好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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アニメ五話と六話の幕間の小話です。

Q:フキさんのキャラ崩壊激しくない?
A:フキさんだけではござらん。

それではどうぞ。


結婚してくれ/道

『結婚してくれ』

 

 

 

 

 

 

 

「万里コラァァ!!一発殴らせろやテメェ!」

 

 平日。

 

 喫茶リコリコが学生で賑わいだす少し前に、全身全霊でブチギレているフキさんと、苦笑いを浮かべながらサクラさんが来店した。

 事情は分からないが、万里さんに怒っているらしい。

 

 そんなフキさんは、珍しく千束に絡むことなくカウンター内で食器を拭いている万里さんのもとへ向かって怒鳴り散らす。

 

 ちなみに、周りが見えていないフキさんとフォローに入るサクラさんは、コソコソと自室に引っ込むクルミに気付かなかった。

 

「やあフキ。顔を合わせるのは久しぶりだね。どうしたんだい血相を変えて」

「どうしたもこうしたもあるか!この前の電話のこと忘れたのかァ!電話切った後の司令との空気重すぎて二回ほど死んだかと思ったわァ!!」

「それはすまないね。わざわざ来たということは、電話で言っていたお礼ではなく、俺を殴ることで手打ちにするということかな」

「あ…いや、そういうわけじゃ…」

「あー万里先輩。すんませんウチの思春期先輩が。フキ先輩は怒ってきたんじゃなくて、会える口実ができたからわざわざ任務の合間縫って来たんスよ。ほんの少し前まで無言でニヤニヤしてた癖に、リコリコが見えた途端深呼吸して怒鳴る準備なんかして…」

「サクラァ」

「万里先輩。あたし死んだっス」

「そんなにさわやかに言うことじゃないよ、サクラさん」

 

 なんだこの仲良し集団は。フキさんと万里さんが電話?

 私もほとんどしたことないですけど?

 毎日の様にスマホに登録されている万里さんの番号を見ているせいで番号は丸暗記しているけれども。

 というかお礼って何ですか万里さん。

 

「それはそれとしてフキが珍しくリコリコに来てくれたんだ。ゆっくりしていくといい。お礼とは別にしてサービスするよ。もちろんサクラさんの分もね」

「いいんスか万里先輩!ゴチになります!」

「……いいのか」

「もちろん。それにちょうどよかった。少し待っててくれ」

 

 そう言って万里さんはカウンターの奥に引っ込むと、手に何かを持って出てきた。

 

「料理は好きでずっと続けていたんだけど、この店で働くようになってからスイーツも作れるようになればいいなと思ってね、最近練習しているんだ。誰かに試食してもらおうと思って持って来たんだけど、二人にお願いしようかな」

 

『!』

 

─────リコリコ店内に激震走る

 

 私は勿論、フキさんをからかうように見ていた千束も、気だるげに腰かけていたミズキさんも、二人から隠れるように引っ込んだクルミでさえものすごく真剣な表情で万里さんが手に持っている箱を凝視していた。

 

 万里さんの手作り。この二人が来なければ私たちが頂けたはずのモノ。この二人が居なければ私たちのモノ。つまりもはや私のモノ(?)

 

「そんなに回数こなしてないし、自分でしか食べていないからよくわからなくなってきてね。お願いできるかな」

「はいはい!アタシ貰うっス!」

「……貰ってやるよ」

「ありがとう。少し待っていてくれ」

 

 そう言って万里さんは箱を開き中から、それはそれは美しい焼き目の付いた菓子──フィナンシェを取り出した。

 

「ミカさんすみません。料金は俺が出しますので、二人にコーヒーを出してあげてください」

「ああ、了解だ」

 

 唯一万里さんの手作りに興味を示さなかった店長が、コーヒーを淹れて二人の前に出した。

 

「さて、それでは召し上がれ」

「いただきまーっス」

「……いただきます」

 

 方や元気に、方や少し恥ずかしそうにそれぞれ食事に対する挨拶を済ませ口に運ぶ、と思いきやフキさんがなんと万里さんの手作りフィナンシェをスマホで写真に収めていた。

 この人そんなことするんだ…

 

 写真を撮り終えたフキさんと、律儀に待っていたサクラさんが改めて口に運ぶ。

 

『あ…』

「…」

「…」

『ああ…!』

 

「食いづらいわァ!」

「食べづらいっス!」

 

 万里さんの手作りが食べられると思うと、無意識に声に出していた私たちに、二人から苦言が届いた。

 

「だって仕方ないじゃん!万里くんの手作りなんて絶対おいしいじゃん!」

 

 そうなのだ。万里さんは分からないなんて言っていたけど、そもそも彼が何度も繰り返した作業を失敗したとは到底思えない。つまり美味しいのだ。

 

「ったく。黙って見てろ。『私が、万里の初めての手作りを食うところを、そこで指をくわえて』な」

 

 ブッ飛ばすか。この三白眼。

 

 …はっ。今一瞬物騒な電波を受信した気がする。気のせいか。

 

 そうこうしている間に二人はフィナンシェを口に運び、もぐもぐと咀嚼していた。

 

「もぐもぐ」

「もぐもぐ」

「どうだい二人とも。口に合ったかい」

「もぐもぐ」

「もぐもぐ」

「…二人とも?」

「もぐもぐ」

「もぐもぐ」

「あの…口に合わなかったかな?」

「もぐもぐ」

「もぐもぐ」

「ねえ怖いんだけども。二人して瞬きもせずひょいひょいと食べ続けるのやめてくれないかな」

 

 一口目を口にしたと思ったら無言で咀嚼し、そのまますべてを食べ終えた後にコーヒーを啜り、また箱へと手を伸ばしてフィナンシェをもぐもぐして、コーヒーをズズズ。

 なんだろうこの人たち。何かに取り憑かれたのかな。もしかしてフィナンシェを羨み過ぎた私たち誰かの生霊?

 

 そんなバカなことを考えていると、やがてフィナンシェがなくなり、箱を漁る手が空を切ったところで、二人がピタリと動きを止めた。

 

『……かった…』

「二人とも、何か言ったかい?」

『…ぶなかった…』

「ちょっとフキ!サクラも!何ブツブツ言ってんの?」

『危なかった!!!』

「うおぉ!びっくりしたぁ!」

 

 二人の様子を心配して歩み寄りながら声を掛けた千束が、突然大声を上げた二人に驚かされていた。可哀想に…

 

「びっくりしたなーもー!危ないって何が!」

「危なかった…このままフィナンシェが無くならなければ、私は万里のフィナンシェと先生のコーヒーを口に運び続けるマシーンになるところだった」

「右に同じっス……というかそのマシーンになりたいっス」

 

 フキさんてもしかしてアホなんじゃないだろうか。とにかくとんでもなく絶品だったらしい。

 

「万里先輩。滅茶苦茶旨かったっス。人生で間違いなく一番っス」

「ありがとう。嬉しいよ。ミカさんのコーヒーに合うようにあえて甘みを強くしてみたんだ」

「はい。そのおかげで甘さと苦みのバランスが良すぎて、二人の人間が二台のマシーンになるところだったんス」

「なんだいそれは」

 

 苦笑する万里さん。確かに、なんだそれは。

 

「万里」

「ああフキ、どうだった…」

 

「結婚してくれ」

『!』

 

 

「ん、んん?」

「いや、すまん。言い間違えた」

「あ、ああ。だろうね」

 

「毎朝私に、美味しいフィナンシェを作ってくれ」

 

『!!??』

 

「え、ええと、フキ?」

「ああ、悪い。また言い間違えた」

「めちゃくちゃはっきり聞こえたんだけどね…。それなら本当はなんて…」

 

「フィナンシェを前提に結婚してくれ」

 

 

 

「ああもう駄目だねフキ。今日は帰りなさい」

 

 

 フキさんとサクラさんが万里さんによって強制的に店外へ促された。

 フィナンシェを前提って何だろう。

 

 …それにしても、いくら我を忘れていてもフキさんがプロポーズなんて…

 

──────ん?あれ?もしかして、そういうこと?

 

 

────────────────────

『道』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「万里くん!」

「ん?ああ、千束。おはよう、いい朝だね」

 

 朝。

 

 本日も快晴!やっぱ晴れはいいね!なんてアゲアゲ気分のまま、今日も労働の為にリコリコへ向かうその道中。

 いつもと同じ道で、万里くんに遭遇した。朝から会えるなんてラッキー!

 

「おはよー!今日も頑張ろーね!」

「ああ。今日は以前約束したフィナンシェを焼いてきたから、休憩時間にでも食べるといいよ」

「ホント!?やったー!!」

 

 やったー!

 フキたちが思考停止するほどのフィナンシェ。

 どうしても食べたくて、ダメもとでみんなで万里くん本人にお願いしてみたら、あっさりとOKを貰えた。

 よく考えたら万里くんは断らなさそう。

 

 まだ見ぬ極上のスイーツに心惹かれながら、隣に並んだ万里くんと話しながらリコリコに向かう。

 

「ねぇ万里くん」

「どうしたんだい、千束」

「なんでもなーい!」

「なんだいそれは」

「むふふ~」

 

 『千束』だって~!

 

 いろんな人が私のことをそう呼ぶのに、万里くんからは特別に聞こえるのは、そういうことだよね。

 そんなことを考えてニヤニヤしていると、ふとした疑問が湧いて尋ねてみた。

 

「そういえば、同じ時間にシフトって今まで何度もあったのに道で会うの初めてだよね?」

「ああ。普段俺はこの道を使わないからね」

「ふ~ん。じゃあ今日は何で?なんとなく」

「いや。図書館で調べたいことがあってね。立ち寄っていたんだ」

「あ、そゆこと」

 

 万里くんが歩いてきた方角には、この街で一番大きな図書館が朝早くから営業している。

 

「でも、万里くんってすでに頭いいのに、調べものとかするんだ」

「ああ。初めてことだし、間違えるわけにはいかないことだからね。それに、もともと勉強は好きなんだ」

 

 うへー。勉強が好きってすごー。でもそっか、好きだから、()()()()()()だから万里くんはいろんなことを知っているんだ。

 

 一瞬嫌そうな顔をしたのがバレていたのか、万里くんは苦笑しながら言った。

 

「千束は勉強嫌いみたいだね」

「んー。新しいことを覚えるのは好きなんだけど、授業が好きじゃなくって…」

「ああ。それは分かる気がするよ」

「ホント?」

「ああ。俺も昔は、自分より頭の悪い人間に何を教わるんだって思ってたから」

「それは…」

 

 なんか私の授業が嫌いとニュアンスが違うような…。まあいいか。

 そんな取り留めもないことをつらつらと話しながら万里くんと並んで歩く。

 

 

 楽しい時間は一瞬とはよく言ったもので、いつもより早くリコリコが見えてきた気がした。

 

 ま、しょうがない!今日も社会貢献と行きますか!

 

 そう意気込んだ頭の中に、最後に一つ疑問が浮かんだ。特に深く考えずに口に出した。

 

「今日は図書館行くためにこの道だったけど、普段はどの道通ってんの?」

「ああ…普段は正反対の道だよ。そっちの方が近道なんだ」

「へぇ~」

 

 そっち方面はあんまり行ったことないなとぼんやり考えていると、万里くんは私の顔を覗き込むように屈んで囁いた。

 

「でも、明日からは今日来た道を使うことにするよ」

「…へ?」

「そうすれば、またシフトが被ったとき千束に会えるだろう?俺は千束と話しながら歩くこの道が楽しかった。またそんな日が来ないかと祈りながらこの道を歩くことにするよ」

 

 万里くんはそう言って、茶目っ気たっぷりにウインクした。

 

 …ふぅ。供給過多。

 

「万里くん」

「ん?どうしたんだい千束」

 

「早退するね」

 

「出勤してないのに!?」




ミカさんがフィナンシェに興味を示さなかったのは、不要だからではなく、ここで欲しいなどと言おうものなら死ぬ、と戦場で培った勘が全力で警鐘を鳴らした結果です。

次の小話ではどのヒロインに焦点を当てようかなぁ。
皆様誰か希望とかあったりしますかね。
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