好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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なんで?

「制御室はここ一本っスか」

「そうだ、行くぞ」

 

 

 サクラを引き連れ制御室の目前までやってきた。武器の使用はできないが、散らばったテロリスト共の各個撃破はそう難しいものではなかった。

 

 

 残るは正面に二人…仲間からの連絡が途絶え始めたことで浮足立っている…いけるな。

 

 サクラに合図を出し同時に飛び出す。

 サクラも万里の教習を受けた身だ、身のこなしもそこいらのセカンドとは一線を画す。

 

 余計な力はいらない…息の根を止める必要がないなら狙うべきは一つ…命を奪う可能性は低く、鍛えることも筋肉の鎧で覆うこともない…その顎!

 

 握った拳で掠めるように顎を撃ち抜く…糸の切れた人形のように崩れ落ちる男を油断なく見据えていると、隣からドサリと音が届いた。

 サクラもテロリストの意識を絶つことに成功したようだった。

 

「ふ~。万里先輩様様っスね~」

「ああ、こればっかりは聞いててよかった」

 

 よし、このまま制御室を制圧して…

 

 

「えいっ!」

「ぐぉお!」

『!』

 

 背後からの裂帛の声とそれに続くくぐもった悲鳴。反射的に身を伏せると、どこかに隠れていたテロリストが今まさにうつぶせに倒れ込んでいた。

 

「エリカ…」

「…私が、たきなの代わりをしなくちゃね」

 

 私が率いていた部隊のセカンドの一人──蛇ノ目エリカが、私たちの背中を狙うテロリストのさらに背後から、銃やマガジンの予備がたっぷりと入ったサッチェルバッグを後頭部に叩き込んだらしい。

 …死んでないよな?

 

 

 何はともあれエリカの判断で命拾いをした…サクラと二人で大きく息を吐きながら強張っていた全身から力を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 そのままエリカも加えて制御室の扉の前に立つが、どう考えてもこの扉の向こうでテロリストたちのお出迎えがある。

 相手の人数も武装も分からないこの状況で、自分から袋小路に入るわけにはいかない。どうしたものか…

 

 

 

 

「やあフキ、手助けは必要かな?」

 

 

 

 …タイミングのいいやつだ…どっかで見てたんじゃねぇだろうな。

 

 

 

「ああ。手を…いや、足を貸してくれ。音速マン」

 

 

────────────────────

 

 

 万里からの指示で、制御室の扉から離れたところで様子見をしているところにエリカから声がかかった。

 

「ねぇフキ…あの人大丈夫なの…?」

「ああ…戦闘自体は問題ねぇ。扉を開けた瞬間ハチの巣にされなければ…だけどな」

「不吉なこと言わないでくださいよフキ先輩…」

 

 

 万里はまるで近所を散歩するような軽い足取りで制御室の扉の前に立ち、歩みを止めないまま納刀した。

 

 

 

 

 まて…納刀? やつはいつ()()した?

 

 

 

 

 目の前の理解しがたい状況に目を見開いていると、()()()()()()()()()()()()

 刀を抜いた瞬間も、刀を振るっている仕草さえ視えなかった…視えたのは刀を納める瞬間のみ。

 

 なんだそりゃ…どこまでバグれば気が済むんだ。

 

「遠い背中だな…」

「…っスね」

 

 開いた口が塞がらないエリカを他所に、サクラと二人決意を新たにする。

 

「だからって、諦める気はねぇがな」

「っスね!万里先輩もそういう子の方が好きでしょ!」

「あ、いや、んなことどうでもいいけどな!?」

「おでこまで真っ赤っスよ思春期先輩」

 

 よし、訓練三倍増し決定…泣いて喜べよ?

 

 ニヤニヤしたサクラの顔を見て地獄を見せることを決意したところで、万里は制御室へと入っていった。

 

「追いかけるぞ」

 

 二人に号令し後を追いかけると、他の奴らとは体格からして違うテロリストが二人、切断された扉にサングラス越しでもわかるほど驚愕している。

 男たちの反応を無視して、万里は親し気に声を掛けた。

 

 

「やあ、あなたたちはいつも真島さんの近くに控えていた人たちだね。俺たちはこの制御室に用があるから退いてくれるかな」

「…断る」

「…我々は真島さんからこの場所の死守を命じられている」

 

 それはそうだ。敵対関係にある人物に退けと言われて退くはずがない。万里は困ったような様子で続けた。

 

「そうか…それではキミたちが怪我をしてしまうが、いいのかい?」

「問題ない…その可能性は事前に説明されている」

「了承したうえでここにいるのだ…問答は無用と考えてもらいたい」

 

 テロリストたちは揃って怯みもしなかった。その様子に感心したように言い募る万里。

 

「なるほど…さすがはプロだ。見事な統率と忠誠は尊敬に値する…いい指揮官に恵まれたね」

「そちらこそ見事と言っておこう。まさか武器を使用することなくここまでたどり着くとは」

「それは彼女たちに言ってあげてほしい。日々の研鑽と、頼りない本部に代わっての咄嗟の判断が成した結果だ」

「なるほど…」

 

 テロリストたちが私たちを見やる。気のせいでなければ先ほどの万里のような感心した様子を向けてくる

 や、やりにくい…。司令からすらロクに褒められたことなどないのに、まさか敵に褒められるとは。今からやり合うのに妙な気分だ。

 

 

 しかし万里もテロリストたちも、そんなことを引き摺る程甘くはなかった。

 

 

「さて、それではそろそろ始めよう。お茶の間に暴力をお届けするわけにはいかないから、できる限り地味に倒れてくれると嬉しい」

「なるほど…せいぜい派手に吹っ飛んで見せよう!」

 

 短く吠えたテロリストが、先頭に立つ万里に一斉に殴り掛かった。万里が一番の脅威であることは理解しているのだろう。

 

 対して万里はその場から一歩も動くことなく、迫りくる拳に対して()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なにっ!?」

「ぬぅ…」

 

 どういったカラクリか、男たちは二人そろってつんのめり崩れたところを両手で支える形になる。

 今目の前で起こった現象はしっかりと観ていた。脳内で何度も再生と巻き戻しを繰り返しやがて気付く。

 

 万里は男たちの拳に刀の柄を添え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 言葉にすればこれだけだが、鍛え上げられた肉体を持つテロリストを相手に…しかも二人同時に行うなど、コイツ以外には無理だ。

 

 

「見事な拳だった。強いて言うなら、話しながら殴り掛かると声の調子でタイミングが計れる。それを逆手にとって声と体のタイミングをずらすとフェイントになっていいと思うよ」

「…光栄だ…」

 

 万里が跪き、テロリストの肩に手を置きながらそう告げた後彼らは声を上げることなくその場に倒れて意識を失った。

 視えなかったがいつもの方法で昏倒させたのだろう。

 

 

「さて…千束、たきな。もう入ってきていいよ」

『!』

 

 万里の声に扉の方へ顔を向けると、命令違反上等コンビが姿を現した…いや、私もか。

 

 

「さっすが万里くん!仕事が早いね」

「お見事です」

「チョロいね」

 

 先程までテロリストに占拠されていたとは思えない和やかな空気が流れる。

 

「しっかし…待機命令があったって聞いてたのに、まさかフキが命令無視とは…やるなおぬし!」

「うっせぇ!」

 

 確かにその通りだが、こいつに言われるとなんか腹立つ!

 

「命令違反と言えばそうだが、それはフキがやるべきことをしっかりと見据えていた証拠だよ」

『!』

 

 …嫌な予感がする。こういう時のコイツに好き勝手話されると、なぜか私はまともにモノが考えられなくなる上に顔から火が出るかと思うほど熱くなるんだ。

 

 何か言いそうな万里を止めようとしたが、遅かった。

 

 

「そもそもこんな状況で待機命令など意味がない。すでにテロリストに占拠された現場に到着し、自分たちは武器を扱うことができない…本来なら一も二もなく撤退だ。

 だというのに下った命令は待機…考えられる理由は二つ」

 

 

 万里はいつもの調子で滔々と語る。

 

 

「一つはDAの思考放棄…『今どうすればいいか考えるからその間、その場で待機しといてね』という具合に。言うまでもなく論外。こんなことに付き合う必要はない。

 二つ目は、リコリスの処分…『全国にリコリスの存在バレそうだし、テロリストに打つ手もない。リリベル使ってテロリストごとリコリスを処分するからその場から動くなよ』だ…。お話にならない」

 

 馬鹿に付ける薬はないとでも言いたげだ。

 

「以上のことから、待機命令を順守するメリットが全くない。…まあフキがこんなにも性格の悪い捉え方をしたとは思えないから…」

 

 

 そう言って万里は私の正面に立つと、大きな手でゆっくりと頭を撫でた…撫でた?

 

 

「『こんな命令に従うと部下を…仲間を死なせてしまう。テロリストに抵抗できるように制御室の奪還が必要』とでも考えたんだろう。それは見事な判断だよ…キミのおかげで、キミの仲間は今も生きている」

 

 

 万里が私を撫でながら何事か言っている。なぜか私の耳は、水中にいる時のように音が遠く聞こえる。

 

 

「指揮官の仕事は死地に部下を突撃させることではない。死地から部下を生還させるために思考を止めないことだ。フキ…キミこそ指揮官に相応しい。よく頑張ったね」

 

 

 

 

 万里の輝かんばかりの笑顔を直視した私は、ギリギリで保っていた意識が遠のいていくのを感じる。

 太陽を直視すると失明するというが、笑顔を直視すると意識を失うらしい…勉強になった。

 

 

 

 

「あれ…フキ?」

 

「あ、スンマセン万里先輩。思春期先輩死んだっス」

 

 

「…なんで?」




気温差の激しい時期ですが、皆様ご自愛ください。
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