好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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続きです。

何度見てもリコリスリコイルは緩急がすごいですね。


また恋バナしようぜ

 千束がいない時間を、たきなが格安で仕入れてきたロボットが埋めながら営業していると、店の電話が鳴り響きたきなが受話器を取る。

 

 何事か話して電話を終えた後、難しい顔で俺に問いを投げてきた。

 

「万里さん…あの、千束から何か言われてますか?」

「千束?いや、昨日も電話が来たけれど、なんてことない雑談だったよ。どうかしたのかい」

「それが、山岸先生のところに行ってないみたいで…。私ちょっと電話してみます。…昨日『も』という件については後でじっくりと伺いますので」

「うん?」

 

 何か変なことを言っただろうか。

 千束と二人で東京観光をして以来、毎日のようにたわいもない電話をくれるから、昨日『も』で合ってるんだけどな。

 

 やがて千束が電話を取ったようだが、ろくに話もせずに切られたようだ。

 

「千束、なんだって?」

「それが、急用ができたから少し遅れると山岸先生に言っておいてくれ、とだけ言って切られてしまって」

「…行こうか、千束の家」

「え?」

「たきなに伝言を頼むということは、自分から連絡することはできない状況で、けれど電話を受けることはできる。しかし長く話している時間はなく必要事項のみ伝えてすぐに切れた。…何をしているかまではわからないが、気にならないかい?」

「そう、ですね。行きましょう!」

 

 俺たちの会話を聞いて捨てられた子犬のような目をしているミズキさんに容赦なく離席を伝えて、千束の家へと向かうことにした。

 

 

────────────────────

 

「健康は大事だぜ?俺らみたいなのは特にな」

「『ら』って何よ。銃を向ける相手に言うこと?」

 

 いやいやながら健診に向かうため準備をしていた今日の朝。インターフォンが鳴って玄関を開けるとこの男(真島)が銃を構えて立っていた。

 

 モニター見とけばよかった~。襲撃目的の奴は勝手に入ってくるもんだから、まさかチャイム押して客として来るとは…。

 

「ブッ飛ばすにはまず生きてなきゃあな」

 

 そう言った真島は、躊躇いもなく引き金を引く動きを見せた。でも、相手の獲物が銃で、目の前にいるならば問題ない。躱せる。

 

 銃弾を避けた私の延長線上にあった照明が、派手な音を立てて壊れた。弁償してくれんだろうな?

 

「ハッ!すげぇな。どうやってんだ、ソレ」

「秘密」

「その心臓にタネがあんのか?」

「なんでそれを知ってる、こんにゃろ」

「秘密だ」

 

 本当に、なんで知ってるんだこやつは。当然ながら()()わかるモノじゃないのに。

 

 私の考えをよそに、当たらない銃に興味をなくしたようにテーブルの上に置き、代わりに片付け損ねたDVDを手に取った。

 

「ガイ・ハードじゃん。好きなの?」

「え?うん」

「誰好き?」

「警官」

「あいつな。マクレーンに会ってもないのに相棒になるあの感じ!」

 

『そんでラストシーンで!』

「…あ」

 

 しまった。この映画を語れる相手なんていないから、つい熱が入った。挙句の果てにハモるとか、このコンビネーションを万里くんと発揮したい。

 …まあいいや。ここでドンパチするつもりはなさそうだし。

 

「あー、コーヒー淹れるけど?」

「苦いのダメなんだ。ほかのモンない?」

 

 人の家に勝手に上がり込んで好き嫌いとか!そんな奴もてなしてる私も私だけど!

 

 少しイラっと来たから、黙ってブラックコーヒー出してやった。

 

「ぐぇ!」

 

 ざまあみろ。溜飲が下がったので角砂糖を恵んでやり、本題に入ることにした。

 

「んで、何しに来たの」

「ああ…。お前、俺のこと覚えてるか?」

「あ?ボコスカ殴られた」

「もっと前だ。…覚えてないなら、昔話をさせてもらうか」

 

 

 そう言って電波塔事件のことを語り始めた真島。

 

 曰く、私一人に全滅させられ、真島自身も手も足も出なかったと。

 

 確かに最終的に私一人で制圧したが、あいにくと星の数ほどとっちめてきた悪人一人ひとりの顔など覚えていたくないし、そもそもずいぶん昔の話だ。

 …ていうか。

 

「人を怪物のように描写するな」

「実際バケモンだよ。…思い出したか?」

「お前のことなんか知るか」

「ハッハッハ!だよな!」

 

 なんだこいつ。覚えられてなくて爆笑とかMなの?あと今更だけど、あの爆発に巻き込まれてよく生きてたね。あんたも十分バケモンよ、おめでとう。

 

 ひとしきり笑った真島は、服の内側からあるモノを取り出した。アラン機関から支援を受けた、突出した才能の証を。

 

「俺も持ってるぜ」

「じゃあ何でこんなことしてんの!?」

「…は?」

「それを持ってるってことはなんか才能があんでしょ!誰かを幸せにするような…」

「お前だって殺し屋じゃねぇか」

「私はちゃんと人助けしてる!」

 

 真島は、なぜか興が冷めたと言いたげな表情をしていた。

 

「お前…。アランを平和推進機関だとでも?」

「あんた以外はそういう結果を残してる」

「私もほかの奴らみたいに世界に希望を与えたいってか。…おめでたい奴だ」

「っ」

「アランはそんな連中じゃねぇ」

「何て言われても、私にはヨシさんとの約束がある。…『コレ』がその証。あんたが私より何かを知っていても、私はやりたいようにやる」

「いいねぇ。やっぱ俺とお前は同じだ。…大将ともな」

「!」

 

 大将…。こいつは前にも、万里くんのことをそう呼んでた。

 

「あんた、万里くんのこと知ってるの?」

「ああ…。そういやそんな名前だったな大将。作りモンみてぇなイケメン兄ちゃんのことなら、俺のマブダチだ」

「嘘つけ」

「嘘じゃねぇさ。あいつが20になったら呑みに行く約束してんだ」

「なにそれ!?」

 

 万里くん!なんでこんなやつと!

 …いやでも、なんとなくだけど、この二人相性よさそうだな…むぅ。

 

「なんだお前、やっぱ大将のこと好きなの?」

「は、はぁ!?」

「声でか。わっかりやすいなお前」

「な、な、なんで!?」

「なんで…って隠してるつもりだったのか?『あの時』お前が大将を見る目、完全に恋する乙女だったぜ。メロメロだ」

「メロメロ!?」

 

 嘘でしょ!?一回しか一緒に居るところ見てないコイツにまでバレてんの!?

 じゃあ無理じゃん!お店の皆は勿論、常連さんにも絶対バレてんじゃん!最近ずっとニヤニヤしてたのそういうことかアイツらぁ!

 

「まあ安心しろ。大将にだけはバレてねぇだろ」

「…それはそれでどうなのよぅ」

「…ドンマイ?」

「気を遣うなブッ飛ばすぞ!?」

 

 そう怒鳴った私を、こいつは大笑いして流した。…笑いすぎだろブッ飛ばすぞ(二回目)

 

「はー笑った笑った」

「ブッ飛ばすぞ(三回目)」

「ワリィワリィ。…話を戻すがな。アランの連中は純粋なんだ。俺たちの『殺し』を肯定できるくらいにな」

 

 そう言って銃を懐に収めて立ち上がる真島。…え、ちょっと。

 

「え、帰んの?」

「お前の相棒が来たからな」

 

 そう言って玄関へ向かう真島。そうはいかない、コイツには前々から聞きたいことがあった。

 

「あんた…なんで殺さないの?」

「あん?」

「こんなに大ごとをポンポン起こすくせに死者を出してない。…なんで?」

「なんでって…聞いてないのか?」

「何を」

「…大将との約束なんだ。『向かってくるエージェントたちに知り合いはいないだろうが、俺の大切な人たちの知り合いかもしれないから、命を奪うのは止めてくれないか』ってな」

「!」

「詳しく言う気はねぇが、俺はその前に大将に命を救われてる…仲間も含めてな。バランスを取るために約束を守ったのさ」

 

 真島が言って聞かせた事実に、私は驚愕から抜け出すのに時間がかかった。…でも、それじゃあなんで…。

 

「『それじゃあなんでいまだに殺していないのか』か?」

「!」

「図星って顔だな…。確かに約束を守り続ける必要はねぇ。大将との恩と約束のバランスも取れてるしな」

「…じゃあ」

「でもまあ、もしそれで俺が殺しを再開しようもんなら、あのバケモンが本気で止めに来る。そうなりゃその時点で詰みだ」

 

 確かに。万里くんの本気を相手するなんて、彼の前で何か一つでも動作を終わらせられると思えない。

 

 

「それに、大将の言いたいことも分かってきたような気がすんだよ」

「?」

「あいつは前に、DAが気に入らないって言ってやがった。…わかる気がするよ。上層部は手を汚さず、次々と補充できる(リコリス)に汚ねぇことは全部お任せ。それで得た成果はDAのモンだ」

「…」

「リコリスを一人二人殺ったところで、あいつらは痛くもかゆくもねぇ。ならもっと完全無欠に勝つ。…手加減された上に敗けたなんていうレッテルを張ってやろうと思ってな」

 

 そう言って真島は今度こそ家を出るために歩きだした。

 

 

 

 

「じゃあな、アランリコリス。…また恋バナしようぜ」

「はよ帰れ!」

 

────────────────────

 

「たきな。俺の後ろに下がってくれ」

「え?」

 

 千束の家に着き、インターフォンを押そうとした私の手が万里さんよって遮られた後そう言われた。

 

「あの…?」

「千束の家の中から近付いてくる気配…。大きさも近付いてくる速さも歩幅も全くの別人だ。…今から千束ではない人物が出てくる」

「え…」

 

 万里さんの言葉を認識した直後、ガチャリと音を立てて扉が開いた。

 

「おや、真島さんか」

「うぉ!…大将も来てたのか。青い方のリコリスは分かってたんだが…。相変わらず足音なさすぎだぜ大将」

「驚かせてしまったかな」

「な、な、な」

 

 千束の家から、堂々とテロリストの親玉(真島)が出てきた。それだけでも驚きなのに、万里さんと親し気に会話している。

 

 呆気に取られていた私だったが、気を取り直して真島に銃を向けようとして、万里さんの手に握られたままだと気付いた。

 

「万里さん!手を放してください!」

「そうすると発砲する気だろう、たきな。それは許容できない」

「どうして!」

「ここで真島さんを捕らえても、後に続かなければそれで終わりだ。リーダーを失った組織は瓦解する。解散するだけならばいいが、なりふり構わず千丁の銃を振り回してあちこちで暴れだす可能性もある。真島さんは捕まったとしても口を割るタイプでもないだろうしね」

「…!」

 

 万里さんの言う通りだ。真島一人を捕らえた結果が『ソレ』なら、ここで真島を捕らえるのはむしろデメリットになり得る。

 彼の言うことを理解した私は、万里さんの手を剝がそうと込めていた力を抜いた。…せっかくだから万里さんの手の感触を堪能しておこう。

 

「さっすが大将。いい判断だ」

「まあ生きているとはいえ、俺のお仕置きで相応の目には遭っただろうしね。…しかし真島さん、一つだけ確認したい」

「どうした大将、何でも聞いてくれ」

 

 

 

「あなたは今千束の家から出てきたわけだが、まさか怪我などさせていないだろうね?」

 

 口調も声音もいつも通り。だというのに私は、全身に鳥肌が走った。

 後ろに庇われた私から万里さんの表情は確認できないが、対面している真島の顔が明らかに引き攣っている。

 

「…一発撃ったが避けられて、あいつには怪我一つねぇ。…セーフか?」

「アウトだね。今後はそこそこ俺も出るから、覚悟しておくといい」

 

 万里さんの返答で、まじかーと言いながら頭を抱えている。

 

自分(てめぇ)で難易度上げてりゃ世話ねぇぜ」

「誤魔化す必要はない。決着をつけるんだろう?」

 

 そうだ。真島は万里さんに向けてのメッセージを警察署襲撃の際に残していた。

 

「ま、あいつに怪我がねぇのは本当さ。…そろそろ俺は帰るよ」

「ああ。気を付けてね」

「あんたが言うな」

 

 またな電波塔のリコリス、大将──そう言い残して真島は去っていった。

 

 

────────────────────

 

 翌日。

 

 千束は家に真島が来たこと、真島もアランの支援を受けている可能性が高いことを店長たちに報告した。

 千束には私からの電話を必ず三コール以内に出ること、でない場合は直後にワン切りして急行すること、真島が来たセーフハウスを離れることを約束させた。

 

「DAの銃じゃないですよね、ソレ」

 

 姿が見えない千束を探して店を出ると、ベンチに座って彼女が愛用する銃を磨いていた。

 千束曰く、ペンダント共に送られた銃で、大切なもの。

 

「あれから来ないねぇ…ヨシさん…」

 

 こんな時何を言えばいいのか、何を言っていいのかわからないけれど。

 

──千束にそんな顔は、似合わないから

 

 

「はい、コレ」

「これって保育園の時に配ってたやつ?くれるの!?」

「欲しかったんでしょ?」

 

 一転して明るい表情になった千束は、中身を見て喜びの声を上げた。

 

「おおイッヌ!!カワイイ!」

 

 何の変哲もないストラップなのに、彼女は嬉しそうに、リコリス愛用のサッチェルバッグにそのストラップをつけてくれた。

 

「たきな…ありがと…」

「っ…。健診!ちゃんと言ってくださいね!」

「え~。わかったよぉ」

 

 万里さんしかり千束しかり。私は真っ直ぐな言葉に弱いらしい。素直じゃない自分に呆れて小さくため息を吐いた。

 

「何がそんなに嫌なんです?」

「嫌なんじゃなくってぇ…。ちゅ、注射が…」

「注射が怖いんですか?銃向けられても平気なのに」

「~もう!そうだよだって注射避けられないし!」

「フフフ…」

 

 思わず笑ってしまった私を、気恥しそうにしている千束がジトッと見つめてくる。

 やっと笑いが収まった私に、話題を変えて千束が話しかけてきた。

 

「そ、それにしても…最近大活躍だねぇたきな」

「…お店が潰れないようにしただけです」

 

 そうだ、結局のところだけだ。

 

 

 

「大切な場所なんでしょう?」

 

 

 とてもとてもうれしそうに微笑む千束。

 

 千束にとっての大切な場所。でもそれだけじゃない。

 

 もう、私にとっても。 

 

 

────────────────────

 

 販売を終了したとはいえ、パフェのおかげで集客が増え、店自体のリピーターも増えた。

 安定した黒字経営に、良好な人間関係。

 

 千束が、万里さんが…リコリコの皆が、DAを追い出されて行き場のない私に居場所をくれた。

 

 今は、ここが私の居場所。…そう胸を張って言えるようになったのに。

 

「千束…千束!!」

 

 

 一コール…二コール…三コール…

 

 

 

 

 

 

 千束は、電話には出なかった。




アニメ視聴者及びたきなを絶望に叩き落とした罪は重いぞ、姫蒲。
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