好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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本編の続きです。

物語の重要なシーンが近付いてまいりました。


今日も変わらず

「美味しかったよ姫蒲くん。キミにはコックの才能がある」

 

 スーツを着こなした男性──吉松が、自分に食事を振舞ってくれた女性──姫蒲に満足気な言葉を漏らした。

 

「料理の道を選んでいたら、機関は支援しましたか?」

「選ぶ?…機関が支援する才能は神からのギフトだ…選ぶことなどできない。生まれながらに役割が示されている」

「…人生の意味を探す必要はありませんね」

「そうだ、幸福なことだ」

 

 そこまで話した姫蒲は、準備に取り掛かった。千束に殺人を行わせるための準備を。

 

「千束の扱いは丁重にな」

「状況次第です…お約束はできません」

「キミならできる…と言いたいが、万が一『彼』に出くわした場合はすぐさま撤退しなさい」

「…それほどですか」

「姫蒲くんがどうということではない。アレは生物としてのステージが違う。戦闘行為になった瞬間、我々が生きているか死んでいるかは相手の気分次第だ。この上なく優しく手加減してもらった上でね」

「…承知しました」

 

 大袈裟だ、と姫蒲は思えなかった。このようなくだらない冗談を言う人ではない。

 

「…あんなところでいつまでもままごとをしてもらっては困るのだ」

 

────────────────────

 

「へい、おまちぃ!」

 

 何の変哲もない昼下がり、千束が居酒屋さながらの掛け声とともに、千束考案の『千束スペシャル』が披露された。内容は日によって違うし、なんならその時々で違う。

 

 共通するのは、全部盛りと言って差し支えないほどのボリュームと、採算度外視の行き過ぎたサービス精神が故の低価格のみだ。

 

──うすうす感じていたが、そろそろ本格的にまずい。

 

 私は、以前から覚えていた危機感をみんなに共有するべく、現状を可視化することに決めた。

 そんな決意を固めた私に、いつも通りのお気楽な様子の千束が声を掛けた。

 

「たきな~。スペシャル三つだよ?」

「まずいです…このままでは…」

「へ?」

 

────────────────────

 

 たきなに見せられた帳簿を確認して、リコリコ一同声を失った。

 

「完全に赤字だなこりゃ…」

「依頼から得たお金を合算してもこれです。移動や銃弾にかかる費用はどうしてたんですか!?」

 

 たきなからの指摘に、ミズキが支援金の存在を明かす。

 そのうえで、私が考えなしに弾を撃つことや、千束スペシャルの利益の低さを指摘された。

 

 …反論できなくて胸が苦しい…。

 

「万里目当ての女どもが多くてある程度安定はしているが、そいつらはコーヒー一杯で粘りやがるからなぁ」

「女どもってクルミちゃん…。もしも本当に俺目当てなら、俺がたくさん注文してって言ってみようか?」

 

 万里くんがそう提案してきた。…そんなのダメでしょ!!

 

「それはダメよ万里くん!一度あなたがそう言ったせいで、その日から数日朝から晩まで大量注文の嵐でほぼ休憩なしで働いたの忘れたの!?」

「そうだ!全員でも手が足りなくて、ボクも駆り出されたんだぞ!」

「そのうえ万里さんは大勢の女性たちと写真だなんだと…!」

「あ、ああ…。俺は写真くらい別にいいんだけど…」

 

『絶対ダメ!!』

 

「…ごめんなさい」

 

 まったくもうだよまったくもう!

 いい加減自分のことちゃんと認識してくれませんかねぇ!

 …いや女の子本気で落としにかかったら大変だからやっぱそのままで!!

 

「とにかく!以後私が、リコリコの経理をします!」

 

 たきなが高らかに宣言したことで、その場は解散となった。

 

 

 

「…万里…」

「どうしたんだいクルミちゃん」

「……一緒に写真……撮るぞ…」

「ん?ああ、いいよ」

 

 ちょっと待てそこのリス!

 

 

 

 

 

 

 そんなことがあった日から、リコリコは正しくたきなを中心に回っていた。

 

 

 依頼でも、先生印の弾は単価が高いと発砲数を極端に管理され、酷いときには私がたきなに拘束された。…や、私が悪いんだけど。

 

 そのほか喫茶店営業でも、冷蔵庫の開けっ放しによる電気代の消費、レジ打ちが混雑することでお客さんの回転が落ちることの改善、クルミの食器割りをフォローすることによる備品代節約など、八面六臂の大活躍だった。

 

「グッドモーニ…えナニコレ」

 

 お手洗いを済ませたきなとミズキに挨拶の為近付くと、なんとも形容しがたい何かを見つけた。…形容しがたいというか、形容しやすすぎて躊躇うというか…。

 

「私が考えた新メニューです!」

「こ、これは…うん…」

 

 そこまで言った私に、ミズキが大慌てで続きを遮った。気のせいかもしれないが、私が流したお手洗いの音がここまで聞こえてくるような気さえする。

 

「う、うん…。良いんじゃないカナ?」

「本当ですか!」

 

 見た目はともかく、真面目なたきなが真剣に考えたメニューだ、味は保証できるだろう。…スイーツで見た目度外視もどうかと思うが。

 

 というか何も思わないのかたきな。あの万里くんですら、いつもの微笑を引き攣らせている。

 …でもこんな嬉しそうな顔されたら言えないよなぁ。

 

──そんなこんなでうんk…ホットチョコパフェはメニューに正式に採用された。

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。ホットチョコパフェでございます」

 

 バズった。いまだかつてないほどにバズった。DAの支部としてどうかと思うほどにバズった。

 

 話題が話題を呼び、店の前には大行列ができている。お客さんの整理に万里くんを使うことで、お客さんから不満が出ることを防いだ。

 

 

 私考案の『イケメンに見惚れて何も考えられない、一回休み作戦』だ。

 

 だがそのおかげで、誰よりも速く動ける人がいないため、店内はてんやわんやだった。

 捌けど捌けどお客さんは減らない。…けれどみんなが笑顔だ。それだけで充分だ。

 

 

 …ちなみに、ネット上での反応をたきなはまだ知らない。…このまま知らずにいられるように千束ちゃん祈っちゃう。

 

 とはいえそろそろ本格的に手が足りない。…こうなったら仕方ない、リスの手も借りたいってね。

 

「クルミ!」

「ん?」

 

────────────────────

 

「え!あんた働くの!?」

 

 渋々着替えてできた商品を運ぼうとキッチンに出向いたボクに、ミズキが愕然として声を掛けてきた。

 

「忙しいからボクにもやれって千束が…」

 

 そう言いながらトッピングがこぼれないよう一つずつ慎重に運ぶ。こんなもの同時に複数持てるヤツの気が知れん。…万里は最大で六つ同時に運んでいたが。

 

「お…お待ちどうぅ」

 

 …妙に気恥しい。なんでみんな平然と声掛けられるんだ…。

 

「可愛い~!この子ネットに載ってなかったよ!」

「お店の新人!?」

「何歳なの!?」

 

「秘密だ」

 

 ボクの返答に黄色い歓声を上げる客。…そうか、ボクは可愛いのか…。

 …ボクのことを可愛いなどと言うやつは万里しかいないと思っていたが、そうか…。

 

 

 …むふふ。

 

「ちょっとクルミ!まだまだあんだからさっさと…。何ニヤついてんだ貴様」

 

 変なことをいうやつだなミズキは。誰もニヤついてなんかない。…次はこれか。ウォールナットに任せろ。

 

────────────────────

 

 そんなこんなで俺も行列の整理から店内に戻り、全員であくせく働いていると店の電話が鳴った。

 千束たちの健診を担当している山岸という女医からのようで、千束はどうやら今日が健診予定日だったがすっぽかしたらしい。

 

 歯切れ悪く店が忙しいと告げ、なんとか別日に行くことを了承してもらえたようだ。

 

 依頼を効率よくこなしている上、店も名物メニューのおかげで大繁盛。

 

──結果、見事黒字へと回復し、ミカさんが欲しがっていたレコードや、ミズキさんが縋るように懇願した食洗器などが導入された。…俺は家電に張り付きながら泣いている人を初めて見た。

 

 

 皆でたきなに感謝していると、千束のスマホが着信を告げた。この異様な着メロは、山岸先生からだな。

 電話に出るのを躊躇う千束をよそに、たきなが横からスマホを奪うと一方的に明日健診に行かせると約束してしまった。潮時だね、千束。

 

「組員の健康を管理するのも私の仕事です」

「組員て…」

「行ってください」

「…はぁ~い」

 

 

 

 

 

 ちなみに翌日。

 千束が健診に行っている間に、たきなからパフェ販売の中止を宣言された。

 

 

──気付いちゃったんだね、たきな。

 

 

 




従業員がリコリスなのに繁盛していいんでしょうかねぇ。
というか店自体がSNSやってるのはどうなんでしょう。
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