好奇心は猫をも殺す   作:やまぎ

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第六話です。
どうやら主人公は、というか作者はリコリス達に選択の余地がないように感じられて、それが嫌なようです。

また、戦闘まで書けなかった…と見せかけて完成しておりますのですぐさま第七話投稿いたします。


フキでいーよ。

「おい」

「…」

「おい神楽無視すんなコラァ!」

「ん?ああ、済まない春川さん。どうしたんだい?」

「どうしたもこうしたもあるか!模擬戦てなんだよ!」

 

 たきなを追いかけるはずが、こいつの口八丁のせいであれよあれよと千束の元へ向かうことになった道中、私は改めて神楽を問い詰めた。

 

「模擬戦は模擬戦だよ。本番を想定した戦闘訓練」

「ブッ飛ばすぞ」

「フッ…いや済まない、おふざけがすぎた。理由は楠木女史に伝えたことでほぼ全てだ。司法を完全に無視して、お天道様に顔向できない方法で秩序を守っているとふんぞり変える猿山の大将に、自分たちが定めた方針が完全な棚上げであることを突きつけてやろうと思ってね」

「ああ、正義感とかそんなご立派な理由じゃないよ。ただの好奇心」

「認めざるを得ない現実を前にした時、女史は一体どんな表情で何を話すのか」

「とても興味深いね」

 

 どうやらこいつの事を、私はこの後に及んで軽く見ていたらしい。

サクラなんかお呼びもつかないほど性格悪すぎだろ…

 

 そんな心境の私を横目にツカツカと歩く神楽は、やがて千束がいるはずの部屋の前に立ち止まった。

 

「さて、着いたようだし春川さん」

「錦木さんに事情説明、よろしくね」

 あ、模擬戦のことはまだ話さないでね、などと軽く宣うこの男のことをどうやら私は少しだけ気に入ったらしい。

こんなことを軽く言うのを『言うと思ったよ』なんて肩を竦めるのに留めるくらいには。

 

───

 

 司令から突き付けられた現実を認められず、がむしゃらにその場から逃げ出して、気が付いたらここにいた。

DA本部の敷地内にある、私たちに与えられた寮の吹き抜け構造になっている噴水広場。

京都から転属され、ここに入寮し、噴水をこの目で見た時の達成感は今でも覚えている。

 

 私だけではない、DAに拾われた私たちリコリスみなの憧れ。

夢…だったのだろう。身寄りのない私たちがDAに拾われ、治安維持に役立てると知ったその時から、この命をDAや日本のために使うと決めた。

けれど、もう…

 

「たきな」

 

 声が聞こえた。振り返る。

 

「やっぱりここにいた」

リコリスみんなここ好きだもんね、といつもと変わらない笑顔で、千束さんが立っていた。

その少し後ろを、フキさんと神楽さんが並んでこちらを見ている。

 

 限界だった。

千束さんと、フキさんが目に入った途端堰を切ったように言葉が止まらなかった。

 

「…じゃあどうすればよかったんですか」

「人質になったエリカを見殺しにすればよかったですか」

「いつ復旧するかもわからない通信をただ待っていればよかったですか」

「フキさんが責任者として先陣切って突撃した後に取り押さえていれば、私はまだDAにいたんですか」

 

 言ったきり俯いて顔があげられない私に、穏やかな千束さんの言葉が届いた。

たきなを必要とする人が街にはたくさんいるよ、と。ここじゃなくたって、と。

 

 反射的に叫んだ。

「あなたはDAに必要とされているからいいですよね!」

「私にはっ…私の居場所は…もうここにはない…」

 

 言ってしまってから、これは八つ当たりだと心の中の冷静な部分が囁く。わかっている。

「ごめんなさい」

「たきな…」

「わかっています。全部自分のせい」

 

 千束さんは穏やかな表情を崩さないまま隣に並んで、言う。

私の行動は仲間を救うため、命令されるでもなく自分で導き出した答え。それが一番大切だと。

押し黙る私にかまわず千束さんは続ける。

 

「それに、たきなの処遇はそれとは関係ないよ」

「!」

「あの日、通信障害があったってホント?」

「ええ、技術的なトラブルが原因だと…」

「ハッキング、だよ」

「ラジアータが?」

「それ。DAの機密を一手に担う最強AIだよ?」

全てのインフラに優先するのに通信障害など起こりえないと千束さんは続けた。

 

「でも当然そんな報告はできないから、リコリスの暴走ってことで話を終わらせようとしてる。その結末に不可欠なのよ、たきなの異動は」

 

 なんだそれは。そんなことのために私は夢を!

思わず駆け出し、司令に直訴しようとした私の前に、見上げるほどの長身が立ちふさがった。

立ち止まって見上げる。ここまで特に表情を変えず動向を見守っていた神楽さんだった。

 

「どいてください!」

「ん、どこに行くのかな井ノ上さん」

「決まっています!司令に直接話を!」

「いやいや、認めるはずないでしょ楠木女史が」

 それにね井ノ上さん、と神楽さんは続けた。

 

「もしも女史が情報操作を認めて、奇跡が起きて井ノ上さんがこのDAに返り咲いたとして、今まで通りこの場所で命を掛ける覚悟はあるかい」

 

 心臓が止まった気がした。それほどまでに、彼からの問いかけは自分の奥深くに突き刺さった。

 

「ごめんね、部外者の俺にこんなこと言われたくないよね、何も知らないくせにって」

「でも何も知らないからこそ、キミに聞くことができるのは俺しかいない。だから問おう」

「井ノ上さん、キミが思い描いた夢は、キミがあの日抱いた憧憬は、この場所(DA)でしか叶えられないものなのかい」

 

 言葉が、出ない。

 

「俺はね、井ノ上さん。この組織が気に入らない」

「ああ、勘違いしないでくれ。あくまで気に入らないのは組織。そして強要する上層部だ。所属しているキミや錦木さん、春川さんやサクラさんに思うところはないよ」

 

 神楽さんは否応なく人の目を惹くあの微笑みのまま滔々と続けた。

 

「考えてみたんだ」

「キミたちは共通して若い。成人している子など一人もいないだろう」

「加えてここは寮だろう?つまりみなここで寝泊まりしている。自宅に帰ることはないのだろう…いや、自宅がないのかな」

「そこにキミのそのこだわりよう。まるで家を追い出された幼子のようだ。これらをすべて納得のいく説に整えるならば」

「キミたちリコリスと呼ばれる少女たちはみなそれぞれの事情で、身寄りのないすでに天涯孤独の身」

 

 違うかな?と、尋ねているはずなのにすでに確信に至っている表情を魅せられて、否定の言葉は出なかった。

私の反応を見て、仮説が立証されたことを確信したのであろう彼は続ける。

 

「ん、やはり気に入らないね」

「身寄りのない子供たちを引き取り、幼い心に感謝の心と使命を植え付ける」

「引き取られた年齢によってはそれまでの生活を覚えているだろう子供たちに拒否権はない…断ってしまえばまた捨てれられるかもしれないと考えるだろう」

「そうして少女たちに、献身という名の殺人を強要する」

「中にはそれが幸せだと考える子もいるかもしれない、それはそれでいい。自分で選んだ末、ここにいるのならば」

「でも大半はそうではないだろう。DAに育てられたから、DAで教わったから、DAでしかできないものと勘違いをしてしまう」

 

 でも、と神楽さんは屈み、私の両肩をつかんでその特徴的な紫色の瞳で真っ直ぐに見詰めて、問う。

 

「本当にそうかい?」

「キミは知ってしまっただろう。喫茶リコリコを。錦木 千束を」

「…ぁ」

 

 思わず、私は横にいる千束さんに視線を投げた。変わらず、穏やかな顔で私と神楽さんを交互に見ていた。

 

「聞いたわけじゃないが、十中八九彼女も身寄りのない子だっただろう。それでも、DAではない場所で、DAで培った経験で、誰かの笑顔を守っている」

 

 ひどいように聞こえるかもしれないけれど、と神楽さん。

「DAにはキミの代わりはいくらでもいるようだよ。現在はサクラさんが春川さんのパートナーだ」

「…」

「けれど、喫茶リコリコの従業員に…錦木 千束の相棒に代わりはいるのかい」

 

 私が何かを言う前に、いないよ!と叫ぶように千束さんに抱きしめられた。

 

「たきな」

「…」

「今は次に進む時…失うことで得られるものもあるよ」

 

「井ノ上さんがあの時、自分で答えを出していなければ、俺たちは井ノ上さんに出会えなかったよ」

「あぁ!!私が言おうとしたのにぃ!!神楽くんがいいとこ取りしたぁ~」

「おっとごめんよ。そんなつもりは」

 

 千束さんは拗ねたように神楽さんに絡んだかと思えば、素早く私に駆け寄ったかと思うと、そんなことより!と抱き上げた。

 

「ちょっと千束さん!?」

「私は君に会えて嬉しい!」

「ちょっと!」

「嬉しい!嬉しい!」

 

 そのままくるくるとその場で回り、気が済んだのか私を下して続けた。

誰かの期待に応えるために悲しくなるなんてつまらない、と。

居場所はある、と。お店の人たちと過ごす時間を試してみるのはどうか、と。

 

「それでもここがいいならそん時に戻ればいいじゃん!」

「遅くないよ。今決めなきゃいけないことなんかなんもない。チャンスは必ず来る」

「その時にしたいことを、その時に選べばいい」

「私はいつもやりたいこと最・優・先!」

 まあ失敗も多いんだけど、と苦笑した。

 

「へぇ…いい言葉だねやりたいこと最優先。うん、しっくりくる。俺もそれ貰っていい?」

「え!?うん…いい、けど…」

「ありがとう。今から俺の座右の銘もやりたいこと最優先、だ」

 

 なにやら神楽さんがうんうんと頷いている。

変わった人だな、と千束さんを見やると同じ事を考えているのか目が合った。

 

「「ぷっっ」」

 

 二人して吹き出していると、不思議そうに神楽さんがこちらを見ている。

その表情にまた笑った。

 

 うん、もう大丈夫。利用されたことは悲しいけれど、見つけられたものもあるから。

 

─────

 

「おい」

「ん?ああフキ。居たんだ」

「ずっと居たわ!喧嘩売ってんのか!」

「ああはいはい。ったくも~せっかくいいところだったのに~。んでなに。なんか用?」

「ちっ!私じゃなくて神楽に言えよ」

「どゆこと?」

 

 フキはその言葉に応えず、神楽くんに顎をしゃくって合図をして見せた。まるで続きはお前が話せというように。

 

 神楽くんも理解しているのか特に何も言わず小さく咳払いをしている。

改めて何かを話し始める時の癖らしく、これまで何度か見たことがある。カワイイ。

てか、なんかフキと仲良くない?なんで?今の合図なんか気安い感じで羨ましいんですケド?

そんなことを考えていると、神楽くんが話し始めた。

 

「ここにいるみんなとサクラさんVS俺で、模擬戦しよっか」

 

 ん?今なんて?模擬戦士ヨッカ?なにそれ、今のニチアサ枠?

戸惑っているのは私だけではなくたきなもフキも理解できていないようだった。

 

「おい」

「どうしたんだい春川さん」

「どうしたじゃねーよ!何を口走ってんだお前は!」

「いや、春川さんには事前に説明してたじゃん。井ノ上さんを連れ戻すことができたら、誰かと模擬戦させてくださいって」

「そうだけど!なんで私たちなんだよ!ていうかなんで複数人だよ!タイマンじゃねーのかよ!」

「タイマンって久しぶりに聞いたな…ていうかタイマンなわけないじゃん。春川さん俺に勝てると思ってんの?」

「…っ」

「キミら四人なのは、俺が知っているのがこの四人くらいしかいないってのと、おそらくこの本部内における最高戦力だから」

 

 私とたきなが呆けている間に、少し事情を知っていたらしいフキとの間でトントン拍子で話が進んでいく。っていうかちょい待ち!

 

「模擬戦って何言ってんの!?さすがに誤魔化し切れないから言うけど、私たちみんな一般人じゃないよ!?」

「てかフキ!あんたもなに流されてんの!リコリスが四人寄ってたかって一人を相手したらイジメじゃん!」

 

 必死になってこの話をなかったことにしようとする私とうんうん頷いているたきなであったが、フキの衝撃的発言で思考が吹っ飛んだ。

 

「あ?なんだ千束知らねぇのか。その点だけは心配ねぇよ」

「神楽がガチでやる気なら、私がいようがお前がいようが、私たちは文字通り瞬殺だ」

「何があっても勝敗は動かねぇよ」

 

 は?何言ってんの?

戸惑う私はわたわたと意味のない行動を繰り返し、フキに馬鹿を見るような目で呆れられた。こっちみんな!

 

「なんだ神楽。千束たちにお前のこと話してねぇのかよ。てっきり知り合いかと」

「ん~。まあ知り合いなんだけど、春川さんたちと会ったときみたいなシチュエーションじゃないと中々ね。そもそも俺も彼女たちはただの喫茶店の看板娘だと思ってたから。春川さんと同業だって知ったのもさっきだよ」

「それもそうか」

 

 いろいろ衝撃的なことがありすぎて話半分だった私たちだけど、どうやら模擬戦の話は本当にやるっぽい。

あと、どうやら神楽くんがめちゃくちゃ強いらしいってことも。

 

「あーもー!わかったよ模擬戦やるよやればいいんでしょ!」

 やるよ、たきな!と視線に乗せてたきなを見やると、力強い目で頷いてくれた。

 あ、やるのはいいとしてもこれだけは聞いておかないと。

 

「模擬戦やるのはいいんだけど、そもそもなんでやることになったの?」

 

 私のこの問いに、フキは肩を竦めて首を振った。フキも詳しくは知らないらしい。

私は神楽くんに答えを促すように視線を投げた。

 

「ん、そうだね。そろそろいいかな」

「春川さんにはさっき少しい伝えていたんだけど、そんなに深い理由はないんだ」

「好奇心だよ」

「キミたちリコリスという陰の英雄たちの献身によって成り立ってきた治安維持」

「しかしさっき話した理由から、俺はこの組織形態が気に入らない」

「そもそも日本は法治国家だ。裁きはすべて司法に委ねられなければならない」

「そんな、今どき小学生でも知っている常識を改めて突き付けられた時」

「キミたちの長はどんな言葉を紡ぐのか」

「長というのは文字通り、その集団を率いる存在だ。集団の存在意義を問われたとき、確固たる回答ができなければならない」

「俺はそこに興味があるのさ」

 

 神楽くん特有の、彼の一挙手一投足に引力があるかの如く視線を逸らせない不思議な感覚。

私たち三人は例外なくみな彼に魅せられていた。

 

「という理由が先ほどまで大半を占めていたけれど」

 突然彼の雰囲気がコロッと入れ替わり、周りの人々を安心させるような声音で、たきなに語り掛けた。

 

「井ノ上さん」

「…はい」

「今日はいろんなことがあって大変だったね」

「…はい」

「俺や錦木さんが井ノ上さんに伝えたいこと、伝わったかな」

「っはい」

「ん、そうはいってももやもやするだろう。それは仕方ない。誰だって切り替えるのに時間がかかることはあるさ」

「…」

「だからね、模擬戦で思いっきり体動かして、全部リセットしよう」

「…ぇ」

「考えがぐるぐるしてまとめられないなら、全部忘れてとりあえず暴れよう」

「あ…」

「俺が相手になるよ。大丈夫、こう見えて超強いよ、俺」

「…」

「井ノ上さんどころか、錦木さんや春川さん、サクラさんがまとめてかかってきても何の障害にもならない」

「…!」

 

 わかるよ、たきなを励まそうとしてるんだよね、わかるわかる。

神楽君優しいもんね、わかるよ。でもなんかちょ~っとカチンと来たな、私。

 

 なんかさ、盛ってない?さすがに。言いすぎてない?実は。

というか、フキたちはともかく私たちが戦ってるとこ観たことないよね、神楽くん。

あ、たきなもなんかカチンと来てるっぽい。

励まされているのは分かるから、うれしい反面あれ来てるよね、頭に。

 

「よーし!!そこまで言うならわかった!」

「神楽くん!ボッコボコにしてやるから覚悟しろよぅ!」

たきな!準備行くよ!と声を掛けると、はい!と大きな声が聞こえてきた。おぉう、今までで一番腹から声出したね、たきな。

 

────────────────────────────────────

 

「わざとだろ」

「なにが」

「さっきのセリフ。わざとあの二人煽ったろ」

「春川さんにはやっぱりバレたか」

「もう十分お前のやり方は見せてもらったからな」

「フ…でもま、嘘ってわけじゃない。春川さんたちが束でかかってきても、負ける気がしない」

「……フキ」

「ん?」

「フキでいーよ。呼びにくそうだしな」

「…了解、よろしく、フキ」

「…私たちもいくぞ、()()

 

 




フキさん動かしやすし。

原作アニメをご覧の皆様はお気づきでしょうが、フキさんやサクラさんとのギスギス煽り合いは開催されませんでした。

それはひとえに、ヒロイン同士がギスッてたらフラグ立てるのクソむずいやんけ!
という作者の力不足が故です。
文章力が欲しいです。

誤字脱字などございましたらお手数ですがご報告お願いいたします。
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