好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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真島の声が良すぎるな…
好きなセリフはマイハッカーです。


無敵

 神とやらは気まぐれで、意地悪だ。

 

 

 

 

 千束を誘って一日お出掛けの最後の計画…街を見下ろせる公園のベンチで、予定時刻通りに振り出す雪を眺めながら、千束に異動を伝える。

 完璧な計画のはずだったのに…

 

 

「今日だけは、辞めてほしかったですね」

「なんで?」

 

 今日、私はリコリコを去る…千束に死んでほしくない、生きていてほしいから。

 万里さんの傍に…千束の隣に立てなくなるのだとしても、それがわたしの()()()()()()だから。

 

 千束にさようならを告げるために企画した今日のお出掛け。自分で計画するなんて初めてだから、千束が楽しいと感じてくれているかずっと不安だった。

 

 けれど彼女は、私といればそれで楽しいと言ってくれた。──私も同じ気持ちだ、とは返せなかったけれど。

 

「DAに戻れるのかな~?」

「っ!」

「やっぱり~!よかったじゃん!いつ?」

「明日…」

「…嬉しくないの?」

 

 私は…嬉しくないのだろうか。

 

「…わかりません」

「そっか。確かに降ればよかったな~」

「…理不尽なことばかりです。…そうは思いませんか?」

「自分でどうしようもないことで悩んでも仕方ない!受け入れて全力。それで大体うまくいくんだよ。それに、たきなの計画は大成功!今日はめっちゃ楽しかったぜ!…やるなぁ」

 

 

 そうだ…この人はいつもそうだった。初めの頃はただ能天気な人だと呆れさえしていたのに、気付けば彼女のこういうところを眩しく思っていた。

 万里さんはいつも千束のことを強いと評していたけれど、その意味がやっと分かった気がする…現実を現実として受け入れることができる心の強さが、彼女の本質だ。

 

「…やったぜ」

 

 千束が突き出した拳に自分の拳を合わせる。意味がある行動ではないが、だからこそ意味があると…なぜかそう思えた。

 

「あ…今日中にDAに連絡しないと」

「うん。ほら行って行って!」

 

 千束の声に背中を押されて歩き出すも、寒そうだからと貸し出されたマフラーの存在に気付いて足を止める。

 

「あの、コレ(マフラー)…」

「餞別だ!もってけ!」

「…ありがとう。…行ってきます」

 

 そう言ってその場を離れた私の頭上から、小さな雪が落ちてきた。

 少しタイミングはズレたけれど、雪は確かに降っていた。嬉しくなって振り返ると、千束も同様に私を見ていたようで目が合った。

 

「…」

「…」

 

 お互いに声を掛けたりはしない。身振りで何か伝えるわけでもない。目が合っただけだが、それだけで充分だった。

 

 千束にさようならを言うことはできなかったが、それでいいと思えた。別れの言葉(そんなもの)は、言う必要がないのだ。

 

 

 行ってきます。それでいい。行って、また来るのだから。

 

 二人で雪を見た。ならば今度は桜を見る。たかが二か月で終わりになんてしない。

 

 

 私は一人じゃない。───私たちが揃えば、無敵なんだから。

 

 

────────────────────

 

「ホントに論文から追えるの?」

「あんな人工心臓なんて治験も難しい…実験する機会をアランが与えたんだろう」

「まあ確かに、入れてみて失敗したら死んじゃうしねぇ」

 

 私たちは、クルミが万里くんに頼まれた人工心臓について学会に発表された論文を片っ端から追っていた。

 

「万里くん曰く、アランがその才能に目を付けたきっかけがあるはずで、可能性が一番高いのが論文…だそうよ」

「だろうな。ボクも同意見だ」

 

 頭いいのが二人そろうと怖いもんなしねこりゃ。

 そんなことを考えていると、ふすまが唐突に開き千束が顔を出した。

 

「クルミー」

『うぉお!』

「…なにしてんの」

 

 クルミと二人してPCの画面を隠そうとしたが、千里の動体視力の前では何の意味もなかった。

 

 千束はすべてを察したようにため息を吐くと、もう終わりにしようと言い出した。

 

 

「リコリコは閉店します」

 

 

────────────────────

 

「閉店?どういうことだい」

 

 万里くんがリコリコにきたので、すでにみんなに伝えていた内容と同じく彼にも店じまいを告げた。

 

「あんまり私のことでみんなの時間を使うのも悪いし、この店は最後まで楽しい場所じゃないと!」

「千束はいいのかよそれで」

「元々そういうつもりだったの。むしろ長かったくらい…ね、ミズキ」

「…」

「…」

 

 私は自分のことで誰かの時間を奪うのが嫌だ。みんなには普段通りでいてほしかったけど、やっぱりそれは難しいみたいだから。

 

「みんなもたきなを見習って、それぞれの道に戻ろう!」

 

 そう言って、みんなのこれからの話を聞こうと思っていたけど、万里くんが大きく息を吐いた…まるで苛立ちを誤魔化すような。

 

「万里くん?どうしたの?」

「ああ、済まない。いい加減この二人の優柔不断さに嫌気がさしてね」

『!』

 

 

 万里くんがまるでヨシさんや楠木さんみたいな、自分が気に入らない人たちに向けるような冷めた目をしていた。

 彼は心底失望したような表情で、先生とミズキを順に見回した。

 

「あなた方にはもう少し期待していたんですが…。買い被りすぎていたようです」

「あ、あの…万里くん?」

「なんだ」

「ぅ…。先生たち、なにかしちゃった、かな」

「なにかした?逆だ、何もしていないだろう」

「ぇ…」

 

 私たちの戸惑いに対して、説明しないといけないことへの苛立ちからか小さく息をつくと、万里くんは語り始めた。

 

「『千束が望んだことだから、千束が決めることだから』といつまでもウジウジとくだらない。

 挙句の果てには店を閉める決断までした千束に対して言葉を返すことすらできないとは…。逆に何ならできるんです?」

「…私は」

「…ミカさんに至っては千束があの三下を探していることを知っていたうえで、ずっと黙っていた。約束を守ったと言えば聞こえはいいが、結局のところどちらにもいい顔をしたかっただけでしょう?」

 

 

 万里くんは先生を詰問している。…ただの揉め事ならいざ知らず、私のことなら私が口を挟んでも問題ないはず!

 

「ちょっと万里くん!」

「なんだ千束、大きな声を出さなくても聞こえている。…まさか『先生を責めるのは止めて』なんてことを言うつもりじゃないだろうな?やりたいこと最優先、だ。俺は今ミカさんに質問の答えを聞きたいんだがな」

「っ!」

 

 怖い。相手の意見に対して徹底的に逃げ道をつぶすこの論調は、何度も見ていたはずなのに。

 それでも万里くんは、この短い沈黙の中で冷静さを取り戻したようで、小さく深呼吸をすると恥じらうように謝罪した。

 

「…すまない、言い過ぎてしまった。特に千束に対しては完全に八つ当たりだ…本当に済まない」

「あ、いやいや私は全然!」

「ミカさんとミズキさんも、すみません…。俺はリコリコが好きだから、閉店と聞いて感情的になってしまいました」

 

 万里くんはそう言って二人に頭を下げた。

 でも二人は、全然気にしてないという風体で首を振った。というか実際言った。

 

「気にしなくていいわよ。万里くんの言う通り、わたしはなんにもしてない」

「私もだ。…すべて、キミの言う通りなんだ」

「…」

「千束に使命を伝えられるほど非情になれず…かといってシンジにコンタクトを取って縁を切れるほど優しくもなかった。…どちらにもいい顔をしたかった。その通りだ」

 

 万里くんはまた、小さく謝罪すると店を出ていこうとする。慌てて引き留めた。

 

「万里くん!二人は気にしてないって!もちろん私も!だから…」

「ああ、誤解させて済まない。単純に用事あってね。DAに呼ばれているんだ」

「それって…」

「真島さんを討伐する大規模作戦が明日行われて、俺も参加することになっている。そのブリーフィングだね」

「ええ!」

 

 なんで万里くんがDAに!?ていうか作戦に参加ってどゆこと!?

 

「それじゃあまた…。それと最後に、千束」

「な、なに」

 

「この際だから言っておく。千束の心臓や体調のことを俺たちが考えているのは、俺たちが千束のことを好きで、そうしたいからだ。

 やりたいこと最優先…キミのために時間を使いたいんだよ」

「!」

「たきながDAに戻ったことも、クルミちゃんが人工心臓の情報を集めるのも、俺が作戦に参加するのも、すべて自分がやりたいからだ。たとえキミにだって止められる筋合いはないよ」

 

 

 万里くんの言葉に、みんなの顔を見渡してみる。誰もかれもが、穏やかな顔で私を見ていた。

 

「先生…みんな…」

「…どうした、千束」

「閉店の話…なしにしていい?」

『!』

「みんなの時間を邪魔したくない…でも、それ以上にみんなと一緒に居たい。…変かな」

 

 

『変じゃない!』

 

「…ありがとう。あ、でもやることはいっぱいあるし一旦は休業ってことで!」

「異議なしだ。俺も作戦が終わった後はこの店に復帰したいしね」

「万里くん…うん!」

 

 ダメだな~。十年間ずっと、死んじゃう時に後悔しないよう全力でって生きてきたから、すぐ十年が限界だって考えが戻ってきちゃう。

───でもそうじゃない。私だけだったら絶対無理だけど。

 

 

 

 私たちが揃えば、きっと無敵だ。




とうとう味方にまで牙をむいた主人公くん。すぐ仲直りしましたが。

彼はまだまだ子供ですので、なんで納得してんねん止めろや!という気持ちのまま怒ったようです。
彼の言う通り感情的になっているだけなので正当性はありません。
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