その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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第48話 全部宮沢さんが居たからじゃないか...!

 

◇グリムハート

 

 

「お見事です」

「ふん」

 

 シャッフリン・ジョーカーからの世辞を聞き流し、グリムハートは足元の生首を見下ろす。

 わざわざ魔法少女のコスチュームに白い水着を選ぶのだからとんだ変態なのだろうと思いきや、正体は年端もいかぬガキだった。

 

 この程度の相手に、グリムハートは手ずからジョーカーの大鎌を振るった。

 グリムハートは王だ。その王様が、前線で剣を振るう尖兵の役割を強いられた。

 恥だ。恥は、死に等しい。

 

 グリムハートは生首を蹴り飛ばす。

 その首の軽さが余計に腹立たしかった。

 

 

 蛮族たちは小細工を弄し、ブリーフィングルームの各エリア監視映像を無効化し、森林エリアに籠城した。

 言い換えれば、蛮族たちはグリムハートの想定しえない脱出手段を持ち合わせていないということだ。

 

 『礼儀知らずは相手にしない』グリムハートだけが研究所入口のパスワードを把握している以上、蛮族たちが研究所から逃げ出すには、ブリーフィングルームでパスワードを調べなければならない。

 

 

 ならば、あの白い水着の蛮族(へんしつしゃ)は必ずブリーフィングルームに来る。

 奴は一度、グリムハートを出し抜き、風属性の実験体とシャッフリンの魔力補充用の2名の蛮族を奪い取っている。

 

 ならば、奴は必ず一度の成功体験にすがって同じことを繰り返す。

 己の隠密魔法に絶対の自信を抱き、パスワードをも盗み取ろうともくろむに違いなかった。

 蛮族の行動パターンは実に単純でわかりやすい。

 

 だが、奴の隠密魔法は侮れない。

 奴がブリーフィングルームに現れたら殺せ、とシャッフリンに命じても、気づけず取り逃がす可能性は十分にあった。

 

 

 ゆえに業腹ながらもグリムハートは自ら動いた。

 奴がブリーフィングルームに入ってきても、しばらくは気づかないふりをして機をうかがい、『礼儀知らずは相手にしない』魔法で奴の隠密を無効化したうえで、ジョーカーの大鎌で奴を両断したのだ。

 

 研究所に侵入した時然り、今回然り。

 グリムハートは何度、無能のフリをしなければならないのだろうか。

 苛立ちが募る。募る。

 

 

「クビをさらせ」

 

 グリムハートはジョーカーに指示を飛ばす。

 先ほど殺した白い水着の蛮族(へんしつしゃ)の魔力を使って、先の森林エリアでの戦闘で失ったシャッフリンをすべて生成し終えたジョーカーは、スペードのエースに生首を運ばせようとしている。

 

 

 そうだ、それが正解だ。

 森林エリアの蛮族どもは襲い来るシャッフリン軍団を倒しきれたと安堵しているはずだ。白い水着の蛮族(へんしつしゃ)が研究所入口のパスワードを入手してくる時を待ちわびているはずだ。

 

 そこでスペードのエースを使って生首を蛮族どもにさらしてやる。

 殺したはずのシャッフリンの復活。頼みの綱であるガキの無惨な死。これらの事実を突きつけ、思い上がった蛮族どもの心をへし折る。

 

 

 グリムハートの口角がわずかに上がる。

 惜しむらくは、生首を見せつけられた蛮族どもがどよめく無様な姿をモニターから鑑賞できないことだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スノーホワイト

 

 

 総勢40余名のシャッフリンを殺して、ようやくシャッフリンの猛攻がやんだ。

 シャッフリン軍団との激戦はスノーホワイトたちの勝利で幕を閉じた。

 

 シャッフリンの遺体はしばらく森林エリアに残っていたが、まもなく消失した。よって、森林エリアには一時的に共闘関係を結んだスノーホワイトたちしかいない。

 

 

 スノーホワイトたちのうち、命を落とした者はいない。

 が、それなりに負傷した魔法少女はいる。クェイクやインフェルノ、スタイラー美々等、前線で戦った魔法少女たちの生傷は絶えない。

 

 特に、袋井魔梨華はズタボロだ。

 魔梨華は、シャッフリンの中での最高戦力と思しきスペードのエースとタイマンを張り続けていた。

 

 結果、コスチュームは半壊し、横っ腹に風穴が開き、片目が落ちくぼみ、前歯も半分が折れている。右手の指がすべて折れ曲がり、足があらぬ方向へとねじ曲がっている。

 

 

「あー、きもちぃぃ……楽しかったぁ。もっかいやりてぇ……」

 

 再起不能レベルの怪我を負っているのに、当の本人はご満悦だ。

 スノーホワイトには理解できない感性だ。万が一にも理解できてしまったら、もう人間としておしまいな気がする。

 

 

 現在、魔法少女たちは治療中だ。

 外傷はフィルルゥが魔法の糸で縫い合わせて応急処置を施す。そこにスタイラー美々の『魔法のコーディネート』が加われば、傷痕ひとつ残らない。

 

 魔梨華の治療方法だけ特殊だ。魔梨華は今、森林エリアの土を掘ってデリュージの水魔法で用意した水風呂に浸かっている。

 また、インフェルノが魔梨華の頭上で偃月刀に炎を灯し、魔梨華に熱を与えている。プリズムチェリーも手鏡に太陽光を投影して魔梨華に浴びせている。

 

 これで魔梨華の怪我は完治するらしい。

 もはや魔法少女というより文字どおりの植物人間だ。

 

 

「……」

 

 先の戦闘で無傷ゆえに少々手持ち無沙汰なスノーホワイトはジッと隔壁を見つめる。研究所の奥へと、ブリーフィングルームへと繋がる隔壁だ。

 

 

 スイムスイムが戻ってこない。

 

 スノーホワイトたちはしばらくの間、シャッフリン軍団と戦い続けていた。

 スイムスイムがブリーフィングルームに潜入し、研究所入口のパスワードを入手し、森林エリアに戻ってこられるくらいの時間はもう十分に経過している。

 

 なのに、スイムスイムが戻ってこない。

 

 

 嫌な予感がする。

 スノーホワイトもスイムスイムを追って、ブリーフィングルームに向かうべきか。

 

 思考を巡らせていると、隔壁が開いた。

 現れたのは――シャッフリン。

 スペードのエースだった。

 

 

(え……?)

 

 さっき袋井魔梨華が激闘の果てに討滅せしめた相手が何食わぬ顔で向かってくる。

 別の個体のシャッフリンがスペードのエースの服に着替えているのでは、なんて都合の良い仮説はすぐに投げ捨てた。

 

 スペードのエースが纏う、濃厚な死の気配。強者の風格。これはスペードのエースだけが持つ、唯一無二の特徴だ。

 

 スペードのエースは後ろ手に何かを隠し持っていた。それをおもむろにスノーホワイトたちへと放り投げた。

 

 ドサリと音が鳴り、地面を血でわずかに濡らしながらころころと転がったそれは、子供の頭部だった。

 

 その生首は、スノーホワイトの知る顔だった。

 スイムスイム。彼女の亡骸を見るのは、これで二度目だ。

 

 

「「「――!!」」」

 

 魔法少女たちの反応は様々だった。

 変身前のスイムスイムを知る者、親しかった者、彼女の実力を認めていた者――それぞれの距離感の違いが反応に表れていた。

 

 

 スイムスイムが、死んだ。殺された。

 

 

 ――失敗した。

 

 グリムハートとシャッフリンは一度、スイムスイムに出し抜かれている。捕らえた魔法少女3名をスイムスイムに取り返されている。彼女たちが対策しないわけがない、少し考えればわかることだ。

 

 そのほんの少しの思考をスノーホワイトは怠ってしまった。スイムスイムを1人でブリーフィングルームに向かわせてしまった。その結果がこれだ。

 

 

 ――失敗した。

 

 キークがゲームの世界に魔法少女を閉じ込めて殺し合いをさせようとした時だって、B市の第二級魔法犯罪の時だって、スイムスイムは多くの人命を救ってみせた。

 

 だから今回だって大丈夫だと思っていた。

 油断してしまったのだ。

 

 

 かつて、N市で魔法少女選抜試験という名の魔法少女同士の殺し合いが発生した。

 その時、スノーホワイトが頼ったラ・ピュセルは森の音楽家クラムベリーに殺された。

 スノーホワイトが頼ったハードゴア・アリスはスイムスイムに殺された。

 

 他力本願で、火急の事態の終息を待つだけでは、状況は悪化する。スノーホワイトはもう十分に思い知らされたはずだったのに、また頼ってしまった。

 

 『魔法少女狩りスノーホワイト』の役割は終わったのではないかと自らに問うほどに、生まれ変わったスイムスイムに頼ってしまっていた。

 

 

(私は――)

 

 スイムスイムの死を突きつけられて、スノーホワイトの心は激しい後悔で揺れ動いている。

 

 しかしスノーホワイトは己の心中を一切表に出さないよう努める。いつスペードのエースとの戦闘に突入しても良いように、敵の挙措をうかがう。

 

 

 ここで泣き崩れたって死者は返ってこない。

 魔法少女狩りが情けない姿を見せれば、他の魔法少女に悪影響が及ぶ。犠牲者が増える。

 

 嘆き悲しむのはすべて終わった後だ。

 スノーホワイトは薙刀(ルーラ)を強く握りしめた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 

「それで、どうして私は生きてるの?」

 

 四方八方どこまでも真っ白な謎空間にて。

 ボクはどうにか宮沢さんに泣き止んでもらってから、一番気になっていることを問いかける。

 

 

「いや、綾名ちゃんは死んだよ。死んだから私と再会したんだよ」

 

 宮沢さんは体育座りでボクから目をそらしつつ、回答する。

 宮沢さんのことを忘れているボクへの不満をこれでもかと態度で表明している。

 いや、ごめんて。

 

 それにしても、ボクが死んだと言われてもまるで実感がない。

 確かにボクはグリムハートに大鎌で『スイム/スイム』された。でもボクはこの謎空間で呼吸をしているし、心臓も動いているし、頭でモノを考えられているわけで。

 

 

「ホントはね。私の魔法で作った物語が終わった時に、綾名ちゃんに会うつもりだったんだ。物語がハッピーエンドを迎えてから種明かしをしようって思ってたんだけど、『綾名ちゃんが死ぬ』っていうバッドエンドで物語がいきなり終わっちゃったから、このタイミングで私たちは再会した」

「宮沢さんの魔法?」

「私はね、『素敵な物語を生み出せる』魔法が使えるの」

 

 宮沢さんは体育座りから立ち上がり、正面からボクを見つめなおす。

 宮沢さんはやけに神妙な顔つきをしている。

 

 

「もう察していると思うけど、私が綾名ちゃんを生き返らせたんだよ。……『なんで?』って思うよね?」

「うん」

「ちょっと長くなるかもだけど……私の話、聞いてくれる?」

 

 ずっと気になっていた疑問を晴らす絶好の機会をむざむざ逃す理由はない。

 ボクは迷わず首を縦に振った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇宮沢

 

 

 宮沢にとって、綾名ちゃんこと坂凪綾名はとても変わった子だった。

 

 一見、綾名ちゃんは大人しい女の子だった。

 だけど実は、走ったり泳いだりと運動が得意で。男の子とのケンカに勝てるレベルの武闘派で。何より『お姫様』に強いこだわりをもっていた。

 

 綾名ちゃん曰く、お姫様とは『かわいくて、白いお洋服が誰よりも似合っていて、国家を守るために戦い方を覚える義務がある王族』とのことだった。

 

 綾名ちゃんは『お姫様』を何より信じていて、これを否定する相手には割とすぐに手を出した。

 

 『お姫様は乱暴なんてしない』と主張したクラスメイトの田中くんは綾名ちゃんに叩かれたし、2人のケンカを止めようとして先生を呼んだ宮沢自身も綾名ちゃんにぶたれたことがある。

 

 でも、宮沢は綾名ちゃんのことが好きだった。今にして思えば、周りの意見に流されない綾名ちゃんがカッコよくて、憧れていたのだろう。

 

 

 綾名ちゃんへの憧れはとある出来事により加速した。

 その日、宮沢はN市を冒険してみようとした。通学路から外れて己の世界を広げてやろうとした。結果、迷子になった。

 

 日が落ちて夜になって。宮沢が当てずっぽうで家を目指してトボトボと、泣きべそをかきながら路地裏を歩いていると、酔っぱらいの大人に絡まれた。

 

 何やら怒鳴られている。でも何を言われているのかがわからない。

 どうすればいいのかがわからない。宮沢はただその場で立ちすくんでいた。

 

 

 その時、路地裏の壁からぬうっと、女性が現れた。

 その人は、白い水着を着て、桃色の髪をなびかせた美人さんだった。

 

 酔っぱらいはいきなり壁から人が現れたことに怯え、尻もちをつき、逃げ出した。

 怖い人を女性が追っ払ってくれたのだ。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

「うん」

 

 宮沢は頭を下げてお礼を告げると、女性は何とも思っていなさそうな声色でひとつうなずき、路地裏を後にした。

 

 ――お姫様。

 ふと、宮沢の脳裏に綾名ちゃんがよく口にする存在が思い浮かんだ。

 確かにかわいいし、美人だし、白いお洋服がすごく似合っている。

 

 

(本物のお姫様だ……!)

 

 宮沢は興味に突き動かされるがままに女性の後を追った。女性は無人のさびれた公園の片隅まで歩を進め、そこで女性の姿が切り替わった。次の瞬間には綾名ちゃんの姿になっていた。

 

 

(え、え?)

 

 宮沢は困惑し、しかしほどなくして理解した。

 魔法少女だ。

 

 魔法少女のことはアニメで知っていた。宮沢と同じくらいの年をした女の子の主人公が、魔法少女に変身し、人々を助け、悪をくじくアニメが日曜日の朝に放送されていて、宮沢はそのアニメが好きだった。

 

 さっきのお姫様の姿は、綾名ちゃんが変身した姿だったのだ。

 綾名ちゃんもまた、魔法の世界の住人だったのだ。

 

 

 その日、宮沢はお巡りさんに見つかって、家まで送り届けられた。お父さんとお母さんには怒られたり心配されたりしたが、宮沢の頭の中は綾名ちゃん一色だった。

 

 宮沢は、綾名ちゃんが魔法少女だって知ってるよってことを話さなかった。

 アニメで、魔法少女の正体が友達にバレそうになって主人公が慌てふためいていたシーンが放送されていたからだ。

 

 綾名ちゃんは魔法少女に変身して、あのお姫様姿で、みんなのためにがんばっている。宮沢は綾名ちゃんの邪魔をしたくなかった。

 

 ……これも今にして思えば、『私だけが綾名ちゃんの秘密を知っている』ことが嬉しかったのだろう。

 

 

 だけど、大好きな綾名ちゃんとの小学校生活は終わりを告げた。

 お父さんのお仕事の都合で引っ越ししないといけなくなったのだ。

 

 宮沢はぐずぐず泣いて綾名ちゃんとの別れを惜しみ、綾名ちゃんはわりと淡白だったのを今でも覚えている。

 

 

 ――そして、引っ越してから数か月後。

 宮沢は葬儀場で綾名ちゃんと再会した。

 

 綾名ちゃんが亡くなった。

 N市はずれのダムで刃物で刺されて殺された。

 犯人は見つかっていない。

 

 色とりどりの花で囲まれた綾名ちゃんの遺影を見上げて、棺に納められた綾名ちゃんの顔を見下ろして、もう二度と会えないんだって思って、心にぽっかり穴が開いたようだった。

 

 

 宮沢はただ淡々と小学校に通って家に帰るだけの生活をしばらく続けた。

 すると、宮沢自身が魔法少女になった。8歳の時のことだ。

 

 『魔法の才能を持つ者しか視認できない魔法のインク』で小学校の外壁に描かれた落書きの矢印に沿って何となしに歩いていたら、担当官と出会い、魔法少女『宮沢』としての力を与えられた。

 

 魔法少女名を『宮沢』としてしまったのは失敗だった。

 担当官から名前を聞かれたから素直に答えたつもりだったのに、それがまさか魔法少女名を決めるたった一度の機会だったとは。

 

 

 とにかく、宮沢は魔法少女になった。

 『素敵な物語を生み出せる』魔法を使えるようになった。

 

 担当官からは魔法少女として善行を積むように(ボランティアせよ)と指示された。

 宮沢としても異論はなかった。魔法少女として人助けを行い、でも志半ばで亡くなってしまった綾名ちゃんの遺志を継ぎたかった。

 

 どうやって己の魔法を使えば人助けができるのか。

 少し考えれば答えは出た。素敵な物語を創って、みんなに紹介すればいい。

 

 

 宮沢はお父さんにお願いして、紙芝居セットを買ってもらった。

 自分でお話を描ける自作キットだ。

 

 『素敵な物語を生み出せる』魔法と相談しながら紙芝居を作って、お父さんとお母さんに披露してみたら、2人は宮沢を「天才だ!」ともてはやした。

 家族だから甘めに評価されているのだろうが、宮沢としても自作品に手ごたえを感じていた。

 

 それから宮沢は放課後に紙芝居のゲリラ公演を始めた。

 N市からS市へ、B市からQ市へと、様々な都市の公園へ出向き、子供たちに紙芝居を披露し始めた。交通費を魔法少女の身体能力で解決できるからこその公演スタイルだった。

 

 

 公演を続けていた折、宮沢に転機が訪れた。

 

 

「すごいすごーい! ねぇねぇこれからお姫様はどうなっちゃうのぉ?」

「えへへ、それはまだ秘密。続きは来週に見せるね」

「来週だね! 楽しみだなぁ」

 

 公演を見てくれる子供たちの中でとびきりかわいらしい女の子と出会った。

 その子は足しげく宮沢の紙芝居を鑑賞しに訪れてくれた。何度か彼女と出会い、会話をして、宮沢はようやく彼女が同業者なのだと知った。

 

 宮沢を魔法少女にした担当官は大人だし、まじめだしで、他愛のない雑談を好まない。

 魔法少女の友達は初めてで、宮沢は嬉しくて、彼女に心を許していた。

 

 だから。

 だから。

 

 

「ねぇ、宮沢お姉ちゃん。これからはプクのために物語を作ってほしいな」

 

 彼女のお願いが宮沢の心を打った。

 

 

 ――その日から、みんなを楽しませるための紙芝居は、プク様だけの紙芝居になった。

 

 宮沢は家に帰らずQ市のプク様のお屋敷に住み始めた。プク様や、ついでにプク様のために働くプク派の魔法少女たちが楽しい気持ちになれるように紙芝居をいっぱい披露した。

 

 プク様さえ喜ばせられれば、それだけで良かった。

 万人の笑顔よりも、プク様の笑顔の方が世界にとって有益だと確信していた。

 

 

 プク様には悩み事があった。

 魔法の国の魔力が足りていない。このままでは魔法の国は進歩せず、緩やかに衰退するのみだ。急ぎ魔力を調達しないといけない。そのために世界中の魔法少女が、プク様の友達の体が必要なのだと、プク様は宮沢たちに相談してくれた。

 

 

 プク様の重荷を取り除きたい。

 プク様の心労を晴らしてあげたい。

 プク様を慕うみんなの総意だった。

 

 プク様主導で、オスク派が管理する異世界の遺跡を襲撃した。

 遺跡内部にある、三賢人の師である『始まりの魔法使い』が創った魔法装置の厳重な封印を、みんなで頑張って頑張ってどうにか解除していった。

 

 そして、装置が使えるようになった。

 プク様が装置を起動し、宮沢たちはプク様に見送られながら意気揚々と装置の中に入っていった。

 

 

 体がだんだんと溶けていく。とろけていく。

 体が分解していく様子を見ているのがちょっと怖くなって、宮沢は目を瞑った。プク様の笑顔を思い描き、多幸感に包まれていく。

 

 

 ぷかぷかただよい。

 くるくるまわって。

 さらさらこぼれて。

 ますますほどける。

 

 ぼんやりと思考を垂れ流す中、ふと考えた。

 どうして私はここにいるんだろう。

 

 考えてみて、気づいて、震えた。

 どうして、どうして私は自ら死のうとしているのか。

 プク・プックは友達だ。でも友達のために死を選ぶほどの無謀さなんて宮沢は持っていないはずだった。

 恐怖のままにもがこうとするも、身じろぎすらままならない。

 

 

 とろとろに体が溶けていく。

 もう考えもまとまらない。

 だめなのかな、私。死にたくないよ。

 ちからが入らない。私は、私は……。

 

 

 逃れようのない死が宮沢に迫っている。

 

 ふと、綾名ちゃんのことが思い浮かんだ。

 綾名ちゃんもこんな気持ちで亡くなったのだろうか。

 

 

 いやだ。

 死にたくない。

 だれか、だれかたすけて。

 だれか……!!

 

 ――宮沢は願い、『素敵な物語を生み出せる』魔法が応えた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 

「私はあの時、願ったんだ」

「かわいくて、かっこよくて、可憐な白い水着のお姫様――魔法少女の綾名ちゃんに私を助けてほしいって」

「そしたら私の魔法が発動して、世界が変わった」

「いや、変わろうとしている」

「綾名ちゃんが戦うお姫様としていっぱい人を救って、成長して、私のことも助けてくれる」

「そんなハッピーエンドな物語(せかい)へと変わろうとしている」

 

 宮沢さんの話は、ボクが長らく抱え込んでいた疑問への答えを示してくれた。

 

 

 まず、生き返ったボクにはなぜか精神に作用する魔法全般が通じなかった。

 スノーホワイトの『困っている人の心の声が聞こえる』魔法も、のっこちゃんの『まわりの人の気分を変えられる』魔法も、ウェディンの『約束をしたらそれをぜったいに守らせる』魔法も、プキンの『斬った相手に錯覚を与える』魔法も通じなかった。

 

 それがなぜかわかった。

 宮沢さんの話からして、プク・プックとやらは洗脳魔法を使える。そんなプク・プックからボクが宮沢さんを助けるために、宮沢さんの魔法はボクに精神魔法無効のバフが必要だと判断したのだ。

 

 

 それと、どうして生き返ったスイムスイムの中身が別人(ボク)なのかもわかった。

 宮沢さんが願ったスイムスイムと、実際のスイムスイムは違う。宮沢さんの魔法が生み出したのは、あくまで窮地の宮沢さんを助け出せる『理想のスイムスイム』だ。

 

 宮沢さんの魔法は、探したのだろう。

 別次元、別時空、別世界。ありとあらゆる場所から宮沢さんの願った条件に合う魂を選別し、復活させたスイムスイムの体に魂を入れ込んだ。

 これが、ある日突然、ボクがスイムスイムに憑依した理由だったのだ。

 

 

(マジかよ……お決まりの神様転生のノリでスイムスイムに憑依したわけじゃなかったんか……)

 

 でもなんでボク?

 ボク、その辺によくいる、ありふれた一般18歳男子でしかないんだが??

 どうせならもっと原作知識のある、まほいく有識者の方を選んでスイムスイムに憑依させればよかったんじゃないの???

 

 

「でも、それならどうして私は死んだの?」

「それは……」

 

 ボクの脳内は色々とにぎわっていたがそれを表には出さず、新たな疑問を宮沢さんに聞いてみる。すると、宮沢さんの表情が見るからに曇った。あれ、ボク地雷踏んだ?

 

 

「本当は、そんな展開になるはずじゃなかったの」

「そりゃあ、魔法少女同士の激闘を物語に組み込んでいるから、少しは怪我しちゃうこともあるかもだけど」

「でも綾名ちゃんが死ぬだなんて、思わなかった」

「そもそも今までだって綾名ちゃんは何度も死にかけて、でもそんなつもりじゃなかった」

「きっと、作者の私が制御できないくらいに、物語の登場人物が勝手に動いているんだと思う」

「強い魔法少女であればあるほど、私の敷いたレールを無視して動けるんじゃないかな」

 

 なるほど、そういうものなのか。

 

 

「じゃあ、バッドエンドを迎えた私はどうなるの?」

「大丈夫、私の魔法で綾名ちゃんをよみがえらせることができる」

「そうなの?」

「うん。綾名ちゃんが死んだことで私と出会って、真実を知って、復活する。この流れは『素敵な物語』判定にできるからね。……でも」

「でも?」

「戦う魔法少女の物語で、何度も謎理由で蘇る魔法少女って興ざめでしょ? それは『素敵な物語』じゃない。物語として破綻してる。だから、もしもまた綾名ちゃんが亡くなったらさ」

「もう生き返れない?」

「ううん、代償を払うことになる。たとえば……腕とか足とか、記憶とか」

 

 ひぇっ、ハッピーエンドを目指す物語なのに急に鬱路線に切り替えてくるじゃんか。命と引き換えとはいえ、代償重すぎやしませんかね……?

 

 

「だからね、その……これは提案なんだけど 私の物語から降りてもいいよ?」

 

 ボクが内心で怯えていると、宮沢さんはおずおずと新たな提案を持ち出してきた。

 

 

「降りる?」

「うん。色々大変な目に遭ったから、魔法少女を辞めて平和に暮らします。とか。荒事には関わらない日常系の魔法少女をやります。とか。そういう物語に今から変えることもできるんだ。ほら、テコ入れって奴だよ」

「……もしも私が物語から降りたら、宮沢さんはどうなるの?」

「これまでの綾名ちゃんの活躍は、プク・プックに影響を与えていない。だから、私はまたあの装置の中に自分から望んで入って、体が溶けて……死んじゃうのかな? それとも一緒に溶けていく魔法少女のみんなと1つになって、意識は残るのかな? わかんないや、あはは。でも、せっかく生き返ってくれた綾名ちゃんがまた死んじゃうよりはずっとマシだよ」

「……」

「ねぇ。綾名ちゃんはどうしたい?」

 

 宮沢さんは、乾いた笑みを浮かべて、乾いた眼差しをボクに向けて問いかける。

 

 宮沢さんは死にたくない一心で『素敵な物語を生み出せる』魔法を発動させた。結果、よみがえったスイムスイムに酷い事をさせているという罪悪感に苛まれているようだった。

 

 

 ――考える。

 ボクが為すべきことは何かを考える。

 

 スイムスイムに憑依してからというもの、ボクは波乱に巻き込まれ続けてきた。

 何度、心の中で『だれかたすけて』と零したものか、わかったものではない。

 

 とにかく大変で、ボク1人が生き残るだけでも智謀を振り絞る必要があって。

 もっと多くの人を救おうと思ったら当然のようにボクの命を懸ける必要があって。

 でも、それだけではなかったはずだ。

 

 個性豊かで、気のいい連中との出会いがあって。

 綿々と紡いできた濃い日々があって。素敵な思い出があって。

 それはまほいく世界に来る前のボクの人生よりもはるかに充実していて。

 

 

 で、それってさ。

 全部宮沢さんが居たからじゃないか...!

 そう、宮沢さんのおかげでボクはこれまで波乱万丈なまほいく生活を送れたのだ。

 

 だったらやることは1つだ。

 恩返しだ、全力で宮沢さんへの恩返しを遂行する!

 ここで降りるなんてとんでもない!!

 

 

「私は、物語を降りない。宮沢さんを助けに行くよ」

「え……?」

 

 ボクは解を出した。

 宮沢さんはボクの答えがよほど想定外だったのか、目を大きく見開いている。

 

 

「どうして、どうして私を助けようとしてくれるの? 私のせいで今まで綾名ちゃんはあんなに危険な目に遭ったんだよ」

「うん」

「それに、私のことも忘れちゃったんでしょう? どうして、ただの他人を助けようとしてくれるの?」

「困っている人を助けるのが魔法少女だから」

 

 中身は18歳男子だけどな!

 でもこれは絶対に言わない。ボクは宮沢さんにとっての『理想のスイムスイム』でいないといけないからだ。

 

 ボクの返答に、宮沢さんの肩がわずかに震えた。

 宮沢さんの瞳に涙が浮かんでいる。

 

 

「……ホントに、いいの?」

「うん」

「わたし、もっと色んなことがしたい。お父さんとお母さんとおしゃべりして、友達と遊んで、素敵な人に恋をして。いっぱい、いっぱい、やりたいことがあって」

「うん」

「……私を見つけて、綾名ちゃん」

「うん」

「助けて、スイムちゃん……!」

 

 宮沢さんはボロボロと涙を零している。ボクが宮沢さんの魂の叫びを真正面から受け止めていると、ボクの体がほのかな光に包まれ始める。もうまもなくボクは生き返る。宮沢さんと別れることになる。

 

 

「待ってて」

 

 ボクの体がまばゆい光に包まれた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇カフリア

 

 

 魔法の世界は理不尽だ。

 才能の有無で魔法少女になれる者、なれない者が決まるし、魔法少女が使える魔法は1種類。しかもピンキリだ。ハズレを引いてしまえば、ずっと苦労が付きまとう。

 

 そう、魔法の世界は理不尽だ。

 目の前のスイムスイムの生首は、カフリアに世の無常さを突きつけてくる。

 

 わかっていたことだった。

 わかっていたはずだった。

 

 カフリアの『誰が一番早く死ぬのかわかる』魔法はずっとスイムスイムが次に死ぬと告げていた。ずっとスイムスイムの頭の上に髑髏マークを浮かべていた。

 

 カフリアはスイムスイムを死の運命から救うためにS市の人造魔法少女騒動に足を踏み入れたはずだった。なのに、カフリアはシャッフリンに捕まってスイムスイムに助けられるだけで、結局、スイムスイムを死の運命から救えなかった。

 

 スイムスイムを守ると心に誓っておきながら、何たるざまだ。

 これでは仲間たちに顔向けできない。

 

 

(私は――)

 

 刹那、スイムスイムの生首から、光の奔流が生まれた。音もなく立ち上る神々しい光に、誰もが目を奪われていた。

 

 やがて光の柱は消失し、そこにスイムスイムが立っていた。スイムスイムの頭の上に、髑髏マークは浮かんでいない。

 

 

 まさか、まさかそんなことがあるのか。

 スイムスイムは一度死に、生き返ったとでもいうのか。

 

 この場の誰もがスイムスイムを凝視している。

 『どうしてスイムスイムが生きているのか』を視線で問いかけている。

 しかし誰一人として言葉を発さない。

 

 

  スイムスイムはみんなの視線を受け止めて。

 

 

「私は――(くら)闇宵(あんみょう)、プリンセス・スイムスイム」

 

 ピュアエレメンツの口上を名乗り。

 

 

「かかってこい」

 

 シャッフリンを見据えて薙刀(ルーラ)を構えた。

 

 




次回 第49話
『([∩∩])<死にたいらしいな』
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