好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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幕間です。
皆様アンケートへのご回答ありがとうございました。
もう少しばらけるかと思っていましたが、さすがの人気ですね。

それではどうぞ。


錦木 千束

「あれ、万里くんじゃん」

「ん?千束か。こんにちは」

 

 

 リコリスとしての依頼を終わらせる頃には朝方になっていた影響で、本日の喫茶リコリコはお休み。家に帰る前に店の入口に臨時休業の張り紙を張って、家に帰って一眠りして昼頃目が覚めた。

 一日ゴロゴロしているのも悪くないが、なんとなく家を出てみようと思って街をフラフラしているところに、何度見ても驚く超絶イケメンに出くわした。

 

「奇遇だね。こんなところで何をしているんだい?」

「いや~、特に用事もないんだけど一日ゴロゴロしているのもねぇ」

「そういうことか。どうせ暇なら俺を誘ってくれればいいのに」

 

 万里くんの一言に、ないはずの鼓動が跳ねた気がした。

 

「え…と。万里くんも暇だったり?」

「ああ。もしよければ俺と時間を過ごしてくれないか、千束」

「あぅ…」

 

 なんか誘い方がやらしくない!?一緒に遊ぼうとかじゃないの普通!?

 

「千束?」

「いや!なんでも!…よし!じゃあ遊ぼっか、万里くん!」

「ああ。千束とデートは初めてだからね。すごく嬉しい」

「いったん黙ってくれない!?」

 

 

 本当にこの人心臓に悪い!心臓ないんだけど!

 

────────────────────

 

「それじゃあ万里くん、なにしよっか」

「ああ、これなんかどうかな」

 

 そう言って万里くんは、肩に引っ掛けていたトートバッグから見覚えのある冊子を取り出した。…ってそれって!

 

「松下さんに作った東京観光のしおりじゃん!なんで持ってんの!?」

「ああ。あれから千束と東京観光に行く日をずっと楽しみにしてたんだ。だからいつ声がかかってもいいようにコピーを取ってずっとカバンに入れていたんだ」

「かっ…!」

「か…?」

 

 かわいい何この人。

 

 いつもの微笑を月だと例えるなら、今のピカピカ笑顔は太陽のようだ。めっちゃ眩しい。

 

「と、とにかく!そのしおりがあるなら大賛成!やっちゃおう、東京観光!」

「ああ。よろしく頼むよ」

 

 こんなに期待されちゃ仕方ない!このスーパーガイド千束ちゃんに任せなさい!

 

────────────────────

 

 それから私たちは、あの時松下さんを案内したルートと同じルートで東京の街を楽しんだ。

 

 水上バスに二人で乗り、傾いた旧電波塔を眺めながら話す。

 

「そういえば千束。あの旧電波塔事件の時、たった一人で塔を守ったと聞いたよ。さすがだね」

「ありがと。…ん~でも、半分倒れちゃってるし。守ったって言えるのかなぁ」

 

「逆だよ。半分倒れているんじゃなくて、まだ半分立っている。あの大きさの建造物が完全に崩壊すれば、個人の力ではどうしようもなくなるし、甚大な被害が出ていたことは想像に難くない。

…キミは誰かの笑顔を守ったんだ。誰かにとっての救世主なんだよ」

 

 万里くんが、私のことを評してそう言ってくれる。

 

───嬉しい、な。ほかでもないこの人にそう言ってもらえたことが。

 

 私の信条──『やりたいこと、最優先』

 

 この言葉を聞いたとき、大多数の人が不思議そうに首を傾げるか、眉を顰める。

 たきなやミズキ、先生だってそうだった。

 

 この人だけだ。初めて聞いた時から、一度も否定せず『素晴らしい。キミにぴったりだ』と言ってくれたのは。

 その言葉が私にとってどれほどの支えになったのか、この人は多分全然わかってない。

 

「そっか…。うん、ありがとう万里くん。自信になったよ」

「ああ、それでいい」

 

 万里くんは言葉少なに、それでも表情にたっぷりと暖かい気持ちを乗せて、私の頭を撫でてくれた。

 

 嬉しいなぁ楽しいなぁ。

──できるだけ永く、この人と一緒にいたいなぁ…。

 

────────────────────

 

 水上バスを降りた私たちは、以前と同じく雷門──正式名称風雷神門前にやってきた。

 

 博識な彼が知らないはずがないのに、私の解説や、しおりに書いた豆知識などを感心しきりといった具合で楽しそうに聞いてくれた。

──カッコイイとか以前にめっちゃいい人なんだよなぁ。

 

 そんなこんなで観光を楽しんでいた私たちが、休憩のために少し離れた公園へとやってきた。

 

「千束、俺は少しお手洗いに行ってくるよ」

「は~いりょうか~い」

 

 少しの間席を外す万里くんを見送り、私は手近にあったベンチに腰掛け一息つく。

 

 う~む、どちゃくそ楽しいな、デート。なめとったわ。

 こんな突発的なお出かけも楽しいんだから、もっと計画を練ったデートはもっと楽しいってこと!?

 

 そんなことを考えている私に、聞き馴染みのない声がかかった。

 

「あの~」

「はい?」

 

 声がした方へ顔を上げると、街を歩けば100人中70人くらいが着ていそうな、今流行りらしい服に身を包んだ大学生くらいの男の子3人がへらへら笑いながらこちらを見ていた。

 

───服装だけならまだしも髪型まで似てるな、この人たち。

 

「なんですか?」

「お姉さん今一人?」

 

 ほほう、ナンパか。だが残念ながら今は一人だが、この後すぐに一人ではなくなるのだ。…というか一人だったら二人余るじゃん。引き算できないのか。

 

「いえ、連れがいます」

「あ、そうなんだ~。その連れって女の子?それなら…」

「いえ男です」

「あ、そーなんだ。でも、連れの人なかなか帰ってこないし、俺たちってT大生なんだけど~、今から遊びに行かない?」

 

 T大…。たしか超有名な難関大学だったっけ。…だからなんだ。大学名聞いたらって目の色変えて連れ放置してついていく女がいるわけないだろ。

 

「行かないですし、T大まったく関係ないですよね。私があなたたちについていかないのは連れがいるからですし、いなかったとしてもついて行きません」

 

 言うだけ言って、あとは無視しよう。どうせすぐ万里くんが戻ってくる。

 しかし私が思っているほど彼らは利口ではなかったらしい。

 

「こ…の!黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって!」

 

 そう言って私に向かって手を伸ばしてくる大学生A。当然ただの大学生なんて回避も迎撃も容易いが、さてどう対処しようと迷っていると、今度は聞き馴染みのある声が聞こえた。

 

 

「千束、お待たせ」

 

 そう言って姿を見せた万里くんは、ナンパ男たちなどいないかのように私に向かって微笑んでいる。

 対してナンパ男は、私の連れが来たことに気付き、どんなやつか確認してやろうとばかりに振り返って、そのまま硬直した。

 

 無理もなかろうて。

 自分たちのナンパを邪魔しに来た男を見たら、逆立ちしても敵いそうにない超絶イケメンが立っていたのだから、立つ瀬がない。

 

 万里くんはそのまま男たちを通り過ぎて私のもとまで来ると、『遅くなったお詫び』と言ってジュースをくれた。う~む、スマート。

 

「さて、行こうか千束」

「あ、は~い」

 

「っ!待てやこらぁ!」

 

 本当に最後まで男たちを一瞥することなく万里くんが歩き出したが、やはりというべきか男の中の一人が私たちに対して怒鳴りつけた。

 ことここまできてようやく、万里くんは男たちを視界の中に収めた。

 

「てめぇ!後からノコノコやってきて調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

「後から?馬鹿かお前は。そもそも今日一日俺は彼女と一緒だ。後からというのは、一人になった一瞬の隙を狙って我が物顔で己の意見だけを主張するお前のようなハエのことだよ」

 

 

 おぉう…。最近出現頻度が増えてきている黒万里くんだ。

 これ破壊力高いんだよなぁ…。敵にも、ある意味私にも。…ギャップっていいよね?

 

 

「そもそもお前らのような人間が、彼女に相応しいわけがないだろう。連れがいるという言葉を無視し、関係のない学歴を振りかざし、思い通りにならないと気付いた途端暴力に訴える?…ああ、済まない。『彼女にふさわしくない』という言葉は撤回しよう。お前らのような野蛮人は『この国の誰とも相応しくない』よ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 …鬼だ。鬼がいる。

 確かに全部正論だし、私が思ったことそのままだけど…。万里くんみたいな人にルックスのこと言われたら、心折れちゃうよ…。

 

 当然ナンパ男達に当初の勢いはなく、涙目になりながら呆然としていた。

 

「さて、千束。彼らも諦めてくれたようだし、そろそろ行こうか」

「う、うん…」

 

 諦めたというか、当分再起不能でしょこれ…。女性にトラウマとか持たなきゃいいけど…。

 

 

──余談だが…千束の祈りむなしく、彼らが在学中に女性と仲良くすることはなかった…。

 

 

────────────────────

 

「あー!楽しかった!」

 

 いくらかハプニングはあったけど、今日は超楽しかったな~!

 私は大きく伸びをしながら、隣を歩く万里くんに声を掛けた。

 

「今日はありがとね!万里くん!」

「お礼を言うのは俺の方だよ。ありがとう千束、楽しかった」

「いひひ~」

 

 あらいやだ。顔がにやけちゃうわん!

 

「今日を素晴らしい日にできたのは、千束のガイドのおかげだ。キミは最高のガイドだよ、千束」

「ぁ…」

 

 よかった。私があの時考えてた、楽しいと思ってほしいって気持ちは、ちゃんと伝わるんだ。

 でもやっぱり、こちらこそありがとうだよ…。

 

「さってと!名残惜しいけど、そろそろ帰らなきゃね!」

「そうだね。…送っていこうか?」

「ん…。いや、大丈夫!気持ちは嬉しいけど、今日は遠慮しとくよ!」

「そうかい」

 

「またいつか…。こうしてお出かけできればいいのにね…」

 

 私の時間(しんぞう)は、みんなよりも早く止まる。いつそんな時が来てもいいように、やりたいことは最優先でやる。それでも…

 

──彼とサヨナラする日が来たら…悔やまないなんて、きっとできない。

 

 もっと一緒に居たかったとか、もっとお話ししたかったとか、いろんなところに行きたいとか…

 

 

 厄介だなぁ、これが恋かぁ。

 

 それでも、この感情を教えてもらったことだけは、後悔しない。

 

 だって私はこんなにも彼のことが…

 

「そうだね。次は一緒に海外に行きたいな」

「ッ!…か、海外か~。リコリスは戸籍がないからいけないなぁ~」

「?戸籍がないなら創ればいい。それが無理でも、戸籍がないまま海外に行く方法を創ればいいさ」

「ぇ…」

 

 やることなすこと無茶苦茶だと、たきなやミズキに言われたことがある。

 そんな私でも、考えもつかなかったことをあっさりと言ってのけた。

 

「む、無理だよそんなの…」

「やりたいことの為にやる必要があるなら、やるだけさ」

 

 無茶苦茶だ。彼は、無茶苦茶だ。

 

「人は、翼持たぬ身のまま空を飛ぶ方法を創り出した。無理だと言われ続けながら、宇宙にまで飛び出した」

 

 万里くんは、何でもないような顔をして続ける。

 

「やりたいなら、やればいいのさ。できるできないはそもそも論じていない。海外に行きたいなら方法を探す。ないなら、創る」

「っ…」

 

 

 万里くんはいつだって、彼の言葉がどれほど私の支えになるかを知らないのだ。

 

 

 

「今現在(ここ)にない未来(もの)は、自分たちの手で創ろう」

 

 

 

「千束。何かを諦める必要なんてないよ。キミは、生きているんだから。やりたいこと、やっちゃおうぜ。キミは何でもなれる…どこへだって行けるさ」

───親友からの受け売りだけどね。と言ってはにかむ万里くん。

 

 

 

 あ~あ、人前で泣いたことなんてなかったのにさ…。

 

 今まで流したことのないソレは、経験がなさ過ぎて止め方がわからず、溢れるばかりで。

 万里くんは、突然泣き出した私を両腕の中に閉じ込め、慰めるようにポンポンと頭を優しく叩いてくれた。

 

 

 彼の体温を肌で感じながら、私は人生で初めて思った。

 

 

 

 

─────死にたくないなぁ。もっともっと、生きていたいなぁ。




ご覧いただきありがとうございます。

私がやったこともない二次創作にリコリスリコイルを選んだのは、千束という強すぎる少女に生きたいと思ってほしいからです。

とびぬけた主人公を描いているのは、誰からも頼られてしまう千束に、無条件で寄りかかれる人物を用意したかったからです。
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