リコリス・リコイルをこの度初めて視聴し、あっさりとハマってしまい衝動で書いてしまいました。ちなみに作者はクルミ推しです。
前置きはこれくらいにして、第一話。
時系列的にはアニメ二話から三話の間位を想定しております。
入店
─────なんだこの店員たち、顔面偏差値高ぇな
扉を開けてまず思ったのは、褒めているようで不躾な感想だった。
「いらっしゃい…何名様でしょうか」
呆けている自分に向けて、カウンターからとんでもなく『イイ』声で呼びかけられた。
声のしたほうへ顔を向けると、我こそはダンディーでございといった装いの、着物がよく似合う壮年の男性がこちらに微笑んでいる。
「すみません、一人です」
「かしこまりました、お好きな席へどうぞ」
促され、入り口からすぐのカウンター席へと腰かけた。
失礼にならないように気を付けながらさりげなくあたりを見回すと、多くの客で賑わいながらも喫茶店ならではの、時間がゆっくりと流れているような特有の落ち着きを損なわず、席に座っただけというのにこの店を気に入ったことを自覚した。
「いらっしゃいませ、こちらがメニューとお冷です」
声を掛けられ顔を上げると、鮮やかな青い着物を美しく着こなし、烏の濡れ羽のように艶めいた黒髪を左右に結わえた少女がこちらを見据えている。
「メニューはお決まりでしょうか」
「すまない…こちらのお店は初めてでね。おすすめはあるかな?」
「おすすめ…甘いものはお好きでしょうか?」
「甘すぎなければ」
「かしこまりました。ではこちらのお団子とコーヒーのセットなどいかかでしょう」
「ああ、それを貰おうか」
「ご注文ありがとうございます、少々お待ちくださいませ」
黒髪の少女は注文を聞き終えると、メニューを回収しカウンターの中へと引っ込んでいった。
しかし、笑顔どころかにこりともしなかったな…
無論そんなことで気分を害するほど子供ではないし指摘して悦に入るほど狭量でもない。
──────────そんなことよりも気になったのは…
少女が立ち去る際のピンと伸びた姿勢に、ブレのない体幹。
否、そもそもメニューを持ってくる時、彼女が歩み寄ってくる足音は極端に小さかった。
それに、最初に声をかけてくれた男性…
杖を突いていることから下半身にハンデを抱えているのであろうが、健康な一般男性と比べても明らかに鍛えられている。
筋肉というのは脂肪より重く、同じ身長でも筋肉が多ければ多いほど体重は重くなる傾向にある。
丈の長い着物を着用しているため確認はできないが、下半身にしても杖を突いている割には筋肉の衰えが少ない。
いや少ないどころかあれは……
「あ、あの!!!」
ここで、別の店員に声をかけられた…というかほぼ叫ばれた。
いつか来るとは思っていた。というのも声を掛けてきたこの店員は、カウンターで一升瓶を抱きながら、絵にかいたような赤ら顔でカウンターに体を預けていたのだが、自分が店の扉を開いたその瞬間から、穴が開くのではないかというほどこちらを見ていた、見続けていた、ガン見していたからだ。
気づいていないフリを続けていたが、声を掛けられてしまえば致し方なし。
見られていた理由も気になっていたことだし、と自分を慰め返事をした。
「はい、なんでしょうか」
「アタシ!中原ミズキといいます!27歳です!彼氏募集中です!」
「はあ」
先ほどの赤ら顔をさらに興奮で赤く染め、右手をまっすぐ天に伸ばし宣言した。
端的に言って意味が分からない。なんとなくで入店した喫茶店でなぜ唐突に個人情報を伝えられたのか。
そんな混乱は知らんとばかりに彼女は続ける。
「お兄さんはおいくつですか!」
「えと、19です」
その瞬間、『大興奮』と顔に張り付けていた彼女は、見る見るうちにその勢いをなくし、穴の開いた風船のように萎んでいった。
「年下…8つも…」
「て、店員さん?あの?」
目の前で天国から地獄に突き落とされたような人を見てしまって大変居心地が悪い。というかもしかしてこれ自分のせいか?
どのように慰めれば、しかしそもそも彼女が落ち込んでいる理由に見当がつかない。
一先ず場を持ち直すための言葉を頭の中で探していると、幼げな少女のような茶目っ気のある声が降ってきた。
「ミズキ~今どんな気持ちだ~?すげぇイケメン見つけて捕まえようとしたら、年上どころか千束たちと同年代だった時の今の気持ちはぁ~?」
声の主を確かめようと顔を上げると、二階のテラス席のような場所から、ウェーブのかかった絹のような金髪をリボンで結んだ、これまた容姿の整った少女がニヤニヤとした表情を隠そうともせずこちらを見下ろしていた。
「クゥ~ルゥ~ミィ~」
地を這うような低い声が轟き、ミズキと名乗った店員へと顔を戻すと、怒髪天を体現したかの如く長い髪を顔の前に垂らし、幽鬼のようなゆっくりとした足取りで二階へと続く階段を昇って行く。
これにはクルミと呼ばれた少女も冷や汗と引き攣った表情を浮かべながら、すたこらと二階の奥へと引っ込んでいった。
なるほど…二階の奥のほうに人の気配があったのは彼女か…
「すみません…お騒がせしてしまって」
今日何度目だ…と若干疲れながらも表情には出さずかけられた声に振り向くと、香り立つコーヒーと見た目にも楽しい試験管に入った団子を手に男性の店員がこちらに苦笑していた。
「いえ…賑やかなのは嫌いではないので」
「そう言っていただけるとありがたいです」
「あの、敬語は大丈夫ですよ。明らかに俺のほうが年下ですし」
「いえ、お客様ですからそういう訳にも…」
「お気になさらず。こちらのお店は今後通い続けることは俺の中で確定しましたので。早いうちに打ち解けたいというか、常連ぶりたいだけですから」
この店は大変興味深い、言葉を選ばず言ってしまえば面白い。
一般人とは隔絶した肉体を持つ店主、軍人も裸足で逃げ出す足運びで接客する従業員、昼間からどころか業務中に飲んだくれる酔っ払いに見た目そぐわぬ口調で話す幼女。
──────────極めつけは、店全体に流れる空気の流れ。
明らかに地下に空間がある。それも食材や備品の貯蔵に使われそうにない縦長の構造。
現状はなにに使われている空間なのか考える材料がなさすぎる。そもそも店員側もこの地下に広がる空間を知らない可能性すら現時点では否定できない。
知ったからとてどうするわけでもない。好奇心とはそういうものだから。
★★★★
その青年を見てまず思ったのは、男性に対しても美しいという感想を抱くこともあるのだな、という妙な感慨だった。
今どきの若い子には珍しく、一度も染めたことのなさそうな艶やかな黒髪を目にかからない程度の長さで散髪しており、横に伸びた髪は邪魔にならないようにか左側だけ耳にかけている。
そのため、左耳に着けられた紅と蒼のピアスが映え、少年の妖しげにも思える魅力を引き出すのに一役買っている。
胴長になりがちな日本人には珍しく、手足が長くすらりとした体躯だがひ弱には見えず、体を動かすことを日常にしている者の肉体であることを喫茶店店主…ミカは瞬時にあたりを付けた。
少年は何やら扉を開けた姿勢で固まり、店内をぐるりと見まわした後、自分のほうを見てまた固まった。
何であれ、店の扉を開いたのならそれはみなお客様である。
ミカは少年の観察をやめ喫茶店店主としての自分を取り戻した。
最近新しく仲間になった──裏の仕事では未だウチの看板娘の信条を納得していないのだが──少女、井ノ上たきなが少年の接客に入ったことを確認し、ミカは件の看板娘に電話を入れた。
なんとなくだが少年は、この店を気に入ってくれそうな、そんな予感がしたのだ。
『もしもしもしもし~こちら千束で~す!せんせ、どったの?』
「いや、とくに大した用はないんだが、買い出しは終わったか?」
『もち!今帰ってるとこ~!』
「そうか、いま店に新しく常連になってくれそうなお客さんが来ていてな」
『え!マジで!大した用じゃん!どんな人!?』
「それはまだわからん。というか店に来て席に座っただけだ」
『どゆこと!?』
「ああいま、たきなが注文を取り終えたようだ。切るぞ」
『なにそれなにそれ!気になるとかそういうレベルじゃないんだけど!』
「ミズキがナンパして年下だと知って撃沈した」
『タンマ!もういい!気になる情報が小出し過ぎて!今からダッシュで帰るからその人が帰りそうになったら引き留めておいて!!』
一息に言いたいことを言い終えると、こちらの返事も聞かずに電話を切られた。いや、先に切るといったのはこちらなのだが。
相変わらずやりたいこと最優先で、真っ直ぐな奴だ。
呆れたような、それでいて喜んでいるような溜息をこぼすと、たきなから受け取った少年のオーダーにとりかかった。
少年に商品を提供した後、彼はこの店に通うと約束してくれた。自分には敬語は不要だとも。
本人にそう望まれるのであればと、ミカは口調を崩した。
「ではあらためて、喫茶リコリコへようこそ。私が店主のミカだ」
店長でもミカでも、好きに呼んでくれと付け足した。
「では、ミカさんと」
ここで少年は、一拍置くように小さくコホンと咳を払った。
組んでいた長い足を組み替え、ここまで変えることのなかった表情を崩し微笑んだ。
「俺からも自己紹介を」
「
まさかの原作主人公登場できず…
次のお話では登場いたします。
髪の描写がやたら多いのは作者が元美容師だからか…
ちなみにこの主人公戦闘力バカ高設定でお送りいたします。