「早くしろ~。リリベルが向かってきてるぞ~」
制御室を制圧し、なんか知らんがぶっ倒れたファーストも意識を取り戻した。あとはUSBを挿入さえしてもらえればすぐさま制御を取り戻す。
とはいえゆっくりするほどの時間もない。
「お~、すごい勢いだな…あ、こらこらそっちはダメだ」
さながらダンジョンを攻略する勇者パーティのような勢いで
だが今ダンジョンを支配しているのはこのボクだ。真っ直ぐになんて進ませない。最大限時間をかけて、大いに寄り道して周囲の宝箱でも回収しながら向かってこい。
電子式のシャッターを下ろし、撤退するリコリス達との邂逅を防ぎながらそんなくだらないことを考えた…この程度は片手間以下だ。
「千束…そろそろリコリスがヤバいぞ…早くしろ~」
『だってクルミ!挿すとこないんだもん!』
『こんなとこにUSB挿すとこなんてあんのかよ?』
『難しいこと言わないで!』
『おまっ!わからず探してんのかよ!』
『乳繰り合うなそこのファースト二人!なんかヤバいのが来てんでしょーが!』
千束とぶっ倒れたファーストが言い合っているところを、サクラと呼ばれているリコリスが止める。
「まだか~」
『見つけた!…くっそギリギリ届かない!』
『貸して千束』
万里の声がインカムから聞こえた瞬間、USBが接続されたシグナルが届く…万里のやつ手足長いからな。
「何はともあれ…ボクの出番だ」
ディスプレイ機能も同時搭載しているVRゴーグルを装着し、延空木から垂れ流されている電波の発信源をたどる。
「どこだどこだ~……見つけた!そこかロボ太ァ!」
発信源を特定…使用している電波の主導権を奪い逆に利用させてもらう。最優先は全国放送の映像の差し替え…これでいいか。ほい、Nice boat.っと。
生中継されていた延空木内の映像が、優雅な城やボートの映像に切り替わったことを確認した。
…どこかで『世界一のハッカーは僕だぞぉ!』というヒステリックな男の叫び声が聞こえた…気がする。
やれやれ、幻聴とはいえ聞き捨てならん。
「百年早いわ」
後は特定した住所にいるロボ太を、国家権力に迎えに行ってもらうだけだ。犯罪を発見したら通報するのは国民の義務だからな。
「あ~もしもしポリスメン?」
さて、ラジアータの通信も復旧させたし、ボクの仕事は残り少ない。ああそうだ、勇者パーティにもご褒美をやらんとな。
「ダンジョン攻略お疲れ…シャッターはすべて開けるから心置きなく突破しろ」
無駄に複雑な迷路のような通路に、面倒なダンジョンギミック。
そのすべてを突破してやっとの思いでたどり着いた長い長いダンジョンの最奥。
そこに待ち受けるのはいつだって、コントローラーをぶん投げたくなるほどの理不尽すぎる強さの裏ボスと相場は決まっている。
頑張れよ
「後は任せたぞ、
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ガラガラと音を立てて上がっていくシャッターを見上げながら、耳に届いたクルミちゃんの通信に物申す。
「人聞き悪すぎやしないかい。もしかして俺のこと?」
インカム越しに苦言を呈してみたが、クルミちゃんからの返事はない。心外とばかりに背後に控えている千束たちを振り返るも、一斉に目を逸らされた…そんなに関わりのない蛇ノ目さんまで…
結構なショックを受けながら正面に向き直る…リコリスが着用する制服にどことなく似た様相の男の子たちが、一人ひとり銃器を手に目を見開いている。
──なるほど、たしかにこれは男の子版リコリスと形容されるべきだね。
彼らもリコリス同様、制服の色で階級を表しているようで、多くの者とは違う赤色の制服を着用している子が先頭に立っていた。
しかし彼らはなぜ揃いも揃って驚いているのか…そうか、カメラに映らないスピードで移動していたから、俺がここにいることを知らないのか…というより、俺のこと自体を知らなそうだ。
フキから聞いたが、指揮を執る人間があの
これが忘れていただけならまた説教だが、今回ばかりはありがたい…彼らは俺のことを敵だと認識している。…それでいい、そうでなければストレス発散が…いやなんでもない。
しかし戦うからこそ、しっかりと自己紹介をしなければ。
そもそも名乗りとは、本来戦いの前に行っていたものだと聞く。
最近は初対面の人と会うことなどなかったし、学校に行っているわけじゃないから意外と久しぶりだな。
「やあリリベル諸君」
俺がそう声を掛けると、彼らは一斉に銃を構えた…リリベルの名を出した俺が一般人でないことが確定したからだろう。
「キミたちが任務で訪れたことは知っている。上に命令された事を遵守することは大切だ。それが組織のあるべき姿だ…とはいえ、すべての指示に脳を停止させたまま従うことなど機械にもできる。今後キミたちが、人間のまま活躍できるようになることを願うよ」
彼らの構えた銃が震えている…まだ戦闘も始まっていないのにどうしたというのだろう。
「さて…組織の一員としてここに来たキミたちは、成果を挙げずに撤退することは許されない…かと言って俺たちは死にたくない。戦うしかない。…彼女たちは疲れていてね、代わりと言っては何だが俺が相手をしよう」
彼らの銃口がより一層震えている…体調でも悪いのだろうか。
「殺すつもりはないよ。命というのは替えが利かないからね…それでも彼女たちに銃口を向けたキミたちに『最強』を教えようか」
身についたルーティン。在りし日の失態を繰り返さないために、小さく咳払い。
「俺の名前は神楽 万里。やりたいこと最優先の、とある喫茶店の店員だ…以後よろしく」
最近よく顔が怖いと言われるので、意識して笑顔を作ってみた。
ここにいないクルミちゃんやミズキさんを含めた全員が『魔王…』と呟いた。
少し泣いた。
アニメ十二話のクルミちゃんに心奪われたマンです。