とは言っても主人公の過去編です。
オリジナルキャラの過去なので読まなくても大筋に変化ありません。
この世に生を受けて以来、できなかったことは数えるほどない。
俺はどうやら他の人とは何かが違う、いわゆる『特別』なのだと、物心がついたと同時に理解した。
一度見聞きしたものを忘れることなどなかったし、少し真面目に走れば当然のように他を置き去りにした。
幼少の頃よりそんなだったためか、初めは天才だ、神童だと持て囃していた両親も、俺を気味悪く思うまでに時間はかからなかった。
──気まぐれに拾った木の枝を気まぐれに振りまわした結果、その場にあったコンクリート塀を両断したのだから、当然か
5つの頃、両親が俺を残して姿を消した。
逃げたのだ、俺という人の形をしたバケモノから。
両親が居なくても困ることは特になかった。家庭訪問だのなんだのと、親類縁者が居て当然というような行事には眉をひそめたものの、近所に住むうだつの上がらないサラリマーンにいくらか金を握らせれば何とでもなった。
やがて10になった頃、俺は退屈していた。
幼少の頃から異常だった身体能力は留まることを知らず、他人の目に映らないような速度すら実現した。
手当たり次第に何でもやった。医学、語学、スポーツ、芸術、音楽…
──何か…何かないのか…俺にできないこと……おれのやりたいこと…!
俺は毎日のように、この無駄に優秀な脳を恨んだ。
そんなある日。
近所の河川敷に通りかかった時、俺は出会った。
竹刀を振り上げては振り下ろし、振り上げては振り下ろしを愚直に繰り返す男子高校生に。
そういえば、会得したスポーツの中に剣道があったな、なんてぼんやりと思いながら高校生を観る。
──ただ闇雲に振り下ろしているだけ…重心が安定していないから振り下ろした竹刀の勢いに流されている…
下半身の強化と同時に、体幹トレーニングが必須だな。
ただの気まぐれ。ほんの少し気分が乗って、男子高校生へのアドバイスの為近付く。
足音に気付いた男子高校生は、素振りをやめて驚愕の表情でこちらを見ながら口をあんぐりと開いて固まっている。
俺はそんなことを無視し、一方的に改善点を叩き付けてやろうと声を出そうとして、今度はこちらが驚愕した。
声が出ない。喉が張り付いたようにカラカラで、言葉にならない音が漏れただけだった。
原因を考えて、すぐに思い至る。
──俺は何年、声を出していない?
学校で話す奴など一人もいない。誰もかれもが猿に見える。
給食がカレーだと踊り、ドッチボールに勝ったと喜び、誰それが悪口を言ったと癇癪を起し泣き叫ぶ。
わかっている。小学校なぞそれが健全、それで当然。
俺が異常で、異端なだけだ。
だとしても、迎合する気にはなれず、同級生たちとの関わりを持たず過ごしてきた。
そんな俺を、カッコつけだ根暗だとからかうやつもいたが、相手をする気も起きず徹底的に黙殺した。反応がない奴をわざわざ相手するわけもなく、時期に止んだ。
そんな俺を教師も気味悪がり、俺個人に話しかけることは一切ない。
しかしながら、声すら出していないとは。我ながら徹底的だな。
そんなことを考えながら、改めて発言するために小さく咳払い。
喉の調子を確かめていざ発言しようと顔を上げた瞬間、目の前で叫ばれた。
「なんだキミ!!すごいイケメンだな!!」
「うるせぇ。顔が近ぇ。唾飛んだじゃねーかブッ飛ばすぞ」
しまった。あまりの勢いに予定していたセリフブッチ切ってめちゃくちゃ毒を吐いてしまった。
しかし彼は嘘みたいに素直なようで、真っ直ぐ謝罪してきた。
「ああ、ごめん!ティッシュあるから拭いてくれ!」
「…ああ、どうも」
「ごめんな」
「いいよ、もう」
そんなことより、さっさと本題を告げてしまおう、とアドバイスという名の自己満足を叩き付けた。
「おお!下半身に体幹!ありがとう!すぐにトレーニングに組み込むよ!」
「ああ…いや」
「キミは剣道に詳しいんだな!」
「まあ」
やはり恐ろしく素直だ。
「アドバイスありがとう。ぜひお礼がしたい。キミの名前は?」
──名乗るなんてそれこそいつ以来だろうか。
先ほどのような醜態をさらさないよう、あらかじめ小さく咳払い。
「俺は神楽 万里」
「万里くんか…イケメンは名前までイケメンだな!」
「なんだそりゃ」
「では俺も」
彼も、コホンと咳払い
「俺の名前は田中 一朗」
「以後よろしく」
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そんな彼──一朗との出会いから、俺たちはたびたび会うようになった。
会うといっても場所は決まっていつもの河川敷。
毎日のように竹刀を振っている彼に、気が向いたら俺が顔を出してたわいのない会話をするだけ。
一朗は、凡人だ。
アドバイスを取り入れたとはいえ、彼の成長は遅々としたものであった。
それでも竹刀を振ることを止める、なんて彼の頭にはないらしかった。
ある日俺は、竹刀を振る彼の背中にこう言ったことがある。
──毎日飽きもせずに…一朗はよっぽど剣道が好きなんだな。
彼はきょとんとして答えた。
「え、いや別に」
「え」
「やりたいからやっているだけで、別に好きとかじゃない」
「やりたいっていうのは、好きじゃないのか?」
彼は自分でも言語化しにくいのか、頭をひねりながら答えた。
「う~ん。ぶっちゃけ俺剣道下手じゃない?」
「…」
「気を使わなくていいよ。万里くんからのアドバイスでちょっとだけ改善できたけど、それまではダメダメだった」
「…」
「学校では部員が少ないから試合には出れるんだけど、毎回手も足も出ない」
「…」
「ぶっちゃけつらいよ。毎日必死に練習してるのに上達しないし、勝てないし」
「…」
「でも、やりたい。やってみたい。いつか試合で、対戦相手の面を打ってみたいんだ」
だから好き嫌いでやってるわけじゃないんだ…と苦笑して素振りに再開した。
なるほど…確かにこれは言語化できないな。
衝動のようなものなのだろう。
俺も、少しは衝動に任せてみよう。
「一朗なら」
「?」
「一朗なら、できるさ。いつか必ず」
一朗は小さくありがとう、とだけ呟いた。
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なんて、思い返すだけで顔を枕に押し付けて叫びたくなる黒歴史を展開してから数週間。
「また、か」
一朗はめっきり姿を見せなくなった。
もちろん今までもいない日はあったが、ここ一週間は毎日だ。
彼が練習をサボるとは考えにくい…体調でも崩したのだろうか。
見舞いに行こうとしても、住所どころか連絡先も知らない。
──俺は彼のことを何も知らないんだな…今更だが。
とはいえ、いないのならば仕方がない。今日はもう帰るかと踵を返して、視界に黒い人影を見た。
人影のほうをよく見てみる。河川敷の端に二人、こちらを向いて立っている。
中年に差し掛かった男性と女性。男性は女性の肩に右手を置き、女性はハンカチを口に当てている…泣いているのだろうか。
彼らは連れ立ってこちらに歩いてくる。よりよく見えるようになって、気付いた。
彼らはどちらも、黒い服を着ている。まるで、そう。喪服の…ような…。
ああ、何度目かわからない。
俺は、この無駄に優秀な脳を恨んだ。
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彼らはそれぞれ一朗の御両親だった。
一朗は、心臓に病を抱えていた。医者から激しい運動は止められていたが、彼はついぞいうことを聞かなかった。
──俺のせいだ!
なにが下半身の強化だ、体幹トレーニングだ!
俺のアドバイスのせいで一朗は…!
そんな益もない自罰的な思考に囚われていると、お父様から話しかけられた
「初めまして、万里くんだね。一朗からよく話を聞いているよ」
「…はい」
「一朗にアドバイスをくれてありがとう」
「…」
「一朗から、もしも万が一の時は万里くんに事情を説明してやってほしいと頼まれてね」
「…」
「万里くんなら
「…」
「一朗の葬儀は先ほど終了してしまった。済まない、バタバタしていてね…キミに参列してほしかったんだが」
「…いえ」
なにも、考えられない。これが…死か…
「万里くん」
お母様から声を掛けられた。
「自分を責めないで」
「…ぇ」
「確かに一朗は、あなたのアドバイスを聞いて、より一層トレーニングの時間を増やしたわ。あなたが悔やんでいるのはその点でしょう?」
「…」
「けれどあなたは一朗の体のことを知らなかった。アドバイスにはひとかけらの悪意もなった。そうでしょう?」
「あ…」
「一朗は、やりたいからやっていたの。やらない選択肢は勿論あった。医者も私たちもむしろ『やらない』を選んでほしかった」
「…」
「それでも一朗は、やりたいからやっていたの。最期まで人生を謳歌していたわ」
そういってお母様は、スマホを取り出し何やら操作をすると、やがてこちらに画面を見せた。
「一朗の、人生の集大成よ。見てあげて」
『母さん、これ写ってる?あ、OK?よし。あー、万里くん、聞こえる?ごめん、今まで病気のこと黙ってて。万里くんなんだかんだ優しいから、気にすると思って。ていうか、今気にしてるでしょ、絶対。まあ、気にするなって言っても無理だろうから、これを見てほしい』
一朗だった。病室だろう清潔感のある白い部屋で、一週間しか経っていないとは思えないほど痩せた一朗がカメラに向かって竹刀を構えた。
振り下ろす。振り上げる。振り下ろす。
これはあの日…俺たちが初めて会った日に一朗が繰り返していた動作だった。
──────────でも、ああ、けれど。
振り下ろした竹刀の先はブレることなく、痩せて辛いはずの一朗の体は竹刀の動きに流されず、その場に根を張ったようにピクリともしなかった。
『どお?どお!?万里くん!万里くんのアドバイスのおかげで、できるようになったよ!…試合には出られなくなって、対戦相手の面は打てなくなったけど、できなかったことが一つできるようになった』
『俺、剣道やっててよかった。万里くんにも出会えたし…俺、剣道好きだ!』
「あ…」
視界が、滲む。泣くな。一朗の最期の言葉だ。見えないなんてことがあってたまるか。
『さて、これが最後になるかな。ねぇ万里くん。俺初めて会った日、万里くんの名前を「イケメンは名前までイケメン」なんて言ったよね。調べてみたんだ。「万里」って言葉の意味。…非常に遠い距離、きわめて遠いこと、なんだって』
『ピッタリだ、と思ったよ。キミは、人類史上最高の才能の持ち主だ。キミなら、どんなに遠いところでも、どんなに離れた場所にでも行ける。キミは、なんにでもなれる』
「…っ」
『キミと初めて会った日、キミはひどく退屈そうな眼をしていた。俺はそれが不思議だったけど、仲良くなってわかった。キミは何でもできるから、周りのなにもかもが面白く感じないんだよね』
『でもね、万里くん。それは違うよ。面白く感じないのは、キミが面白さを探し切れていないだけだ。退屈だから、退屈に感じるわけじゃない。退屈だと感じているから、何もかもが退屈なんだよ』
『要するに、気の持ちよう!』
一朗は、その名の通り朗らかに笑う。
『何でもやっちゃえよ、万里くん』
『何でもできるんだ、やりたいこと全部やろう。キミなら、それができる』
『そして願わくば、キミがあの日気まぐれで俺にお節介を焼いてくれたように…やりたいことを謳歌する中でも、誰かに手を差し伸べるその優しさを、どうか失わないでほしい』
『それでも面白いことがないなら仕方ない、万里くん、キミが創れ!』
以上!と高らかに宣言した一朗が、カメラを止めて、スマホの画面は消灯した。
もう、いいか…一朗の言葉はすべて刻んだ…
────────俺は物心ついて初めて、声を上げて泣いた。
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一朗のご両親に別れを告げ、帰宅した俺は改めて自宅を周ってみた。
息子を置いて消息を絶ったわりに、家財道具は何一つとして持っていかなかった。
俺はそれを急いで逃げたと断じて、バカなことをと鼻で嗤った。
──でも、違うのかもしれない。
確証はない。俺が断じた通りかもしれない。それでも、やりたいと思ったから。
両親の寝室。
彼らが住んでいたころでも、ほとんど入ったことはない。
彼らが消えてからも、埃が舞うのが嫌で掃除のために入室するが、それだけだ。家財道具に触れたことすらなかった。
ベッドサイドに小さなラックが置いてある。その引き出しの一番下。小さな箱とメッセージカード。
「あ…」
万里、誕生日おめでとう。ごめんなさい。
──そうだ、両親が消えたあの日は…
「俺の誕生日…」
誕生日に蒸発するなとか、謝るくらいなら捨てるな、とか。いろいろ言いたいことはあるけれど、もう済んだ話。
そんなことよりも、今目の前にあるプレゼントのほうが、大切に思えた。
──とはいえ、だ
「5歳の息子に渡すプレゼントがピアスって、どんな考え拗らせたらそうなるんだ」
紅と蒼の、鮮やかに光る二つのピアス。そういえば。
「『万里の瞳はとても綺麗な紫色ね』とかなんとか褒められたな」
ピアスをもって裁縫箱から針を取り出し、鏡の前でピアスを開けた。
痛みはなかった。
「似合っては…ないかな」
「そりゃまだ10歳だしな」
「でも、ま」
「ずっと着けてりゃ、似合うようになんだろ」
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やりたいことは、どんどんやろう。
「おはよう」
「え!」
「おはよう」
「……ぁ」
「おはよう」
「お、おはよう」
学校で、今までしたこともない挨拶というものをしてみた。
存外、悪い気分ではない。
クラスメイト達は、一人残らず目を見開いて驚いている。
それはそうだろう。昨日までてこでも口を開かなかった男が、次の日から自分に向かって話しかけてきたのだから。
そうこうしているうちに、担任が入ってきた。
「日直、号令…あ、今日は神楽か…じゃあ代わりに…」
「起立」
『!』
「は!?」
「礼」
「着席」
着席の号令をかけてもだれ一人座らなかった。…驚きすぎだろ。
まあでもちょうどいい、みんな俺に注目しているようだし、ついでにやっておくか。
「やあやあクラスメイト諸君、それに担任殿」
「昨日まではごめんね、絡みづらかったよね、俺」
「今日から心を入れ替えて楽しくやっていこうと思うから、みんなじゃんじゃん話しかけてね」
「っと、話したことない子も多いし、知らない子もいるかもしれないから、改めて自己紹介」
初めが肝心だしな。醜態をさらさないためにも、コホンと小さく咳払い。
「俺の名前は神楽 万里」
「以後よろしく」
両親にも一朗にも、もう会うことはできない。でも、寂しくなんてない。
彼らの一挙手一投足を鮮明に思い出せる。
両親から撫でてもらったことも、一朗が俺にくれた言葉も。
俺は産まれて初めて、この無駄に優秀な脳に感謝した。
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と、いう訳で。
「ミカさん、俺をリコリコで雇ってください」
「…当然どうしたんだい、万里くん」
「いや俺、もうDAとかリコリスとかいろいろ知っちゃった上に、楠木女史に喧嘩売っちゃって」
「んん?」
「直接何かしてくるとは考えにくいんですけど、俺この
「ちょっと待て万里くん」
「それにやってみたかったんですよね、接客業」
「いや、だからな」
「あ、もし拒否されたらショックすぎて、俺警察にあることないこと言っちゃうかも」
──クルミちゃんのこととか。
俺がそう告げると、二階からドンガラガッシャーン!という音が聞こえたかと思うと、血相を変えたクルミちゃんが走ってきた。
「オイ万里!ボクのことってなんだ!」
「ああ、やっぱり聞こえてたんだ、盗聴器かい」
「…っ!」
「あたりみたいだね」
「…なんでわかった」
「ん?キミ、俺がこの店に来ると、すぐ2階に引っ込むでしょ」
「最初は単に俺のことが嫌いなのかと思っていたけど、営業後のボドゲ会では普通に接してくれる」
「だから、俺と二人になるのを警戒していると考えた」
「でも当然、俺にクルミちゃんを害する気はないし、理由もない」
「ならばなぜ警戒するのか、そこで俺は考え方を変えた」
「『俺がクルミちゃんを害する理由』があるんじゃなくて、『クルミちゃんが誰かに害される理由』があるんじゃないかと」
『!』
ここまで話すと、クルミちゃんや周囲で様子を見ていた錦木さんやたきな、ミズキさんの顔色が変わった。
──ミカさんは表情を変えない、か。さすがだな。
「そう考えると初めて会った日、クルミちゃんが言ったことの信憑性が増した」
「『訳あってこの店に厄介になっている』だったかな。このお店がただの喫茶店ではなく、DAの支部の側面があることはすでにわかっている」
「そんな場所に匿われているクルミちゃんだ。突かれると痛い急所なんじゃないかとね」
「盗聴器云々は簡単だ。俺はクルミちゃん以外の従業員と二人になったタイミングで、その人にしかしない話を一つ伝えている」
「内容自体は単なる小話だったりするから特に重要なものではないけれど」
「問題は『特定の人物ひとりにしかしていない話』をクルミちゃんはすべて把握していたことだ」
『!!』
「まあ、錦木さんやミズキさんはお話し好きだし、この二人からポロッと漏れる可能性は考慮していた」
「けれどミカさんやたきなにしかしていない話まで、クルミちゃんは把握していた」
「俺自身に盗聴器は仕込まれてなかったから、俺が席に着いたときに近くの席に仕掛けたってとこかな」
クルミちゃんは流れる冷や汗を拭おうともせずに自分の考えをまとめるかのように口を開いた。
「ボドゲ会の時、毎度ボクの隣に座っていたのは、偶然じゃなかったのか」
「さすがに気付かれてたね。そうだよ」
「ふぅ…参った、降参だ」
クルミちゃんは、袖から出し切れていない両手を挙げて見せた。
「クルミ!あんたね~!」
「うるさいな。さすがのボクも世間話のすべてを警戒することはできない」
俺は二人の会話を遮って言う。
「まぁ、クルミちゃんがここで認めなくてもほかに方法はあるんだけどねえ」
「…どういう意味ですか?」
ここまで黙っていたたきなが俺に歩み寄って尋ねる。
ちょうどいいかと、近くに来たたきなにメモ用紙を渡す。
受け取ったメモ用紙をのぞき込むたきなに釣られるように、喫茶リコリコの従業員全てがメモ用紙を確認している。
「なんですか、これ。数字が書いてあるだけですけど」
「このお店の電気メーターの数値と3日間の上昇率だよ」
『!』
本日何度目か、今度こそミカさんまで一緒になって眼を見開いている。続けるか。
「俺はキミたちリコリスの存在を知ってから、クルミちゃんの担う役割だけがわからなかった」
「どうみても戦闘要員には見えない体格だしね」
「だからとりあえず、バックアップのような支援要員じゃないかと仮説を立ててみることにした」
「クルミちゃんは毎日のようにPCを触っているから、特に電脳戦に強いんじゃないかってね」
「だから、電気メーター」
「3日前にこのお店に来た時の数値と、さっき店に入る前にメーターを確認してメモした数値だ」
「3日とは思えないほどの上昇率だ。飲食店を経営しているとはいえこの伸び率は異常」
「後は警察に、盗電の疑いがある。とか何とか言ってこのお店を調べてもらうよう仕向ければいい」
「もしもクルミちゃんがシラを切るつもりならこのネタで脅はk…説得するつもりだったよ」
「で、どうでしょう、ミカさん。俺を雇ってもらえませんかね」
全員が揃って汗を流しながら、口元をひくひくさせている。
どうしたんだろう、今日そんなに暑いかな。
第八話でした。
ここからアニメでは物語が加速するので、それまでに主人公にはリコリコに雇われてもらわないと蚊帳の外になってしまうので、強引にですがねじ込みました。