その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問題6.アカネを怠惰な性格に変える方法を述べよ。ただし、人をダメにするソファは使用禁止とする。



第6話 殺してやるぞスイムスイム

 

◇メルヴィル

 

 山は、弱肉強食の世界だ。

 強い者が生き残り、弱い者は淘汰される。

 はるか古代より連綿と受け継がれてきた真理だ。

 

 久慈真白は猟師の家系に生まれた。物心がついた頃から狩人の英才教育を受けてきた真白は、山奥でたくさんの命と向き合ってきた。彼らと時には共生し、時には狩猟し。そうして真白はこの世の真理を体感したのだ。

 

 真白はある日、革命的な出会いを果たした。

 森の音楽家クラムベリー。美しく、しかし何も武器を持っておらず、一見すると弱そうな彼女は、しかし山の神様だった大きな熊すらたやすく倒して見せた。

 

 山の中では強い者が一番偉い。

 真白は強くなりたかった。偉くなりたかった。

 何が悲しくて、弱い者の立場に収まらないといけないのか。

 

 真白はこれまで強くなるための努力を続けてきた。

 体を鍛えた。より強力な弓矢を作る工夫を続けた。より狡猾な罠の仕掛け方を希求し続けた。とにかく強くなりたかったからだ。

 

 真白はクラムベリーから『私と同じ、魔法少女になりませんか?』と誘われた。

 強者に憧れる真白に、魔法少女を断る理由はなかった。

 真白はクラムベリーの誘いを即決し、魔法少女メルヴィルになった。

 

 後日。クラムベリーはメルヴィルたち魔法少女を集めて、たった1人の正式な魔法少女を選ぶための選抜試験(殺し合い)を開始した。メルヴィルの対戦相手はどいつもこいつも覚悟の足りない連中で、メルヴィルの敵には足りえなかった。

 

 それから、メルヴィルは必要とあらばクラムベリーに協力しながら、魔法少女としての研鑽を重ねた。訓練と実戦を重ねた。己の『色を自由に変えられる』魔法の活用方法を研究し続けた。

 

 山の中では強い者が一番偉い。

 魔法少女は強い。だから偉い。

 そんな魔法少女の中でも一番強くなりたい。

 

 けれど、どれだけ努力を重ねても、限界しか見えてこない。

 クラムベリーの実力には遠く及ばない、弱い己しか見えてこない。

 

 憧れには手が届かないから憧れなのか。

 メルヴィルは結局、クラムベリーの境地に至れない程度の存在なのか。

 

 メルヴィルが鬱屈とした思いを抱えていた折、メルヴィルは信じられない報せを耳にした。『森の音楽家クラムベリーが殺された』というのだ。

 

 なぜ、誰に、どうやって。メルヴィルの頭に次々と疑問が沸き上がる中も、状況は目まぐるしく変化した。クラムベリーのこれまでの所業が白日の下にさらされ、クラムベリーに協力していたメルヴィルは魔法少女の資格をはく奪された。

 

 メルヴィルは強くなるための最良の手段を失ってしまった。

 そのはずだったのに。

 

 

 ある時、ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』なる娯楽に、テストプレイヤーとして無理やり参加させられていた。ゲームの中で、真白はなぜか魔法少女メルヴィルの力を取り戻していた。

 

 メルヴィルは手元の魔法の端末を確認し、ルールを把握した。

 『色を自由に変えられる』魔法で己を透明にしたうえで、荒野エリアをあまねく探索し、メルヴィル以外にも多くの魔法少女がゲームに参加している事実を知った。

 目撃した魔法少女の大半に見覚えがあった。皆一様に、クラムベリーによる魔法少女選抜試験の勝者だった。

 

 メルヴィルは理解した。

 森の音楽家クラムベリーは実は生きている。死んでなんていなかった。

 何らかの理由で身を隠す必要があったから、死を偽装した。それが真実だったのだ。

 

 そうしてクラムベリーはこの舞台を作り出した。

 過去に試験に合格した魔法少女から、さらに選りすぐりの1人を抽出するための架空の舞台を用意した。

 

 ならば、メルヴィルのやるべきことは決まっている。

 メルヴィルこそが勝者になる。1つしかない椅子に、必ずやメルヴィルが座ってみせる。

 いつかクラムベリーの実力に追いつき、追い越すために、力を尽くしてみせる。

 

 だから。

 だから。

 

 

「私はスイムスイム。あなたは?」

「音楽家」

「よろしく。オン・ガクカ」

「音楽家はどこだ?」

「自分探しをしているの? 意識高いね」

 

 透明となり、誰も視覚でメルヴィルを観測できない中。

 メルヴィルの眼前で、水着の魔法少女ことスイムスイムと、侍風の魔法少女ことオン・ガクカが会話している。いや、奴はオン・ガクカではない、アカネだ。クラムベリーの欲望に力を貸していたメルヴィルは、侍風の魔法少女のことを知っている。白い水着の女のことは知らない。

 

 

「音楽家はどこだ?」

「ん、と。森の音楽家のこと?」

「音楽家はどこだ?」

「音楽家は死んだ」

 

 ……は???

 

 

「そんなわけがない」

「でも、たまが殺した」

「たま……犬……?」

「忠犬だよ」

 

 なんだお前。

 うるさい。うるさい黙れ。耳障りだ。クラムベリーが死んだなんてありえない。

 彼女は絶対に生きている。『たま』なんてふざけた名前の奴に殺されるわけがない。

 

 

「音楽家は生きている」

「音楽家は死んだよ?」

「死んだなら、これはなんだ? またあれをやらされる。ここはその舞台だろう?」

「音楽家はもういない。この舞台は別の人が作っている」

「ウソを吐くな」

 

 調子に乗るな。戯言を吐くな。

 出しゃばるな。もう何も口にするな。

 

 

「あなたの仇はもういない」

 

 もういい。わかった。

 殺すなら、まずはお前からだ。

 己の軽率な妄言の数々を後悔しながら死んでいけ、変態水着女(スイムスイム)

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 現実世界に戻り、次のゲームが始まるまでの3日間。

 この猶予でボクがアカネを正気に戻し、魔法少女の死亡をなるべく防ぐための計画に思いっきり巻き込む。

 

 ボクが当初画策した計画は、想定以上の収穫をもたらした。

 何より大きいのが、アカネ以外の協力者を得られたことだ。名探偵ディティック・ベル様にも協力していただけるなんて最高すぎる。ボクはとことん、ツイている。

 

 ボクがアカネとベル様に『††魔法少女救済計画††』を共有し、魔法の端末でお互いの連絡先を交換した後。ベル様は「ゲームの世界に戻る前に他の魔法少女とも会ってみるよ」と言い残して姿を消した。さすがはベル様、去り際まで何とも凛々しいお姿だ。

 

 正直なところ、ボクの『††魔法少女救済計画††』の成功率は低い。というか運頼みだ。

 ベル様はボクの計画を受け入れてくれたけれど、同時に、計画の不安定さを理解されていた。だからベル様は新たな同志を探しに向かったのだろう。ボクたちと同じ志を持つ魔法少女が1人加わるだけで、計画の難易度は大幅に低下するのだから。

 

 ……ボクはベル様の御心に助けられてばかりだ。

 ボクがいつか、ベル様にご恩を返せる日は来るのだろうか。

 

 一方、アカネは入院中の精神病院へと帰った。失踪してしまった己の無事を病院関係者に伝えるためだ。アカネは正気に戻った。いずれ精神病院から退院する運びとなるだろう。

 

 結果。ボクは今、アカネ家のソファーで、ぐでーと横になっている。

 決して不法滞在ではない。今や家主のアカネからちゃんと許可はもらっている。実質、今のボクは不破家の養子、不破翠夢(すいむ)となったのだ。

 

 魔法少女育成計画の世界になぜか入り込んでしまってから丸4日、野外で野宿生活をしていたのだから、これぐらいの贅沢は許されてしかるべきだ。

 はぁ、上を見上げたら天井がある安心感たるや。

 

 

「……ん」

 

 とはいえ、ただただ限られた時間を浪費するつもりはない。

 せっかく次のゲーム参加まで時間が残されているのだから、ここらで改めてメタ推理をしてみるのはどうだろう。悪くないのではないか?

 

 まず前提。『魔法少女育成計画』はとにかく魔法少女の命が軽いライトノベルだ。

 ボクはアニメしか見ていないが、そこで16名の魔法少女はN市を舞台に殺し合いを行い、最終的に2人しか生き残らなかった。それぐらい壮絶なバトルが繰り広げられた。

 

 今の状況は言うなればアニメ2期。名付けてソーシャルゲーム編。

 この新たな舞台で、本来の原作通りの展開なら、ボクを除く16名の魔法少女たちで、アニメと同等以上の殺し合いが行われるはずだ。またしても生存者が2人くらいしか残らない悲惨な結果に終わるはずだ。

 

 けれどその割には今のところ、誰も死んでいない。確かに、ソーシャルゲーム編に登場しないはずのボクがちょくちょく物語に介入はしているが、そんなにがっつり物語に関わってはいない、と思う。誰も死んでいないのは素敵なことだが、正直言って、現時点で1人くらいは亡くなっていてもおかしくないと想定していた。

 

 だって。仮にソーシャルゲーム編が600ページくらいの小説だったとして。魔法少女たちがゲームに巻き込まれて、3日過ごして、現実世界に戻ってきて。という展開を描写するのに120ページくらいは使っているはずだ。新たに登場する魔法少女の紹介もする必要があるわけだし。それなのに、現状は魔法少女が全員生存している。これは妙だ。

 

――アカネ。あなたは音楽家の被害者。私もそう。スイムスイム、あなたもきっとそう。これが偶然だとは思えない。ゲームの世界に音楽家の試験の被害者が集められている。集めた奴は、ゲームマスターはきっと、私たちを殺し合わせたがっている。

 

 以上が、ベル様が先ほど述べた推理である。ボクも同感だ。

 なのに、その割にはゲームマスターの殺意が足りないように思うのだ。

 

 まほいくが魔法少女の死を取り扱う以上、そこには明確な敵が必要だ。

 しかし。荒野エリア、草原エリアでエンカウントする骸骨はどれも弱小。あまりに動きが緩慢すぎて、普通の人間でも倒せるレベルの敵だ。つまり、ゲームマスターはモンスターで魔法少女を殺すつもりがない。モンスターはあくまでゲーム世界の解像度を上げる道具でしかないのだろう。

 

 それならゲームマスターは別の仕込みを行っているはずだ。その1つは、間違いなくアカネだった。正気を失った彼女に、魔法少女を2,3人くらい殺してもらう想定だったはず。

 

 アカネは森の音楽家クラムベリーに復讐しようとしていた。そして今回の参加者には、クラムベリーにとても容姿が似ていた魔法少女がいた。ベル様曰く、彼女の名はメルヴィル。きっと原作では、アカネがメルヴィルを音楽家と勘違いして斬り殺したのだろう。そうして、魔法少女同士の殺し合いが加速していったのだろう。

 

 けれど、まだ足りない。

 良質な物語には起承転結が必須だ。

 

 ただ『見るからに狂っているアカネだけが悪者でした! はい、物語おしまい!』で、ソーシャルゲーム編が終わるわけがない。もしもまほいくソーシャルゲーム編がそんな『起承』しか存在しない結末で終わる程度の稚拙な作品なら、そもそもまほいくはアニメ化すらできなかっただろう。

 

 ライトノベルがアニメ化するということは、読者から一定の人気を獲得したということだ。つまり、まだまだどんでん返しがある。ゲームマスターはまだ罠を仕掛けている。

 

 その罠の内の1つは少なくとも、悪意のある魔法少女のはずだ。何せ、ゲーム世界のモンスターが弱いのだから。アカネ以外にもいるはずだ。敵が、魔法少女の殺害意思を胸に秘める敵が。その方がライトノベルとしても盛り上がる展開になる。

 

 思考停止はしない。敵の正体は常に推理し続ける。

 けれど敵の正体がわかっても、それを喧伝するつもりはない。

 敵の正体を知る目的はあくまで、魔法少女の死者を減らすためだ。死者を減らそうと思うのなら、敵をいたずらに刺激するべからず。敵に悟られない方法で、こっそり魔法少女殺害を妨害するにとどめるべきだ。

 

 目的はあくまで、魔法少女が1人でも死なないようにするため。

 目的をはき違えてはならない。そこを取り違えると、ボクの作戦は一気に瓦解する。

 

 

(はふぅ……)

 

 そんなことを考えつつ、ボクはアカネの家で人間らしい生活を続けた。

 そうして、現実世界に戻ってから、3日が経とうとしていた。ホント、心地の良い時間に限って、時間のすぎる速度がメッチャ高速に感じるのはなぜなのか。謎は尽きない。

 

 さ、気持ちを切り替えていこう。

 ゲームの世界に戻る刻限だ。

 リンク・スタート!

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

(戻ってきた…この世界に!)

 

 ボクの視界が一瞬にしてアカネ家のリビングから広々とした荒野に切り替わる。アカネも、ベル様も。各々の役目を全うするべく、動き出している。ボクもサボってはいられない。動かなければ。

 

 ボクはひとまず荒野の街を目指して歩を進め――刹那、腹部に衝撃を感じた。

 視線を下に移すと。いつの間にか、ボクの腹部に風穴が空いていた。

 

 ボクの腹部の周囲に飛び散る透明な液体が、次の瞬間にはボクの腹部に戻る。ボクの体を再構成する。後ろを振り向く。誰もいない。周囲にせわしなく視線を向ける。誰もいない。

 

 スイムスイムは『どんなものにも水みたいに潜れる』魔法を扱える。あらゆる場所を水の中を泳ぐかのように移動できる。そんな便利魔法を扱えるスイムスイムには基本、物理攻撃は通じない。

 

 ボクの体に穴が開くという事態は、つまり。

 誰かから物理攻撃をされたということではないか? 誰かに殺されかけたということではないか? ボクが偶然にもスイムスイムに憑依していたから命拾いをしていただけで、他の魔法少女に憑依していたら、今まさに問答無用で殺されていたのではないか?

 

 

「……」

 

 ボクは言葉を失った。

 

 

 だれかたすけて(誰なの?怖いよおッ!!)

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇メルヴィル

 

 最悪だ、スイムスイムの殺害に失敗した。

 メルヴィルは心の中で強く舌打ちをした。

 

 スイムスイム殺害を決意したメルヴィルは、スイムスイムを殺すベストなタイミングを模索していた。クラムベリーが用意した新たなゲームの舞台。この舞台でメルヴィルはただ1人生き残り、クラムベリーの再試験に合格しなければならない。

 

 この時、メルヴィルが一番気をつけないといけないことは、『メルヴィルがスイムスイムを殺害した』という事実を、他の魔法少女に信じさせないことだった。

 

 メルヴィルは、偶然出会った他の魔法少女たちとパーティーを組んだ。ディティック・ベル、ラピス・ラズリーヌ、チェルナー・マウスの3人だ。メルヴィルは良い人を演じた。強くて、性根は優しくて、頼もしい魔法少女を演じた。

 

 メルヴィルとて、なるべく他の魔法少女にバレないように細心の注意を払ってスイムスイムを殺すつもりだ。けれど、もしもスイムスイム殺害の犯人としてメルヴィルが候補に挙がった時に、メルヴィルを庇い、時間を稼いでくれる面子は必要だ。

 

 ゲームが始まってから3日間、メルヴィルはパーティーで頼りになる魔法少女であろうとした。メルヴィルの試みは現状、上手くハマっている。ディティック・ベルも、ラピス・ラズリーヌも、チェルナー・マウスも、等しくメルヴィルに好意を抱いてくれている。

 

 そのほか、ゲーム参加者から利用できそうな魔法少女を選定した。リオネッタ。『人形を思い通りに操ることができる』魔法を扱える魔法少女だ。メルヴィルはリオネッタを知っている。彼女は、お金を必要としている。お金のために魔法少女の力を後ろ暗い仕事に悪用している。報酬をちらつかせつつ、脅せば、メルヴィル側に引き込むことができる。絶好の人材だった。

 

 ゲーム世界ではパーティーメンバーの好感度を稼ぐ。

 現実世界ではリオネッタを協力者に引き込むための裏工作を行う。

 

 ログアウトして現実世界に戻った魔法少女がゲーム世界に再び放り込まれる時。魔法少女たちは荒野エリアのランダムな箇所に1人1人、バラバラに配置される。その仕様をファルに質問して把握していたメルヴィルは、スイムスイム殺害のベストなタイミングを、2回目のゲーム開始直後と定めた。

 

 スイムスイムがパーティーを組んでいるかは知らないが、いるかもしれないパーティーメンバーと合流する前に、スイムスイムの命を刈り取る。これこそが最善だ。

 

 メルヴィルはゲーム世界に戻って早速、『色を自由に変えられる』魔法で体を風景と同化させた。スイムスイムを捜索し、すぐにスイムスイムを発見することができた。

 

 メルヴィルはツイている。

 スイムスイムは運に見放されたようだ。

 

 当然だ、スイムスイムはクラムベリーを侮辱した。クラムベリーが死んだなどという虚言妄言を垂れ流した。ゆえに、これは恐れ知らずの愚か者に訪れる当然の末路だ。

 

 メルヴィルは音を立てずにスイムスイムの背後に近づき、透明な銛を無防備な背中に突き立てた。突き立てて、横腹をかっさばくように振りぬいた。()った。メルヴィルは深く笑みを浮かべて――。

 

 

「……!?」

 

 刹那、メルヴィルは目を見開く。スイムスイムの体から血が流れない。

 液体の弾けるような音が響く。スイムスイムの体から透明な液体が飛び散ろうとして、しかし液体は彼女の体に戻り、元通りの体を形成していく。

 

 想定外の事態。間違いなくスイムスイムの魔法が絡んでいる。スイムスイムの魔法の正体を知らないまま、このまま奴の殺害を強行するのはあまりにリスクが大きい。

 

 メルヴィルは追撃をやめて、速やかに走り去った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇メルヴィル

 

 改めて、あれは大失敗だった。メルヴィルらしくない、稚拙な失敗だ。

 スイムスイムの魔法を把握する前に殺害を画策し、しかも失敗するとは。

 

 今にして思えば、メルヴィルは冷静じゃなかった。スイムスイムの『音楽家は死んだ』発言に心を乱されて、衝動的に動いてしまっていた。こんなことならスイムスイムよりもマスクド・ワンダーの殺害を優先するべきだった。

 

 ゲームからのログアウト直前の特別イベントをクリアし、ファルからレアアイテム『ミラクルコイン』をゲットしたのはプフレだった。

 

 爆速で移動できる車椅子に悠然と腰かけるプフレは、ミラクルコインをパーティーメンバーのマスクド・ワンダーに譲渡した。ミラクルコインの効果は、モンスターを倒した時のレアアイテムのドロップ率を5倍に上げるというもの。ゆえにプフレは、パーティー内で最も強く、モンスターを倒す機会の多いマスクド・ワンダーにミラクルコインを渡した。

 

 実際、マスクド・ワンダーは強かった。

 ログアウト前、モンスターの狩場を巡って、チェルナー・マウスとマスクド・ワンダーが衝突したことがあった。

 

 チェルナー・マウスは『ものすごく大きくなれる』魔法を扱える。30メートルサイズになったチェルナー・マウスに勝てる者は早々いない。体のサイズは基本、強さに比例する。しかしマスクド・ワンダーは、その小さい体で巨大化したチェルナー・マウスを圧倒してみせた。マスクド・ワンダーは、チェルナー・マウスを手玉に取れるほど強力な魔法をその身に宿していた。

 

 まともに戦えば危険な相手。メルヴィルがただ1人生き残る際に、大きな障害となる相手。しかもミラクルコインを持っている。メルヴィルがまず最初に殺すべき相手は、スイムスイムなんかじゃなくてマスクド・ワンダーだったはずなのに。完全に見誤った。

 

 スイムスイム殺害のために時間を使いすぎた。さすがにマスクド・ワンダーもパーティーと合流しているだろう。仮にマスクド・ワンダーがまだ1人だったとしても、メルヴィルもそろそろパーティーに合流しなければ疑いを向けられるかもしれない。今からマスクド・ワンダーを殺しに向かうことはできない。大失敗だ。

 

 

 メルヴィルは仕方なく、ディティック・ベル、ラピス・ラズリーヌ、チェルナー・マウスと合流した。それから、荒野エリア・草原エリアに続く第三のエリア:山岳エリアへと足を踏み入れる。

 

 

「メルっち大丈夫っすか?」

 

 不意にラズリーヌから声をかけられる。

 ラズリーヌの瞳からはメルヴィルへの心配が見て取れる。

 

 

「メルっちはゲーム、楽しくないっすか?」

「んなごとなが」

「メルっちの気持ちも、もっともっす。別に望んじゃいないのに、いきなりゲームの世界に放り込まれて、報酬やるから魔王倒せって言われても、普通なら『横暴だ!』とか『こっちの気持ちにもなれよ!』ってなるっすよね。うんうん。でもどうせやらないといけないのなら楽しむに限るっす。いざ、魔王討伐の旅へ! えいえいおー!」

 

 ラズリーヌは勢いよく拳を天に突き上げて朗らかに笑う。「おー! チェルナーもがんばるぞー!」と、チェルナーがラズリーヌに追従している。

 

 やはりラズリーヌもメルヴィルの目標達成の大きな妨げとなる魔法少女だ。

 メルヴィルが心の奥底にひた隠しにしているはずの感情を見抜かれている。メルヴィルが秘匿している感情の種類を看破されている。

 

 今でこそラズリーヌは、メルヴィルの善性を信じてくれている。けれどメルヴィルの感情の根源を、感情の向かう先を悟った時、ラズリーヌはこの上なく厄介な敵になる。ラズリーヌも早めに処分しなければ、メルヴィルの勝利が遠のいてしまう。

 

 

 今のメルヴィルは、他の魔法少女を殺す手段に乏しい。

 メルヴィルの魔法なら、パーティーの前に偽物のメルヴィルを作って、本物のメルヴィルが他の魔法少女を殺しに向かうこと自体はできる。しかし、それは無理だ。絶対にラズリーヌに気づかれるからだ。

 

 今のパーティーがメルヴィルの足枷となっているのなら、パーティーを抜ければ良いのではと思いがちだが、そうかんたんな話ではない。

 

 現時点で、何も不穏なことが起こっていないのにパーティーを抜ける口実は作りにくい。あくまで最終目標は、メルヴィルだけが生き残っていることだ。まだメルヴィル以外に16人も魔法少女が生き残っている状態でパーティーを抜けて、拙い殺人を犯して、疑われたくはない。メルヴィルとて、十数人の魔法少女を同時に相手取るのは無茶極まりない。

 

 協力者のリオネッタを使って誰かを殺してもらうという方法もある。だが、これも採用したくない。リオネッタの『人形を思い通りに操ることができる』魔法は非常に応用が利く。せっかく得られた貴重な駒だ。リオネッタを雑に消費したくない。

 

 

 まずは1人。せめて1人。どうにかして殺さないといけない。

 その死体で、不和をばらまく。不信感を募らせる。リオネッタは死体も操れるから、やりよう次第で魔法少女たちをさらなる混乱に落とし込むことだって可能だ。

 

 

 全員生きているままでは思うように動けない。……殺す相手を選んでいる場合ではないかもしれない。たとえメルヴィルの脅威にならない、戦えない魔法少女であっても、殺せそうならさっさと殺すべきかもしれない。

 

 森の音楽家クラムベリーは、私たちを見ている。

 無様な姿をさらしてはならない。クラムベリーを失望させるわけにはいかない。

 

 

「……」

 

 クラムベリーの再試験で選ばれるのは、ただ1人。

 その1人がメルヴィル以外の何者かであってはならない。

 




次回 第7話
『マジカルキャンディーを1000個払えば無料で「R」を10連まわせるんだからほんと凄い』
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