未のおかげで木から降りられたものの、遅刻した響。
先生に叱られ猫は学校が里親を探してくれることになった。
「それでその月読さんには、ちゃんとお礼するの?」
「うん! と言っても、何をすればいいんだろう」
「そもそもまた会えるか解らないでしょ?」
「うっ……」
確かに……フードも深く被っていたせいで、顔も解らない。あれ、どうやってお礼すればいいんだろう?
「まあ、何も言わなかったってことは、お礼とかはいらない人なのかもだけど」
「でも………」
「また会えたらお礼いえばいいんだよ。ね?」
「うん、そうだね。そうだよね!」
会えたら絶対お礼を言おう。響はそう心に決めた。
「………またノイズ」
フードを深く被り、顔を隠した未は
生身でノイズを討ち滅ぼす。人の身でありえないことを行った未は迫る気配に忌々しげに顔を歪め、その場から消える。
「そうか、またか………」
特異災害対策機動部二課。通称「
ここ数日の異常なノイズの発生………そして、消滅。
ノイズ発生に裏で糸を引く者が居るのだろうと予測はしている。ノイズを消しているのは………後処理なのか別勢力なのか。
「相変わらずなんのエネルギーも感じさせないなんてねぇ………」
得意災害たるノイズは位相差障壁という、この世への比率を弄り物理干渉を無効化する能力を有する。それ故に対抗策としてはその僅かに顕現している比率を削り尽くすまで飽和攻撃をするか、比率が上がる瞬間を狙い攻撃するか、自壊を待つしかない。ただしそれは表向きの話。
ノイズに通用する技術は存在する。あるいは存在したというべきか。
遥か古代の
そのエネルギーを体表に固定化させ鎧となすのがシンフォギア。ノイズの位相差障壁を「調律」により無効化し強制的にこの世界の物理法則下に落とし攻撃を当てる特殊兵装だ。聖遺物は独自のエネルギーパターン………アウフヴァッヘン波形を持ち、シンフォギアも同様のエネルギーを発する。
「でもなんの反応もないのよねぇ。ステルス性にも優れた聖遺物なのか、全く別の異端技術なのか………」
「ここ最近姿を現さなくなったオーディンは………」
「あっちはちゃんとアウフヴァッヘン波形が観測されてたじゃない」
藤堯の言葉を友里が否定する。
「………オーディン、か…………」
2年程前から突如として現れた異端技術を纏う破壊者。政治的な目的があるような行動にも見えないため、テロリストかは不明。
主に聖遺物関連の施設に現れ去っていく。何かを探していると思われるが、目的は不明。名の由来の一つである纏う聖遺物の力は………彼等にも無視出来ぬものであった。
「二年前………やっぱり、あの事件が関わってるんでしょうかね」
「解らん…………だが、もしそうであるなら、きっと俺達に原因があるのだろう」
「ああ、流石にもう間違いねえだろ。ソロモンの杖を使う何者かがいる」
未は屋上から街を眺めて現状雇い主たる少女にそう伝える。
「………最終的な目的は解らんが、ここでシンフォギア装者が全滅するのはお前の計画的にも避けるべきだろ」
未自身の単なる八つ当たりと、少女への同情で手伝う計画。成功しようが失敗しようがどちらでも構わない。ただし成功すれば人類は滅ぶ。
「ただ、個人的に俺の手で殺したい奴が裏で糸を引いている可能性がある。それ次第ではシンフォギア装者の数は………そうか、悪いな」
許可を貰い、連絡を切る。
同時に鳴り響くノイズ警報に顔を顰めた。
「………? あれは………立花?」
と、街に現れたノイズを見下ろし幼い少女の手を引き走る少女を見つけた。ノイズが現れたというのに、それでも誰かを助けようとしているらしい。
「………………」
ガリッと右目の傷跡を爪で引っ掻く。
彼女も自分のこの傷と同じ要因の傷を負った。恐らくは彼女も………。
「…………いや」
自分は途轍もなく運が良かった。立花響がそうなれる可能性はゼロに近い。
どのみち虐殺する中に紛れるだろうに、偽善ですらない自己満足。そんな己を自嘲しながら未は建物から飛び降りる。
「こい………ガングニール」
「アウフヴァッヘン波形検知! っ! この波形、ガングニールです! エネルギー質量なおも増加………推定エネルギー量10万kw!?」
「まさか、オーディンか!?」
「きゃあああ!!」
突然の閃光、轟音。耳鳴りがするほどの破壊音とともに目を焼くほどの光に思わず倒れる響と少女。チカチカする視界に、人影が映る。
「無事みたいだな」
キンキンする鼓膜に飛び込んできたのは、こちらの無事を確認する声。まだ光の残像が残る視界に映るのは、ボロ布を纏った人物。
「そっちも大丈夫そうだな」
「う、う〜ん………」
頭がグワングワンしている少女は、それでも確かに目の前の相手を見ていた。と、ガシュガシュと新たなノイズが現れ………眼の前の人物が腕を振るい発生させた赤黒い雷に焼かれる。
「か、雷!? ていうか、ノイズを倒して………なんで!?」
「とっとと避難シェルターに向かえ」
「え、あ………」
「…………ちっ」
その言葉に慌てて立ち上がり駆け出そうとした響だったが周囲には数えるのも億劫になるほど夥しいノイズに溢れる。かつてのライブ事件を思い起こすその光景に、響の足が思わず止まる。
「ここから一番近いシェルターは?」
「あ、えっと………リディアンの方に………」
「成る程………どうりで早いわけだ」
「え?」
苛立ったようなその声色に響が首を傾げると、バイクの音が聞こえてきた。それと同時に聞こえるのは………歌?
「♪Imyuteus amenohabakiri tron♪」
「あれ、この声………」
聞き覚えのある歌声のする方向でノイズが吹き飛ばされていく。そのままノイズの群れを突き破り現れたバイクから跳び出す人影。バイクはローブの人物にそのまま向かい、蹴り飛ばされた。
「オーディン!!」
「風鳴翼!!」
オーディンと呼ばれた相手が叫んだように、バイクから跳び出したのは風鳴翼。ただしその服装は肌に張り付くようにピッチリとして、各所に機械パーツがついている。
「奏のガングニールを破壊のために使うお前を、私は決して許しはしない!!」
「ああ? 天羽奏だと……ムカつく名前を思い出させんじゃねえ」
苛立に呼応するようにオーディンの周りで赤黒い電光がバチリと走る。翼が振り下ろした剣を片手で受け止め、握り潰しその拳を叩きつける。
「!!」
「翼さん!?」
咄嗟にガードは間に合うも、その場で踏ん張ることもできずに吹き飛ばされる。ノイズの群れに突っ込んだ姿に顔を青くする響だったが、翼は炭化することなく立ち上がる。
「良かった…………あ、あの! どうして、戦ってるんですか!? 助けに来てくれたんじゃ………」
「お前はな………あの女が死のうと知ったことか」
「ガングニールを用いて破壊を撒き散らす者と、手など組めるか!! 神妙にお縄につけ、貴様の暴挙もここまでだ!!」
「俺の罪をお前が裁くと? なら、お前等の罪は誰が裁く」
赤黒い雷光が集まり、黒い槍を生み出す。迸る稲妻がアスファルトを砕く。
「何時も何時も何時も何時も何時も! てめぇ等は誰かを救おうとすりゃなんだって正義になると思ってやがる! 犠牲になった人間には黙ってろと押さえつけやがる! 救われた人間がいるんだから、救われる人間がいるんだから取りこぼされた人間はそいつ等が後ろめたい気持ちにならないよう視界に映るなと宣いやがる!」
「なに、を………貴様一体、何の話だ!?」
「お前が嫌いって話だ!!」
と、周りに集まっていたノイズが襲いかかってくる。オーディンは舌打ちして槍を振るい雷で焼いていく。
「おおおお!!」
「………ガキどもを守らなくていいのか? いいんだろうな! 眼の前の命より、自分の感情が大事か!!」
斬り掛かってくる翼の剣を槍で受け、踏み込むオーディン。一歩踏み込んだ、ただそれだけで翼が弾き飛ばされる。
「奏の力は……人々を守るための力だ……お前のような者が振るって良い力ではない!!」
「…………バカかお前。これを何だと思っていやがる」
槍を掲げ聞き分けのない子供に苛立つように問いかけるオーディン。
「これは武器だ。これは力だ………ただ振るうだけの存在だ。破壊するためのものだ。俺も、天羽奏も、力を手にしてしたいことをしただけだ。その結果が、あれだがな!!」
「っ!! 奏を、侮辱するな………! 何故お前が怒っている!!」
「腹立たしいからだ! 自分を犠牲に人を救ったみてぇな顔で死にやがった彼奴が! 原因のくせに相方が死んだってだけで世間の同情を買うお前が! お前だけじゃねえのになあ!!」
あの時ライブ会場から生きて帰ったものは全員人殺しのレッテルを貼られた。ただし、風鳴翼は違う。観客席にいなかったから? 違う。観客席にいなかろうと逃げるために誰かを踏み潰してるかもしれない、殴ってるかもしれない。けどそんなことをしていないと世間は決めつける。
天羽奏を失った彼女が可愛そうだから。他に家族や親友を失った者達は親友や家族を殺してまで生き残ろうとしたが、風鳴翼はそんな事をしないに決まっていると……。
「なんでお前等だけ同情される! なんで、あの場を地獄に変えた奴等が可哀そうで、あの地獄に巻き込まれた奴等が人殺し扱いされなきゃならねえんだ!!」
「オーディンさん………」
発言からして、彼もライブ事件にいたのだろう。でも、翼達が原因って………?
「お姉ちゃん………」
「………あ」
と、不安そうな声に正気に戻る響。
「あ、あの! 取り敢えず、喧嘩はあとにしてくれませんか!! この子を避難所に!!」
「……………」
その言葉にオーディンは怒気を収めて、こちらに向き直る。が………明確な隙に翼がオーディンに斬りかかる。
「ッ! 危ない!!」
「な!!」
響が慌てて駆け出し翼とオーディンの間に割り込む。オーディンが慌てて響の肩を掴み後ろに投げる。
「ッ! あの子、何故………」
「…………馬鹿なんだろうよ」
腕のパーツで翼の一撃を受け止めたオーディンは苛立つように呟き……
「ぐっ!?」
フードの影の奥の顔を片腕で抑える。異変が起きたのは、オーディンだけではない。
「う、うあああああああああああ!!?!?」
苦しげに叫ぶ響から莫大なエネルギーが溢れ、背中から巨大な機械のパーツが現れ再び体内に飲み込まれる。
「新たなアウフヴァッヘン波形検知! って、これは………またぁ!?」
「まさか…………ガングニールだとぉ!?」
「………………」
「貴様! その子に一体何をした!?」
「こいつになにかしたのは、てめぇ等の方だろうが!!」
と、翼の首を掴み地面に叩きつけるオーディン。
「俺がこうなったのも、あいつがああなったのも、全部お前等がはじめたことだ…………忘れるな風鳴翼、お前がどれだけ正義を騙ろうと、すくわれなかった者達には関係ない」
オーディンはそう言うと槍を投げる。空中で軌道を変え戻ってきた槍に飛び乗ると、そのまま何処かへ飛んでいった。
因みに未は融合症例にならなかったら主な武器は鉄パイプ。
ノイズの比率の濃いところを狙って攻撃しまくり削りきったり攻撃の瞬間比率が高くなるのを狙ったりして2、3匹程度ならノイズに勝てる大人になれてた。