本筋を進めるよりも小話のほうが筆が進まないという圧倒的妄想力の欠如。
いっそ小話はサザエさん時空のような扱いにしようかしら。
「それが真島か」
私とたきなは今、DA本部で先日受けた襲撃の首魁、真島の似顔絵を作成し楠木さんやフキたちにヤツの人相を共有しているところだった。
『はい!これが真島です!』
「ぶっははは!それはないよたきなぁ!」
「ち、千束の絵だってマンガじゃないですか!」
え~。よく描けてると思うけどなぁ。ていうか、たきなの真島髪の色からして違うじゃん!鼻なんかニンニクだしぃ。
あーでもないこーでもないと二人で言い合っていると、突然フキがキレた。いつも通りカルシウム不足みたい。
「どっちも全然違うだろうがァ!」
「だってそれ全然似てないしぃ」
「似てない…」
「そういうから描かせてんだろぉが!」
もとはと言えばDAが用意した真島の似顔絵が全然似てないのが悪いんでしょーが。
「……お前も真島の顔を見たんだったな」
「ええ」
「描いてみろ」
「お断りします」
「…なに?」
フキを含めて言い争いをしている私たちの耳に、楠木さんと万里くんの話し声が聞こえてきた。
──そう、今回の情報提供、DA本部はなぜか万里くんも召集するように通達してきたのだ。
万里くんが楠木司令を、ひいてはDA本部が気に入らないと公言していることを知っているにもかかわらず。
そんなわけで、万里くんにどうしてもと私たちが頭を下げて一緒に来てもらっている。…のに。
『(なんで一言しか会話してないのにこんなに空気重くできるのこの人たち!?)』
間違いなく私たちの心は今、一つだ。
「…何のつもりだ。私は千束に貴様も連れてくるよう依頼していたはずだが?」
「仰る通り。俺も千束たちを板挟みにする気はない。ですので『来ました』よ。あなたの依頼通りですね」
「……」
「俺は来てくれと言われたから来た。依頼はそれで達成です。もちろん頼み方次第では協力することも吝かではありませんが、まさか一言目が命令とは恐れ入りました。いやはや、さすがロクデナシ」
万里くん!やめたげてぇ!
いやまあ司令に関しては万里くんの言う通りだけども!ほらフキとサクラの顔!虚無じゃん…自分の上司が一回り以上年下の男の子にボコボコにされてるの見せるのやめてあげて…
「まあそれとは別に、あなた方に真島さんの情報提供をしても意味がないと思ってもいますがね」
「……どういう意味だ?」
「おや、ここまでされてわかりませんか。馬鹿なことしか思いつかないあなた方では勝ち目がない、という意味です」
『!』
万里くんの言葉に、私達全員例外なく言葉を失った。
私達の反応に一切取り合わず、万里くんは続ける。
「そもそも最初から思ってたんですが、DA馬鹿でしょう。消えた銃千丁の行方も、活用方法も、相手の実態も構成員も、挙句の果てには目的すら不明の状態で、リコリスを単独任務につかせて囮にする?ラジアータがどんな演算行ったか知りませんが、機械ばかり信じていると、どんどんアホになりますよ」
「……」
「真面目に疑問なんですが、相手が囮に食いついたとして、何ができると思ったんです?ここにいる彼女たちならば数人同時に相手取る実力がありますが、それでも数人。しかも囮に使ったリコリスはサード。というか先ほども言及しましたが、敵対組織の規模すらわかってませんよね?一人の囮リコリスに対して複数人出張る可能性思いつかなかったんですか」
『…』
「千束は自分から一人になったので例外としても、何人も同じ手口でやられてるのにロクに作戦も変えずに仲間の数を減らすだけ減らして、スマホまで奪われてる」
──うっ…耳が痛いっ。
「……奴らの構成員二十六人の殺害に成功している…」
「なんですかそれ。言い訳のつもりですか?なぜ殺すんです。全員捕らえて情報を引き出そうとか考えられないんですか?誰一人情報を吐かなかったとしても、交渉材料になり得るでしょうに。第一敵に報復の口実を与えてどうするんです。『今まで殺しはしなかったが、仲間だけが殺されるなんてバランスがとれねぇ』という具合に。リコリスに死者がいないのは、彼らがDAよりも利口だからなのでは?」
「ちょちょちょ!万里くんストーップ!死体蹴りはマナー違反だよぉ!」
「おかしなことを言うね千束。俺は死体を蹴るなんて罰当たりなことはしないよ。よく見てごらん、女史は生きている、生きているからこそ問うている。大勢の命を預かる立場で、いつまで馬鹿のまま過ごすのかと」
「……ねぇたきな」
「……なんですか、千束」
「楠木さん目つむったまま天井向いて固まってんだけど…」
「……ええ」
「…泣いてないよね…」
「……ギリギリ?」
対照的に、言いたいことを言えて満足したのか顔が緩んでいる万里くんを見やる。
───絶対に怒らせないようにしよう…。
そのままたっぷりと数分間、楠木さんは無言だった。
やがて心を落ち着けたのか
「……帰って…いいぞ…」
それだけを呟くと、心なしかフラフラと部屋を出て行ってしまった。
「さて二人とも。お許しも出たことだし帰ろうか」
「待てや万里てめぇ!また司令にあんなこと…」
「フキには済まないと思うがね…。一歩間違えれば誰かが死んでいた可能性が高い。こんな時に矢面に立たずして何が責任者だ」
「それは…」
万里くんがフキを宥めているのを横目に、私たちが描いた似顔絵を手に持つ。…しかし。
「キミは…」
『避けてんのか?お前の射撃が下手なのかもな』
「いいや、この距離で外すわけねぇ。それに見てみろ。すぐに撃ち返してやがる。当たらねぇと分かってなきゃできねぇ」
そんなことできんのは大将くらいのもんだと思ってたが。…しかし。
「お前は…」
──────────『ナニモンだ?』
────────────────────
「休憩入りまーす」
背中に届くミズキの早く戻れコールに生返事を返し、私は休憩室に向かう。…その前にお手洗いっと…
ブブッ
スマホのバイブレーションの音が響き、自然に目が向いた。…あれは先生のスマホ…
「千束。ランチ終わりのプレーと頼む」
「…ほーい」
「どうした?」
「ああいや…プレートね。お手洗い済んだら出しとく~」
「BAR Forbidden…?」
お手洗いに入った私は、ちらっと見えてしまったスマホ画面を思い出した。
───明後日21:00 BAR Forbiddenにて待つ。千束の今後と
千束は勿論私のことだろう。じゃあ彼って、やっぱり…
「う゛~ん」
「……固いのかな」
────────────────────
今日の営業も無事終わり、千束が入口のプレートをCLOSEDに返しに行ってくれた。
店内で後片付けをしていると、ミズキさんがすでに日本酒を嗜んでいた。
泥酔って名前なのか。すごいな…
酒盛りを始めたミズキさんにクルミちゃんが苦言を呈しているのを眺めていると、千束が戻ってきた。
「おかえり千束」
「うん…」
「どうしたんですか?今日はなんか変ですよ?」
「コイツは毎日変よぉ~」
「うん…」
何か考え事をしているのだろうか、ミズキさんの絡みに無反応だ。
「う~ん、先生は?」
「さっき買い出し行ったわ。何、もうオッサンが恋しいのかな~千束ちゃんは」
「…皆さん」
千束が存外真面目な顔で切り出した。徹底的に無視されミズキさんが少し不憫だ。
「リコリコ閉店の
『へ…?』
それはピンチだ…。本当なら。
────────────────────
「人のスマホ覗き見るんじゃありません!」
「だって見えちゃったんだもん!」
「目がいいと余計なものまで見えてしまうですね…」
「パンツとかな!」
余計なことを言ったクルミちゃんの頭に、たきなのお盆アタックが炸裂している。
千束曰く、昼間見えてしまったミカさんのスマホの画面に、誰かからバーに呼び出された文言を見た。そこには千束の名前と『彼』なる人物について話があるといった内容が書いてあったという。
『彼』というのは…まあ俺の可能性が非常に高いな。
「楠木が相手だとなんでわかる?」
「そうです。指令が相手とは限らないのでは…」
「いいや。先生を誑し込んで私をDAに連れ戻す計画じゃわ。それに万里くんにもなんかする気なんじゃ…」
そこまで言った千束に、自慢かとたきな。…自虐までできるようになったとは、成長したね。
「それが何で店の閉店と関係が?」
「小さいとはいえDAの支部だからね。ファーストリコリスのコイツがいないと存続できないのよ」
「じゃあ私が戻りますよ」
「え…それは寂しいな…」
「冗談です嘘です止めます取り消します」
「そうか。よかった」
たきなに会えなくなったら寂しいからね。考え直してくれて嬉しい。
「ともかく!リコリコが無くなったらみんな困るでしょ!」
「まあ確かに、私は養成所戻しですし…」
「まだここに潜伏しないとボクは命が危ない…」
「私だっていい男との出会い…はもう出会ってるから関係を進めるためには…」
「俺も…みんなに会えなくなるのはとても寂しい」
『!』
な、なんだ。みんなの背中からそれぞれのイメージカラーの炎が見える気がする。
「万里くんと一緒に働けなくなるのは嫌でしょ!!」
『おう!!!』
「やるよ!」
─────目的変わってないだろうか。
例のごとく、司令にぶつけた疑問は筆者初見時の疑問です。
本作では縛りプレイ中の真島一派ですが、本来は殺人すら躊躇わない連中に単独任務ってなんぞ?
囮?ならせめてファースト使いなさいよ、何のための階級制度?みたいな。