好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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「いやあ、スッキリした!」

 

 

 撤退するリリベルの背中を見送った万里さんは、満面の笑顔で振り返りながらそう言った。

 対照的に私たちはみな顔が引き攣りに引き攣っていたけれど。

 

 

「あー…楽しそうだね万里くん…」

「そりゃあ勿論!言いたいことも言えたし誰も怪我せず万々歳だね!」

「ああ…そう…」

 

 

 あの千束が言葉に詰まっている…これは珍しい…

 

 

「しかしあそこまで弱くてリリベルが務まるんだろうか…指揮官のような彼も大袈裟にリアクションしているだけだったし、いっそ転職した方がいいと思わない?芸人さんとかスタントマンとかに」

 

 なんちゅうこと言うんだこの人…あそこまで心を折っておいて感想がそれとはさすがに彼らも浮かばれない。というかあなた基準で考えたら全人類団栗の背比べでしょうに。

 

 そんなことを考えていると、この場にいる全員に向けてクルミから音声が入った。

 

 

『お~いお前ら~。リリベルも退却したしそろそろダミー映像切り替えて全部アトラクション施設の予告だったことにするから、そろそろ帰ってこーい』

「フフ、アトラクションってクルミちゃん…さすがに強引すぎやしないかい?」

『いーんだよ。ニュースで報じられたことはすべて事実だと疑わない国民性だからな。後は市長だのが改めて会見開けばめでたく真実だ』

「なるほど確かに。それじゃあみんな帰ろうか」

 

 万里さんの号令にみな了承の意を示し、出口に向かって歩き出す。クルミの宣言通り程なくして、クルミが好む演歌と共に『先ほどまでの映像は延空木で行われるアトラクションの予告映像だった』という旨のセリフを、ニュースキャスター風にモデリングされたアバターが発表していた。

 

 

「クルミって店にいたあの小っせぇやつか?」

「そー。面倒くさいから楠木さんには黙っててねー」

 

 フキさんが千束に問いかけ、いつもの軽い口調で千束が答えている後ろを私たちが続く…思うところがあったので会話に入ろう。

 

 

「楠木司令がクルミに何かしようとしたら、魔王の逆鱗に触れると思いますけどね」

『ああ~』

 

「たきな?」

「ゴメンナサイ」

 

 ビックリした…声に温度ってあるんだ…背中に氷を入れられたかと思った…。

 

 

 

「忘れてた…クルミちゃん」

『どうした万里』

 

 

 

 

「後で少しお話ししようか。人に向かって魔王なんて言っちゃだめだよ?…なに、怒っているわけじゃないからお説教じゃない…安心してくれ」

 

 

『……誰か助けて…』

 

 

 

 ごめんクルミ…あんみつの黒蜜増量してあげるから…

 クルミからの通信には、誰も応えなかった。

 

────────────────────

 

『……神楽、お前が言っていた通りだ……真島を回収に向かったクリーナーが連絡に応答しない』

 

 

 やるべきことを終え、地上に戻るためのエレベーターを待っている間に、その通信は入ってきた。

 

「……で?」

『…なに?』

「なに、ではない。真島さんの行方が分からないことは理解した…それで、どうするための通信だ?」

『……お前の意見を聞きたい…』

「…へぇ」

 

 思わず声が漏れた。馬鹿だからといっていつまでも馬鹿ではないのかもしれない。

 

 

「…悪くない。自分にできないことを誰かに頼むことは決して悪くない…自分が呼び出したにもかかわらず命令してきたあの頃とは違うようだな」

『…』

「…あくまで俺の推測でいいのならば話そう」

『…構わない…頼む』

 

 ふむ、少し見直したがそれはそれでやりづらいな…まあいいか。

 

 

「彼の当初の目的は、テロリスト仲間が日本に入国した途端連絡が途絶えることの原因の究明と解決…そしてそれはDAおよびリコリスが原因だった。だから彼はあんたたちを白日の下に晒すためにこんなテロ行為を繰り返した。…だが今日彼は、この延空木ではなく旧電波塔にいた」

『…何のために…』

「そう。彼の目的のまま遂行するならば、誘き寄せた延空木にいない理由がない。カメラでお茶の間にリコリスの姿を映すことができるとはいえ、それで仲間を失っていれば本末転倒だ。…これは俺の予想だが、真島さんが旧電波塔にいたのは、千束に固執したからだ」

『…なに?』

「彼も千束同様アラン機関に支援を受けた者…加えて、十年前の電波塔事件の際、彼は実行犯の一人として現場にいたそうだ。その際、当時七歳の千束に彼らは完全敗北を喫した。…おそらく、彼は千束がその時の子供だと気付いた瞬間から、千束を倒すことも目標に掲げたんだろう」

『…だが、それと真島の失踪と何の関係が…』

 

 

 …やはり、少し考えを改めてからといっても、いきなり頭のキレが増すわけではない。

 

 

「…テロリストたちは既に無力化しているし、延空木の戦闘もリコリスは銃を抜かず決定的な殺人シーンの撮影に失敗。さらにそれをカバーするダミー映像も流されて、彼の目的はほぼ完封した。ならばあと一つ…千束へのリベンジのみ」

『まさか…』

 

 

「来るだろうな…延空木(ココ)に。いや、もしかしたらもうすでに…」

 

 

 

 

 

「呼んだか?大将」

 

 声が聞こえて振り返る。目にしたのは、今まさに連射されようとしている機関銃の銃口だった。

 

 

 

 ドンッと誰かに突き飛ばされたような気がした。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

──動けたのは、我ながら奇跡だった。

 

 思考をする時間はなかったはずなのに、それでも直感的に感じるものがあった。

 

 

 真島はアタシたちの後ろから現れ、アタシたちの最後尾には万里先輩が立っていた。

 万里先輩だけなら難なく躱すかもしれないが、そうすれば後ろにいるアタシたちにあたる可能性がある…彼は、躱さないだろうと。

 

 

──下手したら刀で銃弾弾いたりなんかできるかもしんないっスけど…

 

 

 気が付いたら駆け出して彼を突き飛ばし、連射された銃弾の一つが肩を貫通して倒れ込んでいた。

 

 

「…くっそ…めっちゃ痛ぇ…」

「サクラぁ!!」

 

 痛みに呻いていると、フキ先輩の叫び声が聞こえた。顔だけで振り返ると、千束さんとフキ先輩がバッグでエリカたちを守っていたようで今まさにこちらへ駆けてくるところだった。

 

 

──あの一瞬で防御間に合うとか…ファーストパねぇ~…

 

 

 セカンド(アタシ)との違いに思わず笑ってしまい、それが肩に響いてすぐに眉を顰めた。

 

 

「おいサクラ!大丈夫か!」

「フキ先輩…どんな感じっスかね…結構痛いっスけど…」

「…ああ、被弾したのは肩だけで弾も抜けてる…唾でもつけてりゃ治るよ…」

「そっスか…あっぶねぇ~…」

 

 唾云々はジョークだろうが、傷自体は大したことはなさそうだ。万里先輩を庇って死んだなんてことになったら、彼は一生自分を許さないだろう。

 

 …ってそうだ!万里先輩!

 

 

 痛む肩を無視して彼の方を無理やり見やると、どこか呆然とした様子で立ち尽くしていた…彼の奥には肩に機関銃を担いだ真島の姿も確認できる。

 

 

「……万里、先輩…怪我は…」

 

 あたしが声を掛けると、はっとした様子でこちらに駆け寄ってきた。

 

「…ああ、俺に怪我はないよ…サクラさんのおかげだ、ありがとう。…そしてすまない…俺が真島さんに気付いていれば…」

「へへ…そんな顔しないでください…この傷じゃ死にはしないっスから…。それに、真島に気付かなかったのはみんな同じっス…万里先輩のせいじゃないっスよ…」

「サクラさん…」

 

 いつでも冷静な彼だが、意外とたくさんの表情を見せてくれる。それでも、こんな表情は初めて見た。

 

 

──泣くのを我慢しているような、子供のような顔なんて。

 

 

 彼にこんな顔をさせているのがアタシだと思うと、銃弾を受けたのも悪くないような気がした。

 

 

「…万里先輩がそんな顔するなんて、アタシもヒロインレースワンチャンあるっスかね…?」

「こーらサクラ!どさくさに紛れて何言っちゃってんの!」

「ですね。怪我人は大人しく治療されてください」

 

 

 千束さんとたきなが悲痛な表情をしながら、それでも和やかな雰囲気を保つように軽口に応じてくれる。

 肩の傷はエリカが医療道具を次々に出しながら処置を始めてくれている。このまま下に連れて行ってくれるだろう。

 

 そろそろ痛みで目が霞んできた…意識を手放そうとして、言わなければいけないことを思いだした。

 

 

 

 

「万里先輩…真島、殺しちゃダメっスよ…」

『!』

 

 

 あたし以外のリコリスが全員万里先輩の方へ顔を向ける…右手に抜身の刀をだらんとぶら下げている万里先輩を。

 

「……」

「…こんな傷、大したことないっスから…こんなもののために万里先輩が人を殺すなんて、アタシが嫌っス…」

「…サクラさん…」

「…万里先輩には、アタシたちの憧れでいてほしいっス…誰にも負けない力があるのに…誰にも容赦しないことの方が簡単なのに、それでもリリベルやリコリス達の境遇のことを考えてくれるような…」

 

 

 万里先輩から張り詰めたような空気が抜けていくのを感じる…あと一歩ってとこっスね…。

 それじゃあこれで最後…意識を保つのもそろそろ限界だし、年下の女の子らしく最後は甘えちゃいますかね。

 

 

 

 

「アタシのお願いは…なんでも叶えてくれるんでしょ…?」

 

 

 

 

 

「サクラさんには敵わないな…」

 

 

 

 

 

 パチン、という刀を納める音を聞きながら、アタシは意識を手放した。




真島、寸前で首チョンパを回避(トロフィー獲得)
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