そして今後、アニメの話と話の間に、前回のような小話を挟む可能性がありますのでご了承ください。
本編と関係なくて、出番が減っちゃう子も書きたいんです…
感想をくださった皆々様ありがとうございます。
個別返信はできておりませんので、こちらで失礼します。
いろいろと辻褄が合わない部分多々あるでしょうが、筆者にはこれが限界です、誠に申し訳ございません。
辻褄云々で言うなら、主人公音速より速い時点で破綻しているので、そういうものだと思っていただければ幸いです。
『地下鉄脱線事故から、今日で一か月が経ちました』
「お、やってるな」
ピークタイムが過ぎ去った午後。喫茶リコリコに備え付けのモニターからアナウンサーが原稿を読み上げる声が響いた。
画面を見やるとそこには、脱線事故とやらの進捗報告の記者会見映像が流れており、画面いっぱいに疲れ切った鉄道会社の社長の姿があった。
「この社長も気の毒ですね」
「この社長は何も知らないんだろうな」
洗濯物を取り込んでいたたきなが階段を降りながら呟き、クルミちゃんがせんべいを齧りながら溢した。
「フフ」
「万里さん?突然笑いだして、どうしたんですか?」
「ん?ああ。別に大したことじゃないんだ。確かにこの社長は気の毒だが、他に胃が痛い思いをした者がいるんじゃないかな、とね」
「?」
たきながきょとんとした表情で首を傾げる様を見た俺は、再度こぼれそうになる笑い声を誤魔化すためにたきなのその形のいい頭を撫でた。
───同時刻。とある施設のとある一室。
「………」
「司令」
「なんだ」
「あの…なにか、ありましたか?」
「なにかとはなんだ」
「いえ、なんでも…」
「…無駄口を叩くな」
怖い!なんか司令の機嫌がめっちゃ悪い!や、いい時なんて数えるほどしか見たことないんですけどね!?
楠木の秘書のような仕事を任されている女性は、上司のご機嫌伺いに人知れず失敗していた。
───任務に赴いたリコリス達に帰投命令を伝えた直後、地下鉄爆破が爆破されたことを聞きつけた
────────────────────
「ではみんな!今回の依頼内容を説明しよう!!とっても楽しいお仕事ですよ~!」
一日の営業を終えた喫茶リコリコ店内にて、私は全員に向けて語り掛けた。
「ミズキさんが説明しないのですか?私はもう読みましたけど」
「今回やたら張り切ってんのよ」
外野のヤジが聞こえる。
「ちょいちょいちょい!そこ!私語厳禁!そんでそこのバグキャラとリス…ゲームしてない?」
「聞いてるよ」
「右に…いや背中に同じ」
ならいいけど。いや体制はよくないけど、あれはもう言うだけ無駄だ。
改めて発言するために小さく咳払い。あらやだ、神楽くんの癖が移っちゃった。
「依頼人は72歳男性で日本人。過去に妻子を何者かに殺害され、自分も命を狙われたためにアメリカに避難。現在は、筋…き、き、筋…」
「筋萎縮性側索硬化症」
「ALSか」
「神楽くん知ってるの?」
「あまり詳しくはないけどね。簡単に言うと神経系の病気で、脳からの『こう動け』という命令が徐々に伝わらなくなっていき、そのため筋肉も痩せていき自発的に動いたり呼吸したりが困難になる。現在に至るまで根本的治療法のない難病だ」
見たり聞いたり、内臓なんかは病気の影響を受けないことが多いらしいけどね、と神楽くんは締めくくった。
「それなら、自分で動けないのでは?」
「そう!去年余命宣告を受けたことで、最期に故郷の日本それも東京を見て周りたいって!」
「観光、ですか」
「泣ける話でしょ~。それで、まだ命を狙われている可能性があるためBody Guardします!」
「狙われている理由はなんだい?」
「それがさっぱりなのよね~。大企業の重役で、敵が多いのよ。その代わり報酬はタンマリだから」
ヤラしい話をするなミズキめ。
それはそれとして。
「日本に来てすぐに狙われるとは思えないけどね。行く場所はこっちに任せるらしいから、私がバッチリ!プラン考えるから!」
「旅のしおりでも作ろうか?」
おお、クルミ!ナイスアイデア!
「待った。余命宣告を受けるほど病気が進行してるのなら、その人は自分で紙をめくることができないよ。旅のしおりは電子データで作ろう。
歩くこともできないから車いすで来るはずだ。車いすの手すり部分なんかにアームか何かでタブレットを設置させてもらって錦木さん達がスワイプすれば、依頼人の負担も減るしキミたちの楽しんでもらいたいという気持ちも伝わるはずだ」
やっぱりすごいな。頭がいいだけじゃなくて、私たちや依頼人ことまで考えてくれてる。カッコイイなぁ。
って違う違う。や、違わないけど、今はやることがあるの!
方針が決まった私たちは、当日を思い出に残る日にするため、さっそく準備に取り掛かった。
────────────────────
任務当日。喫茶リコリコとしての営業を臨時休業として、その時を待っていた。
すでにソワソワと落ち着きのない錦木さんが今か今かと待ち望んでいると、入り口が開く音が来客を告げた。
「お待ちしておりました~!」
錦木さんが出迎えるために向かい、その背中に俺達全員が続く。
来客の姿を認めた錦木さんは、小さくあ、と呟いた。
見るからに質のいいスーツに身を包み、痩せた体を予想通り車いすに預けた男性。
黒いゴーグルで目を覆い、呼吸の保護のために鼻にはチューブが取り付けられている。
車いすの右手にはモニターが取り付けられており、そこにおそらくは彼自身のバイタルデータが表示されていた。何か異変があると一目でわかるようにだろう。
「遠いところ、ようこそ」
「…どうか今日は楽しんで行ってください」
事前にある程度予想していたもののやはり少なくない衝撃があったのか、言葉を出せない錦木さんを置いてミカさんと俺が口を開く。
依頼人──松下さんは、自ら口を開くことなく、電子音でそれでも流暢に答えた。
『少し早かったですかね。楽しみだったもので』
「あ…いえ、準備万端ですよ!旅のしおりも電子データで作成したのでばっちりです!そこで松下さん、いまお使いになっている車いすの空いている部分にタブレットを取り付けたいんですけど…」
『おお…素晴らしい心配りをありがとう。けれどタブレットは不要です。このゴーグルはインターネットに接続もできますし、ディスプレイの役割も果たしてくれますので』
「そうなんですね!それじゃあさっそく転送しますので少々お待ちください!クルミ、お願い」
「了解」
錦木さんからの一声でクルミちゃんが手元のPCを操作する。
その間に松下さんがお付きの人に声を掛けていた。
『あとはこの方たちにお願いするので下がっていいですよ』
お付きの人たちは、乗ってきた車に乗り込みその場を離れていった。
──一部始終を見ていた俺は、嫌な思考を振り払えずにいた。
『今や機械に生かされているのです。おかしく思うでしょう?』
いつもと変わらぬ様子で、錦木さんは言った。
「そんなことないですよ。私も同じですから、『ここ』に」
『ペースメーカーですか』
「いいえ。
『人工心臓ですか』
「…ぇ」
「…ふむ」
初耳だ。反応を見るに知らなかったのは俺とたきな。言葉に出さずとも小さくクルミちゃんも反応していたから同じだな。
知らなかった俺たちを尻目に、知っていたのだろうミズキさんがこれまたいいつもと変わらぬ様子で軽口を叩く。
「あんたのは毛でも生えてんだろ」
「機械に毛は生えねぇっての!」
「あの、どういうこと…」
戸惑いのまま問いかけるたきなの声を遮って、クルミちゃんがしおりの転送終了を告げた。
『おお…これは素晴らしい』
「では、東京観光出発!」
明るい声で松下さんの車いすを引いていく錦木さん。
たきなはまだ戻りきっていない様子だ。
「あの…千束の今の話って…」
ミズキさんになにかを問いかけようとするも、すでに店外にいる千束に急かされて後を追いかけていく。
「神楽くんも!」
「すまない錦木さん、言い忘れていた。今日は少しやることがあってね、一緒に行けないんだ」
「え~!!」
「本当にすまない、また今度そのしおりで俺も観光に連れて行ってくれ」
「も~!絶対だよ!」
「ああ」
そう言って錦木さん達は俺たち居残り組にブンブンと手を振りながら観光へと繰り出していった
───さてと。
────────────────────
「万里くんは千束たちと一緒に行くと思っていたよ」
店の出入り口がしまり、騒がしいのが居なくなった店内で、私は万里くんに声を掛けた。
「ああ、ミカさん。ええ、俺もさっきまでそのつもりでしたよ」
「ならばなぜ…それに君はさっきやることがあると…」
「どちらも嘘ではありませんよ。行くつもりでしたが、先ほどやることができたんです」
「どういう意味だ?」
私たち二人の問答にミズキたちも注目している。
やはりこの少年には、人を惹きつける何かがある。
万里くん、普段浮かべている微笑みを消し、痛みを堪えるような表情で答えた。
「ミカさん、ミズキさん、クルミちゃん。皆さんは違和感を覚えませんでしたか?」
『?』
「俺は違和感が拭えない。依頼人…松下さんの様子にです」
「どういう…」
「なぜ彼は、自分をここまで連れてきたお付きの人を帰らせたんでしょうか」
それは松下さん自身が言っていたではないか。『あとは千束たちに任せる』と。
だがそういうことではないのだろう。私が覚えていることを彼が忘れるとは考えにくい。
やはりというべきか、万里くんは詰まることなく続きを話した。
「もちろん彼自身が、錦木さんに任せると言った。それを聞いたお付きの人たちは帰っていった。わかっています。だが、おかしい」
「すまない万里くん。もう少し具体的に教えてくれ」
万里くんはすみませんと一言つぶやき、自身の考えを滔々と語りだした。
「松下さんはALSだ。それも末期の。であるならば自発的に呼吸が困難になっているはず。そしてその予想通り彼はチューブを通し、そのチューブは車いすの中に続いていた。おそらくそこに酸素ボンベがあるんでしょうね。
当然残量は確認しているでしょうが…万が一酸素が足りなくなった場合、お付きの人が居なくて、どうするつもりなんでしょう」
『!!』
「それに、あの電子音声。のどの筋肉が衰えて声が出せない以上あれも想像通り。ですが、装置が見当たらなかった。のどの筋肉の微細な振動をキャッチして電子音にしているなら咽頭に、脳波その物をキャッチしているならば頭に、専用の装置や器具の取り付けが必須です。が、それらはなかった」
『…』
「違和感はまだある。
彼の車いすに取り付けられていたあのモニター。松下さん自身のバイタルデータを表示しているのでしょうが…あれ、ご自身で見て何の意味があるんでしょうか。くどい様ですが彼は一人ではまともに動けない。バイタルが異常な数値を示しても対処は不可能。
バイタルデータを逐一確認し、万一の時に備えるならば、なおさらお付きの人を帰らせる意味が分からない。百歩譲っても、この店に待機させておくはずだ。我々はお付きの人の連絡先を知らないんですよ」
ここまで言われれば嫌でもわかる。
彼は…松下さんは、何者だ。
「極めつけは、あのゴーグル。昨日も言いましたがALSは全身の運動機能に障害が起こりますが、見たり聞いたりなんていう機能に障害は発生しません。あのゴーグル、なんで掛けているのでしょう。目の前の景色を見るためにちゃんとカメラは付いてましたけど」
そう言って神楽くんは我々を見渡した。
なんて子だ…彼に対して何度抱いたかわからない感想を今日もまた抱く。
「まあ、言いたい放題言いましたが何もなければそれが一番です。一人の老人の大切な一日を、錦木さん達の相手を思いやる気持ちで美しく彩る。お付きの人たちは帰ったと見せかけて松下さん達を遠くから見守っている。素晴らしいことです」
万里くんは続ける。
「装置云々も、俺が知らないだけであのゴーグルには脳波を読み取る機能もついているスグレモノで、大仰な装置などこの日進月歩な医療の世界ではもう必要ない。そうであれば素晴らしい、俺がただただ無知で、知らないことだらけのガキだったで済む。実に面白い、俺にはまだまだたくさんの知識を吸収する余地がある」
けれど、と万里くんは続ける。
彼のこの表情は初めて見る。考えてみれば彼も人間だ。
──彼は、とても静かに怒っていた。
「もしも、『ALSを患い余命宣告を受けた松下さん』なんてどこにもいなくて、『あのゴーグルについたカメラに映る映像を松下さんではない第三者が覗き見て』いて、『松下さんのフリをして電子音声で語り掛け』、
錦木さん達の『この観光を素晴らしいものにして、依頼人に喜んでもらいたい』という尊ぶべき思いやりを踏みにじっている『誰か』がいるのならば」
──────────それは全く。ああ、まったく、面白くない。
なぜだかは、わからないけれど。
脳裏に、かつて愛した男の薄ら笑いがよぎった。
───万里くんとシンジは、顔を合わせない方がいいかもしれない。
おそらくだが、頗る相性が悪いだろうから。
ご覧いただきありがとうございます。
この話の中で主人公が披露する疑問は、祖母のお世話をするために病院に行く機会が多い筆者がアニメ初見時に実際に抱いたものです。
自発呼吸ができない患者を、院内ですら医療関係者の付き添いなしで散歩の許可が下りることないでしょ。あまつさえ帰るなよ、と。