シン・仮面ライダーの世界に転生したけどオーグメントが全員魔法少女だった件 作:よよよーよ・だーだだ
SHOCKERとの初戦後。
ボクがルリ子さんに案内されたのは予備のセーフハウス、つまり新しい隠れ家だった。さっきクモ魔法少女に爆破された小屋もそうだけど、ルリ子さんはこうした隠れ家をいくつも用意しているらしい。
「わたしは常に用意周到なの」
そう語りながら、ルリ子さんは厳重なセキュリティを解除してセーフハウスの中へ。
……ルリ子さん、なんだか得意気だなあ。用意周到がどうのって、ひょっとしてキメ台詞のつもりなんだろうか。そんな他愛のないことを脳裏に過ぎらせながら、ボクもルリ子さんに続いて部屋の奥へ。
ところが、安全なはずのセーフハウスには思わぬ“先客”がいたのだった。
「……先にお邪魔しているよ、緑川ルリ子、そして本郷猛」
ルリ子さんのセーフハウスでボクらを待ち構えていたのは、黒服の男たち。人数は二人、どちらも口許のダンディな髭が印象的で、ボクらなんかよりずっとオトナな男って感じである。
「……誰? 国の情報機関?」
警戒心剥き出しで訊ねるルリ子さんに、“先客”の一人は落ち着き払った様子で応じた。
「隣の男は情報機関、私は国の掃除当番だ。SHOCKERの“あとしまつ”を担当している」
そう言いながら男二人がすかさず見せたのは、両手を上げたジェスチャー。情報機関の男と掃除当番の男、二人ともこちらへの害意が無いことを示しているかのようだった。
けれどルリ子さんはなおも警戒を怠らない。
「……それで? わたしたちも“始末”するのかしら?」
「いや、逆だ」
ルリ子さんの噛みつきそうな問いかけに、掃除当番の男は物おじせず答える。
「手伝って欲しい。組織の構成員の排除に協力してもらいたい。代わりに君たちへの情報提供と警護を保証する」
そして政府の男たちとルリ子さんの交渉が始まり、その話を脇で聞きながらボクは状況をある程度把握することが出来た。
ボクらが戦うことになる組織の正式名称はSustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling、計算機知識を組み込んだ再造形による持続可能な幸福組織:SHOCKERであること。元々は世界最高の人工知能開発プロジェクトに端を発した組織であり、現在は組織を運用しているのは電子ネットワーク上に生み出された世界最高の人工知能“アイ”であること。組織のスローガンはトルストイの言葉である"IF YOU WANT TO BE HAPPY,BE."、そして創設者の『人類を幸福に導く』という究極の命令を達成するため、SHOCKERは『深い絶望を抱える個人を救う』ための活動を続けていること。
「……深い絶望を抱える個人を救う?」
なんだか、善いことをしているような気がするのだけれど?
そんなボクの素朴な疑問にも、ルリ子さんたちは答えてくれた。
「実際のSHOCKERがやってることは『深い絶望を抱えた個人に魔法少女の力を与えること』。その行き着いた果てがどうだったか、貴女自身が目の当たりにしたはずでしょ?」
「……!」
ルリ子さんの言葉でボクもようやく思い当たる。先ほど戦ったSHOCKERの殺し屋:クモ魔法少女、彼女は戦いの最中にこう言っていた。
『魔法少女たちのために、人間をこの手で殺すッ! それが私の幸福ッ!』
『貴女も、ヒトを殺す幸せを知りましたね!』
『ヒトではない悦びッ! 貴女も同じ魔法少女、なのに、この幸せがなぜ分からんのですッ!?』
人を殺すことを『幸福』だと語っていたクモ魔法少女。きっと彼女は彼女なりの“絶望”があって、その行き着いた果てが人殺しだったのだろう。
だけど、世迷言だ。いくら絶望したからと言って、人殺しなんて許されるわけないじゃないか。
そんな極端な個人のエゴを叶える力こそ緑川先生が開発した『魔法少女システム』で、それを各個人にバラまいているのがSHOCKER。絶望している人の弱みに付け入り、“幸せにしてあげる”と嘯いて強大すぎる力を与えて悪の道へと走らせる。個人のエゴを養分にして絶望を振り撒き、芽吹いた絶望が絶望を生む連鎖を糧に果てしなく成長してゆくSHOCKER。
……なんて恐ろしい、まさに悪魔の軍団だ。ボクは心の底からそう思った。
掃除当番の男は、さらに話を続けた。
「闇に潜って巨大化し続けてゆくSHOCKERの実態は、もはや我々ですら把握しきれていない。傍から見るかぎりでは、魔法少女と化した構成員たちが好き勝手に暴走しているだけだからな」
わかりやすい黒幕がいる漫画やアニメの悪者なんかとは違う、実体のない組織SHOCKER。だからこそ難しいのだろう。これが人間の手による組織なら幹部たちや黒幕を捕まえれば済む話だが、もはや人工知能が運用しているだけの空っぽなシステムと化したSHOCKERにはそれが無い。
『If you're not paying for it, you're not the customer; you're the product being sold:お金を払っていないアンタは客じゃない。売られる立場の商品だ』なんて皮肉めいた言葉があるけれど、きっとSHOCKERと構成員の関係も似た様なものなのだろう。クモ魔法少女のようなSHOCKERの魔法少女たちは、実際のところSHOCKERという組織の構成員というよりもサービスを受けているお客様に立場が近い。
そんなボクの思いつきを補足するかのように、情報機関の男が口を開く。
「SHOCKERの活動は組織的でもないし、統率もされていない、支離滅裂そのもの。しかも複数の連絡係:カットアウトを通しているから、構成員を捕らえたところで横も縦も組織の中枢とはまるで繋がりが無い。これではいくら各地の構成員を追跡しても、中枢には到底辿り着けない。こちらとしては各地で行動を起こしたSHOCKERの魔法少女たちをマークして物量作戦で制圧する、場当たりな対症療法しか出来ていないのが現状だ」
……なるほど、これはたしかに厄介だとボクもようやく納得した。デジタル化が進んだこの時代、ネット越しでやりとりしている相手の素性はおろか、本物の人間であるかどうかさえわからなくなってしまっている。その行き着いた果てに、こんな恐ろしい陥穽があったなんて。
「……それで?」
政府の人たちとの情報共有を済ませたところで、今度はルリ子さんの方から話を切り出した。
「組織を壊滅させたあとの、わたしたちの処遇は?」
……これも大事な話だ。政府の人たちからすればボクたちだってSHOCKERと変わらない。『狡兎死して走狗煮られる』なんて言葉もあるしね、ちゃんと言質はとらなくちゃ。
鋭く訊ねたルリ子さんに、掃除当番の男は臆することなく答えた。
「未定だ。だが、生命を保証するべく努力する」
「……大人にしては、正直ね」
考え込むルリ子さん、だがそれはほんの少しのことだった。
「……わかったわ。これ以上の痕跡を残したくない。これで契約済にして」
ルリ子さんの答えに、政府の男たちも頷く。
「承諾した。今から君たちは政府公認の『アンチSHOCKER同盟』だ。君たちにはさっそく仕事にかかってもらおう」
そうして政府の男たちから渡されたのは分厚い資料。それらへぱらぱらと目を通していたルリ子さんが、ぼそっと呟いた。
「次のターゲットはコウモリ魔法少女……ああ、コウモリおじさんね」
……コウモリおじさん? なんかちょっと引っ掛かる呼び方だけれど、ひょっとしてルリ子さんの知り合いなんだろうか。
ボクが聞いてみると、ルリ子さんは遠い目をしながら「ええ」と頷いた。
「コウモリ魔法少女。もともと父の研究者仲間だった
「は、はあ、なるほど……って、男!?」
魔法少女なのに!?
自分のことを棚に上げて驚くボクの念押しに、ルリ子さんは「そうよ」と肯定した。
「コウモリおじさん、本来ならわたしの父と同い年、独身、家族も恋人もいない。良い歳して魔法少女にウツツ抜かした挙げ句、本物の魔法少女になってしまったヤバいヤツよ」
んぐっ。
「あの男のことは昔から知ってるけど、本当に痛々しくて付き合うのが億劫だったわ。真の魔法少女たるもの~みたいな気色悪い話で父とよく盛り上がってたっけ。ちゃんちゃらおかしな話よね、当人たちは真の魔法少女どころか良い歳こいたオッサンなのに」
がふっ。
「恥知らずな変態のくせにプライドと見栄だけは一人前、魔法少女が好きなのは百歩譲って個人の趣味の範疇としても、キモオタのオッサン二人が魔法少女の話で大人げない
ぐ、ぬう……っ! や、やめるのだルリ子さんっ、その
「……どうかした?」
「……ナンデモナイデス」
気まずい脂汗をだらだら流しているボクにルリ子さんは怪訝な目を向けていたけれど、やがてどうでも良くなったのか、隣で控えていた情報機関の男に言った。
「銃を用意して。あと予備の弾倉も」
「……了解した」
そして戦う準備を整えたルリ子さんは、早々にセーフハウスを後にした。
ボクも一緒に、行きますっ! そう言ってボクも同行しようとしたのだけれど。
「貴女はついてこないで。今回は一人で充分だから」
そ、そんな。ルリ子さんからの思わぬ言葉に、ボクは食い下がった。
「み、緑川先生と約束したんです、ルリ子さんを守る、って!」
ボクの必死な言葉だけれど、ルリ子さんはばっさり切り捨てたのだった。
「約束ってなに? 死に際の父と話しただけでしょ。わたしには関係ない」
「そ、それは、そう、ですけど……」
たしかにそうだ。『ルリ子を頼む』、この言葉は緑川先生とボクだけの話で、ルリ子さんには何の了承も得ていない。思わず怯んでしまったボクに、ルリ子さんは続けて問い掛ける。
「貴女、目の前の相手を素手で殺せる? 自分の絶望を乗り越えることができる? 出来ないんじゃあないの? そうやって『誰かのせい』って言い訳しないと戦うことも出来ない、そんな貴女とは覚悟が違うの」
「っ…………。」
それを言われると、ぐうの音も出ないのだった。
クモ魔法少女のときは生き延びることだけで精一杯、状況に流されていただけだったけれど、今回は事情が違う。今度は自ら敵地へと赴いて敵の魔法少女を倒す、いや殺しにゆくのだ。人知を越えた魔法少女同士の戦い、一瞬でも気を抜いたら命取りになる。あるいはルリ子さんにだって危険が及ぶかもしれない。
……もし“そのとき”が来たら、ボクは迷うことなく相手を殺せるだろうか。そんな心の中にある迷いを、見透かされているような気がした。
ルリ子さんは言った。
「貴女はいざってとき、足手纏いになりかねない。だから今回は一人で行く」
そうやって言いたいことを言うだけ言ってから、ルリ子さんはボクを置いて行ってしまったのだった。
わたしが本郷を置いて行ったのは、イジワルをしたかったわけではない。
言ったことだって別に間違ってないと思う。
それに、クモ魔法少女を倒したときの本郷の様子がわたしの脳裏に焼き付いていた。本郷があんな風に悲しむ顔を見るのは、なんか、ちょっと、イヤだ。そんな気持ちも無くは無かったとは言えないだろう。
……ただ、ちょっと言い過ぎたかもしれない、とも思う。
如何にも『あなたのためにしてあげてるの!』と言わんばかりの言い草が腹立たしくて、ついつい突き放してしまった部分もあるけれど、かといって本郷だって悪気があったわけじゃない。暴力を振るいたくてそのダシにわたしを使っているわけではない、『緑川ルリ子を守る』という緑川博士との約束を愚直に果たそうとしているだけだ。頭脳明晰スポーツ万能なれど極度のコミュ障という本郷のパーソナリティ、そこへさらに『クソ真面目のバカ正直でアホみたいに不器用』ってのも付け加えて良いだろう。
そういう奴に、わたしは『言い訳しないと戦うことも出来ない』なんて言ってしまった。ましてや『足手纏い』だなんて。沈黙は金、雄弁は銀。真のコミュ障とは何も喋れない人間ではない、余計なことばかり喋って相手を不愉快にする人間である。用意周到を自負しているわたしだけれど、アレは流石に“不用意な発言”だったと認めざるを得ない。
もし生きて帰れたら、謝ろう。
そうと決めたらさっそく謝罪の文言を考える。そして頭の中の独り言でリハーサル。うん、我ながら完膚なきまでに隙のない謝罪計画である。わたしは常に用意周到なのだ。
「……着いたぞ」
そんなことを考えているうちに目的地へと到着。送迎係を務めてくれた政府のエージェントに軽く礼を告げ、わたしはSHOCKERの拠点へと乗り込んでゆく。
その入り口でわたしを出迎えたのは、一体のアンドロイドだった。
「本日もお似合いのコートです、ルリ子様」
品よく、そして規則正しくお辞儀するアンドロイドに、わたしも軽めの会釈を返す。
「あら、御世辞を覚えたの、ケイ?」
SHOCKERの人工知能アイ、そのアイの代理人として組織の運営を担う外世界観測用自律型人工知能、それが“ケイ”だ。ケイはアイの耳目となってこの世界を観測し、アイはケイが見聞きしたものから学習し成長してゆく。こうして見るかぎり、ケイの学習は順調のようだ。
『私たちは人類を持続可能な幸福へと導くアイの秘密結社です。貴方様の願いを実現するお手伝いをさせてください』
いつもこう言って構成員を勧誘し、SHOCKERの組織力でもって彼らの望みを叶えるのがケイの役割だ。ケイもまたSHOCKERの一員ではあるが、エゴのままに振舞うだけの他の構成員と違ってケイは飽くまでもシステムの一部、機械部品に過ぎない。構成員の幸福の実現のために支援はするが、構成員の願望そのものに意見したり干渉したりはしない。
他方、周囲もケイのことは注視するが干渉はしない。ケイは電子ネットワーク上に存在する並列演算型人工知能アイの耳目であると同時に、この世界においてわたしたち人間が唯一観測可能なアイの実体でもある。もしもケイを破壊したりすれば、いよいよアイは世界そのものへと溶け込んで、SHOCKERの行動も完全に観測不可能になってしまう。だから政府の連中も含めて誰もケイには手を出さないし、ケイもまた中立な観測役へと徹することが出来ている。
「ところでルリ子様、本日は何用でしょうか?」
そう問いかけるケイに、わたしはきっぱり答えた。
「降伏勧告」
わたしからの不敵な返答に、ケイは機械らしくない、だけど作り物めいた大仰さでおどけて反応する。
「それはご丁寧に! ……しかし、コウモリ魔法少女様は降伏なさらないかと」
どうやらそうみたい。
アジトを進むわたしの前に立ちはだかったのは、これまたロボットの兵士だった。ただし一品物のケイとは異なる量産品の自動人形、ここを牛耳るSHOCKERの魔法少女が配備した防衛システムだろう。
……あのイカレたおじさん、洗脳した下級構成員も使わないなんて相変わらず誰も信用してないのね。こんなこともあろうかと、予備の弾倉を出来るだけ沢山持ってきておいて良かった。
「またね、ケイ」
「はい、ではまたのちほど……」
戦いに巻き込まれまいと引き下がってゆくケイを後に残し、わたしは自動人形に向けて銃を抜いた。
かくして次々と襲い掛かる自動人形を倒しまくり、最深部のラボへわたしは辿り着いた。そこで待っていた白衣の人物にわたしは言った。
「……久しぶりね、コウモリおじさん」
銃を向けたままのわたしの挨拶に相手、コウモリおじさんは杖を突いた立ち姿で応える。
「カカ……裏切り者が、馴れ馴れしい……」
父から警告されたヴィルースの研究、まだ続けてるそうね。わたしが時候の世間話がてらにそんな話題を振ると、コウモリおじさんは「当然だ」と自信たっぷりに答えた。
「バット・ヴィルースは、人類の幸福のために必要な“作品”だからのう」
ヴィルース、つまりウイルスが作品だなんて、相変わらず倒錯したおじさんだこと。まあSHOCKERの勧誘に乗って魔法少女になる時点で、既に倒錯っぷりは常人のそれを振り切ってるとも言えるのだけれど。
半ば呆れつつ、わたしは本題を切り出した。
「降参しなさい。さもないと……」
そう言いながら、わたしはコウモリおじさんに向けていた銃口を、今度は机上のアンプルたちに向ける。
「あなたの大事な“作品”に穴が空くわよ」
この手のタイプ、アーティスト気取りの輩は得てしてそうだが、自分の命より作品の方を大事にする。何よりも大事な自分の自己愛とエゴ、その結晶とも言える作品。だから銃を向ける先も、本人より作品に向けた方が効果が高くなるとわたしは踏んだ。
だが、コウモリおじさんは平然としたままこう言うのだった。
「かまわぬ。既に完成しているからのう」
……なに?
聞き返そうとするわたしにコウモリおじさんは、ニヤァと顔を歪めた。
「小癪なミドリカワの小娘め。ワシの研究を馬鹿にした報いを受けろ!」
トン。
コウモリおじさんが杖を突く合図とともに、わたしは意識を手放した。
毎日書いて更新してる人は偉い~