好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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続きです。

そろそろストーリー進めるか→お、祠じゃん→あ、洞窟じゃん→深穴じゃん→ミニチャレンジのために街に戻るか→以降ループ

進まんってこれ。


好きな人ができたよ

 

「教えてくれ…千束…」

 

 

 先生が、今まで見たことないほどに憔悴している。

 

 先生から、ヨシさんが私を助けてくれた本当の理由を教えてもらった。先生も最初は同意してて、一緒に過ごすうちに私のことを大切に思うようになったことも。

 先生がどれほど悩んだのか、私なんかじゃ分かりっこないけど。

 

「ありがとう…先生。私に決めさせてくれて…。それ聞いてたら多分敗けてた」

「…」

「そんで仕方なくリコリスの仕事して、嫌なことや辛いことは先生とかヨシさんのせいにしてたと思う。…それは嫌だ、ないない」

「千束…」

「私の仕事もこのお店も、全部私が決めてやったこと。それをさせてくれた先生とヨシさんへの感謝は、今の話を聞いても全然変わんない」

 

 面と向かって言うのは初めてだけれど、ずっと前から()()思っていた。

 

 

「二人とも…私のお父さんだよ」

 

 

 先生の瞳から涙が溢れている。先生が泣くとこなんて初めて見たな。

 

 

「すまない千束…」

「ほら先生泣かないで!先生こそどう?こんな千束は好き?」

 

 どうにか笑ってほしくて、身にまとっている晴れ着を自慢するようにおどけて聞いてみた。

 

「ああ…。自慢の娘だ」

 

 先生は、涙を流しながら…それでも笑ってくれた。

 そして私には、もう一つ感謝していることがある。

 

 

 

「あのね先生…」

「…?」

 

 

「私…好きな人ができたよ」

 

 生まれて初めての恋。

 

「その人はね…自分一人で何でもできちゃうのに、全部を一緒にやってくれるんだ。たきなと一緒に掃除したり、ミズキの愚痴に笑顔で付き合ったり、クルミと一緒にだらだらゲームしたり、先生と一緒にコーヒー豆の買い出しとか。そんでいっつも…私に振り回されてくれる」

「…」

「その人と出逢えたのもリコリコ(ここ)だった。…だからありがとう。やっぱり私は、私が一番いい!」

 

 言ってるうちに何だか恥ずかしくなって、とりあえず笑顔で誤魔化した。

 

 

 先生はそんな私に、涙を流しながら笑顔で、それでもやっぱり震える声で『今度その人を紹介してくれ』と言った。

 

 

────────────────────

 

 この失態を取り返すにはどうすればいい…

 

 真島の演説で、日本中の民にリコリスの存在が仄めかされた。ヤツ自身の言葉と神楽の推論で全リコリスに武器所持禁止の通達は完了しているが、それだけでは解決しない。

 真島の電波ジャックを防ぎ、ヤツの映像の遮断が完了した途端、できる限り見たくない狸爺の顔が大写しになった。

 

「楠木くん…これはどういうことかね」

「…情報操作はラジアータでいくらでも可能です。リコリスの存在は必ず秘匿されます」

 

 無理だ。ヤツの映像を見たものは多過ぎて対処の仕様がないし、個人で記録を残しているものも多いだろう。

 しかし狸爺はあの悪魔(神楽)ほどは知恵が回らないようで、特に言及されることはなかった。

 

「…しかしリコリスの存在を国民に示唆されてしまった。これは失態だな」

 

 うるさい!わかっているから作戦を考えねばならんのに、このような小言の通信で邪魔をするな!どうしてもというなら貴様が作戦を考えつつあの悪魔の対応をして見せろ!

 

「錦木千束をなぜ使わん。こういう時のために飼っていたのではないかね」

「作戦立案は我々にお任せください」

「…楠木くん。我々を甘く見ているのではないか?…もう一度言う、錦木千束を使え。キミにはそれしかない」

 

 私に選択肢がないことなど分かっている。…ならばせめて狸爺、覚悟しておけ。

 我々のこの行動は『最強』にとっての地雷だ。ヤツの恐ろしさを貴様も味わっていけ。

 

 断頭台に上がる死刑囚のような気分を味わいながら、リコリコへ通信を開始した。

 

 

────────────────────

 

 やっと落ち着いた先生と『彼』について語り合おうと思っていた私の耳に、けたたましいサイレンの音が響いた。

 

 すぐにテレビをつけると、延空木が乗っ取られたというアナウンサーの声と、銃を片手に嫌らしく笑う真島の姿が映し出された。

 

「…なにこれ」

 

 そうつぶやいた途端、店の電話が鳴った。

 

───このタイミングでの電話は多分

 

 そう考えていると、今度は私の携帯が鳴った。忙しいなぁもう!

 

「千束は今、手が離せそうにないんだが…」

 

 やっぱり、楠木司令だ。今届いたテレビ電話の意味が分かるかもしれないし、電話に出ないわけにはいかない。

 

「先生、貸して…千束です」

『今すぐ本部に来い…我々と共に延空木の真島を撃て』

 

 司令の電話を聞きながら先生にスマホの画面を見せる。

 縛られたヨシさんが映し出された、その画面を。

 

 スマホを空いていた左耳に当てると、少し高い男性の声が聞こえてきた。

 

『延空木に近付いたらこいつ(吉松)の命はない…一時間で起爆する』

『お前のようなリコリスが必要だ。…多くの命が掛かっている』

『お前のようなリコリスに来られると面倒なんでね』

『誰かいるのか』

「楠木…あとでかけなおす」

 

 先生は両方の耳から真逆の指示を受けて混乱している私から受話器を奪い、一方的に告げると司令からの電話を切ってしまった。

 

『それでいい。妙な真似するなよ…ずっと視ているからな』

 

 その言葉に反応して窓を見ると、複数のドローンが滞空してこちらを見ていた。

 

「…罠だろうな」

「だからって見殺しにできないでしょう!」

「…さっきも言ったがシンジは…」

「先生を疑ってるわけじゃない!でもヨシさんから直接聞きたい」

 

 先生は小さくため息を吐いた。呆れたというよりは、しょうがないと言ったような…先生がよくしていたものだ。

 

「…武器庫の弾丸が処分できそうだ。ありったけ持っていけ」

「先生!」

「延空木はたきなやフキが守ってくれる。彼女たちも私の優秀な生徒だ」

「…うん!」

 

 先生から了承を貰い、身に纏っていた着物を丁寧に片付ける。代り映えしないリコリスの制服に袖を通し、最後にカバンを背負って準備は万端。

 

「…千束」

「どったの先生」

「…万里くんには、知らせないのか」

「…」

 

 万里くん…喫茶リコリコの…ううん、世界最高の単騎戦力。彼に手伝ってもらえれば確かにぐっと楽になる。…でも。

 

「ダメだよ。真島も万里くんのことは警戒してるし、そもそも私たちは見張られてるから連絡した瞬間ヨシさんがどうなるかわかんないし」

「…そうか」

「でもね、先生…」

「どうした?」

「万里くんなら、私が連絡しなくても絶対駆けつけてくれるって信じてる」

「…そうだな。なんたって『初恋』だもんな」

「あ、コラ!イジるの禁止!」

「ハッハッハ!」

 

 

 珍しく大口を開けて笑う先生に毒気を抜かれて、私たちは戦いに赴くとは思えないほど和やかに店の扉を開いた。

 

 

────────────────────

 

「あったー!!」

 

 よくわからん機械を頭に装着して、ずっと論文を探していたクルミがとんでもない大声で叫びながら走ってきた。

 

「びっくりするわね!何なのよ!」

「千束の心臓!もう一つあるぞ!」

「なっ!」

 

 クルミ曰く、論文の著者を発見し、その人物の写真の瞳に映っていた景色を特定。十年前その場所に建っていた町工場を行き来したものの中で吉松に骨格が似ている人物を遡って検索。論文著者と吉松らしき人物が接触している映像を発見し、同骨格の持ち主同士が再び接触した形跡がないか調べるうちに、去年再接触を果たしその時に人工心臓を吉松が受け取っている映像をサルベージしたらしい。

 

「クルミ…あんた…」

 

 怖すぎない?あんた探偵やんなさいよ。椅子から一歩も動かずに一生遊んで暮らせるわよ。…その時は雇ってね。

 

 当のクルミはさっそくたきなへ千束の心臓がもう一つあることが確定したことを報告していた。

 

 

『もう一つの心臓…それは今どこに?』

「おそらく吉松が持ってる」

『吉松は今どこに』

「わからん。ここ数日の足取りがつかめてない」

『そうだクルミ。リコリコに行ったんですが…』

「ああ。千束の希望で休業中だ。ボクらも論文探したりとやることがあったしな」

『千束も店長もいないんです。スマホだけ置いて…』

「…なにかあったな」

『解析できますか?』

「わかった。ボクらもそっちに行くよ」

 

 そう言って通話を切り、クルミが見上げた空にこちらへ近付いてくるヘリの姿があった。

 

「あんたヘリまでチャーターしたの?」

「ああ。このほうが速いからな」

「いい加減何者よあんた…。あーあ、そろそろ働かなきゃダメね。休業中の間にいいオトコ捕まえようと思ってたのに」

 

「いいオトコ…。それは万里よりもか?」

「あんた…万里くんが男の基準になったらこの先苦労するわよ…」

「心配はいらん。やつが地球にいる限りは逃がさないから」

 

 実はあんたが一番万里くんのこと好きよね…

 

 

────────────────────

 

 えっちらおっちら外壁だなんだと駆け上ってきて、斜めに傾いたその場所にたどり着いた。

 

「またここかぁ」

 

 あの事件の時、真島にあったらしい場所。今はヨシさんが確実にいる場所。

 

「ヨシさーん!千束ですよー!」

 

 とりあえず大きな声で到着を告げたが返事はなく、あったのはツナギを着たテロリストさんたちが襲ってきたことのみだった。

 この程度なら何人掛かってきても意味ないんだけど。

 

 片っ端からブッ飛ばしながらヨシさんを探していると、上階からヨシさんの声がした。

 

「千束!」

「!」

 

 縛られている彼の姿を確認した時、指を鳴らす甲高い音が響いたと思ったら展望フロアに取り付けられていた窓に備え付けのシャッターが全て降りあたりは暗闇に包まれた。

 急ぎヨシさんのもとへ駆けつけ周囲を警戒していると、延空木にいるはずの真島が姿を現した。

 

 真島は私たちに銃を向けると躊躇いなく発砲。反射的によけてしまった私の背後で、ヨシさんの呻き声と椅子ごと倒れる音が聞こえる。

 

「ヨシさん!」

「避けると大事なヨシさんにあたるぜ?」

 

 避けるわけにはいかなくなったから、リコリス特製の鉄板入りバッグを盾にして銃弾を防ぐが、衝撃までは防げず後ろによろめいた。

 

「…」

 

 銃弾が止んだ隙にカバンから常備のライトを取り出しあたりを照らす。真島は身を隠したようでおらず、ヨシさんが倒れている後方へライトを当てるもこっちもいない。

 ここまでくればさすがにわかる。ヨシさんが真島に協力している。…目的は私への殺人強要。

 

 今はそんなことどうでもいい。

 

「あんた、なんで!」

「ここにいるのかってか?」

 

 真島の返答と同時にモニターに映像が映し出された。

 

「フキ…サクラ…」

延空木(あっち)のリコリスは今や全国デビュー中だ。…うちのハッカーの計画じゃ、あいつらが銃ブッ放してる映像をお茶の間に届ける予定だったが、まあ大将相手にそりゃ高望みだな」

 

 映像に映っているフキたちリコリスは、誰一人として銃を持っていなかった。カバンを背負っているから隠しているだけだろうけど、それでも丸腰だ。

 

「それってどういう…」

「俺の目的がDAだのリコリスだのの存在をお天道様の下に引き摺り出すことだと気付いたんだろうな。それでリコリスに銃を取り出すことを禁止させた。…DAの頭でっかち共じゃこうはなってねぇ…間違いなく大将が絡んでる」

 

 確かにヤツの言う通りだ。こと知謀においてはDAが真島達に劣っていることはすでに証明されている。

 

「ま、延空木セレモニーのために営業してない延空木に忍び込んでる制服姿のガキどもだ。これはこれでお茶の間の話題を掻っ攫うだろうよ」

「…」

「日本人は陰謀論が大好きだからな。みんなで見たはずのこの映像が、後日辻褄の合わねぇダミー情報でカバーされりゃ何らかの権力が関わってることがずっと噂されんだろ。殺人映像は撮れなかったが、DAの存在をほのめかすことには成功したからまあ良しとするわ」

 

 真島がそう言い終えると同時に、今まで点いていたモニターを含めたすべての照明が落ちた。

──完全な暗闇…でもそれは相手も同じこと!

 

 もう一度取り出したライトであたりを見回していると、ライトを蹴り飛ばされたと同時に、鋭い呼気と共に左の頬に痛みと衝撃が襲った。

 

 

「つぅ!…見えてんの!?」

「聞こえるのさ」

「ぐぁ!」

 

 背中にも強い衝撃が走り、たまらず前のめりに倒れる。…聞こえる?どういう意味?

 

 真島は余裕のつもりか、すぐに自信の『才能』の詳細を語った。

 

 『エコーロケーション』

 

 …聞いたことがある。音が反射して自分の耳に返ってくるときに、方向や遅れなどから周囲の物体の距離や大きさなどが測れる能力。蝙蝠などが代表してあげられるものだ。

 そんな能力を戦闘に用いることができるなら、確かにこんな暗闇なんて関係ない。

 

 対して私の能力は目に依存したもの。暗くて見えない現状じゃ何の効果も得られない。

 

 相性も状況も最悪。どうしたものかと考えていると、ヨシさんが倒れた拍子でこぼれたであろう彼のスマホが着信を告げる。

 暗闇の中にあって突然光る物体が現れたことで、自然とそちらに目を向けると、その着信は三度コール音を鳴らした後すぐに切れる。

 

 

 その後再度着信を告げると、それは一コールですぐさま切れた。

 

「!」

 

 これは、この合図は。

 

 真島が知っているはずがない、私たちだけの合図。

 なんでヨシさんの番号を知っているのかとか、そんなことはどうでもいい、どうせあの栗鼠だろうし。

 

 ならば今できることは、『彼女』の到着まで生き延びること…そのためには、ひたすら逃げるしかないっしょ!

 

 真島の声が最後に聞こえた地点から反対方向に全力で走る。方角は合っていたようで真島が追いかけてくる足音が背後から聞こえてきた。

 

 

 

 

 男女で持久力に差があるし、あいつはそれなり以上に身体能力も高い…けれど。

 

 ドン!という音がシャッターから響いた。繰り返しドンッドンッと。

 

 シャッターは見る見るうちに変形していき、やがて衝撃に耐えきれず外側からブチ破られた。

 

 外側の窓ガラスと一緒にシャッターを粉砕したようで、ガラスの破片がキラキラと光を反射している中彼女が…私の相棒(たきな)が飛び込んできた。

 

「ハァ!」

「ぐっ!」

 

 たきなはすぐさま真島にとびかかり蹴りを数発浴びせ発砲。急所を狙うつもりがないたきなの弾は当たらず、逆に伸び切った腕を真島に極められる。

 

「ぐぁ!」

「…お前には今用はないんだがなぁ!」

 

 たきなが来てくれたことも嬉しいけれど…シャッターを壊してくれたことが一番の大金星だ。これで視える…存分に戦える!

 

 私から目を離した真島の腹部に数発非殺傷弾を叩き込み、たまらず真島が後退する。

 ヤツは転んでもただでは起きない性分らしく、固めていたたきなの腕から銃を奪い取るとこちらに撃ち込んできた。

 

 でも、今なら問題ない。鉄板入りのカバンに存分にその役割を果たしてもらう。

 すべての弾を防ぎきると同時にカバンが弾き飛ばされ、崩れた床から階下に落下していった。

 

 

 相棒も来てくれたし、光も入ってきた。弾も十分あるし、目的もはっきりしてる。

 

 

 

 決着、つけますか。

 

 

 

────────────────────

 

 

 階下で繰り広げられる千束と真島の戦闘音を聞きながら、これからのことに思いを馳せる。

 

 ここに来るのは千束か、真島か…。

 

 千束であった場合は真島を殺しているのかが肝要だ。もしもこの期に及んで殺人を決行していないのならば、私は…。

 

 

 

「怪我の具合はどうだい、三下」

「!」

 

 

 考え事をしていた、なんてものは言い訳にならない。私は今、死んでいたかもしれない。

 声のする背後を振り返ると、木刀を…いや、木で拵えた刀を抜かず右手で持っている神楽 万里がそこに佇んでいた。

 




困ります主人公様…暗躍は止めてくださいまし。
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