好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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続きです。

死ぬことなく探索を進めていた我らが勇者様は、ティッシュを捨てるために画面から目を離した一瞬の隙に落雷にて初御臨終したので投稿です。


聞いていたか馬鹿

 休業を発表した喫茶リコリコ──理由を説明できないから、濁した感じの張り紙になっちゃった結果常連さんたちが相次いで理由を尋ねにリコリコにやってくるため、その対応に追われていた。

 

「つ、疲れた…でも、なんか嬉しいね」

「ああ」

 

 やっとひと段落着いたと力を抜いた私の言葉に先生は頷いてくれた。

 

 その後、渡したいものがあると言われて先生と一緒に物置に向かい、大きな木箱を渡された。

 

「なにこれ…ライフル?」

「お前のだ。開けてみろ」

「…カギ閉める?またお客さん来るかも」

「いいんだ。武器じゃない」

 

 先生にそう言われ、木箱の蓋を開いて中を見る。

 艶やかな色の布と白い足袋…その他装飾品が多数。これって…

 

「…着物?」

「お前の晴れ着だ。…成人式にはちょっと早いがな」

 

 私の…晴れ着。先生が用意してくれた、私の。

 胸の内からあふれてくる擽ったい喜びに、思わず先生に跳び付いた。

 

 先生は苦笑しながら着てみなさいと言った。

 

 

 

 

 

 私と先生しかいない店内で、カシャリとシャッター音が鳴り響いた。

 

「どうどう!?」

「ああ、よく撮れている」

 

 先生は全くもう!

 

「そーじゃなくて!先生の感想を聞いてるの!」

「もちろん素敵だよ。…すっかり大人の女性だな」

 

 むふふ…いや~照れますなぁ~。

 

「ありがとう先生」

「…お前に感謝されることなど、なにもできていない」

「またまた~…私に名前をくれたのも、銃を教えてくれたのも、この店も、たきなたちに出会えたのも…。なにより、私のためにヨシさんを探してくれたのも先生じゃん!」

 

 そうだ!さっき撮った写真をヨシさんに送ってもらおう! そう思って提案した私の声が先生の鋭い声に遮られた。

 

「ど、どしたの先生。大きな声出して…」

「…千束。シンジのことで、話したいことがある」

 

 

────────────────────

 

 延空木セレモニーが始まろうとしている現在、私たちは、真島が乗ってくるであろうエレベーター全基を、複数のチームで包囲している。

 

 私達全員が銃を構え扉が開いたと同時に発砲する手はずになっている。万里さんは発砲している間は身を潜めて…って

 

「万里さんがいません!」

「はぁ!?」

「さっきまですぐそこにいたはずっしょ!?」

 

『ああ、居たよ。みんなの目が逸れたすきに全速力で走って離れたけどね』

 

 周囲に万里さんの姿がないことを報告すると、耳にしている通信機器から万里さんの声でカラクリを説明された。

 

「万里さん、今どこに…なぜ離れたんですか!?」

『ん? だって延空木(そこ)に真島さん来ないだろうから』

「…え」

『どういうことだ神楽。なぜ報告しなかった』

『おや…馬鹿に注意されるとは思わなかったが。俺が真島さんはそこに来ないと報告したとして、馬鹿なあんたは素直に言うことを聞いたのか?』

『…』

『できもしないことを他人に求めるな、だからお前は馬鹿なんだ』

 

 

 真島襲撃作戦から万里さんは司令に対して、ほとんど形だけだった敬語すら付けなくなった。

 曰く、馬鹿に難しい言葉遣いをしてもかえって混乱させるから、だそうだ。

 

 

 そして彼の予想通り、エレベーターは私たちがいるフロアで止まらずそのまま上昇を続けていた。

 

『さて、そろそろ真島さん自身から何か動きがあるはずだ』

「どういうことだ万里!」

『キミたちリコリスを延空木におびき寄せてはいおしまい。という訳ではないだろうからね…聞いていたか馬鹿』

『…なんだ』

『作戦に参加しているリコリスは勿論、全リコリスに発砲および武器の所持禁止を徹底させろ』

『どういうことだ』

 

 司令の質問に心底呆れたような溜息を一つ。正直言って私も意味は分かっていないが、ここでそれを言う勇気はない。

 …ちらっとフキさんを見ると、彼女も同じく理解が追い付かないようで小さく首を振っていた。

 

『…真島さんが調達した千丁の銃の使い道がいまだ不明だ。千人の兵隊を用意できるならそれこそいつでもリコリスを排除できた。…だが現実としてそれは行われていない。最初はただ兵隊を準備できなかったのかと思ったがそれも違う。希望的観測で準備するほど千丁の銃は安くない』

 

 万里さんが自分の考えをまとめるかのように、半ば独り言のごとく呟いている。

 

『そもそも今回の件で使うものではなく、別の仕事で使用するものだった…違うな、所持するだけで罪に問われる日本で事前準備をする理由がない。ならば今ある情報で考えられるのは一つしかない』

「一つって…なんですか?」

 

『千丁の銃を無差別にバラまくことだ』

『…?』

 

 重々しく口を開いた万里さんには悪いが、よくわからない。こんな大それたことをしておいて、目的が銃をばらまくこと?

 

「万里…すまないが言ってる意味が分からねぇ」

『フキか…。そうだね、キミには…いや、リコリスにはあまりピンと来ないかもしれない。日常的に銃を手にし、その脅威を知っているキミたちには』

 

 そう前置きして、彼はその考えを共有してくれた。

 

『そもそも銃とは、この日本で普通に暮らしていれば一生に一度本物を見るかどうかという代物だ。そんなものが千丁無差別にバラまかれると、DAであってもすべての回収は困難を極める。

 …興味本位で手にした一般人が興味本位で引き金を引き、本当の銃弾が発射されたとき、この国は大混乱に陥る。そして現代の情報化社会だ。一件二件ならお得意の情報操作でどうにかなるかもしれないが、千の事例に対応しきるのは不可能だ。よしんば操作ができたとしても、自分の目で直接見た者たちはどうしようもない…分母が大きすぎるからだ』

 

 背筋が凍る。鳥肌が立つ。

 

『そうなってしまえば、DAの大好きな治安もモラルもすべてが吹き飛ぶ。銃という特記戦力は、人の暴力を肯定してしまう…力には力でということだね。運よく…もしくは運悪く銃を手にした選ばれた千人が暴れまわり、リコリスが鎮圧に回る。そうなれば目撃者もネズミ算的に増えていく』

 

 そうだ。私たちはリコリスだからこそ気付かなかった。あの万里さんですら、リコリコに来るまで銃に触れたことすらなかったじゃないか。

 

 

 

『もちろんこれは推論に推論を重ねた最悪の想定だ。真島さんの目的は全く別にあるかもしれないが、この最悪を引き起こさないために、リコリスは銃を抜かないことをおすすめする。おそらくすでにばら撒きは完了しているだろうからね』

 

 

 

 

 万里さんが話をそう締めくくった直後、延空木セレモニーのためにそこかしこに設置された街頭ビジョンに真島の姿が映し出された。

 

 

 真島が滔々と話す内容は、ほぼすべて万里さんの推論通り。裏で犯罪者を殺害している組織の存在(DA)そのエージェント(リコリス)…この国の平和の実態を放送を見ているすべての人々に言って聞かせる。

 その後真島は、やつの背後にある窓ガラスに向けて一発の銃弾を発砲。ひび割れたガラスを背に『これと同じものをバラまいた』と宣言した。

 

 その後ほどなく配信が切断されたが、もう遅い。最悪の推論が現実になって目の前に現れた。

 

 

『銃を持った民間人にはかかわるな!絶対に発砲するな…リコリスの存在をあぶりだすことが、真島の本当の狙いだ!』

『今俺が全部言っただろうが。お前がこの推論をもっと早く立てられていればこんなことにはなってない』

『くっ…』

『…すでに後手だがまあいい。真島さんを捕らえるために徹底抗戦か、自分たちの存在を秘匿するために銃を下げるか…選択の時だ、楠木司令殿?』

『…』

『…先ほども言ったが、俺のおすすめは銃を下げることだ。リコリスが銃を所持していることが恐慌状態の一般人に知れ渡れば、少しの刺激で大パニックだ』

『…』

『…聞いていたね、リコリス諸君。銃は背中のカバンにしまって絶対に取り出すな。万が一キミたちが発砲しているところが見られでもすれば、暴徒と化した罪なき市民たちに襲われる危険性がある。キミたち含め、彼らにもけがをさせたくなければ徹底してほしい』

 

 司令の決断を待つことなく、万里さんが通信で全リコリスに通達した。少なくとも今ここにいるリコリス達は、ファーストのフキさん含め彼の言う通り銃を収めている。

 

 

「万里さん。私たちは言う通りにします」

『たきなか…ありがとう。リコリスだけじゃなく、俺はこの行動が一般人を守ることに繋がると思っている』

 

 私が代表してそう伝えると、私たちの班以外のリコリス達からも次々と賛成した旨の通信が入った。

 

『…だそうだ、楠木司令殿。あんたの代わりにみんなが決断してくれたよ』

『……わかった』

『どうも。何かあった時の責任はとれよ。誰の銃弾も届かないそんな場所でふんぞり返っているだけの司令にできることなぞ、その程度のものだからな』

 

 万里さんは吐き捨てるようにそう言うと通信を切った。

 重苦しい空気があたりを包む。

 

 

 

 身寄りのない孤児を集め、平和の為と声高に殺人を強要させた挙句すべての隠蔽しなかったことにしてしまう組織と、かたや一般人を巻き込んだとはいえ鉄火場の最前線に自ら体をさらし、自分の考えを自分で主張する真島達。

 

 ───善し悪しは別としても、どちらの方が卑怯なのだろうか。




拙作の司令ポンコツすぎんかと思ってアニメをみなしても大差ないポンコツでした。

アニメ第十話の「追い詰めたということだ」の手玉に取られている感は何度見ても痛快です。
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