好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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勝負

 刀を納めた万里さんは、大きく息を吐いて肩を落とした。

 

 

 なんとなく、わかる。彼は全てにおいて他を圧倒する能力の持ち主…だからこそ撃った真島ではなく、気付かなかった自分に腹が立って仕方がないのだろう。

 

 以前、私たちと出逢うまで深い仲の友人は一人を除いていなかったと言っていた…その一人とは当分会えないほど離れ離れになってしまったとも。

 だからこそ、しょっちゅう生傷を拵える私たちリコリスよりも、よく知った相手が大怪我をする経験なんてないのだろう。

 

 自分を庇って負ってしまった怪我など尚更だ。

 彼の心中を慮っていると、ここまで無言で様子を窺っていた真島が口を開く。

 

 

「…どうした大将。撃った俺を殺さなくていいのか?」

「…約束したからね」

 

 万里さんは答えながら真島に向き直る。表情を見る限り怒りで我を忘れているようには見えない。

 

「俺はそこのアランリコリスと…俺が唯一恐怖を感じた相手と命を懸けた勝負がしたかった…あんたの言う通り固執していた。だがもう一人…恐怖なんて生易しいもんじゃねぇ、もっとでけぇ何かを感じさせてくれたあんたと勝負がしたくなった」

「…そのために撃ったと?」

「ああ、悪いことをしたとは思わねぇ。そもそもこれは規模こそ小さいが戦争だ…当初はリコリスもオレを殺す算段だったろ」

「…なるほど、一理ある…いや、真島さんが正しい。戦争を知らない俺が甘かったんだ」

 

 万里さんは溜息を吐きながら小さく頭を振った。馬鹿な自分に呆れているような仕草。

 

 

「大義名分は用意した。俺を殺す気はなくなったみてぇだが、ボコボコにしてぇって顔に書いてあんぜ?」

「…その通りだ。俺は今、あなたの鼻っ面に拳を叩き込みたくて仕方がない」

「ハッ! いいじゃねぇか…観客もいることだし、最後の勝負と行こうぜ!」

 

 

 私たちにチラリと視線を送り観客と形容した。一対一(サシ)でやらせろということだろう。

 もとよりそのつもりだ。下手に私たちが介入しては足手纏いになる…同じことを考えているようで、千束もフキさんも頷いていた。

 

 

「勝負、ね…いいよ、やろうか。銃でも何でも好きに使うといい。少しの間俺は攻撃しないからいつでもご自由にどうぞ」

 

 万里さんは鞘に納めた刀を床に突き刺し、構えることなく自然体で真島に行動を促した。

 …延空木の材質が何かは知らないが、断じて鞘が突き刺さるようなものではないと思う。

 

 

「…どういうこった? 攻撃もせずに俺とやるって?」

「真島さんを侮っているわけじゃない。だがこれは殺し合いではなく公平な勝負なんだろう?」

 

 

 万里さんの表情は普段と変わらず落ち着きを取り戻している…だがなぜだろう。こんなにも悪寒がするのは。

 

 

「あなた程度の戦闘力で俺と勝負を成立させるためにはこれくらい必要だろう。俺がその気ならば、あなたはすでに何度も死んでいる」

 

 

 

 

 

 真島が立っている場所のさらに後ろから真島の肩に手を置き、穏やかな表情で万里さんはそう言った。

 相変わらず速すぎる…動き出しも動いている途中も見えやしない。

 

 真島は肩に置かれた手を振り払いながら万里さんとは逆方向に飛びのいた。しかしヤツも万里さんの速さは知っているようで、獰猛な笑みを隠そうともしない。

 

「確かにそりゃそうか! あんた相手だ、そのハンデはありがたく貰うぜ!」

 

 言うや否や万里さんに向けて躊躇いなく発砲…万里さんはほんの数センチ首を傾けるだけで躱して見せた。

 

 

「あんたも当たり前みたいに弾避けやがんなぁ大将」

「そう難しいことじゃないよ。 弾は銃口からしか出ないし、銃口から出た後は真っ直ぐにしか飛ばない。引き金を引かなければ発砲できないし、引けば途中で止まることもない。駆け引きも何もない至極避け易い相手だ」

「あんたの意見は参考にならねぇな!」

 

 真島が笑いを堪えることなく吠える。この件に関してはヤツに同意見だ…非常識な人ですよ、まったく。

 

「あんたに弾当てんのは俺にゃ無理そうだ…なら、これならどうする?」

 

 真島は懐から拳大のボールのようなものを取り出しすぐさま万里さんに向かって投げつける…あれは!

 

『手榴弾!』

 

 気を失っているサクラさんと治療中のエリカを除いた私たちの声が重なる。

 

 

 しかしこんな時でも万里さんは表情一つ変えなかった。 

 彼は放物線を描きながら近付いてくる手榴弾にゆるりと歩み寄り、外野フライのように片手でキャッチ。そのままお手本のような綺麗なフォームで投げ飛ばした。

 

 

『はぁ!?』

 

 

 彼の手から放たれた手榴弾は、流星もかくやという勢いで延空木の窓ガラスを粉砕しながら暗くなり始めた空に飛んでいき、やがて弾けた。

 私たちも、投げつけた真島本人も唖然としていたが、やがて真島は堪え切れなくなったように大笑いを始めた。

 

 

「ハッハッハ! ピン抜いた手榴弾キャッチするヤツなんていんのかよ!下手したら腕が弾け飛んでたとこだぞ!」

「投げて寄こした犯人に言われたくないんだけどね…丁度ここは地上からかなりの高さにあるからね、どこに投げても誰かを巻き込む心配がないのは楽だったよ」

 

何でもないことのように彼は言った…何でもないのだろう、彼にとっては。私たちは開いた口が塞がらないんだけれど。

 

「しっかし爆弾もダメとなると後は…」

「目でも瞑ろうか?」

 

『はぁぁ!?』

 

 万里さんがこともなげに提案した一言に私たちは三度声を合わせた。

 そんな私たちを尻目に、真島は素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「マジかよ…大将も音で物の位置分かったりすんのか?」

「正確には音だけじゃないけどね。俺は素早く動くことが多いから、視覚だけを頼りにしてるわけじゃないんだ…気配や風なんかもよく利用してるよ」

「ほ~」

 

 …なんでこの二人は放っておくと和やかに話し始めるんだろう。さっき手榴弾を投げられたばかりなのに。

 そして期せずして万里さんの異能ともいうべき気配察知のタネが明かされた…そういえば扉越しに真島の接近に気付いたこともあったな。

 

 

「でもまあそれは遠慮しとくぜ。 そんなんじゃ万が一勝っても喜べねぇしな」

「そうかい。…それじゃあそろそろやろうか。俺の準備も整った」

「…準備?」

 

 凝り固まった体をほぐすように体側を伸ばしながら万里さんは言った。

 

 

 

 

「ああ。先程まではどうも感情的になりすぎていてね…真島さんを殴ろうものなら首から上を吹き飛ばしてしまいかねなかった。いやはや、真島さんの言い分が正しいと頭ではわかっているのに、俺もまだまだ未熟だ」

『…』

「けれどようやく心も落ち着いて、力の加減ができそうだ…頬骨にヒビが入る程度ならば脳にもさして影響はないだろう」

『…』

 

 

 万里さんは軽くステップを踏みながらシャドーボクシングをしている…と思われる。

 肩から先が霞むほどの速度で行われるソレがシャドーボクシングと呼べるかは微妙だが…あ、風圧で窓ガラス割れた…。

 

 

 

「さて、ここまで俺は相手に対して直接攻撃をすることを控えてきた…すべて脳を揺らす程度に抑えて外傷を負わせることを避けた。けれど、ああ…あなた自身が()()望むのなら仕方がない。まったく不本意だが、乗り掛かった舟だ」

 

 

 万里さんはシャドーと思われる行動をピタリとやめ、ニッコニコの笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

「勝負といこうか真島さん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……やっぱ前言撤回していいか?」

 

 

 

 気を失っているサクラさん以外──今回はエリカですら、真島に向かって無言で合掌した。




真島、二度目の首チョンパ回避
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