好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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原作主人公が登場の第二話です。
ほんといい子。


初めまして

 うん、めちゃくちゃ美味い。

コーヒーなど特に詳しくない自分でもこれは違いがわかる。

これは、今後缶コーヒーなんて飲めなくなりそうだな、なんて通ぶったことを思った。

 

 このコーヒー、実は2杯目だ。

注文した団子とコーヒーを堪能した俺は、お暇しようと席を立ったがミカさんから

「神楽くんに従業員を紹介したい」

「1人買い出しで不在だが、すぐに帰ってくるので時間に余裕があれば少し待ってやってほしい」

「その間コーヒーのサービスをする」

との打診を受け、まんまとコーヒーにハマり予定のない俺は快諾した次第である。

 

「千束が来ました〜!!」

 

 扉が吹き飛んだかと思える勢いで開いたかと思うと、店内に響き渡るよく通る声が入り口から聞こえた。

 

 声に釣られて入り口を見ると、中原さんや黒髪の少女が着用していた着物を、見るものの目を惹く赤色で染め上げた少女が、買い物袋を片手に常連客であろう人たち一人ひとりに声をかけながらカウンターへと歩いていった。

 

 というかこの店、従業員1人ひとりのイメージに合わせてわざわざ制服の色変えてるのか、すごいな。

 

 そんな益もないことをぼんやりと考えながら、コーヒーを引き続き楽しみながら読書でもしようか、と鞄を開こうと持ち上げた。

 

「で!で!せんせ!どの人!?」

 カウンターの奥から先程の少女の声が届いた。しかしよく通るな。

対して、『先生』と呼ばれた人物は声を潜めているのか、返事は聞こえなかった。

 

『先生』なる人物から答えを得られたのか、爛々と輝く瞳と満面の笑みを携えてカウンターから顔を出した少女が真っ直ぐコチラを見ている。

 

-----あれは間違いなく、俺を見てるな、後ろ扉だし。

というか、ニッコニコしながら向かってきた。

 

「あの!私、錦木 千束でっす!錦を飾るに樹木の木!千を束ねるで錦木 千束!お兄さんのお名前を教えてください!」

 裏表などなさそうな元気いっぱいの自己紹介に思わず笑みが溢れた。

「ご丁寧にどうも。俺は神楽 万里」

 今後ともよろしく、と錦木さんを見る。

 

「……っぁ」

「錦木さん?」 

 

 先ほどまでの勢いは何処へか、錦木さんはカチンと固まってしまった。異変はそれだけではなく、見る見るうちに顔が赤くなっていく。

大丈夫なのか、これは。

一先ず立ち上がって顔の前で手を振ってみた。

 

「錦木さん?大丈夫?」

「ひゃい!?」

「うぉ!びっくりした…」

 

 真っ赤になった錦木さんは大きくひっくり返った自分の声にまた硬直し、どうしたものかと思案していると、先ほど聞いた声が届いた。

 

「わかる!わかるわぁ〜」

 中原さんが手を組み深く頷きながらこちらへ歩いてきた。

後ろには、クルミと呼ばれていた少女が袖から出切っていない両の手を頭頂部に置き、涙目になりながら続いていた。

…中原さんに追いつかれてゲンコツもらったな、あれは。

 

「こんなキレイな顔で目の前で微笑まれたら、流石の千束もバグっちゃうわよ!」

 ビシィ!と音が出そうなほど真っ直ぐこちらに向かって指を差す中原さん。なにやらちょっとキレ気味に褒められた。

 

「えっと、ありがとうございます?」

「かーっ!自覚ないタイプだこれ!どうしようもないわ!」

 

 かと思えば、手を額に当てこれ見よがしに溜息をつく中原さん。今度は呆れられたらしい。とんでもないスピードで距離を詰めてくる。

 

「とりあえず、バグってる千束は一旦放置して改めて自己紹介ね」

 アタシあなたの名前聞きそびれたし、と続けて

「中原 ミズキよ、名字で呼ばれることあんまりないからあなたもミズキで。よろしく」

 

 改めて見ると、とても美人だ。オトナの女性といった風体で紅い眼鏡がとてもよく似合っている。

さて、自分の番かと声を発しようとするも、それを察した中原さん…ミズキさんに止められた。

 

「ああ、一旦待って。ウチの従業員はまだ居るのよ。どうせならあなたの自己紹介はみんなでまとめて聞かせて頂戴」

 なるほど、一回で全員が聞けば何度も名乗る必要がなくなる。道理だ。お酒が抜けたのか、良識ある大人に見えてきた。

 

「次はボクだな」

 痛みが引いたのか、澄ました表情をした幼女が続いた。

 

「ボクの名前はクルミ。訳あってこの店に厄介になっている」

 ボクのこともクルミでいい、と幼女は続けた。

 

 …訳あって、ね。

 

「んじゃ、次が最後ね」

 呼んでくるわ、とミズキさんの姿がカウンター内に消えたかと思うと、すぐに黒髪の少女を伴って帰ってきた。

 

「ほら、たきな。新しい常連さんに自己紹介」

 ミズキさんが促す。

たきなと呼ばれた少女は表情を変えず、しかしながらなんで私までと顔に書くという器用なことをする。

とはいえ、逆らう気もないのか、ほんの少しため息をつくと

 

「井ノ上 たきなと申します」

 そう言った井ノ上さんは、そのままの状態で発言を終えた。

なるほど、よろしくする気は今のところ無さそうだな。

言われたから、した。それだけのことなのだろう。

 

さて、そろそろ俺が名乗る番だ…とはいえ。

「あの、錦木さん?」

「は、はいぃ〜」

「今から自己紹介するんだけど、大丈夫?体調悪い?」

「い、いえ!大丈夫です!はい!」

「あ、そう…」

 

 本人が大丈夫というならそうなのだろう。建前上声をかけたが、確かに体調が悪いようには見えない。

 

 ふむ…錦木さん、ミズキさん、クルミちゃん、井ノ上さん。

順番に目を合わせる。よし、みんな聞いてくれそうだ。

 

 

 

★★★★★

 

 彼の第一印象は、綺麗な人。

 

 買い出しを終えた私に、先生からスッゴイ気になる電話が来た。

なんでも、我がリコリコに常連さんが増えそうとのこと。

それだけならまだしも、席に座っただけで先生にそこまで言わしめて、みずきがナンパして失敗して!?って情報多いのに少ない!

 

 

こうなったら全力ダッシュで帰ってやるわ!

現役ファーストリコリス舐めんな!

なんて心の中で猛りながら、ワクワクした気持ちを抑えられずに高鳴るはずのない心臓の鼓動を聞いた気がした。

 

 そして到着リコリコ!自己ベスト更新じゃない?なんて考えながら、いつも通りに元気よく扉を開けた。

 

 常連さんに声をかけながら買い出しの荷物を片付けるためにカウンター内に入ると、聞き慣れた声が耳に届いた。

 

「おかえり、千束」

「ただいま、せんせ!」

 さてさておまちかねの〜

「で!で!せんせ!どの人!?」

「落ち着け千束。荷物が先だ」

「あ〜ん、先生のいけずぅ〜」

 なんて先生にちょっかいをかけながら片付け終え、自覚できるほどの笑みを携えて先生に向き直る。

 

「入り口の一番近くのカウンター席」

 私があまりに表情に出ていたのか、先生は苦笑と共に教えてくれた。

「そこに座っているの彼がそうだ。人目を惹く綺麗な子だよ」

 

 先生が言い終えた瞬間私の体は最速で反転し、その『彼』が座る席へ向かっていた。

 

 近づくと『彼』は鞄を手に持った状態できょとんとこちらを見ていた。

うぉーマジでイケメン。ちょーキレー。

 

 たきなや先生、クルミや一応ミズキ。なによりも私!!

容姿が整った人を見る機会は人よりも多いが、なによりもその瞳が印象的だった。

ラベンダーのような澄んだ紫色の瞳が、切れ長の目特有の威圧感を和らげている。

 …っといつまでも見惚れている場合ではない。自己紹介しなくては。

 

「あの!私、錦木 千束でっす!錦を飾るに樹木の木!千を束ねるで錦木 千束!お兄さんのお名前を教えてください!」

 なにかが面白かったのか、フッと少年が笑みを浮かべた…そこからの十数分間、私の記憶はない。

 

 気がつけば少年に体調を心配され、私の周りにみんなが集まっていた。

 

 ミズキは同意するようにうんうん頷いているし、クルミはニヤニヤ。たきなに至っては半眼でじとーっとこちらを見ている。

…ああ、たきなの顔に書いてある。なにしてんですか千束さんって書いてあるよぅ。

 

 さりげなくみんなに現状を尋ね、少年の自己紹介直前であることを知った。尚も自分を心配してくれる少年に、なにやら形容し難い顔のニヤケをどうにか我慢して続きを促した。

 

「さて、改めまして」

 少年はここで言葉を切り、今いるメンツ1人ひとりと目を合わせた。

少年の瞳をすでに大層好ましく思っている私は鋼の意志で取り乱さずに済んだ。ファーストリコリス舐めんな。

 

「俺の名前は神楽 万里」

「以後よろしく」

 イケメンは名前までもイケメンかちくしょうめ!となんか一周回って腹を立てた千束だったが

「あ」

 という神楽の言葉に思考を中断した。

 

「どうしたの神楽くん」

 ミズキが代表して問うた。

 

「いや、ほんとくだらないんですけど」

 と、千束と目を合わせて

「錦木さんの名前って、千を束ねるでちさとだろ?

 俺の名前は万の里でばんり。千と万、束と里。なんかお揃いってか嬉しくなっちゃって」

 

 先ほどまでのクールな表情と、老若男女問わず目を惹くような微笑みを受け、神楽くんはお色気担当ねなんて頭の片隅で思っていたところに、間違い探しの答えを嬉しげに母親に披露しにいく小学生のような無垢な笑顔。

 

 顔目掛けて何発もパンチを受け、ガードを上げたところに予想外のボディを受けたボクサーの気分だった。

端的に言って、クリティカルヒットだった。

 

 千束は、自分の顔が今までにないほど赤くなっていくのを自覚した。

 

…ちなみに、万里のこの発言は無差別かつ範囲攻撃であり、ミズキはおろかたきなやクルミでさえ、高鳴る鼓動に戸惑っていた。

 

 




二話の間で自己紹介しかしてまへんがなこの主人公。

そして千束さんこんな乙女か?とか書きながら思いました。
とはいえ、彼女らの環境を考えると異性に耐性などあろうはずもなかろうて。

ちなみにこの主人公、自分の容姿が人目を惹くことを知ってはいるが自覚してはいない、といっためんどくさいタイプです。
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