「戻った」
「あ、未さん!」
「未………戻って来るなら事前に連絡よこせ。お前のぶんのメシはないぞ」
未が現在の上司である少女の下に戻ってきた。
上司は食堂で自分と瓜二つの少女と飯を囲っており、突然帰ってきた未を責めるように睨む。
「必要ない、ガリィ」
「はいはーい」
と、未の言葉に隅に置かれていた人形が動き出す。人形のような、などといった比喩ではなく青いドレスを着た本物の人形がまるで生きているかのように動き出し、未と唇を重ねる。
「………………」
「はわわ………」
少女達は頬を赤くして片方は興味なさげに、しかしチラチラ見て片方は目元に手を置きながらも指の隙間からしっかり見ている。
「…………すっきりした」
「ご馳走様です。風鳴翼に会ったんですねぇ」
「そうなのか………」
ガリィと呼ばれた人形は、記憶を吸う。未は怒りを爆発させやすいのでガリィに吸わせ、客観的に聞くことで気持ちを整理するのだ。
「風鳴翼に接触だと? 余計なことはしていないだろうな」
「余計なこと?」
「……お前には関係ない」
睨んでいた方の少女の言葉に気弱そうな少女が首を傾げるも答えは返されなかった。
「世界解明に関係あるんですよね?」
「それはそうだが……そこはお前の仕事ではない」
「………………」
その言葉に落ち込む少女を見て、目つきの悪い方の少女ははぁ、とため息を吐き立ち上がり移動し気弱そうな少女の頭を手を置く。
「エルフナイン、お前は十分オレの計画の役に立っている。嘘じゃない………」
「キャロル………」
「いずれ話す。だから、今は自分の仕事に集中してくれ」
「…………はい!」
笑顔に戻ったエルフナインを見て、キャロルも微笑む。仲睦まじい姉妹のような光景に、未は目を細めた。
「それで………未が見たものを詳しく話せ」
「は〜い」
「………立花が装者モドキになったか」
「現状のままなら、マスターの計画には不要ですね〜。どうします?」
エルフナインを仕事に戻し、キャロルと未、ガリィは玉座の間に改めて集まった。
「ダインスレイフの呪いと合わさらないのなら、ただの邪魔ですもの。未に迫れる可能性があるなら今のうちに殺しておきますか?」
「未並に到れるとは地味に思えん。未の現状は様々な要因が派手に絡んだ結果だ」
「???」
「ミカちゃんには難しいみたいですね〜」
緑のドレス姿の女性人形と黄色い男装の人形の言葉に鋭い爪をした赤い少女人形は首を傾げる。
「………ファラが俺に匹敵する敵になるかもしれないといって、レイアが俺クラスに強くなれはしないと言っている」
「オー………じゃあレイアが正しいんだゾ! お兄ちゃんより強くなれるわけないからナ!」
彼女達もガリィと同じく意志を持つ人形。制作者はキャロルだ。
「でぇ? アンタはどうしたいの? 色々と、複雑な想いを向けてるみたいだけど」
と、ガリィが未に尋ねる。記憶を……より厳密には想い出を吸うガリィは未の怒りをエネルギー源として利用する関係上、この中の誰よりも彼を理解している。
「…………世界は殺す。そこにどうせ巻き込まれるなら、特別生かす理由も………殺す理由もない。いや………勝手な言い分だが、世界を殺すまでは生きていて欲しい」
「………どっちみち殺すんだろうが。仲間意識でもわいたか?」
ケッとつまらなそうに吐き捨てるガリィ。
「………少なくとも、俺のこれは完全な八つ当たりだ。殺したい奴は粗方殺した。それでも消えない怒りを、押し付けているだけだ」
「………………」
「仲間意識などわくものかよ。俺達は破壊者で、彼奴はそれをきっと止めようと足掻くだろう。自分を殺して…………だからせめて、彼奴が燃え尽きるまで見守りたい」
「……………あの女が特別ってわけ」
「否定はしない。俺が
ますます不機嫌そうな顔になるガリィ。
「………好きにしろ」
「マスター?」
「お前と同じで、お前とは重要な部分が違う。なら、いずれ勝手に燃え尽きる。一年もかからんか、一年以上かかるかは知らないがな。だが、どちらにしろノイズならともかくお前達を相手に力を使えば先にガングニールに喰われるだろう。なら、放置していい」
「…………………」
言外に自分達の性能を信用していると言われてしまえば何も言えなくなるガリィ。
「よくわかんないけど、どうするんダ?」
「取敢えずは放置、ということですわ」
「地味に敵対しても、ガングニールの欠片を身に宿したままでは派手に自滅するだけだ」
「仮に欠片抜いてもガングニールへの適性が残ってたら、計画にも使えるしね〜」
「ほーち? ほっとくのカ!」
解ったゾ! と両手を掲げるミカ。
「それと、ノイズを操る黒幕は?」
「狙ってる場所は予想がつくが……目的も相手も不明だ。ただ、あそこまで呼び出せるならソロモンの杖を持っているのは間違いないだろう」
表向きにはアメリカが持つとされる完全聖遺物。起動は確認されていないが、ノイズを操るとなるとそれを使用されている可能性が高い。
「天羽奏の家族を考えればかなり前から起動していたようだが」
何せそこで発掘された筈の聖遺物がアメリカにあるのだ。アメリカの聖遺物研究機関に黒幕の情報がある可能性を考え幾つか潰して回ったが、無駄足だった。
「ようやく掴んだ尻尾だ。必ず殺す」
ビリっと空気が張り詰める。
未にとって本当に憎い年上の友人達の仇は力に目覚めた瞬間に焼き尽くし、ただただ面白がってライブ事件の生き残りを人殺しと広めた有識者気取りを殺して回り、ネットで煽ったクズを潰して周った。
そこに正しさはなく、故に自分の為だけに行っただけだが未に関わる『正義の使者』は鏖した。
主な要因はそちらだ。だが、だからといってことの発端であるノイズをあの場に呼び寄せた者に怒りがわかないはずもなく、そして今の未にとって、怒りと殺意はほぼ同義だ。
「正直に言ってしまえば、二課も気に入らんがな」
聖遺物など起動させるまでは本当にその機能があるか解らない。ネフシュタンの鎧がもしベルセルクの鎧であったら、目も当てられない。なのに起動実験を行った。
消えてしまったからその鎧がネフシュタンの鎧だったのかそうでなかったのかは知る由もないが、危険性を顧みず10万の守るべき無辜の民を危険に晒した組織をどうして好きになれようか。
再び街に戻り、和菓子屋で琥珀糖を購入した未。
ボリボリと硬い外側を噛み砕き柔らかい中身を味わう。
スーパーでバナナとチョコを購入し、この街での拠点に戻ろうとする。と…………
「あれ」
不意に声が聞こえた。振り返ると、見覚えのないリディアンの生徒達。そのうちの一人、リボンの似合う少女が話しかけてきた。
「月読さんですか?」
「…………ああ、まあ」
「やっぱり………響の言ってた通りの恰好でしたから」
「立花の友達か?」
「はい。響がお世話になったようで………」
礼儀正しく頭を下げてくる少女。周りを見るが、響の姿は見えない。
「なになに、ヒナの知り合い?」
と、背の高い少女。
「うさみみパーカーとかアニメみたい!」
ツインテールの少女。
「ナイスです」
上品な雰囲気の少女。
母の実家が実家なのでつい買ってしまったパーカーだが、どうやらそれで解ったらしい。
「えっと………お兄さん、お姉さん? てか、年上だよね?」
「ちょっと弓美………!」
「お兄さんだよ………」
「そっか。それでお兄さん、響と知り合いなの?」
「猫助けるために木から降りれなくなった立花を助けた」
全員またか、と言うような顔をした。ただ、少し嬉しそうなのはそんな立花響のあり方を快く思っているのだろう。
「あの……よかったら連絡先交換しませんか? 響があなたにお礼をしたいそうなので」
「まあビッキーのお礼とかどうせご飯奢るだけとかだろうけど」
「まるでアニメね」
「こういうのは気持ちが大切なのですよ」
「お礼…………必要ないと伝えておいてくれ」
「たぶん、言ってもしたいって言います」
「…………そうか」
未は仕方ないと携帯を取り出し連絡先を交換した。
「ねぇねぇツッキー」
「ツッキー………? なんだ?」
「なんでツッキーはパーカー深く被ってんの? 顔見えないよ。アニメみたいでいいとは思うけどね」
「顔に火傷を負ってんだ。俺自身は、それに思うところはないが目立つし、石投げてきたガキとそんな顔で出歩くなんてとかほざいてきた親をぶっ殺してから面倒事を避けるために顔を隠してんだよ」
あくまで面倒事を避けるため。周りの不快感など知ったことではない。だからマスクや仮面で顔を隠さず最低限隠すだけのフードを被っている。
「………あ、あの………私………」
「気にするな。俺は別に気にしてない」
「…でも……」
「気を使われる方が気分が悪い」
「ご、ごめんなさい………」
「……………空気を悪くしちまったな。俺は帰る」
未はそう言うとその場から立ち去った。
「…………結局戦う道を選んだか」
新たに発生したノイズを消し去り、近付いてくる翼の気配に姿を隠した未はギアを纏い現れた響を見てそう呟く。
現状の出力では肉体にそこまでの影響はないだろう。せいぜいが身体能力の向上。だがそう遠くないうちに食われる。脳ではなく心臓付近だし、恐らく初期段階でギアの使用を控えれば問題はないだろうが………。
「……………は?」
風鳴翼が響に剣を向ける姿を見て、未の顔が怒りで歪んだ。
ぶっちゃけ聖遺物って起動して効果を確認するまで………一部によっちゃ効果確認してもこれだと確信するの難しそうだよね。フィーネみたいに事前知識があるならともかく。
ネフシュタンの鎧がデュランダルやダインスレイフみたいに持ち主暴走させる系だったらどうするつもりだったんだろうとふと疑問に思う今日此の頃。