好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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天気が荒れに荒れている地域が多くあります。

皆様お気を付けください。


お父さん

「万里くんの馬鹿!アホ!女の敵ぃ!」

「ごめんよ千束。………女の敵?」

 

 

 

 地面のありがたみを実感しながら息を整えていると、いち早く復活した千束が万里さんの胸に飛び込みポカポカと殴っていた。

 力が入っているようには見えないのでじゃれているだけだろう…というか引っ付きたいだけじゃないですか千束。

 

 

 なぜ私たちがこんなことになっているのか────わずか数分前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 延空木で真島を撃破した万里さんから店長の話を聞いた私たち二人は、一も二もなくこの旧電波塔に向かって走り出した…そのわずか数秒後。

 

 

 

「ストップだよ二人とも」

『!』

 

 

 目の前に突如現れた、両手を広げた万里さんにその足を強制的に止められた。勢いを殺し切れず二人して万里さんの胸に飛び込む形で…ものすごくいい香りがした。

 思わず堪能しそうになった私を引き戻したのは、育ての親である店長の身を案じる千束の声だった。

 

 

「ちょっと万里くん!今は一刻も早く先生のもとに行かないと!」

「その通りだ千束。だがキミたちの速度に合わせていては時間がかかりすぎる。旧電波塔にたどり着いた後も上階に昇っている時間が惜しい…俺が二人を抱えていく」

 

 彼はとんでもないことを真面目な顔で言い切った。体重を口にすることなど死んでもごめんだが、女性であっても人を二人…さらには刀や銃、替えの弾丸が入ったカバン等総重量は100kgを優に超える。

 そんな状態で私たちが単独でかけるよりも早いと言い切った…俄かには信じられないが、それでも。

 

 

「…そうした方が、速いんですね?」

「当然。音速マンだからね」

「…私たち、軽くはないと思うよ?」

「どうでもいいね。重かろうが軽かろうが俺にはできるし、俺にしかできない」

 

 千束と二人で顔を見合わせ、同時に頷いた。

 

 

 

 

「「お願いします!」」

 

「お任せを」

 

 

 そうと決まればさっそくとばかりに私が万里さんの背中にしがみつく。彼はピクリとも揺らがなかった。

 背中にはもうスペースがないので、千束は胸にしがみついた…今度してもらう時はそっちにしよう。

 

 

 

「シートベルトはないがキミたちを落としたりしないから安心してくれ…フキ」

「ああ」

「すまないが後処理などはお任せする。俺の聴取などは後日にしてくれるようあの馬鹿に伝えてくれ」

「了解した。落ち着いたらサクラの見舞いにでも来てやってくれ」

「必ず」

 

 

 フキさんと話を終えた万里さんが一歩踏みだす…()()()()()()()()()

 

 

 

 

 体感速度という言葉がある様に、傍から見ている速度と実際に体験する速度では大きく差がある場合がある。

 

 速すぎる速度に思わず両手に力を籠めると、内臓が全て持ち上がる様な…絶叫マシーンに乗った時のような浮遊感が全身を包んだ。

 

 

 

──────────落ちてる!?

 

 

 

 万里さんはあろうことか割れて通気性抜群の窓から宙に身を躍らせた…端的に言うと飛び降りた。

 

 

「「きゃあああああ!!」」

 

 

 

 延空木…全長634mの、その頂上付近の展望フロア。

 

 そんな所から三人分の質量をもった私たちの落下時の加速度は尋常ではない。

 見る見るうちに地面が近付いて、そのまま大地に赤い華を咲かせることになる寸前、万里さんが動いた。

 

 

 いつの間にか両手に抱えていた大きな瓦礫を真下に放り投げ、私たちの背にそれぞれ手を回して縦に二度三度と回転。落下の勢いを少しだけ緩めると、あろうことか自分で放り投げた瓦礫に着地。すぐさま両足で瓦礫を足場にして、真下に向かっていた推進力を地面と水平に変更。蹴りだした瓦礫が粉々に砕け散る音を背後に、落下時の位置エネルギーから得られる速度を我が物とし、一切減速することなく地面に着地したと同時に旧電波塔に向かって駆けだした。

 

 

 何もかもが一瞬の出来事で、我に返ったのは着地後駆けだして少し経った後だった。

──私たち死んでないですよね?今の出来事で八回くらい死んでもおかしくなかったんですけど。

 

 

 だが大幅なショートカットができたことは確かだ。当然ながら走る速度も尋常ではない…ものの数分でたどり着きそうだ。

 肩越しに前を見ると、同じく肩越しに後方を見ていた千束と目が合い、二人して笑った。面白いことがあった訳ではないはずなのに、店長を止めなければいけないのに、なぜか笑えてきたのだ。

 

 

 

 

 

 くすくすと笑い合う私たちは失念していた。落下が()()ならば、上昇もまた()()な方法を取るだろうことを。

 

────────────────────

 

 そんなことがあって無事店長を発見。吉松を殺す前に彼を止めることができた。…ああ、地面って素晴らしい…

 

 

「さて…ミカさん、クルミちゃんの活躍によって千束の人工心臓を造った人物を特定しコンタクトを取ることができた。後は作成を依頼するだけのところまで来ている…その男を殺す必要はない」

「依頼も完了したぞ~」

 

 万里さんの言葉に続いて、気の抜けた特徴的な声が響いた。声のする方を見るといつもの眠たげな表情をしているクルミと、何やら息を切らしているミズキさんの姿があった。

 

 

「ぜぇ…はぁ…。ここの階段長すぎ……うぇ」

「ミズキうるさい。…ついさっき心臓の作成者と話せてな。新たな人工心臓の作成を依頼しておいた…二つ返事で快諾だったよ」

 

 

 クルミが言った何気ない一言に、先ほどとは違った意味で全身から力が抜けた。

 千束は、これからも生きられる…

 

 千束はぼんやりとした表情で佇んでいて感情が読み取れない。嬉しくないわけではないだろうから、事実を受け入れるのに時間がかかっているのかもしれない…そっとしておこう。

 

 

 万里さんはクルミの言葉を聞いて破顔し、店長と吉松に向かい合う。

 

 

 

「聞きましたか二人とも。あなた方の娘は死なない…これからという想い出を重ねて生きていける。そんなときに父親同士が殺し合っていてどうするんです」

「万里くん…千束は、助かるのか…」

「ええ。子はいずれ親がいなくても自ら歩けるようになるものです。吉松(ちち)の命を貰わなくても、彼女は死なない」

「…そう、か…そうか…」

 

 店長は吉松に突き付けていた銃を下ろし、肩の荷が下りたような様相で繰り返した。

 

 

 

「ところでミカさん…足は何ともないようですね」

「ああー!そうだ先生!杖なしでも普通に動けるんじゃん!」

「あ~いや、これは何というかだな…」

「なんで嘘ついてたの!?」

「そうだそうだ!オッサンの足が悪いからって私がどんだけ店の中走り回ったと思ってんのよ!」

「ボクも店を手伝わされることもなかったな」

 

 皆が店長に向かって不満を垂れ流している。足が問題ないことは喜ばしいことだが、騙されていたのなら私にだって思うところはある。

 

 

 先程までのシリアスな空気から一転した周囲に取り残された吉松のもとに、万里さんは歩み寄った。

 

「やあ三下。ご機嫌いかがかな」

「神楽くんか…そうだね、存外悪い気分じゃないな…」

「おや…あんたの計画は俺に全て踏み潰され、仲間の女性はそこでノビているのにか。殊勝なことだな」

「フ…そうだね。千束の才能を世に届けることはできなかったが、私は今なぜだか非常に満足している…」

「だから何度も言わせるな、彼女の才能は殺しじゃない。みんなが笑っている今この光景こそが、彼女の才能だ」

 

 

 万里さんはそう言って周囲に視線を配った。

 

 千束も店長もクルミもミズキさんも…おそらく私も。

 目の前の男が…万里さん曰く、『才能』を妄信する神様気取りの三下が、どこかで嫌いになり切れない。

 

 

 馬鹿なことをしたと思う、許されないことをしたのだと分かっている…それでも。

 

 

 

「吉松…あんたがいなければ十年前、千束はすでに死んでいた」

「千束がいなければとっくに私はDAをクビになっています」

「ま…あの場所(リコリコ)じゃなかったら仕事中にお酒なんて呑めないし?」

「…千束が匿ってくれなければボクは命を狙われたままだ…最初に殺しに来たのはお前だけどな…」

「…シンジを想う千束の気持ちがなければ、千束は嫌々殺人を犯していたかもしれない…」

 

 一人ひとり吉松に対して思うことを口にする…恨みつらみを口にすれば朝になってしまうから我慢しますけど。

 

 

 

「ヨシさん」

「…千束…」

 

 最後に歩み寄ってきた千束が、吉松と店長の二人を抱きしめる。

 

 

「ありがとう…ヨシさんがいなきゃ私は死んでた。先生がいなきゃ進むべき道も進み方も分からなかった。リコリコがなかったら、皆に出逢えなかった。二人に何をされて…何を隠されていたとしても、それが一番大事で、一番嬉しいこと」

 

 

「だから…ありがとう、二人とも(お父さん)

 

 

 

 

 

 店長は大粒の涙を流しながら、吉松は呆れるような微笑みを携えて、千束の背中に手を回した。




プラチナトロフィー:死者を出さない 獲得!
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