「…それで?アレなに?」
「なんだろうねぇ」
真島さんと合流し居酒屋へと連れ立って歩く俺は、背後のドローンを後ろ手に指差す真島さんに苦笑いで返す。
恐らく身内の犯行だから放置しても問題ないことも付け加えた。
真島さんは何故か得心したといった様相でニヤニヤと表情を歪めた。
「ほーん…大将も厄介な女に好かれたもんだな」
「ん?確かに犯人はおそらく女性だが、好かれるとは?」
「…マジかあんた…。そっち方面でもイカれてんのか?」
「久々に会った知人に対して辛辣過ぎないかな」
半年ぶりに会った知人に再開五分でイカれていると評されたのは人類史上俺が初めてではなかろうか…そしておそらく最後だ。
「まあいい…今日は無礼講だからな…根掘り葉掘り聞かせてもらうから覚悟しとけ」
「聞かれて困るようなことは何もない。包み隠さず話すよ」
「ハッ! 言ったな…丁度到着だ」
真島さんが立ち止まったお店の前で看板を見上げる。特筆すべき点のないよくある居酒屋だが、男二人の飲み会なんてこれでいいのかもしれない。
「俺の名前で予約してある…大将は先に入っててくれ」
「真島さんは?」
「俺は少し電話をしなきゃいけねぇ。なぁに、二、三分で終わるからよ」
「そういうことならお先に」
店の前で留まる真島さんを放置して店の扉を開ける…いつもそうなんだけど、俺が店に入るとそこにいる客やら従業員らが一斉にこっちを見て固まるのなんなんだろう。
「すみません、二名で予約していた真島です。連れはもうすぐ来ます」
入ってすぐ左手のレジで何やら作業をしていた女性店員に声を掛けるも、真っ赤な顔でピクリとも動かなくなってしまった…これもよくあるんだよなぁ…最近は特に千束が。
とはいえこのまま待っていても埒が明かないことは経験上分かっている。案内されないと席も分からないので重ねて声を掛けた。
「あの…?」
「!は、ははひ! 真島様でお待ちの二名様の真島様ですねぇ!?」
「真島様でお待ち…?いや、まあ、はい…真島です」
「おおおおお待ちしておりましたぁ!お席ご案内しまぁす!」
入ったばかりの新人なのか、声は上擦っているし微妙に日本語がおかしいが、あえて指摘して委縮させる必要もないだろう。
右手と右足を同時に前に出す独特の歩き方で先導する女性店員の後を何も言わずついて行くことにした。
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電話を掛けるからと万里くんをお店に入らせた真島は、言葉とは裏腹に携帯を取り出す様子を見せないまま私たちに…私たちが視ているドローンに声を掛けた。
『よう…アランリコリス。それと、黒い方もか?』
真島は私たちが万里くんを尾行していると確信しているようだった…そういえば私の気持ちはコイツに知られてるんだった…。
『以前ウチのハッカーに調べさせた喫茶店の情報から考えても、女従業員全員そのカメラの向こうに居そうだな?』
「…バレてるし…」
私がそう呟くと、クルミが小さな声で『ロボ太の奴!』と呟いた。
とはいえクルミ製のドローンにはスピーカーが付いていないので、文句を言いたくても私たちの声は真島には届かない。
あいつもそれをわかっているのか、そのまま話し始めた。
『俺は今から大将と膝突き合わせて飲み会だ。アイツが酒に呑まれるとは思えねぇが、何でも答えるって約束したからな。…アイツの好みの女とか…わかるかもしれねぇぜ?』
カメラ越しに告げられた真島の言葉に揃いも揃って息を呑む…超聞きたい!
『その他諸々あの謎だらけの大将のあんなことやこんなこと…興味があるなら降りてこい』
「「「「!」」」」
『店内でそんなオモチャずっと飛ばしとく訳にはいかねぇだろ?…俺がこのクソ暑ぃ夏でもこのコートを着てるのは、それだけブツが隠せるからさ』
わざとらしく広げて見せたコートの中に、無言でドローンを進めるクルミと止めない私たち…同じ穴の狢だねこりゃ。
「そんじゃ、大将待たせるのもワリィしな…行くか」
モーター音が無くなったドローンを懐に修め、真島は店の扉を開いた。
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「待たせたな」
電話を終えた真島さんが個室の扉を開けて入ってきた…三分前に見た彼の姿よりも、明らかに懐が膨らんだ状態で。
どう見ても懐に何か隠している…それも丁度クルミちゃんのドローンくらいの大きさの物を。
真島さんも隠す気はさらさらない様で、ニヤニヤとした表情を顔に張り付けていた。
──隠し事はなしとはこういう理由か…この様子じゃ電話をするというのも嘘だな。
店内に入ったというのにコートを脱ぐ様子のない真島さんに嘆息していると、そんな俺の様子が面白いのかケラケラと笑う真島さんが話し始める。
「さて大将…約束通り、20になった祝いに呑もうや…遠慮すんな、ここは俺が払う」
「ここで断るのは野暮か…ありがたく御馳走になるよ」
「そうしろ」
真島さんは手慣れた様に店員を呼び、つまみを数種類と自分が飲む分のお酒を手早く注文した。
「大将は飲み物どうする?」
「…ふむ。なにぶん初めてだからね…とりあえずビール、とでも言っておこうか」
「そのセリフがそこまで似合わねぇツラも中々ねぇな」
真島さんの茶々をスルーして店員にビールを注文する…偶然にも俺をここまで案内してくれた女性店員だったが、変わらずガチガチの状態でハンディーを操作しやがて立ち去った。
その様子を見ていた真島さんが、半ば呆れたように半眼で俺を見つめる。
「…あんたのツラじゃなかなか苦労しそうだな…」
「俺の顔が?何かおかしい所があるかな」
「いいや?おかしくなさ過ぎて苦労しそうだってことだ」
「謎かけかい?」
「…いや、忘れてくれ…」
そう言った真島さんは、懐に向かって小さく『お前ら苦労してんだな』と呟いた…返事をしたかのようなモーター音が一度だけ鳴った。
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『さて、飲み物も届いたことだし、乾杯といこうや』
『ああ』
乾杯、という二人の声と、グラス同士を打ち鳴らした澄んだ音がマイクを通して響く。
「…密会の相手が女の人じゃなくて真島でよかったですけど…」
「…うん。言いたいことは分かるよ、たきな」
「…真島と万里が話しているところをボクは初めて見るんだが…」
「…なーんかこの二人…」
『へぇ。ビールって独特の味がするね…悪くない。真島さんも一口飲むかい?』
『パス。苦いのダメなんだ』
『可愛いらしいことを言うじゃないか…それでお酒もカルーアミルク?』
『ガキくせぇってか? 案外イケるぜ、飲んでみるか?』
『頂くよ。…ん、甘いな』
『これが好きなんだよ』
真島の不貞腐れたような声と、続いて二人して声を押し殺してくすくすと笑い声が響いた。
「「「「仲良すぎない!?」」」」
飲み会はまだ、始まったばかりだった。
真島さんのアジトに銀色のヤツに酷似した空き缶が転がっている描写もありますが、筆者の癖のために真島さんにはビール苦手になってもらいました。