真島動かすの楽しみです。
「まさか我々が、『才能なし』と判断されるとは…。手厳しいな」
装着していたVRゴーグルを取り外しながら男は呟いた。
襟元で、どこかで見た鳥の意匠が鈍く光る。
「『あの男』を使う計画を進めてくれ」
「かしこまりました」
男とは別の声が返事を返すと、それきりその部屋からは音が聞こえてくることはなかった。
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傾いた旧電波塔を正面に、男が二人意味ありげな会話を繰り広げる。
「コンテナ4つ隠しておいた」
「また指示がある。うまくいけば半分渡す」
直後、片方がもう片方の男へ茶封筒を渡し、それぞれ別々の方向へ歩きだす。
それを見届けた私は、茶封筒を渡した男の尾行を開始した。
街が寝静まる深夜、人通りは皆無。
───絶好のチャンス
懐から銃を取り出し、横断歩道へと差し掛かった男の後頭部に発砲しようとして、全身をすさまじい衝撃が襲った。
「ぐぅっ!」
全身を地面に叩きつけられ痛みに呻いてそこで気付く。ノンストップで横断歩道に侵入してきた車に跳ね飛ばされたのだ。
私を轢いた車は、直後反転しながら停車。──事故ではない。明らかに人為的。
急いでその場を離れようとする私の周囲を、サングラスで顔を隠した男たちが囲んだ。
できることはないかと顔を巡らせると、車から
「まずは一人目だ、リコリス。殺しはしねぇ。『コレ』借りるぜ?」
「っあ!」
全身に焼けつくような衝撃が走る。見ると、サングラスの男にスタンガンを押し付けられていた。
意識を失う直前に見たのは、私のスマホをひらひらと掲げるフルフェイスの男だった。
「いいんですか真島さん。このガキ殺さなくて」
リコリスが意識を失ったことを確認したフルフェイスの男──真島は、必要のなくなったヘルメットを取りながら部下の質問に答えた。
「何度言やわかるんだ。こんなガキ一人や二人殺ったところで大したダメージにはならねぇし、そもそも殺しちまったらその時点でゲームオーバーだ。人の常識なんざ通用しねぇサイボーグみてぇなやつに全滅してな」
真島は、一人の男を思い浮かべながら言う。
「生きて意識を取り戻してもいいように、わざわざ顔隠してんだよ。じゃなきゃ誰がこんなだせぇメット被るかっての」
真島は自嘲するように笑う。
「ったく。裏ボスみてぇなバケモン相手に初見で縛りプレイってか。どんなクソゲーだっての」
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「司令!四人目が襲われました!二子玉川に始まって今月のお台場、立川に続いて品川です!」
報告を聞いた私は、漏れ出る舌打ちを抑えることができなかった。
いったい誰が、何のためにこんなことを。そもそもなぜリコリスを判別できる。
だが手をこまねいているわけにもいかん。
「全隊員!モードSで警戒態勢!」
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たきなからの電話に出た私は、リコリスが四人立て続けに複数の男たちによって襲撃を受けたことを知らされた。
『四人とも、単独任務中に大勢に襲われたらしいです。命に別状はないのですが、それぞれスマホを奪われています』
「なんで特定されてんだ~?」
『わかりません。例のラジアータのハッキングとの関連性があるのかも』
定期健診の時に、主治医の山岸先生から事情を聞いたらしい。
『それと、今月の健診昨日よ。とのことです。…行かなかったんですね…』
「だってぇ~」
『それはそうと、今日からさっそくペアで行動しようと思います』
「ペアって言ったって、毎日お店で一緒じゃん」
そこまで言った私の耳に、家のチャイムの音が響いた。微かに電話口からも。
玄関を開けて見たのは、スマホを耳に押し当て、大量の荷物を持ったたきなの姿だ。
「夜は交代で睡眠をとりましょう」
「…へ?」
「安全が確保されるまでは、24時間一緒にいましょう」
「
なにそれ超楽しそう!
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「おはようございます」
歩いているだけで汗ばむような今日この頃。
いつも通りリコリコに出勤した俺の目に、ブツブツと何事か言いながらスイカを切っているミズキさんと、小さな体躯を存分に活かし、物陰から一切れのスイカを狙うクルミちゃんの姿が飛び込んできた。
…さすがに多すぎないだろうか、スイカ。
「なにしてる。働け」
あ、クルミちゃん見つかった。
「ボクは電脳戦専門だから」
「ゲームして遊んでるだけじゃない!スイカ返せ!」
俺に気付かず二人は壮絶な戦いを繰り広げている。ああ、せっかくのスイカがぐちゃぐちゃだ。
「クルミ。手伝ってもらいたいことが…ああ、万里くんおはよう」
「おはようございます」
「だからミカ…ボクは電脳戦専門で…ああ万里おはよう」
「おはようクルミちゃん」
「もちろん。電脳戦だよ」
そういったミカさんに対し、とても真剣な面持ちになったクルミちゃん。
さすがは電脳戦における俺の師匠。とても力強い表情…ああ、とうとうスイカ食べちゃった。
「あ゛ぁ!…おはよう万里くん」
「…おはようございますミズキさん」
さすがにミズキさんが不憫だ…。
そうこうしている間にミカさんがクルミちゃんを伴って裏に入っていく。
おっと。
「クルミちゃん」
「?」
「ちょっとこっち向いて」
スイカの汁が口にも頬っぺたにも飛んでしまっている。俺は屈んでクルミちゃんに近付くとハンカチを取り出しそのまま拭いてあげた。こんなの大した手間じゃない。
「これで良し、綺麗になった。いつも通りとても可愛いクルミちゃんだ。引き留めて悪かったね。行っておいで」
「…」
「…?」
もういいのに。クルミちゃんはその大きな目を見開いて固まっている。どうしたのだろう。
「クルミちゃん?もう付いてないよ?」
「…ぁぃ」
小さくつぶやいたクルミちゃんはゆっくりとミカさんの後を追った。
──右手と右足一緒に出てるんだけど、普段そんな歩き方じゃなかったよね?
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「おはよう!労働者諸君!」
「おはようございます」
遅番の私とたきなが店に入ると、ミズキに声を掛けられた。
「聞いたよ~。大変なことになってるらしいわね」
「あ~。私たちDAじゃないから大丈夫だよ」
言いながら、着替えるためにたきなと共に裏に入ると、先生が誰かに電話しているのが見えた。
「次の被害を抑えることにもつながると思うが。…ああ、そうか。…わかった」
話の内容的に、相手はおそらく。
「楠木さん?」
「司令は情報をくれそうですか?」
「極秘だそうだ」
DAの秘密主義もめんどくさいなぁ本当に。
「勝手に覗いちゃうから、い~よぉ」
そんなことを考えていると、奥の和室でクルミがダラけながらなんてことないように言う。
…ていうか待ってクルミあんた。何その体制。
クルミは、和室で胡坐をかいている万里くんの両方の太ももに倒れ込むようにうつぶせに寝転がっていた。
何それ羨ましい。最近クルミは自分が小さいことをいいことに、人目を気にせず万里くんに甘えるようになった。
──でもそんなことしたら、たきな大魔神がっ…。
恐る恐るたきなのほうへ目線をやるも、予想とは裏腹にたきなはとても穏やかな顔をしていた。
よかった。たきなは自分で自分をコントロールできてる。
たきなの成長を嬉しく思い、たきなを見守っているとあることに気付いた。
ねぇたきな。穏やかな表情なのはいいけど、愛おしそうに撫でてるその右手首のブレスレットなにそれ。この前までそんなのなかったじゃんてか自分で買うようなタイプじゃないでしょあんた。
全身を貫いた第六感ともいうべき嫌な確信で、私は盛大に顔を引き攣らせた。
───油断できない奴多すぎない!?
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「明治政府設立以前に組織された暗殺部隊…彼岸花。
現在はその学名から、リコリスと呼ばれている。そして『コイツ』が次のターゲット。リコリスは通常、都市迷彩服としての制服を…」
「……おいおい、違うよな?」
真島がターゲットに興味を持つよう熱弁する僕に、真島本人から待ったの声がかかった。仕事だから仕方ないけど、おっかないんだよなぁコイツ…。
「い、いやでも!このターゲットはリコリスの中でもトップクラスの…」
「捨て駒はどうでもいい…。俺の目的を、お前が、理解しているか確認してもいいか…?」
くそ怖!真島は当然として、ボクの後ろに無言で控えてるこのマッチョたち何なの!?
「…日本に入国してから雇われテロリストたちが忽然と姿を消す。その原因の究明と解決…」
「わかってんじゃねぇか。…そのDAとやらをぶっ潰す」
そういった真島は、食べかけのハンバーガーを机に叩きつける。
だから怖いって!お前もいつかは『こう』なるぞってこと!?ケチャップの飛び散り方がリアルで嫌なんだけど!
「お前がガキどものスマホからDAの本拠地がわかるっていうから持ってきた…。4つもだ」
「…そのスマホからIPアドレスを探したけど、民間回線と違って時間が…」
「…オイ」
「っえ、ナニナニ!?」
止めてマッチョたち!僕を拘束しないで!ていうか君たち一人で十分でしょなんで二人がかりなんだよ!
「…もう一か月だぞ。お前の指示で俺の仲間が26人死んだ」
「犠牲が出たのは計算外だったけど、これが最速だし…。それにこっちのリコリスも面白いだろ…?」
「ダメだ。こっちは指示通りに動いた、このままじゃバランスが悪い」
──あと三日でDAの場所を探し出せ。
目に感情を載せないまま淡々と告げた真島は、そのままマッチョたちに指示し、僕は文字通りアジトから放り出された。
「クッソ!」
僕は依頼人にコンタクトを取るべく教えられた番号に電話を掛ける。
『ご用件は』
「あんたのボスからの追加依頼だけど、真島はあのリコリスに興味を示さない。多分無理だと思う!」
『少々お待ちください』
クソー。あんな狂犬に交渉なんて土台無理な話だったんだ。そう思っていると保留があけて女の声がした。
『がんばれ』
「…は?」
『がんばれ、と仰っております。頑張ってください』
───プツッ。
「僕は頑張ってるよーーーーー!!!!」
「政府専用の基地局を見つけたが、独自のOSで動いてる。コイツの情報求む!」
自称電脳戦のエキスパートが多く滞在しているネット掲示板で僕はDAの場所を掴むための情報収集を行っていた。
──が。
「どいつもこいつもウォールナットウォールナットうるさい!あいつはもう死んだ!今は僕が!」
そんなとき、僕の手伝いを申し出てくれた男がいた。…一瞬で所在を掴まれ逮捕されたが。
「フ、フフフ…クッソーー!!」
PCが煌々と部屋を照らす中、僕の絶叫が木霊した。
「じゃあこれもーらい」
「あ~。そのタイル持ってくなよぉ」
「…クルミあんた。調査するんじゃなかったの」
「ダウンロードして、あとでゆっくり調べるんだよ」
「…あんた、DAハッキングしてんの?」
「さっすがクルミさん。やばいね」
「ちょろいね」
このあんみつウマ!
「たきなぁ。おかわりぃ~」
どこかのロボが八方塞がりで絶叫している同時刻、どこかの
可哀想なロボ太。
実はめっちゃすごい子なんだろうけど、目の上のタンコブが大きすぎたんやね…。
次回か次々回あたりに戦闘シーンを予定してますが、投入するタイミングを間違えると戦闘にすらならず蹂躙するので難しい。
ワンパンマンの作者さんはこういう気持ちなんだろうか…