好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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続きです。
これでアニメ六話の内容が終わります。

このお話の千束とたきな、文字で表せられないような声出しすぎじゃない?
尊敬してやみません。


お仕置き

 店長が手に持つスマホからコール音が響く。早く…早く…!

 

『もしもしもしもしぃ~?』

「千束!敵はお前を狙っているぞ!」

 

 出たと同時に店長が叫ぶように伝える。

 

『へ?…ちょちょちょちょいちょいちょい!』

 

 ドン!という壮絶な音と共に電話は切れた。

 

「千束!?千束!」

「なんかすごい音したよ!?」

 

 どう考えても非常事態だ。一刻も早く!

 

「とりあえず、組事務所へ向かいます!」

「たきな、俺も行こう」

「お願いします!」

「クルミは千束を探せ!」

「わかった!」

 

 各々が行動を開始し、万里さんが私についてくる。彼は組事務所の場所を知らない。知っていれば先行してもらえたものをっ!

 

「行こう、たきな。大丈夫、敵は四人襲っていてなお誰も殺していない。千束だけ殺されることは考えにくい」

「はい…」

 

 万里さんがゆっくりとした口調で私に語り掛けてくれる。そうだ、万里さんの言う通りだ。今はとにかく急ぐ!

 

──無事でいてください…千束…!

 

────────────────────

 

『どうだ!今回は被害なし!文句ないだろ!』

「わかったわかった」

 

 装着しているイヤホンからヒステリックな声が聞こえる。

 

 作戦通り車で轢いたリコリスの面を拝もうと、うつぶせで倒れるソイツを足蹴に強引に仰向けにした。

 

「あぁ?」

 

 そいつの首元に、見覚えのあるペンダントが光っている。

 

 そんなことを考えていると、倒れていたそいつの眼が突然開き、視界が黄色に染まった。

 ヤツが羽織っていたポンチョが俺の視界を塞ぎ、払い落とすころにはヤツの姿は遠ざかっていた。

 

──やるじゃねぇか。今までの奴らとは一味違ぇ。おまけに只逃げるだけじゃなく何人かすでに倒してやがる。面白れぇ。

 

「いけいけぇ!」

 

 無事な部下たちにヤツを追わせ、撃たれてしまった部下に歩み寄る。

 様子がおかしい。生きているどころか、ロクに流血すらしてねぇ。

 

「なんだこりゃ…」

 

 倒れた体の上に、砕け散った赤いかけらが無数に散らばっていた。

 

 

 

 

『いたぞ!マップにマーキングした!』

 

 イヤホンからそんな声が届く。

 いいねぇ。

 

「やるじゃねぇかハッカー」

『へっ』

 

 新たに乗り換えた車でマーキングされた地点へ向かうと、逃げたリコリスの背中を捕らえた。

 

「また吹っ飛ばしてやる!」

「あーもう!しつっこい!」

 

 いくらトップクラスのリコリスでも車には勝てない。徐々に距離が縮まっていく。

 ヤツもそれを悟ったのか、逃げるのをやめて銃口をこちらに向けてきた。

 

──ハッ。車から走って逃げるより止めた方が確実ってか。

 いい判断だ。それに度胸も据わっているようで、動揺している様子も見られない。

 

 俺は車から身を乗り出し、リコリスに向けて発砲した。

 殺すつもりはない。逃がさないように大人しくなってもらうだけだ。

 

 俺は銃口を構えるヤツの右肩をめがけて発砲した。

 特に難しいこともなく、この距離で外すほど下手でもねぇ。

 

──……何?

 

 だというのに、俺が撃った弾は、ヤツが構えを解かないまま体を少し傾けるだけで躱された。

 

 ああ、そうだ。当たらなかったんじゃない、躱された。

 

 目の前の光景に呆気にとられた俺は、ヤツが連射する反撃の弾丸一発を眉間にモロに受け、走行する車から吹っ飛ばされた。

 

 さらにはヤツの弾がフロントガラスをぶち破り、それにビビった部下がハンドル操作を誤り横転しているのが視界の端に映った。

 

『何やってんだよ!!』

 

 耳元でハッカーが叫ぶ。ワリィなぁ。

 

────────────────────

 

「DAはまだ敵の素性がわからないの!?」

『ああ。あぶりだすためにリコリス達を囮に使ったが、返り討ちに遭った上に手加減されて全員生還。挙句の果てにスマホを盗まれているそうだ』

 

「リコリスを囮に…。馬鹿なことを」

 

 ミカが絞り出すように溢したセリフを、私は聞かなかったことにした。

 

 

────────────────────

 

「あんたが一連の襲撃犯?」

 

 倒れ伏す緑の髪の男に声を掛ける。周りの奴は明らかにコイツの指示で動いていた。

 

 マリモ頭はゆっくりと体を起こすと、血だらけになった顔をこちらに向けて言う。…うおぉ、ショッキング映像…。

 

「ひでぇじゃねぇか…」

 

 どの口が言う、どの口が。

 

 振り向いたコイツの背後を常にとるように移動しながら、銃を下げることはしない。

 

 そんなとき、下ろさずに銃を握る腕を掴まれ、何かを吹きかけられたと思ったら、視界が完全に塞がった。

 

──まずッ…

 

 ロクな抵抗もできないまま、マリモ頭に笑いながら殴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 前が…見えないっ…

 

 何度も殴りつけられ、全身痛い。けれど今はそんなことよりも、早く目が見えるようにしないと…っ。

 

 周りから聞こえてくる歓声から、マリモ頭の仲間が大勢で取り囲んでいることは想像がつく。

 そんな状態ではいつ殺されるかわからない。殴られた分は後で万倍にして返すとして、今は視界を…!

 

「ゴム弾じゃなく!実弾にしとけばよかったなぁ!」

 

 言葉と共に、より強い力で殴り飛ばされた。けれど、幸か不幸か今の一発で、やっと両目が開けられるようになった。

 相手を刺激しないようにゆっくりと目を開くと、銃口を構えたマリモ頭が目の前にいた。

 

「……」

「ぇ…」

 

 こいつも…目…閉じてなかった?

 

 

 そんなことをぼんやりと考えていると、マリモ頭はやがて目をゆっくりと開いて小さく呟く。

 

「お前の使命はなんだ…?」

 

 なんで知って…

 

「ソレ」

「っ!」

 

 そうか、たきなに褒められて隠さなくなったペンダント。見られてたか。

 

「アランのリコリスか…。面白いなぁ、お前」

 

 言葉を返さない私をニヤニヤと観察しているマリモ頭。どうしようかと考えていると、その緊張感は唐突に終わった。

 

「っ!」

「え…」

 

 カアン、という音が目の前から響いたと思ったら、マリモ頭の右手から拳銃がこぼれていた。

 

 何が起こったかわかんないけど、今なら!

 

 私の動体視力がその事実を捉えた瞬間、取り落としていた自分の武器を拾おうとして、絶句した。

 

──なんで…左手に銃が…!

 

「悪いなぁ、アランのリコリス。どんだけ警戒しても足りねぇバケモノとやりあうかもしれねぇんだ。備えは多い方がいい、ってな。命までは取らねぇが、当分動けなくなってもらうぜ」

 

 そういったマリモ頭は、改めて私に銃を突きつけた。これは…ダメかも…

 

 指がゆっくりと引き金にかかる。こんな時でも読み取ってしまう自分の目が今だけは恨めしい。

 いよいよか…と目を背けそうになった刹那、その音は響いた。

 

 

 

 

 

 

 キン、と。金属同士がこすれあうような軽い音が響いた。

 一度響いたと思ったら、連続して何度も、何度も、その音は繰り返し響いた。

 

 マリモ男もその仲間も、音の正体を確かめようとあたりを見回した。

 

 

 

 

 

 

「何を思おうと何を成そうと、それはその人の自由だと俺は考えている」

 

 ざわつく周囲の人間が、その声にピタリと動きを止めた。

 

「理想も過去も現実も未来も、それぞれ自分だけのモノだ。譲れないものというのは大切にしなければならない。…今回のように大切なもの同士がぶつかって互いに譲れない場合は、争いが生まれるのもやむなし、だね」

「ぁ…」

 

 私はこの声の主を知っている。たった一人で何もかもを熟せるのに、その能力(チカラ)を誰かのために使うことを選べる人。どんなにワガママでも誰も文句を言えないほど圧倒的なのに、誰かのワガママを叶えてくれる、優しい人。

 

 

──私に命をくれたのが『救世主さん』なら、彼は私に『この感情』をくれた。

 

 

 声が聞こえても姿を見せないその人を探して、マリモ頭たちはきょろきょろとあたりを見回している。

 

 そんなことをする必要なんてない。

 だって彼は、どんな時だって。

 

 どんな時だって、歩幅を合わせて隣を歩いてくれようとする人だから。

 

「さて、テロリスト諸君。

 キミたちは寄りにも寄って俺の大切な仲間を傷付けた。キミたちがそうしたように俺も命までは取らないが…」

 

 その声と共に、私のすぐ左隣から手が伸びてきて、私の頭にポンと着地すると、そのままゆっくりと撫でてくれた。労わる様にゆっくりと。

 

──ほら、やっぱり。(ソコ)にいた。

 

 

「俺は今、少々怒っている。自分にも腹を立てているがね。…八つ当たりも多分に含むが、少々憂さ晴らしに付き合ってくれたまえ」

 

 彼──いつもの微笑を消した万里くんがそう言った後、テロリストたちが持っていた銃のすべてが、銃身が斜めにズレて地面に落ちてガラクタと化した。

 

 

 ええ…。木刀で銃斬れるんだ…。いやムリだよ…。

 

 

────────────────────

 

「千束!無事ですか!」

 

 万里さんの事前の作戦通り、テロリストたちの注目を彼が集めている間に、草葉の陰から私が千束のそばまで駆け寄って誘導した。

 

「万里くん…怒った顔もイイかも…」

「別の意味で無事じゃないですね…」

 

 下手をしたら殺されていたかもしれないのに、悠長なことだ。

 

「よお大将。いつかカチ合うとは思っちゃいたが、それが今日とはな」

 

 …え?

 

「やあ真島さん。久しぶりだね…。俺個人としては、あなたと戦うのは気が引けるんだが…今後はそんなこと言っていられないらしいね」

「ああ、だな。俺も同意見だ。だが、あんた風に言えば、互いに大切なもんがぶつかっちまったってこった」

「そうだね。それに、いくらあなたを気に入っているとはいえ、千束を傷付けた以上、お仕置きはさせてもらおうか」

「死なない程度に頼むよっ!」

 

 万里さんとテロリストの親玉が何やら親し気に会話していたと思ったら、突然戦闘が始まった。

 

 既に武器がないテロリストは、集団で万里さんに挑みかかった。

 

 

「万里くんすごっ…」

「ええ…」

 

 彼は、他を圧倒する自慢の速度を使わず、流れるような木刀捌きで以てテロリストを蹂躙した。

 

 向かってくる拳に、足に木刀を添わせるように密着させると、ほんの少し手首を返す。

 ただそれだけで、万里さんを攻撃するはずだった者は体勢を崩し、対角線上にいた仲間もろとも倒れ込む。

 

 万里さんは自分からは決して攻撃することはなかった。

 彼ほどの力で殴られれば、力加減を少し間違えただけで死に至る。それを警戒しているのだろう。

 

 しかし、敵もプロのテロリスト。万里さんの戦法を警戒して、安易に攻撃を仕掛けなくなった。

 そうなれば、この戦場は硬直する…はずだった。

 

 敵が攻撃の手を緩めた瞬間、先ほどまで『待ち』の姿勢を崩さなかった万里さんがいきなり攻勢に出た。

 

 とはいえ、具体的に何をしたかは速すぎて見えない。彼が敵の近くで木刀を振ったのだろう、と予想した時には敵が意識を飛ばしていた。

 

──後から聞いたら、腕が霞むほどのスピードで敵のあご先を掠らせるようにして脳震盪を起こした()()らしい…。だけって何ですか…。

 

 そうこうしている間に、テロリストは親玉らしき緑髪の男を含め残り数名にその数を減らしていた。

 

 

 

「千束!たきな!乗れぇ!」

 

『!』

 

 大きな声に振り向くと、ミズキさんが運転する車が横付けされており、後部座席のドアを開けて店長が私たちに手を伸ばしていた。

 

「たきな!」

「ええ!」

 

 私たちは、一瞬の迷いなく開いた扉から後部座席へ跳んだ。

 

「せ、せまい…」

「つめて、ください…」

「み、ミズキ…だせ!」

 

「バッチコォイ!!」

 

 独特の気合の声で己を鼓舞したミズキさんが私たちを乗せた車を急発進させた。

 

 銃をすべて万里さんに斬られた以上、私たちを止めるすべはもうない。

 大きく安堵の息を吐いた途端、前から無人の車が猛スピードで突っ込んできた。

 

──リモート操作!?

 

「やばっ!」

 

 小さく悲鳴を上げたミズキさんだが、さすがのドライビングテクニックでギリギリまで引き付けて躱し、車体を少し擦る程度の被害に抑えた。

 

「よし!」

「さっすがミズキ!」

 

 車内が歓声で満たされた…が、外から予想外の声が響いた。

 

「ハッカー!その車俺が使う!!」

 

 真島が、たった今躱した車に乗り込もうとしている。

 

 

──万里さんは!?

 

 見ると彼の姿は先ほどまでの場所から消えており、見つけることができなかった。

 彼は、どこに!?

 

「ここだよ」

「うぉおおおぉい!?」

「おぉぉぉお!?」

「きゃぁぁぁぁあ!?」

 

 後部座席に座っていた私たち三人は、突然響いたその声に叫び声を上げた。

 

 彼は、法定速度ガン無視の全速力フルスロットルの車と並走していた…生身で。

 

 いやまあ…できるんでしょうけど…。一生見慣れることはないんだろうなぁ…。

 

「おっと。驚かせて済まない…。それよりも…」

 

『ヤバいのに狙われてるぞ』

 

 クルミの通信音声に反応して顔を正面に向けると、テロリストの一人がここまで使われなかった新武装を担いでいた。

 

「ロケットランチャーはさすがに初めてみた。意外と小さいねえ」

「んなこと言ってる場合じゃないでしょ万里くん!」

 

 いつもの様子と全く変わらない万里さんに千束が突っ込む。まったくだ。

 

 何とかしようと私と千束でがむしゃらに発砲してみるも、状況は変わらず。それどころか…

 

「弾切れです!」

「わああぁ!やばいやばいやばいー!」

 

 

 

「ミズキさん。スピードは落とさず、ハンドルも切らなくていい。俺が対処しよう」

 

「え、ちょ…万里くん!?」

 

 万里さんは運転席のミズキさんに呟くと、加速──といっても目には見えているし、私たちの車の少し前に出る程度だが──した。

 

 

「さすがに『バランス』が悪いから、あまり出張る気はなかったんだけどね…。さすがに少し目に余る」

 

 

 そんな声が風に乗って聞こえてきたと同時に、ロケットランチャーが発射された。

 

 

 瞬間、万里さんが木刀を腰だめに構えた。

 

 

 

 

 

「あなたへのお仕置きをずっと考えていた…。直接殴ると死んでしまうし、かといって見逃すわけにもいかない…。だから、ああ。急ごしらえだが」

──こんなのはどうだい?

 

 言葉と同時に、万里さんが木刀を──否、()()()()()()()()()()()()を振り抜いた。

 

 振り抜いた刀の軌道上に、ロケットランチャーの弾が通過し、何の抵抗も見せず真っ二つに別れた。

 

『えぇぇぇぇぇえ!!??』

 

 ロケットランチャーの弾を斬ったぁ!?ていうかアレ刀だったんですか!?

 

 私達全員の驚愕をよそに、斬られた弾の片方を振り抜いた刃の腹に当てると、先ほど同様手首を返した。

 

「うそぉ…」

 

 千束のその呟きは、私たちの総意だった。

 手首のスナップで変わった弾の軌道は、私たちにロケットランチャーを撃ち込んだ射手の5mほど手前の地面に着弾。射手は派手に吹き飛び、木の幹に盛大に頭をぶつけて動かなくなった。

 

 そして、別れたもう一方。

 

 半分のまま推進力の名残で真っ直ぐ飛んでいた弾は、私たちを車で追いかけてこようとする緑髪の男性が乗り込んだ車に着弾。それはそれは派手に爆発した。

 

「なんとなくだが、真島さん。あなたはこれくらいじゃ死ななそうだから、ちょうどいいお仕置きなんじゃないかな。もし死んでしまったら…うん、ごめんね」

 

 

 

「…あのテロリスト…死んだんじゃ…」

「ま、まあ生きてるんじゃない?…ホントギリギリで…うん…」

 

 そんな話をしている私たちの車が、立ち止まっている万里さんを追い越した。

 

 彼は重力を感じさせない身軽さで跳躍すると、人が一人乗ったとは思えないほど軽い音を立てて走行する車の屋根に着地した。

 

 繰り返し行われる非常識な行動に呆気に取られていると、空いていた助手席の窓から車内に入ってきた彼は、久しぶりに見る気がするいつもの微笑で私たちに言った。

 

 

「さて、お仕置きも済んだし追手もいない。何よりお腹がすいた。帰ろうか」

 

 

──この人が味方でよかったと今日ほど感じた日はない。

 

 

 どっと疲れた私達全員は、間違いなく心を一つにした。

 

 

────────────────────

 

 一仕事終えた俺たちを出迎えたのは、反省の面持ちで正座をするクルミちゃんの姿だった。

 

 ミズキさん曰く、たきなの左遷は全部コイツ(クルミ)のせいで、あんたは被害者。どうする?とのこと。

 

 俺はこの件に口を挟む気はない。

 これはたきな自身が折り合いをつけるべき問題だ。

 

 それに心配はしていない。そもそもだれもそんなこと思っていないのだから。

 

「ごめん、たきな…」

「あれは私の行動が原因で、クルミのせいじゃありません」

 

 うん。今のたきななら、そう言えるよね。

 

「でもアイツは捕まえる。最後まで協力してもらいますよ」

「もちろんだ!早速だがヤツの名前がわかったぞ」

 

 そう言って取り出したタブレットに歓声を上げる部下たちの映像が繰り返し流れている。

 

「『マジマ』さぁ~ん」

 

 真島さんあなた…。お仲間に恵まれていないのでは…。

 

 自分がしたことを棚に上げた俺は、派手に吹き飛んで行った真島さんに同情した。

 

────────────────────

 

 ドガァァン!という音と共に、僕の部屋の扉が蹴破られた。

 

「またドアァァァ!」

 

 派手に吹き飛んだというのに怪我らしい怪我を負った様子がない真島に、あっという間に主導権を握られた。…ていうか、床、ビショビショ…ここ、僕の部屋…。

 

「皆さん…ご無事で…」

「よぉハッカー…見直したよ…」

「へぇ?」

「面白れぇヤツを見つけたなぁ!あれじゃなきゃ俺とはバランスがとれねぇ!」

「ふぇ?」

「これから忙しくなるぞ!あのリコリスのことをもっと教えろハッカー!!」

「えええええぇぇぇえ!?」

 

 オイ依頼人!真島があのリコリスに興味を持ったぞ…。なんか、とんでもないくらいに…。

 

 どうしよう。依頼失敗した方が安全だったかもしれない…。

 

────────────────────

 

 先日の襲撃でけがを負った私はたきなと、またも働きすぎで長めの休憩を取らされている万里くんに付き添ってもらい山岸先生の治療を受けに来た。

 

「いつつ~」

「千束の弱点は目ですね」

「いやいや。誰だってそうだろ」

「俺はそんなことないけど?」

「万里くんは黙ってて」

「ごめんなさい」

 

 そんな私たちのやり取りを見て苦笑していた山岸先生が、とても嬉しいことを言ってくれる。

 

「そこのイケメンはともかく、いいコンビよ」

「そうでしょ~。たきな~、二人でいれば安心だし、しばらく同棲続けないと~」

「では…。じゃんけんで千束が勝ったら続けましょう」

 

 来た!じゃんけん来た!これで勝つる!

 

「きひひ~。よしいくよ~。最初は…」

「ジャン!ケン!」

「え…うぉおおわぁぁあ!」

「ポン!」

 

 たきなの掛け声に驚き、咄嗟に出した手はパー。たきなは、チョキ。

 

「ょしょしよしよし!!」

 

 言葉通りの初勝利に、たきなは小躍りして喜んだ。くそ~!

 

「万里さん!私勝ちました!」

「おめでとう。一発勝負をよくものにしたね」

 

 バレてるし。

 

「ちぇ~。あの方法なら絶対に負けないのにぃ~」

「おや、大きく出たね。じゃあ俺と勝負してみるかい?」

『え?』

 

 万里くんが私に勝負を仕掛けてくる。いやいや。

 

「私の必勝法知ってるんだよね?」

「ああ、最初はグーだね」

「そうそれ。そのルールならさすがの万里くんにも勝っちゃうけど。出す手がわかるんだし」

「じゃあ俺と勝負して、負けた方は勝った方の言うことを何でも聞くというのはどうだい?」

「なん…でも…?」

「ああ」

「やるやる絶対やるー!」

 

 貰った!相手のだす手がわかるジャンケンに負けるわけない!なんでもか~、何してもらおっかな~。

 

「さて、それではいこうか」

「いつでもきなさ~い!」

「最初はグー」

「ジャンケン」

 

 振り上げた手を出す万里くん。

 

 どれどれ。お、手を変える動きだね。

 じゃあ私はいつも通りチョキを…え、ちょ…ま…ちょちょちょ!

 

 

 

「ポン」

 

 私が出した手は、チョキ。彼は、グーを出していた。

 

「俺の勝ちだね」

「万里さんすごいです!…でも一体どうやって…」

 

「簡単な話さ。筋肉などの動きで出す手を読まれるなら、出す直前まで手を変え続ければいい。音速でね」

 

 万里くんの筋肉は、手を出すその直前まで動きっぱなしだった。…音速で。

 

「こんなの読めるわけないじゃん!」

「はっはっは」

「くっそー!じゃあ純粋なジャンケン勝負に負けたのか私は!」

 

「ああいや、俺は千束が何を出すのかわかっていたから、勝つのは確定していたよ」

 

『!』

 

「千束がやっていることと同じさ。相手の筋肉などの動きを観察して出す手を読む。千束は音速で動けないから、俺が今やった方法は使えない。素直に読んだ手に勝つ手を出すだけ」

 

 なんじゃそりゃ~!

 

「ズルじゃん!!」

「絶対に千束が言うべきことじゃないでしょ…」

「う…」

「フフ…。まあそれはそれとして、罰ゲームだね」

「あ…!」

 

 万里くんが私に命令したことを、私は何でも聞かなきゃいけない…!何させられるんだろう…。やだもう、万里くんのエッチ!

 

「気持ち悪いですよ…千束…」

「ハッ!」

 

 ピンクな妄想をする私を、たきながとても冷めた目で見つめていた。止めて!そんな目で私を見ないで!

 

「今すぐやって欲しいことは思いつかないから、いざという時のために取っておくよ」

「え~!こわいんだけど~!」

「大丈夫。できないことは言わないから」

「ぶぅ~」

 

 

 結局いつまで経っても、万里くんにはしてやられてしまうのだった。




主人公の出番の為だけにちょっと強化される敵役の皆さん。
ジンしかり、真島しかり。

そして問題のバーのシーンが近付いてまいりました。
今まで面識のない主人公とヨシさん。
ここまで来たらギリギリまで会わせないのも一つの手かもしれない。

頼むから主人公の地雷原でタップダンスだけはやめてほしい…無理か。
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