その白スクで魔法少女は無理でしょ、スイムスイム   作:超天才清楚系病弱魔法少女

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問8.クランテイルに下半身を牛に変えてもらったうえでキャトルミューティレーションする方法を述べよ。ただし、クランテイルはちょうど虫の居所が悪いものとする。



第8話 お嬢っていつもそうですね…!

 

◇シャドウゲール

 

 魚山護(ととやま まもり)の人生を語るうえで、人小路庚江(ひとこうじ かのえ)という人物を除外することはできない。

 

 人小路家は先祖代々金持ちの家系で。魚山家は先祖代々人小路家に仕え続けている家系で。『護』という名前の由来が『お嬢様をお守りできるように』という時点でもはや、魚山護の自伝に人小路庚江を登場させない細工は不可能だ。

 

 護が過ごす時間の大半に、お嬢様(庚江)の存在があった。それは護が魔法少女『シャドウゲール』となり、庚江が魔法少女『プフレ』になってからも変わらなかった。そもそも2人一緒に魔法少女になった時点で、これは回避できない運命に違いない。

 

 魚山家の使命が嫌だとか、庚江のことが嫌いだとか、そういうわけではない。ただ、シャドウゲールにとっては庚江を守る使命を課せられていることがもはや日常でしかなくて、一々抵抗する気になれないだけだ。

 

 シャドウゲールは熱情的な人間ではない。

 それだけのことだ。

 

 ある日突然魔法少女になるという非日常のイベントは、いつしか日常の一幕に変わった。魔法少女になって。正式な魔法少女を選定するための試験に合格して。偶然、困っている人を見かけたら、動かない庚江の代わりに、シャドウゲールが魔法少女として仕方なく助けてあげる。そんな高校生活を続けていた折、なぜかゲームの世界に放り込まれていた。

 

 ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』。ゲームの世界を仲間と冒険して、エリア最深部の魔王を討伐する。その過程で魔法少女たちに心身ともに成長してもらう、教育・訓練用シミュレーター。そんなゲームの世界にテストプレイヤーとして選ばれた。

 

 このような唐突なアクシデントに見舞われても、お嬢はいつものお嬢だった。

 シャドウゲールとプフレが2人とも荒事に向かない『戦えない魔法少女』であることを踏まえ、プフレは、自分の体に包帯を巻くようシャドウゲールに命じた。シャドウゲールのコスチュームは黒いナース服だ。ゆえにショップで購入するまでもなく、コスチュームの一部として携帯していた包帯をプフレに巻くことができた。

 

 そうして、プフレは荒野エリアの骸骨程度にも痛めつけられてしまいかねない、かよわい魔法少女に擬態して、庇護対象を守ろうとする正義の魔法少女――戦う魔法少女:マスクド・ワンダーを釣って、パーティーに取り込んだ。その後、シャドウゲールたちは3人、協力してゲーム攻略を進めてきた。

 

 

 今の状況を全体的に見た時、ゲーム攻略は順調だといえよう。

 総勢17名の魔法少女たちは誰もゲームオーバーしていないし、未知のエリアもハイペースで解放できているからだ。プフレが次々と、エリア解放に必要な固定ミッションを短時間でクリアしているおかげで、魔王への道はどんどん整備されている。

 

 ただしシャドウゲール&プフレ&マスクド・ワンダーの3人パーティーに限っていえば。ゲームの攻略は順調、とは言い難い。

 

 まず、中々モンスターを倒せない。体を巨大化できるチェルナー・マウスが狩場を独占するから、ではない。チェルナー・マウスと同等以上の実力を持っていることをマスクド・ワンダーが証明したことで、メルヴィルが狩場の使用を認めてくれたからだ。

 

 問題なのは、侍風の魔法少女の方だ。遠くの敵を刀で斬れるらしい侍風の魔法少女の攻撃範囲は相当に広く、シャドウゲールたちの付近でポップしたモンスターさえも遠距離から次々と斬り殺していくからだ。

 

 せっかく、マスクド・ワンダーがモンスター討伐時のレアアイテムドロップ率を5倍に上げる『ミラクルコイン』を持っているのに、これでは宝の持ち腐れだ。それにこの世界は『マジカルキャンディー=お金』だ。貧乏人が苦労するのは現実世界もゲーム世界も変わらない。

 

 プフレもパーティーの現状を憂慮しているのか他の思惑があるのか、積極的に他の魔法少女と接触し、交流を重ねてきた。プフレは出会った魔法少女と情報交換を重ねて、ゲームの全貌を少しずつ紐解く動きをしていた。

 

 

「私はたまだ」

「うむ」

「犬耳はどこだ?」

「残念ながら、犬耳の持ち合わせはなくてね」

「犬尻尾はどこだ?」

「ところで『たま』というのは犬よりも猫の名前の定番では? どうして犬に近づくためのアイテムを探し求めているのかな?」

「私はたまになる」

「いや、すまない。不躾な質問だった。かくいう私も、実は『ポチ』になりたくてね。君と同じで犬耳や犬尻尾を探しているんだ」

「?」

「我々は同志だ。共に行動し、理想のワンちゃんを体現しようではないか」

「???」

 

 とはいえ、さすがに「私はたまだ」だとか「私はたまになる」だとかしか言わない、例の侍風の魔法少女相手でも欠片も臆することなく話しかけて、手を差し伸べて、パーティーに引き込もうとした時は心底びっくりした。

 

 確かにパーティーの上限人数は4人で、1枠空いているけれど、どうしてよりにもよってこのおかしな彼女を取り込もうとするのか。侍風の魔法少女がプフレの誘いに応じずに去ってくれてホッとしたのは記憶に新しい。

 

 

 そのような出来事がありつつ、無理やり参加させられたゲームの世界で、二度目のログアウトの時が訪れた。次のログインは3日後。魔王を討伐するまで、ゲーム世界の3日間、現実世界の3日間のループは永遠に終わらないのだろう。

 

 シャドウゲールにとって、ゲームの世界とは何なのか。新鮮な出来事の多い世界だとは思う。けれど傍らにプフレがいる以上、人小路庚江なくして成立しない、魚山護のいつもの日常の延長線上でしかない。

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇シャドウゲール

 

 シャドウゲールの日常の多くは、プフレが介在している。

 魚山家は家族そろって人小路家に住み込みで、シャドウゲールの部屋も人小路邸の中にある。住まわせてもらっている分際で人小路の者の入室を断ることはできず、それゆえシャドウゲールにプライベートはほとんど存在しない。

 

 今日も、プフレがシャドウゲールの部屋に来訪していた。

 シャドウゲールが奮発して購入した回転椅子を我が物顔で占拠している。

 

 それは別に良い。

 気にしなくて良いことだ。

 気にしたってどうにもならないことだ。

 それよりも、シャドウゲールには考えるべき別のことがある。

 

 

 ――透明な敵がいる。

 

 ゲーム世界に2回目のログインをしてから半日後。シャドウゲールたちはスイムスイムと出会った。白いスクール水着を魔法少女のコスチュームに選ぶという、非常にズレたセンスをしている彼女は自己紹介もそこそこに、『透明な敵』の存在を伝えてきた。

 

 透明な敵がいること。

 透明な敵にスイムスイムが襲われたこと。

 透明な敵は追撃せず、おそらく退却したこと。

 

 一方的に『透明な敵』のことを伝えたスイムスイムは、こちらからの質問を受けつけることなく去っていった。

 

 透明な敵とは、今までのゲームの傾向と合致しない異質な存在だ。

 荒野エリアの白い骸骨。草原エリアの赤い骸骨。山岳エリアの小鬼。都市エリアのガードロボット。新しいエリアになるほど敵が強くなることはあれど、魔法少女の視覚をあざむくような敵はいなかった。

 

 透明な敵とは、どういうモンスターなのか?

 出現条件は? 攻撃方法は? なぜスイムスイムが襲われた?

 

 

「――誰だと思う?」

 

 ふとプフレが問いかけてくる。相変わらずこのお嬢には私の考えていることなどお見通しらしい。心の中にすらシャドウゲールのプライベートは存在しない。シャドウゲールはプフレに回答しようとして、ようやく質問の意味を理解した。理解して、衝撃に固まった。

 

 

「……まさかお嬢、透明な敵の正体が魔法少女だって言うつもりですか?」

「今、我々が把握している情報を総合すると、自ずと『透明な敵=魔法少女』になる」

「モンスターじゃないんですか?」

「いや、魔法少女だ」

「どうして言い切れるんですか? モンスター図鑑を全部埋めたわけじゃないのに」

 

 プフレが回転椅子を回し、ベッドに腰かけるシャドウゲールと向き合う。

 

 

「護。我々が今までに出会ったモンスターの内、どれか1体でも我々から逃げたことがあっただろうか? どれだけ不利でも最後の1匹まで果敢に襲ってきた。そうだろう?」

「それは、確かに」

「透明な敵はスイムスイムを襲ったものの、姿を消した。相性が悪かったのか他の原因があったのか。とにかく速やかに判断を下した。戦う魔法少女の動き方だ」

「……すごく賢いレアモンスターがランダムでエリアを徘徊している可能性はないんですか?」

「その可能性は低く見積もっている。このゲームは、理不尽と抜け道をセットで用意している。草原エリアの赤い骸骨が『長距離攻撃反射』スキル持ちであることを、草原の街のショップで買える『モンスター図鑑』で確認できるように。キャンディー所持数が一番少ない人を脱落させるイベントを、キャンディー所持数が一番少ない人を複数人用意すれば脱落者なしでクリアできるように。ならば『透明な敵』という理不尽にも抜け道が用意されているはずだ。しかし、そのようなものは見つけられていない。ゆえに『透明な敵』はゲームマスターの思惑の埒外で動いている」

「でも、どうして魔法少女がスイムスイムを……?」

「『透明な敵』の正体がわからない今、動機をいくら考えても推測の域を出ない。『透明な敵』は他の魔法少女をゲームオーバーさせたがっている。今はこれだけ認識しておけばいい」

 

 プフレは回転椅子を再度回し、窓の外の景色を眺める。

 

 

「……」

 

 魔法少女たちの中に、敵意を抱く者がいる。

 ゲームの世界でもダメージを受ければ痛い。それをわかっていて、攻撃を企てる者がいる。魔法少女をゲームオーバーにさせようとしている者がいる。魔法少女にゲームオーバー級の痛みを加えようとする者がいる。

 

 体が震える。

 透明な敵、目に見えない敵。

 そんな相手に襲われたら、シャドウゲールにはどうしようもない。

 

 

「手は打ってある」

「え?」

 

 いつの間にか、プフレが再びシャドウゲールを見つめていた。思考の海で恐怖に震え始めていたシャドウゲールが、現実に引き戻される。体の震えは収まっている。

 

 

「チェルナー・マウスと決闘しただろう?」

「……ええ、しましたね」

 

 ゲームの世界でスイムスイムと出会った後。プフレはチェルナー・マウスに決闘を申し込んだ。目的は、チェルナー・マウスによる、モンスターの狩場の占拠行為を止めさせるため。

 

 『あくまで双方ゲームオーバーにならないよう気をつける』という条件の下、荒野エリアで行われた決闘は、チェルナー・マウスの勝利に終わった。

 

 プフレはシャドウゲールの『機械を改造してパワーアップできる』魔法で、己の『猛スピードで走る魔法の車椅子』を改造させた。都市エリアのガードロボットのパーツを使って、30メートル級の巨大戦車を作らせた。しかし、チェルナー・マウスの巨大化魔法の限界は30メートルではなかった。結局、凄まじく巨大化したチェルナー・マウスに戦車を踏みつぶされて、決闘は幕引きとなった。

 

 今にして思えば、奇妙な決闘だった。

 まず、どうして決闘相手としてチェルナー・マウスを選んだのか。

 

 確かにチェルナー・マウスはモンスターの狩場を独占し、他の魔法少女たちのマジカルキャンディー集めを妨害してきた。けれど、シャドウゲールたちはチェルナー・マウスが独占する狩場の使用を認められており、チェルナー・マウスから迷惑を被っていない。

 

 パーティーの利を考えるのなら、プフレが決闘を申し込むべき相手は、チェルナー・マウスではなく、侍の彼女の方ではなかったのか。いや、明らかに狂っている侍の彼女に決闘を申し込んでも意味がないのはそうなのだけど。

 

 奇妙な点は他にもある。

 そもそも、どうしてプフレが決闘の矢面に立ったのか。

 

 

「ついにあの子と雌雄を決するのね。――大丈夫。我が名はマスクド・ワンダー! 力ある正義の体現者『魔法少女』! 彼女に灸をすえて、改心させてみせるわ!」

「いや、今回は私とシャドウゲールに任せてくれないか? 君と一緒に過ごすうちに、私たちも君の正義に感化されてね。立ち上がりたくなったんだ」

「そう、あなたたちも正義の体現者になるのね。先達として歓迎するわ!」

「ありがとう」

 

 プフレがチェルナー・マウスに決闘を申し込むことを、シャドウゲールとマスクド・ワンダーに伝えた時。マスクド・ワンダーは戦う気満々だった。なのにプフレは、お得意の弁舌で巧みに言いくるめてまでして、プフレ自身が決闘に参加した。

 

 

「あの決闘で、我々の魔法を皆に見せておいた。巨人と巨大兵器が繰り広げる決戦は、観戦者に否応なしに強烈な印象を植えつけた。……同時に。プフレの魔法の車椅子はチェルナー・マウスに壊された。シャドウゲールの魔法は大量の材料と多大な時間がないと効果を発揮しない。これが皆の共通認識となった。もしも『透明な敵』の動機が『己の目的達成の邪魔となる脅威の排除』ならば、我々を襲う優先度は下がっただろうね」

 

 まさかあの決闘にそのような裏目的が隠されていたとは。

 シャドウゲールは目を丸くするとともに、内心でため息を吐いた。お嬢はいつもそうだ。己がどういう目的で動いているのかを都度、懇切丁寧に説明してくれるような親切者ではない。シャドウゲールが真実を知るのは、いつもすべて終わった後だ。

 

 

「『透明な敵』は誰だと思う?」

「お嬢はもうわかってるんじゃないですか?」

「いや、特定できていない。だから護に聞いているんだ」

 

 本当に知らないのだろうか。シャドウゲールがトンチンカンな推理をするのをからかいたいだけではないだろうか。とはいえ、プフレの質問を無視するわけにもいかない。

 

 

「あの侍の魔法少女でしょうか?」

 

 刀を振るだけで、遠く離れたモンスターを斬り殺せる彼女ならば。スイムスイムの視界の範囲外から攻撃を仕掛けられるのではないか。そして、スイムスイムが『透明な敵がいる』と思い込んだ。……即席の推理にしては、良い線いってるのではないか。

 

 

「それは違う」

「はぁ、そうですか」

「侍の彼女とスイムスイムは繋がっているよ」

「……え?」

 

 シャドウゲールの推理は、プフレに速攻で否定される程度の、レベルの低い推理だったらしい。だったら質問しないでほしい。シャドウゲールはベッドに横になってふてくされるも、次のプフレの言葉に困惑の声を漏らした。体を持ち上げて、プフレを見やる。

 

 

「キャンディー所持数が一番少ない人をゲームオーバーにするイベントがあった時、侍の彼女は真っ先にショップでアイテムを大量購入して、キャンディーの数を0にした。他の魔法少女がキャンディーの数を減らしてくれる保障がなかったのにもかかわらずだ」

「ゲームオーバーになりたかったからじゃないんですか?」

「ゲームから降りたいのなら街を去らずに、他の魔法少女の動向を監視するべきだ。他の魔法少女がショップでアイテムを購入したり、キャンディーを1人に集めたりして、キャンディーの数を0個にしないようにね」

「そもそも、狂人に理屈を求めても仕方ないでしょう? 彼女が他の魔法少女を監視しなかったからといって、彼女がゲームオーバーしたくないとは言えないのでは?」

「侍の彼女は正常だよ。彼女はあえて狂人の演技をしている」

「は……?」

 

 今日はあと何回驚けば良いのだろうか。

 プフレの口から語られる、衝撃の事実が多すぎる。

 

 

「彼女の声質、仕草、口調。これらを総合すれば、彼女の精神が正常なのは明らかだ」

「それなら、どうしてあんなおかしな行動を?」

「さぁね。ただ、彼女が意図して狂人に擬態していることは確かだ」

 

 プフレはぴょいと回転椅子から飛び降り、ベッドに置かれた熊のぬいぐるみを抱いて再び回転椅子に座りなおす。

 

 侍の魔法少女が狂人のフリをしている。シャドウゲールにはどう見ても狂い散らかしているようにしか見えなかったが、この手のことでシャドウゲールがプフレに勝ったことは今まで一度もない。プフレの発言通り、侍の魔法少女は実は狂っていないのだろう。それはいいとして、どうして侍の魔法少女とスイムスイムが繋がっているということになるのだろうか。

 

 

「……スイムスイムと侍の彼女は打ち合わせをしたうえで、それぞれマジカルキャンディーを0個にしたってことですか?」

「あぁそうだ。『キャンディーの所持数が一番少ない人をゲームオーバーにする』というイベントの特性上、魔法少女たちが魔法の端末を確認するのは至極当然の行為だ。ここで、スイムスイムと侍の彼女はメールでこっそり打ち合わせをした。『透明な敵』が誰かをゲームオーバーさせないように、2人が組んでいることを悟られない方法で、先手を打った」

「『透明な敵』とスイムスイムたちは、対立している……?」

「おそらくは。尤も、表立って対立はしていないのだろうがね、ふふ……」

 

 プフレは笑みを深めている。夕日が部屋に差し込み始めたことも相まって、お嬢の笑みが幻想的に彩られる。

 

 お嬢は実に楽しそうだ。

 でもシャドウゲールは楽しくない。

 

 透明な敵。

 スイムスイムと侍の魔法少女。

 ただのゲームのはずなのに、どうして謎に暗躍する者たちが現れるのか。

 こんな状況で、シャドウゲールは魚山家の人間として、プフレを守り抜かないといけないらしい。

 

 

「……」

 

 シャドウゲールは心の中で深々とため息を零す。

 プフレから視線を外して、窓の外に広がる夕焼けに染まる街並みをぼおっと眺めた。

 

 

 だれかたすけて(遠い目)

 

 

 ◇◇◇

 

 

◇スイムスイム(憑依)

 

 ゲーム世界から現実世界に戻ってしばらくして。

 アカネが精神病院から退院する日がやってきた。

 

 ボクは魔法少女スイムスイムの姿で、病院前で待機している。当然、水着姿ではない。スイムスイムに変身した後、アカネの妹の洋服に着替えてから病院までやってきたのだ。当然、アカネの妹の洋服を借りることについて、アカネから許可を得ている。

 

 本当は女物の服を着たくはなかったのだが、けれどそうなると白スク姿で洋服を買いに行かないといけなくなる。かといって変身前の7歳児の姿で、スイムスイムサイズの大きい洋服を買うのは違和感が凄すぎる。絶対店員に怪しまれてお巡りさんを呼ばれて補導されて孤児院ルートに入って止めて引いてGetWildである。

 

 よってアカネの家にある洋服を借りるしか選択肢がなかったのだ。決して女物の洋服を着てみたかったわけではない。スイムスイムに憑依してしまった今も、ボクの心は男だ。ボクはあくまで18歳男子だ。

 

 

「――スイム」

 

 などとボクが己の正当性を脳内で確立していると、病院からアカネが現れる。アカネには、現実世界では『スイムスイム』と魔法少女のフルネームを呼ばないようにお願いをしている。結果、アカネはボクを『スイム』と呼ぶようになった。

 

 

「アカネ」

 

 一方のボクは『アカネ』呼びである。けれどこれはさすがに仕方ない。本名:不破茜で、魔法少女名:アカネでは、呼び方の変えようがないのである。今さら『不破』と苗字で呼び始めるのも違うだろう。

 

 

「退院おめでとう」

 

 ボクは背中に隠し持っていた、退院祝いの花束をアカネに見せる。ゲームへの参加賞としてアカネの口座に振り込んでもらった、ボクの十万円を資金源として購入した花束だ。さすがに十万円すべては使わなかったが、お金をケチらなかったので、結構豪勢だ。

 

 が、アカネは特に喜ぶ様子はない。花は嫌いだっただろうかとアカネの顔色をうかがってみるも、なぜかアカネは無表情だった。

 

 

(え、なんで退院できたの?)

 

 ボクが不思議に思っていると、アカネは「スイム、こっち」と建物の影を指差し、歩を進めていく。ボクは困惑しつつもアカネの後を追う。どんどん人気の少ない場所へと移動する。

 

 「アカネ、どうしたの?」と問いかけようとして、刹那。ボクに衝撃が走った。

 アカネに抱き着かれている!? あばばばばばばば!?

 

 

「ゲームの世界で3日間ずっと狂人の演技をするのはさすがに疲れたよ。いつどこで誰が聞いているかわからないから発言をサボるわけにもいかないし」

 

 いや、よくない。これはよくない。

 こちとら中身は18歳男子ですよ!?

 『彼女いない歴=年齢』ですよ!?

 

 

「こんな苦行をこれからも続けないといけない。……だから、これぐらいは良いよね?」

 

 アカネはボクに抱き着いたまま、顔をボクのうなじに寄せて――。

 

 んんんん!?!?!?

 え、吸ってる!? ボクの髪、アカネに吸われてます!?

 

 いやいやマズい。これはライン越えてるって。ボクは男なのに、アカネはボクを女の子だと思って過激なスキンシップに走っている。スイムスイム自体は無表情だからボクの動揺はアカネに伝わってこそいないが、その、罪悪感が凄すぎる。

 

 

「ん、くすぐったい」

「ふふ、かわいいね。スイムを見てると癒されるよ」

 

 あぁぁああああああ!!

 アカネの香りが! アカネの体の感触が!

 お客様!!困ります!!あーっ!!

 

 

「みんなを守ろうね、スイム」

 

 

 だれかたすけて!!(ガチ恋距離)

 




次回 第9話
『スポーティーな視線』
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