憤怒絶勝シンフォギアRe   作:超高校級の切望

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プロローグ

 骨が折れた。片目が潰れた。内臓も傷ついたのか、喉の奥から血を流す。

 全身が痛い。違う、熱い。それとも寒い?

 総じて苦しい。

 押しのけられ、殴られ、踏み潰され、ズタボロのゴミのような少年はグッと腕に力を込める。

 

「………な………」

 

 倒れる少女に這いずる。

 

「た…な………」

 

 親しい関係だったわけじゃない。

 知り合ったのも今日だ。何やら電話相手に騒いでる少女とぶつかって、謝られて、友達が来れなくなったと聞かされ自分も似たようなものだと意気投合した。

 

「たち………ばな…………」

 

 たったそれだけの関係。連絡先の交換すらしてない、たまたま同じライブで自己紹介しただけの関係。立花響と青年はそれだけの関係なのだ。

 だからって、胸から血を流す年端もいかない少女を放っておける訳が無い!

 

「しっかりしろ! 生きるのを諦めるな!」

 

 ふざけるな。

 何なんだお前。

 ノイズという人に抗えぬ筈の脅威、出現数が低いことのみが救いの災厄を相手に戦っていた少女が、今回のライブの主役の片割れが自分達に呼びかけ、しかし男は怒りを覚える。

 偶然なわけがあるか。

 謎の爆発、それと同時に現れたノイズの襲撃。そこにたまたま運良くノイズを相手に出来る者達が居た?

 そんな偶然あってたまるか。

 

「なん、なん……だ、お前等! ごれ、は……こうなる、事を……予想、しでやがったな!」

「っ!!」

 

 見ていた。彼女達が狼狽えたのはほんの一瞬であったことを。すぐに冷静さを取り戻していたところを。

 予知でなくとも予想はしていた。こうなることを、この場に人を集めるライブなんて行いながら。あるいは人を集めるためにライブを行った。

 

「ごう、なることをわがって、やがっだの、か………!」

 

 その苦しげな顔が、雄弁に語る。その可能性を知った上でのこの公演だと。

 ふざけるな!

 塵となって消えた人間の中にどれだけお前等の歌を楽しみにしていた人間がいると思っている!?

 ただ純粋にお前達の歌を聞きに来た人間を利用し、散々死なせておいて挙げ句生きるのを諦めるな?

 

「ふざ、けんな………! ふざけんなああああ! ノイズ呼ぶなら、お前達だけでやれ! 勝手に、たた……たた、かって………勝手に、死ね!」

「そんな言い方!? 奏は、貴方達のために………!」

「いいんだ、翼………この兄さんの言うとおりさ」

 

 青い片翼の言葉に、オレンジの片翼は自嘲するように笑う。

 

「巻き込んで悪かった。始末はつけるよ」

 

 そう言って、響を優しく寝かせるとノイズの群に向かって歩いていった。

 

 

 

 

 

 家族は事故で亡くなった。

 血の繋がりは、薄い。よくいるクズな男に引っかかった母の妹夫婦。夫婦には子供がいて、自分は兄になった。

 兄として守れとか、兄だから優しくだとか、そんなことを新しい父親は言ってきて、新しい母親は特に何も言わず二人でいると嬉しそうな顔をする。

 今度こそ普通の家族になれると思った。だけど、事故で全てを失った。妹の死体だけ見つからなかった。なのに警察は死亡で終わらせた。

 だけど自分は覚えている。血だらけで這い出した自分を見てどうせ死ぬと興味を失い、傷の少ない妹を攫った男達を。警察は、動いてくれなかったが。

 もはや薄れた記憶で、しかし外国人であることだけは知っている。だから外国に行くために金を稼ぐ。複数の国の言葉も学んだ。趣味に没頭する気はなかったが、ある日バイト先の先輩がライブのチケットを寄越してきた。

 ペアチケットが当たったからどうせならまともに遊んだこともなさそうなお前にやる、とのことだ。

 どうせ暇だしとそのライブに向かうことにした。因みに先輩はドタキャンした。

 

 

 

「あれ〜? ええっと、どっちだっけー?」

 

 ライブ前にトイレに行くと道に迷っている女の子を見つけた。先程友人が来れなくなり騒いでいた少女だ。

 

「どうした?」

「あ、さっきのお兄さん! 実は、その………トイレ空いてなくて、探してたら迷っちゃいまして」

「…………俺の席の近くだな。こっちだ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「気にするな。妹を思い出しただけだ」

「妹さんですか?」

「君より年下だが、年は近い。暫く会えていなくてな」

「また会えるといいですね! あ、私、立花響っていいます」

「よろしく、立花」

 

 元気な子だ。妹もこれぐらい元気に育っているといいのだが、怪我した幼子をさらったり死にかけを放置したりするような奴等にそれを求めるのは酷か。

 だが、少なくとも死なせないように焦っていたのは覚えている。生きてはいると思う………。本格的に海外を探しに行ける。

 

「実は私、よく知らないんですよ」

「奇遇だな。俺もだ」

「へ〜。そういえば、知り合いが来なかったことと良い………すっごい偶然ですね!」

 

 そんな会話をしながら席に付き、ライブが始まった。なるほど人が集まるわけだ。良く知らないと言っていた響も元気に応援している。

 だが、2曲目を歌おうとした時突如爆発が起こり、同時にノイズが現れた。

 人に触れれば自分諸共炭の塊に変える怪物。人間の兵器が一切通用しない人類の天敵。

 パニックになった群衆の誰かに押し倒され、踏み付けられる。そして、逃げ遅れた少女を見つけた。それはまだ知り合ったばかりの少女だった。

 痛む体を無理やり動かし、駆け寄ろうとして飛んできた何かが二人揃って突き刺さった。

 衝撃で脳が揺れたのか、立つこともできなくなった。

 

 

 

 

 歌が聞こえる。

 天羽奏の歌。ライブの時とは違う。心ではなく、魂を揺さぶられるような歌。

 命を燃やす歌。

 天羽奏はノイズを消し飛ばし、その身が崩れ落ちた。

 で? だから?

 お前が犠牲になろうと知ったことかよ!

 

『■■■■■■■…………』

「っ! 生き残り!?」

 

 ノイズが現れた時点で反応が消えるまで救助はない。ノイズが消えた今、救助に来るはずと少しでも出口に近付くために響を背に乗せながら這いずっていた彼の前に現れる黒い影。

 半身以上を失った黒いノイズ。死にかけの体から黒い瘴気のようなものを放ち………消えた。

 何だったのだろう?

 潰れた右目が、一際強く痛んだ。

 

 

 

 

 死者、行方不明者12874人。

 ノイズ被害としては最大級のそれに、人々は悲しみ、怒り、或いは無関心とそれぞれの反応を示す。

 だが、その数の大凡3分の2が人によるものだと解ると同情的な感情は反転し、生き残った者達を全員人殺しだと決めつけ責めたてた。

 実際に殺したかどうかは調べない。調べて無実だったら責め立てていた自分達が悪くなってしまう。

 

「で? 実際に俺が人殺しなら、殺されるかもしれないと思わなかった訳か?」

「ひ、ひぃっ………!」

 

 ガタイのいい男達。ただただ嗜虐心を満たしに来ただけと一目で解る目をしていた男達は今はただただ恐怖に震える。

 リーダーの男の首を掴み片手で持ち上げる。

 

「あの日から………妙なんだよ。傷の治りが早くて、力が湧いてきて…………一度怒りが湧いてくると止めるのも一苦労なんだよ」

 

 ギリッと力を込める。もう少し込めれば、人の首など簡単に潰せる。それに気づき男を放り投げる。

 

「静かにしろ。静かにさせろ俺を怒らせるんじゃねえ………!」

 

 男達が見せつけてきたライブ事件の生存者を責めるキャスターの映像が繰り返し再生される携帯を踏み砕く。アスファルトに亀裂が走った。

 

「俺は殺してねぇし、お前らの身内はあそこに居なかった。そうだろ? そうだよな!」

「は、はい!」

「理不尽な義憤にただでさえムカつくのに、これ以上下らねぇことで時間を取らせんな!」

 

 電柱に手を添え、力を込める。指がめり込み中の鉄骨ごと一部を握り潰した。

 

「あ、わ………ば、化け物!!」

「たす、助け………ひ、人殺し!!」

「………人殺しが怖いなら、『人殺しに罰を与えに』なんか来るんじゃねえよ」

 

 苛つく。ムカつく。

 その程度なら良くあることだ。なのに怒りが湧き出す。

 嫌なことばかりでもないはずなのに、何時だって怒りのほうが強く心を刺激する。あの日以来ずっとこうだ………。

 流石にこの2ヶ月で数も減ってきたが。 

 

 

 

 

「それで今日も返り討ちか」

「強いのぉ。なにか格闘技でもやっておったか?」

 

 因みにアパートは追い出された。暴力がどうの言っていたが、世間的には人殺しということになっている彼の部屋に石を投げてくる奴や周辺に落書きする奴が居るから出て行ってほしかったのだろう。祖父の下に戻るのは、老体に迷惑をかけてしまうだろうからやめた。

 今はホームレス仲間のおっさん達と食事をしている。

 

「まあ格闘技はやってたな。必要になるかもしれなくて………最近は使ってねえけど」

「技術を使わずとも鍛えた体で十分ってか!」

 

 鍛えた体………では説明がつかないが。

 いくら鍛えようとアスファルトを踏み砕ける人間など居るわけがない。居たとしたら、本当に化け物だ。

 でも、この人達は息子ができたようだと、そんな自分を受け入れてくれる。

 

「そういえば今度誕生日か」

「金はねえけど、何かお祝いしてやるよ」

 

 受け入れて…………くれたんだ。

 

 

 

「……………」

 

 新しい働き口を探して、断られた帰り。

 燃えていた。

 倒れていた。

 バットや木材を持った男達がいた。裁きがどうだの、幸せになる権利がないだの喚き散らす。

 

「どうしてお前等は………ここまでしておいて正義を騙れる」

「どうしてお前等はまだ被害者側のつもりなんだ!」

「どうしてお前等は、そこまで俺を怒らせる!!」

 

 失った右目が強く痛む。脳に入り込み、摘出できなくなった破片が熱を持ったかのように頭の奥が鈍く痛む。

 黒い黒い………漆黒の闇が全てを飲み込む。

 その日、街が一つ消し飛んだ。

 

 

 

 

「助けは必要か?」

「ほえ?」

 

 立花響の趣味は人助け。困っている人を助けるのが趣味だ。今回は人ではなく木から降りられなくなった猫だが。

 ついでに自分も降りられなくなった。そんな時下から聞こえてきた声。

 

「受け止める」

「えっと……じゃあ、お願いします!」

 

 飛び降りた響を受け止める誰か。背は、そこまで高くない。

 

「あの、ありがとうございます! 私、立花響っていいます!」

「…………月読未だ………今度は気をつけろよ」

 

 そう言うと未は去っていった。

 

「…………何処かであったような?」

 

 でもどこで? 思い出せない。

 ただ、胸の奥がジンワリと熱を持つ………。

 

「なんだろう、この感覚…………あ! いけない、遅刻しちゃう!」

 

 首を傾げた響はしかし別のことを思い出し、猫を抱いたまま走り出した。

 

 


 

 

月読(ひつじ) 男 22歳

顔を含め酷い火傷の痕が残っている青年。

右目は2年前の事故で失っている。感情はあるが怒りの感情に塗りつぶされやすい。

金を稼ぎながら成人と同時に妹を本格的に探すつもりだった。本音では諦めも入っていた。

格闘技を習いアスファルトに亀裂を入れる程度ならできていたがライブ事件後からは日に日に力が増していく。

祖父に迷惑をかけるからと実家に帰らずホームレス生活を送っていた。ホームレス仲間は誕生日に失った(人の心とかないんか?)

 

嫌いな物・ノイズ、ツヴァイウィング、全裸、正義の味方、犠牲、自分

好きな物・家族、チョコバナナ、わたあめ、琥珀糖

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