに思い至れば、自ずとフリーランスの動き方は決まってくるのでございます。時勢を読み、長い物に巻かれておき、実力者の心証を稼ぐのもフリーの魔法少女の処世術でございますです」
時間稼ぎの対策はまだ存在する。これを実現するべく、ボクはフィルルゥに協力を持ちかける。フィルルゥは困惑を返すも、すかさずウッタカッタがボクに都合の良い助言を差し込んでくれた。
「……あぁもうわかりましたよ! 手伝います! それでいいんでしょう?」
「ありがとう」
ウッタカッタのフォローのおかげでフィルルゥの協力を得られたため、ボクはフィルルゥに指示を出す。
プリズムチェリーに森林エリアの端に埋めてもらっていたたくさんの鏡をフィルルゥの魔法の糸でつなげて大鏡を2つ作る。
その2つの大鏡をそれぞれ、森林エリアの出入り口たる2つの障壁の外側に、これまた魔法の糸でくっつける。
あとはプリズムチェリーの魔法で2つの大鏡に『研究所の壁』の映像を映してもらえば、行き止まりを演出できる。
一見して部外者が森林エリアへ侵入する手段が消えたように偽装できる。
隔壁を開閉できる壁のパネルにもフィルルゥの糸で鏡を縫いつけて、プリズムチェリーに『壁』を投影してもらえば完璧だ。
ボク主導で一通りの工作を終えた時、魔法少女たちの視線がボクに集まっていた。各自、再会のやり取りが落ち着いたのだろう。ボクは皆の視線に応じるように1つうなずく。
「私の知っていることを話す。気になることがあったら質問して」
◇◇◇
◇グリムハート
捕えていたはずの風属性の実験体が消えた。
シャッフリンの魔力補充用の蛮族が2名とも消えた。
憤激のままにしばし暴れ散らかしていたグリムハートは、次に疑問を抱いた。
3名とも魔法を封じて拘束していたのだ。3名が自力で姿を消すなどありえない。
第三者がグリムハートの所有物を奪い取ったのだ。しかし誰が、どうやって。
グリムハートの疑問はほどなく氷解した。
当たりがついたからだ。
そうだ、シャッフリンが捕らえたわけでもないのに勝手にいなくなった蛮族がいた。
人造魔法少女でもなければ、ロープで拘束され身動きを封じられていた矮小な存在がいた。
あいつだ。
あの
奴は魔法で自身の存在を消して隠密行動できるのだろう。それなら今までグリムハートが蛮族を盗まれたことに気づかなかったことにも合点がいく。
下手人は割れた。
人造魔法少女の技術の独占のため、地下研究所の蛮族を鏖殺することに変わりはない。
だが、グリムハートの計画を踏みにじった水着女をただ殺すだけではグリムハートの溜飲は下がらない。グリムハート直々に首を刎ねてやる。
グリムハートはずた袋から新たなシャッフリンを取り出す。
シャッフリンの司令塔にして心臓。『礼儀知らずではない』として、グリムハートとの対話を許可している唯一の存在。シャッフリン・ジョーカーである。
「何でしょう?」
「風属性の実験体が消えた。補充用の魔法少女もだ」
グリムハートの告げた内容にジョーカーが目を大きく見開く。
その間抜けな態度が苛立たしい。けれど、『貴様が節穴だから捕まえた魔法少女を取り逃がしたのだ』と、のどに出かかった言葉を引っ込めた。
「白い水着の蛮族がいただろう? 奴の仕業だ。我に楯突いた不届き者をふん縛ってこい」
グリムハートの命令を受けて、ジョーカーが他のシャッフリンたちに指示を飛ばす。
あとは待てばいい。考えるのは下々の仕事だ。グリムハートはただ存在していれば良い。権力者とはそういうものだ。グリムハートは自前の玉座に座りなおす。
が、しばらくしてジョーカーが困惑の面持ちでグリムハートに歩み寄ってきた。
「研究所に魔法少女がいません」
「……なに?」
ジョーカーの報告を受け、グリムハートはブリーフィングルームのモニターを見やる。モニターには研究所の各エリアの監視映像が表示されているが、確かにどのエリアももぬけの殻だ。
だが、そんなことはありえない。
研究所の入口のパスワードはダイヤのシャッフリンが変えた。パスワードを知っているのはグリムハートだけだ。
研究所から外部には連絡できない。
研究所の壁はあらゆる魔法を無効化する。
この状況下で蛮族どもが、グリムハートに悟らせることなく研究所から脱出したとでもいうのか。
ふざけるな。
どこまでグリムハートを愚弄する気だ。
グリムハートは内心でグツグツと煮えたぎる憤激の念を、しかし今度はどうにか押さえつけた。ここで感情に身を任せてしまえばそれこそ蛮族の思うつぼだ。
グリムハートが己の感情をコントロールする一方、シャッフリンはスペードとクラブのシャッフリンと何事か会話をした後、グリムハートに告げた。
「おそらく魔法少女は森林エリアにいます」
「ほう?」
「スペードとクラブのシャッフリンから『森林エリアの中に入れない』との報告を受けました。森林エリアの隔壁が壁になっており、出入りできないとのことです」
なるほど、それは怪しい。研究所のパスワードが変わり、外へ出られないとなれば、蛮族どもが特定のエリアで籠城しても何もおかしなことはない。
「蛮族どもと行動を共にしていたシャッフリンから連絡はないのか?」
「反応ありません。シャッフリンの数は減っていないので、気絶させられているのでしょう」
「悪魔はどうだ? 森林エリアに悪魔を召喚し、蛮族どもを殲滅させるのだ」
「悪魔のストックは残っていません」
「グズが!」
グリムハートは悪態をついた。
各エリアの監視映像は信用できない。森林エリアに入れない。悪魔を召喚できない。
あまりにも後手に回っている。
どこまでも蛮族の手のひらで踊らされている。
蛮族どもはさぞ調子づいていることだろう。
腹立たしいことこの上ない。
だが、この立ち回りが本当に蛮族だけで可能なのか?
プク派、カスパ派。他派閥がグリムハートの動きを察知し、オスク派を妨害するべく介入しているのではないか。
「ダイヤを向かわせましょう」
「む?」
「森林エリアの隔壁を魔法で工作しているのであれば、ダイヤなら気づいて解除できます」
「それだ」
今度はジョーカーから提案を持ちかけてきた。有意義な提案だった。確かにダイヤならば蛮族の姑息な工作を看破し、解除できる。
ジョーカーの指示で、ブリーフィングルームの機材から人造魔法少女の情報を探していたダイヤ12名の内、半分が森林エリアへと差し向けられた。当然、戦闘要員のスペードとクラブもダイヤに同行している。
いつまでも蛮族どもの思いどおりになるわけにはいかない。
誰を敵に回したのかを思い知らせてやる。
グリムハートは玉座にふんぞり返ったまま、苛立ちまじりに鼻を鳴らし、まぶたを閉じた。
次回 第47話
『スイムスイム、ピュアエレメンツやめるってよ』