その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム 作:超天才清楚系病弱魔法少女
◇プリンセス・デリュージ
侵入者に捕まったスイムスイム。
行方不明となったテンペスト。
2人を救うために、侵入者との衝突は避けられない。
そのはずだったが、状況が一変した。
捕らわれの身だったはずのスイムスイムがいつの間にかテンペストを救出してくれていたからだ。
それだけじゃない。
どうやら侵入者側でもピュアエレメンツと同様に行方不明騒動があったようだ。
しかしスイムスイムは侵入者の魔法少女も助け出していた。おかげで、ピュアエレメンツと侵入者が戦う理由がなくなったのだ。
デリュージは心の底から安堵していた。
何せ、ピュアエレメンツよりも侵入者の方が人数が多い。加えて、ピュアエレメンツの援護要員としてのディスラプターのストックはない。
もしも侵入者との戦闘に突入していたら、デリュージたちは本気で戦わないといけなかった。
侵入者とはいえ、人間を殺害してしまう事態は十分にありえた。
けれど、デリュージの懸念は現実とならなかった。
スイムスイムのおかげだ。
「私の知っていることを話す。気になることがあったら質問して」
森林エリアにて、2つの勢力の衝突を回避した立役者たるスイムスイムが14名の魔法少女の耳目を集めて、事情を説明してくれようとしている。
今日の騒動の事情がわかる。
真実を知ることができる。
とても良いことだ。
願ってもないことだ。
そのはずなのに、どうしてか落ち着かない。
心がざわついている。
嫌な予感がする。
話を聞けば最後、ピュアエレメンツとして積み上げてきた、かけがえのない日々が壊れてしまうような。ピュアエレメンツの在り方が様変わりしてしまうような予感だ。
「クェイク、インフェルノ、デリュージ、テンペスト。みんなは『人造魔法少女』なの」
スイムスイムは語り始める。
本来、魔法少女とは、魔法の才能を持つ限られた人間しかなれないこと。
デリュージたちは田中先生の手により、魔法の国の知らない方法で魔法少女になってしまっていること。
デリュージたちが人造魔法少女と呼ばれていること。
(人造魔法少女……)
最近、何度か耳にした言葉だ。
まさか本当に、デリュージたちを指す言葉だったとは。
デリュージにはちゃんと家族がいる。
これまで歩んできた人生がある。
そんなデリュージが『
スイムスイムは「ここは私の考えだけど……」と前置きして口を開く。
何者かが人造魔法少女を育てるために、S市にだけ、夜にだけ、人造魔法少女が倒せるレベルの悪魔を召喚し続けていること。
地下研究所も、人造魔法少女を育成しつつデータを取るための施設であろうこと。
人造魔法少女育成計画に、まず間違いなく田中先生が関わっていること。
「……」
ピュアエレメンツの根幹が揺らいでいく。
みんなに内緒で世界を守ってきたピュアエレメンツの誇りが失われていく。
凛とした佇まいでいて、これが世界を守る立場の人の風格なんだと思わせてくれた田中先生への敬慕の念が砕けていく。
スイムスイムの話は止まらない。
最近、これも何者かの手により人造魔法少女の情報が魔法の国に広まったこと。
結果、今日になって、色んな目的で、総勢11名もの魔法少女が地下研究所に侵入してきたこと。
11名の中には、魔法少女たちへの明確な害意を持つ人がいて、その筆頭がグリムハートとシャッフリンであること。
おそらくグリムハートとシャッフリンの目的は人造魔法少女の技術の独占であり、口封じのために地下研究所に集まった魔法少女を皆殺しにしようとしていること。
……思えば、違和感はあった。
田中先生にプリンセス・ジュエルを与えられて魔法少女になった、ピュアエレメンツ初期メンバー:デリュージ・クェイク・インフェルノ・テンペスト。
出自不明のピュアエレメンツ追加戦士:プリズムチェリー・スイムスイム。
両者は魔法少女としての特徴があまりに違う。
プリズムチェリーやスイムスイムは、魔法少女名に「プリンセス」と冠していない。
頭にティアラを被っていない。
変身する時にプリンセスジュエルを使わない。
変身する時に「プリンセスモード・オン」と言わなくていい。
変身を維持するために、魔力を補充するために薬を飲まなくていい。
一時的に戦闘能力を飛躍的に向上させる「ラグジュアリーモード」を使えない。
2人以上集まっても、超強力な必殺技『アルティメットプリンセスエクスプロージョン』を使えない。
てっきり、プリズムチェリーやスイムスイムの方に特殊な事情があるのだと考えていた。
でも違った。特殊だったのは、異端だったのは、デリュージたちの方だったのだ。
だからデリュージたちは狙われた。
地下研究所にぞろぞろと多数の侵入者が入り込んできた。
田中先生に示された方法で人造魔法少女になって。
投薬して、地下研究所で戦闘訓練して、外でディスラプターと戦って。
そんなデリュージたちの存在が多くの魔法少女を引き寄せた。
これじゃあ、人造魔法少女というよりまるで――
「ふざけんなよ……あたしらは実験動物じゃない!」
インフェルノが憤怒に震えるがままに吼えた。
デリュージたちの気持ちをこれでもかと代弁してくれている。
スイムスイムは強くインフェルノに視線を向けるも、話を続けていく。
現在、グリムハートたちはブリーフィングルームに陣取っている可能性が高い。
ブリーフィングルームでは、研究所入口の大扉のパスワードを変更できる。
研究所の壁は魔法を一切受け付けないため、力技で壁を壊して脱出はできない。
スイムスイムの『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法でも壁を抜けられない。
研究所から脱出するには、ブリーフィングルームで大扉のパスワードを調べないといけない。つまりグリムハートたちとの戦闘は避けられない。
「確かに力づくは無理みてぇだな」
スイムスイムの話を耳に流しながら、頭に花を咲かせた魔法少女が森林エリアの壁に掌打を放ち、花からとんでもない光量のビームを放つも、壁には傷一つついていない。
「きっとみんな、思うところはある。でも……今は、一緒に戦ってほしい」
スイムスイムがデリュージたちを一瞥し、協力を要請する。
一拍の沈黙が場を流れる。森林エリアの人工樹の葉のこすれあう音が妙に耳に響く。
「入口の扉のパスワードのことを知っているのに、どうしてあの時ブリーフィングルームから離れたの?」
「みんなに協力してもらうために、みんなと話す時間が欲しかった。グリムハートたちにブリーフィングルームを明け渡すのが、一番時間を稼げると思った」
傘を差した魔法少女がどこか不満げに頬を膨らませながら問いかけ、スイムスイムは淡々と回答を返す。
「アタシどもに本国の要職を敵に回せと? コンビニのバイトが社長にケンカを売るようなもんでございますよ?」
「うん」
「ずいぶんと恐れ知らずでございますねぇ。これで魔法少女狩りのことは怖がっているのだから不思議でございますです」
「スノーホワイトは恐ろしい」
白いラッパを携えた魔法少女がからかい目的でスイムスイムに絡んでいく。
魔法少女たちの様子を見るに、スイムスイムの協力要請を蹴る者はいなさそうだ。
ふと考えた。
スイムスイムはいつからこの状況を作ろうとしていたんだろう。
「ごめんなさい」
気づけば、スイムスイムがデリュージたちピュアエレメンツの近くに来て、深く頭を下げてきた。
「私は、今日が来ることをわかってた」
「プリズムチェリーからピュアエレメンツのことを教えてもらった時から、いつかみんなが危ない目に遭うってわかってた」
「初めて会った時、みんなは私に優しくしてくれた」
「みんな素敵な人だった」
「私は、みんなを守りたくてピュアエレメンツに入った」
「世界を守りたかったわけじゃない」
「みんなに正直に話して、ピュアエレメンツを辞めてもらうことだってできた」
「……でも、私は言わなかった」
「誰がピュアエレメンツを狙ってくるのかを知りたかった」
「敵が誰かわからないと、みんなを守れないから」
独白を続けるスイムスイムは無表情のままだ。
けれど、デリュージたちへの罪悪感に苛まれているように感じられる。
「私がカフリアたちに――フリーランスの魔法少女たちに襲われた時、いよいよだって思った」
「私は、研究所で敵と戦う準備を始めた」
「みんなに『家出した』ってウソをついて、研究所に泊まるようにした」
「プリズムチェリーに、みんなに内緒で、全部のトレーニングエリアにプリズムチェリーの鏡やみんなの薬をたくさん埋めるようにお願いした」
「敵にブリーフィングルームを占拠されても、ピュアエレメンツが戦えるようにした」
確かにつながる。
これまでデリュージが抱えていた違和感が次々と解消されていく。
理性的なスイムスイムがいきなり家出した理由。
魔法少女3人に襲われたはずなのに平気そう、というか別のことを気にしていそうだった理由。
ここ数日のプリズムチェリーが憔悴していた理由。
すべてがつながる。
「私はみんなを、敵をおびき寄せるエサにした」
「みんなにいっぱい怖い思いをさせた」
「いっぱい不安な気持ちにさせた」
それは、そのとおりだ。
テンペストが行方不明になって、スイムスイムが侵入者に捕らわれて。デリュージは生きた心地がしなかった。特に、誘拐された張本人のテンペストの心中は察するに余りある。
「――私は、ピュアエレメンツをやめる」
スイムスイムはわずかに目を伏せて、宣言した。
デリュージは目を大きく見開いた。クェイクも、インフェルノも、テンペストも驚いている。プリズムチェリーも驚いている。
「私のことは嫌ってくれていい」
「でも、どうかプリズムチェリーのことは許してほしい」
「プリズムチェリーはピュアエレメンツのままでいさせてほしい」
「プリズムチェリーはみんなのことが心配で、それで私に相談してきただけだから」
「本当に、ごめんなさい」
スイムスイムがデリュージたちに背を向ける。
それから他の魔法少女たちに向けて何か話そうとしている。きっと、共闘するにあたっての作戦や役割分担の話を持ち出すのだろう。
デリュージは、スイムスイムに声をかけられずに口を閉ざしている。
明るく気さくなプリンセス・デリュージらしくないふるまいだ。
こういう時、素直に自分の意見を言えずに周りの空気をうかがう青木奈美の本性が顔を出してくる。そんな自分に嫌気がさす。
……確かに、世界を守るピュアエレメンツの活動は虚構だったのだろう。
デリュージは田中先生に騙された。それが事実だったのだろう。
でも、ピュアエレメンツに出会えた。
クェイク、インフェルノ、テンペスト、プリズムチェリー、スイムスイムと出会えた。
これだって事実だ。
6人組となった新生ピュアエレメンツの活動は楽しかった。
人生で一番、楽しかった。本当に、心の底から楽しかったのだ。
そりゃあ、スイムスイムに不満はあるけれど。
せめて事前に話してもらえればしっかり心の準備をして今日を迎えることができたのに、とか。
スイムスイムにとってピュアエレメンツは頼りない、ただ守られるだけの存在なのか、とか。
スイムスイムに文句も言いたいけれど。
でも人間誰しも秘密はある。
デリュージだって本性を隠して、明るく元気な魔法少女に徹している。
世の中には知らない方がいいことだってある。
秘密を全部共有してくれなければ仲間じゃない、なんて言うつもりはない。
ましてやその秘密が、ピュアエレメンツのためだったのならなおさらだ。
スイムスイムは賢い子だ。
賢いからこそ、たとえピュアエレメンツのためだったとしても、仲間に不義理を働いたことへの責任を取ろうとしている。
一人で抱え込もうとしている。
――スイムスイムにピュアエレメンツをやめてほしくない。
それなのに、スイムスイムを引き留めるためのたった一言をデリュージは口に出せずにいる。
もしもデリュージの意見が他のピュアエレメンツとズレていたら。
小学校でいじめられていた幼馴染の姿が脳裏をよぎる。体が動かない。手が震える。心臓の音がやたらとうるさい。
だれかたすけて(勇気をください)
「そう話を急がないの」
その時、クェイクがスイムスイムを呼び止めた。
「スイムスイムは私たちのために心を砕いてくれて、色々対策してくれた。それで私たちがスイムスイムのことをもっと好きになる理由はあっても、嫌う理由はない。責任を感じてピュアエレメンツをやめようとしなくたっていいのよ」
「でも、私はみんなにとても大切なことを隠してきた」
「誰だって秘密くらいあるでしょ。それに、仲間には秘密で暗躍するなんて闇属性のピュアエレメンツらしくてカッコいいじゃんか。あたしは好きだぜ、そーゆーの」
「私は――」
「スイムスイムはわたしたちのこと、嫌いになったの?」
「ううん」
「ならこれからも一緒にいようよ!」
ピュアエレメンツに対し負い目を抱くスイムスイムに、クェイクが、インフェルノが、テンペストが思い思いのアプローチを仕掛けていく。
「私も、スイムスイムにピュアエレメンツをやめてほしくないよ。ね?」
「もちろん」
プリズムチェリーからパスを受け取り、デリュージはうなずく。
これでピュアエレメンツの総意は示された。
「ありがとう」
スイムスイムがもう一度、頭を下げてくる。
かくしてスイムスイムのピュアエレメンツ脱退の危機は去った。
けれど結局、デリュージは能動的にスイムスイムを引き留めることができなかった。
その事実だけが、胸の奥に小さな棘のように残った。
デリュージは胸の痛みから目をそらすように、迫りくる戦いへ意識を向けた。
◇◇◇
◇スイムスイム(憑依)
【朗報】ボク、闇属性のピュアエレメンツとして活動継続決定【やさしいせかい】
絶対ケジメ案件で卒業しないといけないと思ったのに、全会一致でボクを引き留めてくれるなんて、ピュアエレメンツのみんなはホント優しい。
ボクは晴れやかな気持ちを胸に秘め、魔法少女たちとさらに話を進めた。
閉じ込められた地下研究所から脱出するため、総勢15名の魔法少女が共闘する。この理想的な構図を作れたことで、話は実にスムーズに進んだ。
『味方であるボクたちの名前、魔法、戦法の得意不得意』や『敵であるグリムハートやシャッフリンの思考パターンや、魔法の推測』、『脱出のための作戦』に至るまで、手早く情報交換できた。
作戦は単純だ。みんなが森林エリアでシャッフリン軍団を迎え撃っている間に、ボクが単身でブリーフィングルームに潜入して入口のパスワードを入手する、というものだ。
ボクが提示した作戦に異を唱える人はいなかった。
ボクが魔法でグリムハートとシャッフリンを出し抜いて、こっそりテンペスト・カフリア・アンブレンを救った実績が効いている。
話すべきことを話し終えたボクたちは今、森林エリアの各地で敵を迎え撃つ準備を始めている。
ここまでの会話でずいぶんと時間を使った。
いつ、グリムハートたちがプリズムチェリーの『鏡に映し出すものを自由に変えられる』魔法で大鏡に投影した偽物の壁を看破してきてもおかしくはない。
――実はみんなに伝えていないことがある。
そう、アカネの魔法の端末に送ったメールだ。
家出の名目で地下研究所に泊まり込む前、ボクはアカネに『このメールはまだ開かないで』との件名のメールを送り、ボクと最後に電話してから24時間経ったらメールを見て動いてほしいとお願いしている。
メールには『強くて悪い魔法少女のせいでS市の地下研究所に捕まってしまったから助けてほしい』と、マナ・魔王パム・7753の3名に伝えてほしいと記している。もちろん、3名の連絡先もメールに記載している。
監査部門、外交部門、人事部門。これだけ手広く関係者に緊急事態を周知すれば、誰かしら研究所に救援を差し向けてくれるはずだ。
特にマナは、ボクが友達を助けるためにS市の事件に首を突っ込もうとしていることを知っている。その事件にピティ・フレデリカが一枚噛んでいそうなことも知っている。
ボクから救援要請があれば、きっとすぐに動いてくれる。
ボクには確信があった。
アカネとは今朝、通話をしている。
夕方にもう一度通話しようとしたところでスノーホワイトたちが研究所にやってきた、というのが現状だ。
つまりボクたちには、あと半日を森林エリアで籠城する道だってあるのだ。
でもボクは籠城もできることをわざと隠している。ここに集まった魔法少女たちの力を使ってピュアエレメンツの敵を倒してしまいたいからだ。
グリムハートとシャッフリンは魔法の国本国の権力者だ。
ただ研究所を脱出し、『こいつらがボクたちを監禁して殺そうとしてきたんです!』と糾弾したところで、罪をもみ消されかねない。
グリムハートたちが野放しになってしまっては、いつまで経ってもピュアエレメンツへの脅威は消えない。人造魔法少女が狙われ続けることになってしまう。これは何としてでも避けたい。
とはいえ、欲はかかない。
グリムハートとシャッフリンの実力の底が見えない以上、ブリーフィングルームで入口のパスワードを入手して、いつでも研究所から脱出できるようにすることは必須だ。
グリムハートたちを倒すことに固執して、せっかく手と手を取り合った仲間が亡くなってしまうなんて絶対にゴメンだ。
「スイムスイム」
などと考えていると、スノーホワイトから声をかけられる。
「色々教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」
スノーホワイトからのお礼を素直に受け取りつつ、ボクは内心で首をかしげる。
いつグリムハートたちとの戦闘が勃発してもおかしくない状況で、まさか世間話をしにきたわけではないだろう。
「これ」
スノーホワイトが
ルーラ。かつてN市で魔法少女選抜試験が始まった時にスイムスイムが多くの魔法少女を殺害した際に使っていた凶器で、今はスノーホワイトが使っている武器だ。
「ルーラ……?」
「スイムスイムにあげるよ。いつかあなたに必要になると思ってたから」
「でも、これはスノーホワイトの武器じゃないの?」
「大丈夫、これは予備だから」
「……ありがとう」
ボクは逡巡した後にルーラを受け取る。
ちょっと受け取りを渋ったのは、スノーホワイトからボクに、憧憬のような嫉妬のような諦めのような、複雑な感情がうかがえたからだ。
ただ武器は欲しかったからすごく助かる!
B市では魔王パムから羽を1枚貸してもらえたけど、毎回戦場で良い武器を調達できるとは限らないからね。
――と、ここで。
森林エリアの両方の隔壁が同時に開かれた。
様々な絵柄のトランプがプリントされたコスチュームとともに、同じ顔をしたシャッフリンが次々と森林エリアへと押し寄せてくる。まるでパントマイム集団だ。
変態が編隊を組んでやってきた。
◇◇◇
◇ウッタカッタ
人生誰しも、自分がもう1人いたらと空想する。
もう1人の自分につらい勉強や仕事を任せて、自分は優雅な生活を満喫したいという堕落した欲求だ。
しかし自分が10人、20人と大量に増えるとなると話は別だ。
そんなアイデンティティ崩壊まっしぐらな事象はごめん被る。
(いったいシャッフリンはどういう心境なのか、興味津々でございます)
同じ顔をしたシャッフリン集団がぞろぞろと森林エリアへと踏み込んでくる。
我が物顔で歩を進める態度から、万が一にもウッタカッタたちに敗北するなどあり得ないといった傲慢さがうかがえる。
しかし森林エリアに入るや否や、数名のシャッフリンが頭上に視線を移す。自身の周囲に不自然に影が差していることに気づいたのだ。
シャッフリンたちの頭上3メートルほど先に、いくつもの丸太があった。
魔法少女たちが森林エリアの木々を伐採し、フィルルゥの『魔法の針と糸でなんでも縫いつける』魔法で蜘蛛の巣状に張り巡らせた糸の上に鎮座している。
フィルルゥが糸をほどき、丸太の軍勢が自然落下を始める。だが、魔法少女の身体能力ならこの丸太たちを余裕で避けられる。
なので、丸太の上に乗っていたクェイクがハンマーの頭で丸太を次々と地上へと押し出す。
魔法少女の膂力で押し出された丸太は圧倒的な質量と速度を引き連れて、シャッフリンを容赦なく押しつぶさんとする。
――はずだったが、丸太は次々と切り刻まれた。
あいつだ。スペードのエース、あのシャッフリンが槍で丸太を破壊したようだ。
そう、ウッタカッタは今のスペードのエースの槍の軌跡を目で追えなかった。
雰囲気も他と比べて別格だ。スペードのエース、奴を打倒できなければウッタカッタたちに明日はない。
「ふっとべ!」
テンペストが挨拶代わりの強風をシャッフリンたちに放った。
シャッフリンたちはこらえきれずに次々とシャッターの向こう側へと転がっていく中、やはりスペードのエースはまるでそよ風でも浴びているかのように悠々と強風に耐えて、一息にテンペストへと迫りくる。
己の魔法をものともしない強敵に、テンペストの瞳が驚愕に揺らぐ中、アンブレンがテンペストの一歩前に割り込み『なんでも受け止める魔法の傘』でスペードのエースの槍を難なく防ぐ。
「
不可思議な事象にわずかに目を見開くスペードのエースに袋井魔梨華が飛びかかる。
頭に咲く紫色の花が丸鋸のように高速回転してスペードのエースを切り刻みにかかるもエースは涼しい顔のままだ。
エースが魔梨華に風穴を開けるべく突き出した槍の軌道が、スタイラー美々が差し込んだ大振りの剃刀によってわずかに逸れ、魔梨華は脇腹を貫かれるにとどまった。
隙あらば『袋井魔梨華に嫌々付き合っているんです、私はただの小市民です』ムーブに余念のないスタイラー美々だが、あのスペードのエースに平然と立ち向かえるあたり、スタイラー美々も袋井魔梨華と同類の戦闘狂に違いない。
「いいなぁおい! 最高だテメェ!」
スタイラー美々がスペードのエースの槍に力負けして吹っ飛ばされる中。
決して軽傷ではないというのに、魔梨華はますます爛々と目を輝かせながらスペードのエースとの距離を詰めて鼻っ柱に
スペードのエースは顔面を削られながらも魔梨華にカウンターを放とうとして、一瞬制止した。その後、目を瞑ってから魔梨華を槍の石突きで吹っ飛ばした。
おそらくは『鏡に映し出すものを自由に変えられる』プリズムチェリーがスペードのエースの眼球に直接、デタラメな映像を流している。
魔梨華の姿をグリムハートにでも変えて攻撃を躊躇させたのではなかろうか。結果、エースは視界から得られる情報を信頼できないと切り捨てた。
今のところ、スペードのエースは魔梨華たちで何とか押さえ込めそうだ。
――などと、戦闘を俯瞰しているウッタカッタだが決してサボっているわけではない。
「イェーイ! トット☆オン☆ステージね! どんどんボルテージあげるね!」
スペードのエースたちがやってきた隔壁とは反対側の隔壁にて。トットキークが魔法のギターをギャリギャリとかき鳴らし、実体のある音符の波を生み出している。シャッフリンたちは雪崩のごとく迫る音符に阻まれ、まるで森林エリアに侵入できずにいる。
いや、いつの間にかクラブのジャックが音符の波を無音で通り抜けようとしていた。
なるほど、この隠密能力があれば、衆人環視の中で誰にも気づかれずに魔法少女たちを捕らえて魔法の袋に放り込めるのもうなずける。
(残念、ここは通行禁止でございます)
ウッタカッタは小さく限りなく透明なシャボン玉をいくつか生み出し、クラブのジャックの足元に転がしてやる。
クラブのジャックはシャボン玉を踏んでバランスを崩し、ジャックの頭に音符が迫る。まもなく押しつぶされたカエルのような湿った悲鳴が響く。
数を誇るシャッフリン軍団を迎え撃つにあたり、ウッタカッタたちはなるべく自戦力を損なわずに済むよう作戦を立てた。
森林エリアに入るには、2つの隔壁のどちらかを使わないといけない。
片側の隔壁ではあくまで最小限の人員でシャッフリンの足止めに徹する。
時間を稼いでいる間に、もう片側の隔壁に戦力を集中させてシャッフリンを始末する。
片側の戦闘が終わり次第、足止めしているシャッフリンたちも同様に始末する。
ウッタカッタとトットキークは足止め係というわけだ。
シャッフリンの挟撃からの乱戦を防ぐための作戦は、現状はハマっている。一番の功労者は間違いなくプリズムチェリーだ。
彼女がブリーフィングルームのモニターの映像を変えているため、ブリーフィングルームの敵は森林エリアの戦況を把握できない。ウッタカッタたちの作戦に対抗しようにも時間がかかる。
プリズムチェリーは作戦の核だ。
一方で、プリズムチェリーが最も戦闘能力が乏しいため、デリュージがプリズムチェリーの護衛を担っている。万一に備え、2名には極力戦闘に入ってもらわない想定だ。
テンペストの風魔法ではるか後方へと吹っ飛ばしたシャッフリンたちが森林エリアへと入りなおし、スペードのエースに加勢しようとする。
「どりゃあッ!」
が、ここで空中のクェイクが地上に到達するとともにスペードのキングへとハンマーを振り下ろした。キングは槍でハンマーを受け止めるも、周囲に激しい地響きが伝播する。
キングがクェイクのハンマーをはじき、クェイクを槍で貫こうとしたところでガラスの破裂音がした。刹那、槍の穂先が溶けた。続けてキングの顔面に何か液体が振りかかり、ジュゥゥゥと顔が溶け始める。
プロウドが『自分の血を好きな液体に変えられる』魔法で強力な薬品を生み出し、キングの槍の軌跡に差し込むように試験管を投擲したようだ。
たたらを踏むスペードのキングにインフェルノが斬り込んでいく。偃月刀に炎を宿して斬りかかり、キングが刀ごとインフェルノを蹴り飛ばす。インフェルノと交代するようにクェイクとプロウドがキングへと突撃する。
他方、スノーホワイトとカフリアはシャッフリンの数の優位性を消すべく立ち回っている。
スノーホワイトは薙刀を振るって着々とシャッフリンたちを昏倒させていく。カフリアは喪服コスチュームの漆黒の翼で飛び回り、シャッフリンを翻弄しつつ拳と蹴りで次々と沈めていく。
スノーホワイトとカフリアがノックアウトしたシャッフリンたちは、フィルルゥが速やかに手と手、足と足、手と足を糸で縫いつけていく。こうなるとシャッフリンはまともに動けない。
さすがはプロの集団だ。どこを見ても演武と見紛うほどに戦闘が鮮やかだ。
利害の異なるプロの魔法少女が結託し、共通の敵に立ち向かう。なんと頼もしいことか。
なお、スイムスイムはこの場にいない。
乱戦の中、姿を消してブリーフィングルームへと潜入しに行った。
もうそろそろ、地下研究所入口のパスワードを入手している頃だろう。
……皆、大なり小なり気づいていることだろう。
スイムスイムは、
これがわずか8歳の子供の所業なのだから恐れ入る。
(つくづく魔法の世界は魔境でございますね)
高みに張り合うつもりはない。
ウッタカッタはただ、健康的で文化的な長生き魔法少女生活のために、長い物に巻かれておくだけだ。
◇◇◇
◇スイムスイム(憑依)
ボクは森林エリアの戦闘に紛れて魔法で裏世界に潜り、そのまま岩場エリアへと突き進む。
スイムスイムの『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法には常に息継ぎの制約が付きまとう。しかしボクは今回、一切表世界に戻ることなく裏世界で行動し続けている。ボクの頭を覆う、薄い膜のおかげだ。
これはウッタカッタの『不思議なシャボン玉を作ることができる』魔法の産物だ。
さながら宇宙服のヘルメットのようにボクの頭をシャボン玉で包んでもらったおかげで、いくらか空気を確保できているのだ。
それにシャボン玉といえども、強度はウッタカッタの裁量で決められる。うっかりシャボン玉が割れてしまうリスクは限りなく低い。
裏世界を潜航するボクに欠片も気づくことなく、ハートのシャッフリンが数名、森林エリアへと駆けていく。足はかなり遅い。
森林エリアに押し寄せたのは、スペードとクラブのシャッフリンが大半で、ダイヤのシャッフリンが数名いるくらいだった。
グリムハートはまず、シャッフリンの中でも戦闘に秀でた者を選別して森林エリアに派遣した。
だが、プリズムチェリーの魔法のせいでモニターから戦況を確認できないながらも、戦況の不穏さを察して、戦闘能力に劣るシャッフリンも追加投入しようとした。こんなところだろうか。
(戦力の逐次投入は愚策……)
だが、この状況はボクにとって非常に都合が良い。
何せ、岩場エリアとブリーフィングルームとを繋ぐ隔壁をハートの
ブリーフィングルームには豪華絢爛な玉座に偉そうに座るグリムハートの姿があった。
彼女は苛立たしげに腕を組み、指をトントンと動かしている。肘掛けにはグリムハートの武器なのか、大鎌が立てかけられている。
彼女の足元では、ハートの2・4・5のシャッフリンが怯えたりキィキィ鳴いたりしている。
ダイヤの3・5・6のシャッフリンはブリーフィングルームの機械を何やら解析しようとしている。
ダイヤのシャッフリンは工作向き、ということか。
プリズムチェリーとフィルルゥの合作たる大鏡に映した壁を偽物だと看破したのもダイヤのシャッフリンだろう。森林エリアにダイヤのシャッフリンが数人いたことにも繋がる。
ボクはブリーフィングルームの様子から軽く敵の情報を入手しつつ、そのままブリーフィングルームのモニターへとダイブするべく駆ける。
電子空間に潜り込み、研究所入口の大扉のパスワードを目視するためだ。
かつてボクはゲーム世界から脱出するためにひたすら地面を潜ったことがある。あれは今にして思えば、ゲーム空間への潜水だ。
当時のボクは息切れで気絶しつつもゲーム世界から脱出し、ゲームマスターのキークにロケット頭突きをお見舞いした。
それくらい長距離の潜水に成功したわけだ。ならば、今回だって電子空間に潜ることができるはずだ。
まほいくワールドでは常識に囚われてはいけない。
スイムスイムの魔法を信じるんだ。
……まぁ、ダメだったらその時はその時だ。
めっちゃ怪しいけど、ボクの手だけ表世界に戻してキーボードを叩き、パスワードを調べることだってできる。
「……?」
ふとボクは立ち止まった。
――スイムスイム、お願い。人造魔法少女から手を引いて。
――この一件がきっと、いや間違いなくあなたの死因になる。
ボクを心から気遣ってくれたカフリアの言葉がなぜか思い起こされる。
――スイムスイム、お前は確かに強いがまだ子供だ。事件にむやみに首を突っ込むものじゃない。
――この手の事件は我々監査部門に任せて、お前は退くんだ。良いな?
ボクに圧をかけてでも事件から遠ざけようとしてくれたマナの言葉がなぜか脳裏をよぎる。
――必ず、無事に帰ってきてね。
――いってらっしゃい。
ボクのお願いのせいで、ボクと一緒に戦場に立てなくなってしまったアカネとの電話のやり取りがなぜかよみがえる。
(なんでこのタイミングで??)
グラリと世界が揺れる。視界が上下逆転する。
安定しない視界の中。ボクの視界が、首から上を消失したボク自身の体を捉えた。
(え、えっ……?)
血の滴る大鎌を片手に携えたグリムハートが、何やら不遜げにシャッフリンに語りかけている様子も見えた。グリムハートはまるで「してやったり」と言わんばかりだ。
一方、シャッフリンは恭しい態度でグリムハートに応対する。コスチュームにはいやらしく笑う道化師がプリントされている。あのシャッフリンは初めて見た。
だれかたすけて(死亡フラグには勝てなかったよ...)
死にたくないとか、痛いとか、ごめんなさいとか。
何か感情を爆発させるよりも早く、ボクの意識は闇一色に塗りつぶされた。
◇◇◇
◇スイムスイム(憑依)
まるでスイッチを押して部屋の電気をつけるかのように、ボクの意識は唐突に覚醒した。
ボクは呆然と立ち尽くし、目をパチクリとさせる。
(……え、ボク生きてる?)
おそるおそる首筋を指でなぞってみる。
ボクの首は繋がっている。感触からして、傷痕1つない。
(なんで??)
ボクが実は死んでいなかった、というのは超朗報だ。
けれど不気味だ。ボクは確かにグリムハートの凶刃で首を刈り取られたはずなのに、なぜか生きている。
(夢? それともなんかスイムスイムの魔法がいい感じに発動して、死なずに済んだ?)
色々な仮説がボクの頭をグルグル巡っていく中、ボクは周囲に視線を配る。
よくよく見ると、見覚えのある空間だった。どこもかしこも真っ白な空間。目の前には、ボクに背を向けて立つ何者かの姿。
第一村人発見! というか、『いつか私のことも助けてね』さん!? 『いつか私のことも助けてね』さんじゃないか! なんでここに!?
また何か意味深な内容をボクの脳内に直接伝えてくるのではとボクが構えていると、何者かが振り返った。
小学校高学年くらいの見た目をした少女だった。
少女は軽快な口調で「久しぶり」とボクに語りかけてくる。
「……」
え。この子、誰ッスか?
「あ、ごめんね。この姿じゃわからないよね。ちょっと待ってね」
少女は何もない空間から極彩色の筆を召喚し、一振りする。
すると、眼前の少女が3歳くらい若返った。
スイムスイムと同年代くらいの幼女姿である。
「この姿なら私のことわかるよね?」
「……」
ボクは憑依先の人物の記憶を知らないタイプの憑依者だ。
たぶん、元々のスイムスイムならこの子を知っていたんだろうけど、ボクは知らないわけで。
その、気まずすぎる。
目の前の少女はスイムスイムとの再会を心の底から喜んでいるようだ。
そんな少女を悲しませてしまうのはボクの本意ではない。
けれど、知ったかぶりしようにもあまりに情報が少なすぎる。まほいくのアニメ1期でこの子を見かけた覚えもないし。
噓をついてもすぐにボロが出る。それなら――
「だれ?」
「だれぇ!?」
ボクが意を決して少女のことを知らない宣言に踏みきると、打てば響くように驚愕のリアクションが返ってきた。
「え、待って? 私だよ? 宮沢! ほら、小学校で綾名ちゃんとクラスメイトだったじゃん!」
「そうなんだ」
「そうなんだ!? え、やだ待って、いっぱいお話ししたよね? え、ホントに忘れちゃったの?」
「ごめんなさい」
「そんな……う、ぐすっ、ひどいよぉぉおおおお!」
少女こと宮沢さんにボクがぺこりと頭を下げると、宮沢さんは愕然とした様相でその場にガクリと膝をつき、ボロボロと号泣し始めた。
【緊急速報】黒幕候補の宮沢さん、ギャン泣き開始【威厳崩壊】
え、というかクラスメイト?
てことは、スイムスイムと同い年!?
そんな子供をボクは今、ガチ泣きさせちゃってるの!??
だれかたすけて(おまわりさん、ボクがやりました)
どこまでも気まずいボク。
スイムスイムに忘れられててショックな宮沢さん。
ボクたちが落ち着いて話を始められるのは、もう少し時間が経った後となるのだった。
次回 第48話
『全部宮沢さんが居たからじゃないか...!』