好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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合掌

「リコリスは処分する…これは上層部の決定だ」

 

 

 わざわざDAにまで姿を見せた狸爺(虎杖)は、開口一番そう言った。

 

 リコリス…ひいてはDAの存在を全国に示唆されたことに対しての処分という名目だろう。現在延空木で待機しているフキを筆頭に、真島討伐作戦に参加したリコリスを処分することですべてをなかったことにする算段だ。

 

 そしてその指揮を執っている私に対しての処分も別途あるだろう。

 どうする…と言っても私が振れる袖など一つしかない。ここにいない歴代最強のリコリスに、ジジイお抱えのリリベルをあてがうしかない。そうすれば正真正銘の『最強』が動く…また何を言われるかわかったものではないが。

 

 ここでは監視の目が多すぎて通信することも叶わない…ゴリ押すか…。

 

「失礼、少しお手洗いに」

 

 

────────────────────

 

 本部から待機の指示が下りる。銃を抜くことができないためにテロリスト共を対処できないこの戦場の真っ只中で…

 不審な点はいくつもあるが、部隊を率いるものとして受けた指示は共有しなければならない。

 

「…待機命令だ」

「はぁ!?撤退じゃないんスか!?反撃できないのに残っても時間の問題でしょ!」

「…」

 

 サクラの言う通りだ。これをただ守るだけではここにいる全員が死ぬ。

 

 

 脳裏に浮かぶのは命令違反上等の大馬鹿ファーストに、そいつに毒された馬鹿なセカンド。そして…誰からの命令もすべて跳ね除け、自分が歩く道を自分で創ってきた威風堂々の背中。

 

 能力の大きさでも、才能の有無でもない。あの背中に私は…。

 

 

──認めよう、私にも馬鹿は感染しているらしい。

 

 

「動くぞ」

「え…でも待機命令なんじゃ…」

「こんなとこで待機してたらすぐにお陀仏だ。反撃するには、今まさに絶賛生放送中のカメラを制御している制御室を奪還する必要がある。サクラは私と来い…ヒバナとエリカはサードを率いて下に降りろ…道中怪我人がいたら可能な限りそいつらも連れてな」

 

 指示を出しながら体をほぐす。制御室までの道にカメラがついていないとも限らないから、やはり銃を抜くわけにはいかない。

 …万里のやつに白兵戦を指導してもらったことがこんなとこで役立つとはな。

 

「アタシも死にたくないんでそれは別にいーんスけど、珍しいこともあるもんっスねぇ」

 

 サクラが後頭部に組んだ両手を回しながら呟く。確かに今までの私だったら絶対にこんなことはしてねぇな。

 

 

「……追いつきたい背中があるんだ」

「背中?」

「…後ろから見てるだけはもう飽きた…横に並ぶためには、歩かなきゃな」

「フキ?」

「思春期先輩…」

 

 ヒバナとエリカはきょとんとしている。私の言葉の意味がよくわかってないんだろう。対してサクラは、自分にも大いに心当たりがあるためか、ハッとした表情で私を見ている…やる気になってくれたようで何よりだ。

 

──だがそれとこれとは話が別だ。

 

 

 

「サクラ…この作戦が終わったら模擬戦付き合え。ボコボコにしてやる」

 

 

 誰が思春期だコラァ!

 

 

────────────────────

 

 二人して嘘みたいに大泣きして、やっと涙が止まった丁度その時、ボロボロに砕けた窓からヘリの音が近付いてきた。

 

「来たね」

 

 万里さんは誰が乗っているかわかっているみたいで、いつもの穏やかな表情でヘリを迎え入れた。

 

「おーお前ら!こっちだ、早くしろ~!」

 

 がらりと扉を開けたのは、数日ぶりに顔を見るクルミだった。彼女はその長い髪を風に振り回されながらこちらに向かって乗れと叫んでいる。

 

「さて、二人とも…お手を拝借」

 

 万里さんがおどけて伸ばしてきた手を反射的につかんだ私たち二人は、重力を感じさせない彼の手によってふわりと抱き起こされた。

 あまりにも自然に行われた乙女的重大な動作にフリーズし、我に返った頃にはすでにヘリに乗せられ飛び立っていた。

 

 …因みに張本人である万里さんは、彼の席が足りないためかクルミを膝にのせて座っており、千束の心臓作成者とコンタクトが取れたことを報告されてご褒美として頭を撫でていた。…おいコラそこのリスコラ。

 

 同じく我に返っていた千束と二人してクルミを睨んでいると、視線に気付いた彼女はこれでもかと鼻の穴を膨らませてニヤニヤ…端的に言ってこれ以上ないほどのドヤ顔をしていた。

 

 決めた…今後クルミに出すあんみつには、黒蜜の代わりにとろみをつけた醬油をかけてやる。

 

 

 大変な状況のはずなのに私たち(みんな)がいるとどうしても空気が緩んでしまう。それでもクルミと、実はヘリを運転するためにずっといたミズキさんがここにいる理由を問うと、彼女たちは短く『依頼があったため』と答えた。

 

 

「リコリス救出の依頼…だれから?」

「それはミカに聞け」

「そういや先生は?」

「用事があるんだと…そういや弾丸預かってるぞ」

「おお!さっすが!カバン落っことしちゃったんだよねぇ」

「私が預かっておきますよ」

「よろしく~」

 

 千束から非殺傷弾を預かり収めている間も、クルミは忙しくパソコンを操作していた。やがて彼女はその画面をこちらに向けてくる。

 

「依頼はこれだ…延空木のリコリスは銃撃戦は行っていないから決定的なシーンはまだ撮れていないが、そのためテロリストに反撃する術がない」

「やっばいじゃんフキたち!」

「ああ…その上DAはこのリコリス達を処分するつもりだ」

「リコリスを…どうやって…」

 

 私が不思議に思ったことを呟く。答えてくれたのは操縦桿を握るミズキさんだった…今更だがこの人めっちゃすごいな。私も操縦できるようになった方がいいかな。

 

そういうの(リコリスの処分)をやるのはぁ」

「リリベルだぁ~」

「リリベル?」

 

 私は以前千束にその名称を聞いていたが、万里さんは初耳だったらしい。彼は聞き返していた。

 

「ん~、男の子版リコリスみたいな感じ?リコリスの処分とか任されるならあいつらだよ」

「昔は店にもよく来てたよ。千束を殺しに」

「へぇ…」

 

 穏やかな表情をそのままに、ラベンダー色の瞳だけを薄く細める。彼の中でリリベルが敵に分類されたのは間違いない…合掌。

 

「なんで来なくなったんです?」

「おっさんと楠木が上と交渉したのよ」

「なるほど…」

「DAの仕事手伝わなきゃいけなくなったけどねぇ…フキたちがヤバい」

 

 テロリストに加え、リリベルまで差し向けられた。通常通りならそう戦力に差はないだろうが、リコリスは銃を抜くことができない…状況は最悪と言っていい。

 

「ラジアータは?」

「動作不良…ロボ太だな」

「なるほど…とにかく必須条件としてはカメラハックを辞めさせることだね」

「ああ…という訳で、()()を延空木の制御室に直接挿してこい」

 

 クルミはそう言って、彼女が好んで使うリスのマークが入ったUSBを千束に投げ渡す。

 

「でも…ラジアータが動かないんじゃどうしようもないんじゃ…」

「その点は気にする必要はない…だよね、クルミちゃん」

 

「ああ。そんなガラクタ…ウォールナットに任せろ」

 

 クルミは強い意志のこもった瞳でそう答えた。

 

「どうする千束?」

「…よし!休業おーわり!リコリコ営業再開ってことで!」

「バッチコォイ!」

 

 千束が出した結論に、ミズキさんが代表して威勢のいい声を上げた。クルミがよく聞いている演歌を口ずさみながら楽しげに操縦桿を握り込む。

 

 千束の心臓問題は解決して、真島はすでに倒した。リコリコも営業再開して、ついでに今日はいい天気…なにも憂うことはない。

 

 

 私たちが揃えば、やっぱり無敵だ。

 

 

 

 

 

 

「千束たちは向かったぞ…お前からの依頼ということは伏せてある」

『どうも』

「…万里くんは気付いているだろうがな」

『アレを出し抜けるなんて思うほど自惚れてはいませんよ』

「よっぽどコテンパンにされたようだな…リリベルはどれくらいで来る?」

『50分ほどです』

 

────────────────────

 

 

「ヘリには初めて乗ったけれど、なかなか気持ちがいいものだね。スピードは少し物足りないが」

「そりゃ万里くんからしたら大体の物は遅いでしょ…」

 

 延空木のヘリポートに着陸した私は、猫のように伸びをしながら呟いた万里くんに突っ込みを入れた。

 

「ニュースを見る限り、制御室に向かうまでの道のりもカメラがあるようですね」

「だねぇ。どうしよっか」

「映像を差し替えることはできるが台数が多い。少し時間がかかるぞ」

 

 クルミがそう言ってくれるが、時間が惜しい。今はいち早くフキたちを…。

 

「ああ、カメラか。なら俺が先行してテロリストたちをブッ飛ばしてくるよ」

『!』

 

 そうだ…私たちにはこの人がいた。肉眼ですら目で追えない、物理法則ガン無視のMr.バグキャラが。

 

「俺が走ればカメラでは追えない。リコリスでも倒せるようなチンピラもどきなら一撃で倒せる…ひとりでに倒れただけにしか見えないはずだ。キミたちは安全が確保され次第、カメラに映っても問題ないように堂々と歩いてこればいい」

 

 現状それしかなさそう…というよりおそらく最善策。

 

「万里くん…頼める?」

「もちろんだ。フキたちもそうだが、千束の頼みならなんでも叶えるよ」

「今なんでもって言った?言ったよね?」

「千束…落ち着いてください…」

 

 ハッ!

 私としたことが大変魅力的な言葉で思考が乱れてしまった。反省反省…それはそうとなんでもとは確実に言ったのでこれは脳に刻んでおこう。

 

「オ、オホン!…万里くん、フキたちをお願い」

「お願いします、万里さん」

「ああ、任された」

 

 

 万里くんはそう言って、いつもの穏やかな表情を引っ込める…代わりに出てきたのは、楠木さん達を言葉でボッコボコにしているときによく見る真っ黒な笑顔だった。

 …どうして同じ『笑顔』なのに、こうも黒いんだろ…

 

 

 

「いやあ、実はさっきまで吉松を一発も殴らなかったことを少し後悔していてね…ストレスが溜まっていたんだ。これはよくない、ストレスを発散しないのは体に毒だ。…ヘリの中でたきなに聞いたが、天井にいた女性が千束の心臓に悪さをした張本人だってね。まあ彼女が心臓破壊をもくろんだからこそ、二つ目の人工心臓の在処を探すことができて結果見つかった。そうでなければ千束の心臓には限界があることを知らないまま突然お別れもありえたからね、その点は感謝しなくもないが。それはそれとしてムカつくものはムカつくから、ちょっと暴れたい気分なんだよね」

 

 

 ニコニコ。それはもうニッコニコ。

 人ってこんなに満面の笑顔のまま喋ったりできるんだ…知らなかった。

 

 彼は笑顔のまま走り去っていった…と思う。いや、瞬きしたらいなかったからわからないけど。

 

 

 彼の言葉を聞いて、引き攣って戻らない顔をどうにかしようとたきなたちのほうに振り返った。

 

「えぇ…」

 

 

 

 

 たきなたちは、一人残らず私と同じような引き攣った顔のまま、静かに合掌していた。

 …それ絶対にテロリストたちに向けた合掌でしょ…私もやっとこ。

 

 南無南無。




筆者も合掌しておこうかな。
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