好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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お久しぶりです。

部署異動など諸々重なり投稿まで時間が空いてしまいました。


投稿できていない間にまたもお気に入りが百名様以上増えていました、ありがとうございます。



なんでやねん…処女作や言うてるやん…


馬鹿二号改め…

 

 

 

「単刀直入に言う。神楽万里くん…キミをリリベルの最強(ファースト)として迎えたい」

 

 

 

『!!!』

 

 

 虎杖というらしいリリベルの司令官は、私達どころかこの場にいるリリベル君たちの動揺も意に介さずそう言ってのけた。

 

 

「断る」

 

 

『!?!?』

 

 

 虎杖さんよりも淡々と拒否を口にしたのは、やはりというべきか万里くんだった。彼の中ではこの流れも想定の範囲内なんだろうなぁ。

 しかしそこはさすが組織の司令官というべきか、虎杖さんは表面上態度を変えなかった。

 

 

 バッサリと断られたことがまるで聞こえていないかのように、爆弾を投下したのだ。

 

 

「キミのことを調べたよ、神楽万里くん」

 

『!!!』

 

「へぇ」

 

 ここでもリアクションが薄いのは当事者の二人だけだった。ただの傍観者の私達…特にウチの情報担当のクルミなんかは眉を顰めている。

 

 

「神楽 万里…平凡な両親から産まれたとは思えないほどの生まれながらの天才。幼少のことはそのせいですべてを見下す傲慢な面もあったようだが、ある時期を境にソレがぱったりとなくなりクラスメイトとの交流に前向きになっている」

 

「……」

 

「そしてその少し前の時期から、キミの姿をとある河川敷でよく見かけるという近隣の人々の目撃証言も多数集まった。何年も前の話だが、キミは大変に整った見目をしているからね…皆鮮明に覚えていたよ」

 

「……」

 

「そしてそんなキミの横にいつもいた少年も、ある意味ではよく目立っていた。今どき河原で竹刀の素振りなんてそうあることではない」

 

「……」

 

 

 いつか聞きたいと思っていた万里くんの過去…ミズキから、いつか私たちに話してくれるらしいと聞いて、全員で顔を見合わせて喜んだあの日。自他共に求める好奇心のバケモノたるクルミでさえ、踏み込まなかった大切な領域。

 

 こんなに温度のない部屋で、聞きたくなんてなかった。

 

 

「田中 一朗くん、だったかな…キミの大切な、初めてのお友達。…ご冥福をお祈りする」

 

「……」

 

 

 わざとらしく大袈裟に、虎杖さん…虎杖は黙祷して見せた。ぶん殴ってやろうと思ったけどそれはできなかった。

 激昂というに相応しい表情でとびかかろうとするたきなを、万里くん以外の皆で留めるのに必死だったから。

 

 そんな気配に気付かない万里くんじゃないから、ちらりと目だけでこちらを見やり、気にしていないという風に目で合図を送ってきた。

 

 万里くんが気にしていないなら私達が怒る資格はない…たきなもそれを察して全身の力を抜いた。

 

 

─────たきな力つっっっっよ!!!滅茶苦茶冷や汗掻いたわぁ!!

 

 

 私やミズキどころかせんせいですら肩で息をしている…何度も思ったことだけど、たきなを怒らせることだけはしないでおこう。

 

 

 幸か不幸か目を閉じていた虎杖は状況の変化に気付くこともなくゆっくりと目を開いた…一部始終を見ていたリリベルくんたちは、心なしか全員背筋が伸びちゃってる。

 

 

「…キミはご両親が蒸発した後、その事実を誰にも気付かれることなく賞金が出る類のクイズ大会やスポーツ大会などで結果を出し続け義務教育を完遂して見せた…その後は世界中を転々としていたようだね」

 

「観光でな…ウユニ塩湖などは絶景と呼ぶに相応しかったよ」

 

「羨ましい限りだ…さて、そんな天涯孤独なキミには、親しい人間と呼べるものは極めて少なかった。苦労したよ…キミを捨てたご両親など、キミにとっては交渉材料になり得ない」

 

「その通りだ。憎んでなどいないが、だからといって特別な興味も今更ない」

 

 

 万里くんは本当に何でもないことのようにそう告げた…彼にとっては事実何でもないことなのだろう。

 

 

 

 初めから親の顔を知らない私達リコリスよりも、昨日までそこにいてくれた人が自分を置いて消えてしまった彼の方がもしかしたら…

 

 

「千束」

 

「…たきな?」

 

「それ以上は()()()()()()()()()()

 

「!」

 

 

 たきなの言う通りだ…不幸の背比べなんて意味がない。

 

「たきな」

 

「なんです?」

 

「ありがとう」

 

「…どういたしまして」

 

 

 私達が顔を見合わせて笑っている中で、虎杖は遠慮なく話を前に進めていた。

 

 

「喫茶リコリコだったか…今キミの背後にいる彼女らと、そこにいる春川フキと乙女サクラ…この場にはいないが蛇ノ目エリカ…これがキミが親しくしている周囲の人間だ…そうだろう?」

 

「……」

 

「…図星のようだ、キミのことを調べたと言っただろう。…私達がキミのことを調べたのは、キミにとってのアキレス腱を探すためだ。何処を押さえればキミの動きを制御できるのか…とね」

 

「……」

 

「だがそれには時間がかかった。キミがいる喫茶リコリコに手を出すのはあり得ない、返り討ちに遭うに決まっている。では春川フキらは…これもダメだ。各個人がそれなりの戦闘力を持っている上に抱き込めそうな人材もいなかった…だからこその一朗くんという訳だ」

 

「……」

 

「彼本人は既に故人だ、交渉も何もない…が、彼のご両親は今もお元気でいらっしゃる」

 

『!!!』

 

 

 虎杖から発せられた言葉の意味を理解し、チームリコリコ(わたしたち)も、フキもサクラも目を見開き声が出せない。万里くんの戦力欲しさにそこまでやるなんて…悪意以外の何物でもない。

 

 けれど交渉とは名ばかりのそんな脅迫まがいな言葉にすら、万里くんは毛ほども怯まなかった。

 

「キミは今でも一朗くんの命日には必ず手を合わせに行っているようだね…そんなキミに彼のご両親ももう一人の息子のように愛情深く接していると聞いている」

 

「ああ。一朗の弟のように扱われてこっちが照れるくらいにはな」

 

「それはいいことを聞いた、交渉もうまくいきそうだ…さて、神楽くん。そんな大切な友人のご両親宅には現在、五名のリリベルが派遣され包囲が完了している」

 

「五名…」

 

 その言葉を聞いた私とたきなが出口から飛び出そうとするも、直立していたリリベルたちが一斉に武器を構えたことで動きを止めざるを得なかった。

 私一人ならいくらでも躱せるけれど、ここにはミズキとクルミもいる…せんせいは自分で何とかしてもらうにしても。

 

 ようやくわかった、なぜこの部屋にリリベルが同席していたのか。万里くんを相手取るならこんな人たちは何の障害にも護衛にもならない。

 

 

 彼らは、私たちに向けての牽制だったんだ。

 

 

 ここまで黙していた楠木さんの口が『ゲスが!』と動いた様子が見えた…声に出してはいないものの、さすがの楠木さんもはらわたが煮えくり返っている様子だ。

 

 この場の主導権を奪い返したことが痛快に感じたのか、心なしか笑顔の虎杖は滔々と語る。

 

「もう一度言う…キミをリリベルのファーストとして迎えたい。任務に出向いてもらう必要はあるが、それ以外の一切において不自由させないことを約束しよう。本来あり得ないことだが、特例でパスポートの所持を認める。任務に支障が出ない範囲で海外旅行を許可もしよう。必要であれば女性などの手配も任せてくれたまえ」

 

 

 こんのチョビヒゲぇ!何言ってくれちゃってんの!これ以上敵を増やそうとすんなやぁ!

 

 

「無論これはあくまで交渉だ…しかしながら、キミが拒否した場合一つの家系は今日で途絶える……心して答えたまえ」

 

 

「断る」

 

 

 蟀谷(こめかみ)に銃を突き付けられた状態でなにが交渉だ…こんな状態じゃさすがの万里くんも一時的とはいえ条件を吞むしか…って!

 

 

『ええええぇえぇええぇええ!!??』

 

「おぉ!?びっくりした…みんな一斉に大声を上げないでくれよ…心臓に悪い」

 

「いやいやいや!万里くんこそ!そんなあっさり突っぱねちゃっていいの!?」

 

「うん?千束は俺にリリベルになってほしいのかい?」

 

「絶対ヤだよ!」

 

「俺も嫌だ、だから拒否した。それだけだよ」

 

「それだけって…えぇ…」

 

 割とピンチだと思うんだけど?

 やはりというべきか、納得のいっていない虎杖が再度万里くんに声を掛けた。

 

 

「私の聞き間違いかな?今なんと」

 

「聞き間違いじゃないさ。俺は確かに断ると言った」

 

「…そんなことができる立場かな?」

 

「できるさ」

 

 万里くんは椅子の背もたれに背中を預けふんぞり返った姿勢のままその長い足を組んだ。

『The 俺様!』といった姿勢なんだけどバグレベルのイケメンだからなぁ…似合うんだよなぁ…

 

「そもそも馬鹿二号…改めゲス。あんたの考えなんて最初から分かっていた」

 

「……何?」

 

「そもそも俺がこの場に喫茶リコリコの従業員全員を同席させたのは、皆に語った理由の他に、俺が守りたい人達を一か所に集めたかったからだ」

 

「…!」

 

「千束とたきな、それにミカさんは自衛ができるがクルミちゃんとミズキさんはそうはいかない…俺が留守の間にちょっかいを掛けられないためにこの条件は外せなかった。フキとサクラに関しても自衛は可能。エリカを同席させるのは難しいだろうが、彼女はリコリスである上に今日は非番。DAの中ではリリベルが不審な行動をとることはほぼ不可能に近いため問題ない」

 

「……」

 

「では残るは?…一朗のご両親だけだ」

 

「…なるほど、恐れ入った。…しかしながら、我々がすでに包囲を完了していることは覆しようのない事実だ。キミがどれだけ作戦を読んでいたとしてもどうしようもないのではないか?」

 

「……」

 

「惜しかったな…作戦を読み切っていても動かせる駒が少ないキミはどうしても手段が限られる。ここから遠く離れたターゲットを守る方法はない!」

 

 

 鋭く吠えた虎杖が懐の無線機を取り出した。コイツの言う通りだ…さすがの万里くんも今から走ったとしても無線の方が速いっ!

 

 慌てる私達を他所に万里くんは至極落ち着いている。まるで脅されてなどいないかのように…

 

 

「チームα…こちら虎杖…交渉は決裂だ…私達をコケにしてくれた男の大切な人とやらはもう用済みだ」

 

『………』

 

「…こちら虎杖…聞こえているか」

 

『………』

 

「チームα!応答しろ!」

 

 虎杖がみっともなく無線機に怒鳴りつけている…恐らく虎杖からの一報で人質を始末する手はずだったのだろう。

 

 大の大人が叫び散らかすこの狭い会議室に、クスクスと控えめな笑い声が木霊する。

 こんな状況で嗤えるような胆力の持ち主は一人しかいない…やはりというべきか、笑い声の正体は万里くんだった。

 

 

「…何がおかしい」

 

「何が、と来たか。強いて言うならすべてだな」

 

「何?」

 

「ところでゲス…あんたらの調査能力は素直に称賛しよう。あんたが調べた内容はほぼすべて真実だ」

 

「…当然だ」

 

「だが少しだけ間違いがある…間違いというよりは訂正というか、アップデートかな」

 

「何が言いたい!」

 

 

 

 

「最近もう一人増えたのさ。頼りになる数少ない友人がね」

 

 

 

 

 

『あー、あー、聞こえてるかぁ?…たくなんで今時無線機なんだよ。スマホでいいだろスマホで』

 

「ッ!…誰だ貴様!」

 

『聞こえてるみてーだな。わりーわりー…使い方わかんなくてさっき無視しちまった』

 

「だから貴様は誰だと言っている!」

 

『気にすんなよんなこと、名乗るほどのもんじゃねぇし。んで、あんたはこのガキどもの引率の先生か?五人ばかしブッ飛ばして気絶してっから、さっさと回収しねぇと大事になんぞー』

 

「貴様ぁ!」

 

『んなことより…そこにイケメンの兄ちゃんいんだろ?変わってくれねぇ?』

 

 

 

「ああ、最初から聞こえているよ…急な頼みだったのに、すまなかったね」

 

『おお!気にすんなよ、俺はあんたに一度命見逃してもらってんだ…これくらいしなきゃ()()()()()()()()()

 

「フフ…変わらないね…()()()()()()()()()()()()()

 

『ハッ! んで?これで全部か?』

 

「ああ、さっきそこにいるのは五人だとわざわざ教えてくれたからね」

 

『ほーん。五人ぽっちで()()に喧嘩売るなんて、ドMか? まあいい。俺は警察だのが来る前に退散するぜ』

 

「ああ。助かったよ」

 

『さっき聞いたっての』

 

 

 その言葉を最後に通信は途絶えた…っていうか今の!

 

「万里くん!今のって!」

 

「親切な人がいたものだねぇ」

 

「いやいやいや!テロリストって!万里くんのこと大将って!」

 

「親切な人がいたものだねぇ」

 

「そんだけで通す気でしょ…」

 

 まあいいや…今はそれどころじゃないし…

 

 

「さて、ゲス」

 

「!」

 

「あんたの言う『動かせる駒』は盤上から降りた。そうなれば後は指し手(プレイヤー)同士の殴りあいかな?」

 

「……」

 

「こう見えて俺は暴力は好まないんだ。何よりも加減が難しい。少しでも気合が入ったり『対象に悪感情を向けていたり』すると、ついつい骨の一本や二本や臓器の一個や二個は粉々にしてしまう気がしてね」

 

「……」

 

「これは世間話だが、人質とはつくづく卑怯な手だとは思わないか? 相手を意のままに動かすだけでなく、無関係な人にまで恐怖や悲しみを強要する」

 

「……」

 

「俺はそのことをごくごく最近実感してね…具体的には十五分ほど前のことなんだが」

 

「……」

 

「まあそれはさておき。交渉が途中だったね…交渉材料が使えなくなったとはいえまだ俺の拒否の意見を受け取ってもらえていない以上話は続くだろう?」

 

「……」

 

「俺は拒否したい、あんたらは俺を引き入れたい…これが平行線ならば、温厚な俺といえど拳を握るしかなさそうだ」

 

「…受け入れよう」

 

「すまない、俺の正拳突きの風圧で聞こえなかった。もう一度」

 

「…キミのことを引き入れることを諦める」

 

「すまない、拳を突き出したところにあった長机が粉砕される音で聞こえなかった。もう一度」

 

「数々の非礼、すべて謝罪する! キミとその周囲の人間に今後一切の接触をしないことを約束する!」

 

 

 申し訳なかった!という心からの悲痛な叫びと、虎杖のみならず周囲のリリベルを含んだ全員での一糸乱れぬ統率の取れた土下座により、握りしめられた万里くんの拳はその力を抜いた。

 

 

 というか万里くんと交渉している人を見ると、終盤当たりではなんでこんなにも相手に同情してるんだろ…毎回こんな気持ちになるんだけど。

 

 万里くんが粉砕した長机は、どれほどの力を加えられたのか、粉々になりすぎて砂のようになっている。

 

 

 たきな以上に、万里くんだけはぜっっっっっったいに怒らせないようにしよう。

 

 




拙作のリマスターというか、分岐世界的なものを書きたいなぁと少しだけ考えました。

例えば一朗くんが亡くならない世界や今回の交渉でリリベルに入る世界線など。

需要がなさそうなのと労力的なもので実現するかは不明です。
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