シン・仮面ライダーの世界に転生したけどオーグメントが全員魔法少女だった件 作:よよよーよ・だーだだ
次の相手は、ハチの魔法少女だという。
クモ、コウモリ、ハチ。ボクらは戦わなかったけれど、サソリの魔法少女なんかもいたらしい。サソリ魔法少女は凶悪な毒殺魔で、ボクたち魔法少女にとっても致死的になり得る危険な毒薬を作っているため、ボクでは『向いてない』と判断されて別の人たちが対処に向かったのだそうな。
……ところで薄々思ってたことなんですけど。
「SHOCKERの魔法少女って、なんであんな危ないキャラばっかりなんですか……?」
これまでの魔法少女について思い出す。ゴスロリの殺人狂に、TSロリハバア吸血鬼マッドサイエンティスト、そして今回の毒殺魔。魔法少女ってもっとキラキラしてるもんじゃないの? なんでこんな変なヒトばっかなんですか?
そんなボクの素朴な疑問に対し、ルリ子さんは「当然でしょ」と答えた。
「いい年こいて魔法少女になりたがるような連中が、マトモなわけないじゃない」
それもそうか、とボクは納得した。そりゃそうだよね、いい年こいて魔法少女やりたがるような奴なんて危ないキャラに決まってるよね! たとえばこのボクとか!!
……やめよう、やめやめ。自分で考えてて悲しくなってきちゃった。とりあえずボクは話を変えた。
「コウモリ魔法少女もそうでしたけど、ハチ魔法少女も知り合いだったりするんですか?」
ボクの問いにルリ子さんは一瞬目を逸らした。
……どうしたんだろう。コウモリ魔法少女のときは、わりとあっさり教えてくれたのに。ボクが怪訝にしているうちに、やがてルリ子さんは口を開く。
「……ええ。知り合いよ。そもそもわたしは組織の中で育ったのよ? 組織の上級構成員はどいつもこいつも顔見知りみたいなものだわ」
「なるほど、たしかに……」
「そしてハチ魔法少女は……」
と、ルリ子さんは、一呼吸おいてから意を決した様子で答えた。
「……ハチ魔法少女は、その中でもひときわ親しい相手だった。わたしに友達はいない、けれど彼女は『友達にいちばん近しい存在』ではあった」
……なるほど、言い淀むわけだ。
『わたしに友達はいない』と言うルリ子さん。たしかに、極度のコミュ障のボクから見ても友達いなさそうだもの。
「……なにか、失礼なこと考えてない?」
「え、あ、いえ、滅相もございませんッ!!」
ボクは咄嗟に首をブンブン振り回して否定したのだけれど、ルリ子さんはなおも不機嫌そうに睨みつけてきた。そんなルリ子さんの視線の鋭さに堪えかねて、ボクは顔を背けながら話を変えた。
「そ、それでっ、ハチ魔法少女はどうするんですかっ?」
「『ハチ魔法少女をどうするか』?」
小首をかしげながら聞き返すルリ子さんに、ボクは明後日の方向へ視線を逃がしつつ言った。
「友達っていうなら『投降を促す』のかなー、なんて……?」
何気ない一言のつもりだったのだけれど、ルリ子さんは思った以上に考え込んでいた。
「………………。」
……あれ、ひょっとしてまた地雷を踏んだ?
即座に『ところがぎっちょん』のときの失敗が脳裏をよぎる。あのときルリ子さんは一時間くらいで機嫌を直してくれたけれど、またヘソを曲げられてずっと口を利いてもらえなかったらどうしよう。
気まずい空気が流れる中、やがてルリ子さんが溜息を吐きつつ口を開く。
「……いや。彼女の願望も危険すぎる。彼女のためにも“消えてもらうしかない”でしょうね」
「そ、そうですか……」
消えてもらう、つまり“友達を殺す”とはっきり明言されてしまった。
……ったくボクのバカバカ、社会不適合、クソコミュ障! なんちゅー特大の地雷を踏んでしまったんだッ! ルリ子さんが『友達にいちばん近しい存在』と言うのだから、ハチ魔法少女は相当に思い入れのある特別な相手に違いないのにっ!
今度はボクが気まずくなる一方、ルリ子さんはいつもの調子に戻ったようだった。
「SHOCKERは究極のエゴイスト集団。絶望に付け込まれて個人のエゴを際限なく肥大化させられ、最終的には自身が周囲へ絶望を振り撒くことになる。そんな彼らに仕える下級構成員たちは皆心の自由を奪われ、肉体をバージョンアップされて使役されている。もしわたしが助け出さなかったら、貴女もSHOCKERの一味として政府の連中に始末されていたでしょうね……あら、気に障った?」
「い、いえ、別にそうじゃないですけど……」
『影村眼鏡』という眼鏡屋さんの前で足を停めながら、ボクは背後を見遣った。つられてルリ子さんも振り返る。
いつのまにか、ボクらは取り囲まれていた。
場所はごく普通の商店街、歩いているのは年齢性別服装いずれもバラバラ、ごく普通の人たちだ。けれどその動きは規則正しい行進で、隅々まで統制された動きでもってボクら二人を包囲していた。
……十中八九、SHOCKERの仕業だった。
「……ハチ魔法少女のテリトリー、公安の情報よりも広かったみたいね」
「……そう、ですね」
ルリ子さんが呟きに応えつつ、ボクも思案する。
……さて、どうしたものか。クモ魔法少女の手下に襲われたときみたいに反撃してみるか? いや、この人たちは単にボクらを囲んでいるだけで攻撃してきているわけではない、きっとコウモリ魔法少女のときと同様に操られて利用されているだけの一般人だ。むしろボクが下手に反撃したら殺してしまう、できれば無用な殺生はしたくない。
ボクが逡巡していると、近くのラーメン屋台で席を立つ気配があった。ボクらがその方向へ振り返ると、暖簾をくぐって現れたのは一人の大男。
「お初にお目にかかります、緑川ルリ子様」
そう言いながら、大男は恭しく一礼した。
バリッと糊の利いた黄色いジャケットとズボンに、ビシッと締めた胸のネクタイ、整髪料でかっちり固めた髪。前世から御洒落には無頓着だったボクだけれど、そんなボクでもカッコいいと感じられるほど綺麗な身形と仕草、まさにイケメン執事って感じである。
イケメン執事はボクらに言った。
「ハチ魔法少女様がお待ちです。よろしければご一緒に、どうぞ」
……どうします?
ボクが横目でルリ子さんを一瞥すると、ルリ子さんは迷わずイケメン執事に答えた。
「ええ。案内して頂戴」
「ようこそ、わたしの“巣”へ!」
ハチ魔法少女の拠点、その最上階の玉座にてボクらを出迎えたのは一人の少女だった。艶やかな黄金色の着物に黒い絹の羽織、ツインテールの髪型、年齢はおそらくルリ子さんと同じくらい。まるで国民的アイドルグループのセンターにでもいそうな、可愛らしい美少女だ。
……彼女が『ルリ子さんの友達』だろうか。ボクが思考を巡らす中、和装少女は心底嬉しそうな喜色満面で笑いかける。
「待っていたわ、ルリルリ! 一緒にシャンパンでも如何? あいにくグー・ド・ディアモンは切らしていて、シップレックで我慢してほしいのだけれど……」
……る、ルリルリ? もしかして、ルリ子さんのこと?? ルリ子さんは彼女のことを『友達に近い存在』と言っていたけれど、随分距離感が近いような。
それに
当惑するボクだけれど、ルリ子さんは特に気にもかけず平然と答えた。
「お酒は結構よ、ヒロミ」
次いで、ルリ子さんは傍らに控えているアンドロイドにも挨拶した。
「ケイ、いつもご苦労様」
「はい。皆様の観測が私のTaskですから」
……このアンドロイドことケイ、ルリ子さんによれば彼もSHOCKERの一員らしい。といっても敵でも味方でもない、人工知能アイの耳目となってSHOCKERの人たちの在り様を観測するだけの存在だ。ルリ子さんはもちろん、政府の人たちからも『ケイには手を出すな』と言われている。
ボクも同感だ。もしケイを攻撃して破壊したりしたら、それこそ人工知能アイひいてはSHOCKERの動向までもが完全に掴めなくなってしまう。それにケイって、なんだかとっても強そうだしね。閑話休題。
そうこうしているうちに、周りを見回しながらルリ子さんが呟いた。
「……相変わらずのシュミね、ヒロミ」
……ルリ子さんの言うとおり、なかなか良い趣味している。ボクもそう思った。
部屋の各部にあしらわれた豪奢な金細工と漆の黒、六角形の意匠は『蜂の巣』を象ったものだろうか。周りに控えているのは、ボクらを出迎えたのと同じ衣装のイケメン執事たち。そして壁に掛けられているのは、これまた美しく研ぎ澄まされた刀剣のコレクション。シャンパンのことから考えるとこれらすべてがこの和装少女、“ヒロミ”の『趣味』なんだろうな。
ルリ子さんの言葉に“ヒロミ”はにっこり微笑む。
「ええ、素敵でしょう?
ただ、“ヒロミ”は一言、微かに不服そうな表情で鋭く付け加えた。
「ヒロミは昔のコードネーム。今はSHOCKERの上級幹部構成員、ハチ魔法少女よ。間違えないで」
「…………。」
……さて、と。一同が席に着いたところで、ルリ子さんは話を切り出した。
「ヒロミ、トオルは元気? しばらく会ってないけれど」
ルリ子さんの質問に、ヒロミことハチ魔法少女は答えた。
「死んだわ。サラセニア魔法少女として合成手術を受けたのだけれど、失敗。やっぱり人間と植物の合成はまだムリみたい。それに前例もないことはないけれど、男の娘魔法少女なんてやっぱりニッチすぎるしね」
男の娘魔法少女がニッチって……じゃあTSロリババア吸血鬼魔法少女はニッチじゃないの? よくわからない基準に首をひねらずに居られないボクだけど、まあ今はそんなことどうでもいいか。
ハチ魔法少女は、脇に控えたイケメン執事たちにシャンパンを注がせながら話を続けた。
「まったくおかしな話よね、魔法“少女”だというのに『男の魔法少女』なんてものを認めなければならないなんて。誰もが一緒、誰もが特別、けれど実際のところ、人は誰もそんなものを望んではいない。あなただけは違う、あなただけは特別、価値ある特別な誰かにそう言ってもらえること、そしてそんな価値ある特別な誰かになることこそが人の幸福。そんな本音を覆い隠して叫ばれる自由、平等、多様性。なんと薄っぺらな言葉なのかしらね」
そんなことないんじゃあないかなあ!
多様性は大事だ。最近は男の子のプリキュアもいるし、『ボクらは魔法少年』みたいに男の娘を扱った魔法少女モノの名作もちゃんとある。『女の子だって暴れたい!』というのなら『男の子だってカワイクあってもいい』はず! ……いや、自分のこと言っているわけじゃあなくってね? 一般論を述べただけですから。
そんな誰に向けたのかもわからない言い訳を一人脳内で展開するボクを他所に、ルリ子さんとハチ魔法少女の話し合いは続いた。
「ねぇ、ヒロミ。わたしたちが何をしに来たのか、わかるでしょう?」
「ええ。わたしの排除? それとも殲滅? いずれにしても物騒な話ね?」
ルリ子さんが深刻そうに顔を顰めている一方、ハチ魔法少女は余裕綽々の様子だった。
まるで他人事のようにけらけら笑い飛ばすハチ魔法少女に、ルリ子さんはボクがこれまでに見たことないくらい真剣な顔つきのまま告げた。
「悪いことは言わない。SHOCKERを抜けて、ヒロミ」
ルリ子さんからの降伏勧告、けれどハチ魔法少女もすかさず言い返す。
「わたしも悪いことは言わない。SHOCKERに戻って、ルリルリ」
グラスに注がれた最高級シャンパンへ口を付け、その豊かな香りを堪能しながらハチ魔法少女は言う。
「SHOCKERは全人類を幸福へ導くアイの秘密結社……その素晴らしさは、SHOCKERに生まれたルリルリが一番わかっているはず。SHOCKERに生まれし者はSHOCKERに還る、それが筋よね?」
「………………。」
ハチ魔法少女からの言葉に、ルリ子さんは答えない。ハチ魔法少女はグラスのシャンパンを手元で揺らしながら言った。
「人類の幸福、そのために必要なのは環境に優しい、効率的かつ持続可能な奴隷制度の復活……それがわたしの目指す幸福な社会よ」
……なるほど、こりゃ確かに危険思想だ。
要するにハチ魔法少女は『世界征服がしたい』と言っているのだ。そしてSHOCKERという組織には、下手をすればそれを実現できるだけの力がある。
ハチ魔法少女は言った。
「さあ、わたしの理想がお分かりになったら、SHOCKERに戻って。正しき社会システムの礎となって、二人で共に理想の世界を築きましょう、ルリルリ?」
そしてハチ魔法少女はボクへと一瞥をくれる。
「何なら、そこの“新しいオトモダチ”にも一緒に加わってもらっても良いわ。どうかしら、本郷さん?」
そう言って愛想よく笑いかけるハチ魔法少女。
……気のせいだったろうか。ハチ魔法少女がボクへ向けた目線に、なんだか一瞬ひどく剣呑なものを感じたのだけれど。
そんなハチ魔法少女の理想、いや妄言をルリ子さんは切って捨てた。
「……それは出来ないわ、ヒロミ」
続けてボクも答える。
「ぼ、ボクも同意見です……世界征服なんて、ダメですっ!」
きっぱり断ったボクら二人に、ハチ魔法少女は溜息をついた。
「……あらら。早くも交渉決裂ね」
そしてグラスを静かに置き、席を立つハチ魔法少女。
「こう見えて暴力は嫌いなのだけれど……イチローさんにもルリ子の保護を頼まれているし、仕方ないわね」
すかさずイケメン執事たちが2名、ハチ魔法少女の眼前へと傅き、自ら手を差しのべた。ハチ魔法少女がその手をとった途端、ハチ魔法少女の体から光が溢れ出すと同時にイケメン執事2名はその場へ崩れ落ちる。
まさか、これは……
「プラーナを奪ってる……!?」
驚愕するボクに、ハチ魔法少女は「ええ、そうよ」と何事もないかのように答える。
「支配こそがわたしのささやかな幸福、そんなわたしに支配されることこそが奴隷たちの究極の幸福。わたしは女王蜂、この子たち雄蜂は女王であるわたしに喰われるために生きている。当然でしょう?」
……なんて奴だ。クモ魔法少女やコウモリ魔法少女と同様、このハチ魔法少女は他人の命をなんとも思っていない。ルリ子さんが『友達』と言いつつ『消えてもらうしかない』と評した理由が、今ようやくわかったような気がした。
内心で戦慄するボクを前に、「そんなことよりも、」とハチ魔法少女は周りを見遣りながらくすくす笑った。
「周りを気にした方がよいのではなくって、本郷さん?」
「……!」
言われてボクらも気がついた。いつの間にか、ボクらは周りを取り囲まれていた。囲っているのは年齢性別服装いずれもバラバラ、ごく普通の人たち。街でボクらが取り囲まれたのと同じ状況だった。
驚くボクらを前に、ハチ魔法少女は緑に光る目を満足げに細めた。
「この人たちは運良くわたしの幸福な社会実験に選ばれた特別な“普通の人”たち……何の罪もないこの人たちに、貴女は暴力を振るえるかしら?」
ハチ魔法少女の命令で、一歩一歩にじり寄ってくる“普通の人たち”。この場で戦ったらダメだ、この人たちを間違いなく巻き添えにしてしまう。
ボクがそう思い至ると同時に、ルリ子さんも言った。
「……わたしも暴力は嫌いよ」
「ボクもですっ!」
ルリ子さんの決断と同時にボクは動いた。
即座に席を立ち、ルリ子さんを抱きかかえてボクは駆けだす。変身しながら飛び出した先は最上階のテラス、その柵を思い切り飛び越える。
「あらら……マズったかしら?」
そう呟く、ハチ魔法少女のぼやきが聞こえた気がした。
……ハチ魔法少女の拠点から飛び出したあと、ボクらはサイクロンに乗って即座に撤退した。
サイクロンの奴、気を利かせてくれたのか、ボクたちが飛び出した最上階の窓のすぐ下で待機してくれていた。そして落下してきたボクら二人を巧い具合に座席でキャッチ、すぐさま急発進でハチ魔法少女の追っ手を振り切ってくれた。ありがとね、サイクロン。
かくしてハチ魔法少女のテリトリーから逃げ切ってから、ボクは一息休憩を入れることを提案した。
「そんな暇ない!」
ルリ子さんからはそうやって猛反対されたのだけれど、途端にルリ子さんのお腹で大きな音が鳴るのが聞こえた。ボクはともかく、ルリ子さんは昨日から碌なものを食べてないはずだ。
ボクがそのことを指摘するとルリ子さんは、
「……わかったわよ。すりゃあいいんでしょ、栄養補給」
と、拗ねたようにそっぽを向きながら渋々同意してくれたのだった。
では早速、とボクは政府の人たちに用意してもらっていた野外料理セットを展開した。コッヘル、携帯ガス、その他諸々。ルリ子さんがお腹を空かせているのだ、早く作ってあげなくては。
出来上がった料理を前に、ルリ子さんは一言。
「……意外。貴女、料理できるのね」
意外に褒められてるのか、意外だと驚かれてるのか。どちらとも言えなさそうな評価に、ボクは頬をかきながら答える。
「ま、まぁ、慣れてますから……」
ボクのツーリングは基本野宿、これくらいのアウトドア料理はお手の物だ。なんてったってボクはドのつくコミュ障、素泊まりやカプセルホテルすら泊まれないレベルだからね! ゆるキャン△? そんなのホンモノのコミュ障には無理さ。だってキャンプ場とか電話で予約取らなきゃいけないじゃない。私有地へ勝手に入らないだけの分別は弁えてるつもりだけど、山の中でのビバークはしょっちゅうである。
え、なに、年頃の女の子が野宿なんかするな、って? そういう奴は工夫が足りないねっ。まぁ善い子の皆は絶対に真似しちゃダメだけど! ハーッハッハッハッ!!!!
……はあ。あまりに社会不適合者すぎる自分の有り様が些か悲しくなったので、今度はボクの方から話しかけた。
「あ、あのっ」
「……なに?」
姿勢はパソコンに向けたまま視線だけ傾けてくれるルリ子さんに、ボクは尋ねた。
「あの、その目……まるで、瑠璃みたいですね。綺麗、です……」
思わず見惚れてしまう、鮮やかな輝きを放つルリ子さんの瞳。日頃は黒い瞳なのだけれど、今は如何なる理屈によるものか、青く輝いていた。そういえばルリ子さんも魔法少女システムを搭載していると言っていた。あるいはこれこそがルリ子さんの“能力”なのかもしれない。
「るり……ああ、瑠璃ね。たまに言われるわ。目から情報をインストールをしているだけだから気にしないで」
そう素っ気なく応えると、パソコン作業に戻ってしまうルリ子さん。
……あ、会話終わっちゃった。えっと、えっと、何か話さなくちゃ。沈黙に耐え切れなくて、ボクは再び話題を振る。
「あのっ!」
「今度は何よ?」
二回も作業を中断されて鬱陶しげなルリ子さん。怖気づきそうになるけれど、ボクは勇気を振り絞って言った。
「あ、いや、その、もっと味わってもいいんじゃないかなーって……?」
パソコンしながらの食事。まぁ誰でもよくやることだとは思うし、別に褒めてもらいたくて振る舞ったわけでもないけれど、作った側としてはこうも無表情で手早くカッこまれるのもなんか寂しい。
そんなボクに、ルリ子さんはいっぱいに頬張った口をもぐもぐさせながら堂々と答えた。
「そんなヒマない。わたしは常在戦場なの。これは栄養補給でしょ? 同時並行で情報収集した方が合理的じゃない?」
「そりゃ、まあ、そうですけど……」
なんか、ズレてるなあ……。
呆れるボクを脇に置き、ルリ子さんはごくんと一気に呑み込みながら続けた。
「それに、チョウ魔法少女が羽化する前に、基礎プログラムだけでもアップグレードを済ませておかなきゃ。でないと激ヤバだから」
「……チョウ魔法少女?」
その名を聞いて、ボクは指折り数えた。ルリ子さんが言っていた、クモ魔法少女を除いた4人の魔法少女。コウモリ、ハチ、サソリ、そしてその4人目がチョウ魔法少女か。いったいどんな人なのだろう。
思わず聞き返したボクにルリ子さんは、
「……いずれ話すわ」
と素っ気なく答えた。
……これまでの経験上、ルリ子さんがこういう態度をとるときって『あまり踏み込まれたくないとき』なんだよな。あるいはハチ魔法少女のヒロミのように、チョウ魔法少女もルリ子さんにとって親しい間柄なのかもしれない。
連続で地雷を踏めば、いくらコミュ障でも学習する。ボクは話題を変えた。
「でもまあ、綺麗に食べてもらえてよかったです。なんだかボクはお腹が減らないみたいだし……」
そんなボクの呟きに、ルリ子さんが「そうでしょうね」と答える。
「貴女の魔法少女システムは、大気中に充満した魔法力:プラーナを吸収して貴女の体を維持している。つまり貴女は何も食べなくても平気な体、というわけ」
なるほど、たしかにお腹は減らない。けれど。
「……つまらない身体だなぁ」
「……『つまらない』?」
ボクの呟きにルリ子さんが不思議そうな顔をしたので、ボクは自分の考えを述べた。
「だって、そうじゃないですか。お腹が空くからこそ御飯も美味しいわけで、そうじゃなかったら楽しみも半減、でしょう?」
「……見解、いいや、感性の相違ね」
まあ、その方が健全でしょうけれど。そう言いながらルリ子さんは続けた。
「もともと緑川博士は、魔法少女システムを『地球を絶望から救うシステム』として開発した。けれど、実際に完成した貴女は大気中、ひいては他の命を知らず知らずのうちに吸い続けている。何も食べずに長生きしたいと全人類が装着したとしても行き着く先は魔法力:プラーナを巡った殺し合い、生命の絶滅しかない。だから緑川博士は、貴女を最後に魔法少女システムの開発を辞めたの」
…………。
「あの男が目指したのはいつも希望、けれど希望の先に待っていたのはいつだって絶望しかなかった。ちょっと考えればすぐにわかることなのに、後先考えないバカなのよ、あの男は」
あまりに辛辣な、けれど的を射たルリ子さんによる緑川先生への評価。けれどルリ子さんは最後にこう付け加えた。
「……まあ、バカなりに考えて、貴女に希望を託したのでしょうけれど」
……そうですね、そしてルリ子さんのことも、きっと。
そう答えようとした時、ボクは異様な気配を感じて咄嗟に立ち上がった。見据えた先にいたのは、
「SHOCKER……!」
ハチ魔法少女が送り込んできたSHOCKERの追っ手。人数は数十名。商店街で、そしてハチ魔法少女の“巣”でボクらを取り囲んだのと同じ“普通の人”たちだ。
ボクはルリ子さんと手分けして、即座に撤収を開始する。広げていた野外料理セットを手早く片付けながらルリ子さんが言った。
「プラーナを制御できてるわたしたち以外は、ヒロミの意のまま。何もしなければ、いずれ世界中が“こう”なるでしょうね」
たしかに、ぞっとしない話だ。
撤収を終えてサイクロンの荷台へ荷物を積み込んだボクに、ルリ子さんが続けて訊ねた。
「例の“サーバ”、位置は特定できてるんでしょうね?」
はいもちろん、とボクは頷いた。
……ハチ魔法少女の“巣”に乗り込む直前、ボクはルリ子さんからこんな指示をされていた。
「ハチ魔法少女の洗脳システムは古い旧式タイプ、おそらくオンプレミスのサーバで集約管理されているはず。貴女は魔法少女システムで聴力が強化されているから、基地に入ったらサーバの位置を特定しておいて頂戴」
あの状況下でなかなかの無茶ぶりだったと思うけど、ボクはなんとかこなしていた。指示通りサーバの場所は特定済、そしてそのための“プラン”も用意したのだ。
ボクはルリ子さんに言った。
「ルリ子さん、ボクに考えがあります。ボクはてんで頼りないかもしれないけど、ボクじゃなくてボクのプランを信じてくださいっ」
いつになく前向きなボクにルリ子さんは「ふむ……」と考えていたけれど、やがてこう答えてくれた。
「……いいわ。貴女のプランじゃなくて、貴女自身を信じてみることにする」
ありがとうございます、ルリ子さん。
そしてボクらはサイクロンにまたがり発進、追っ手を振り切って闇へと逃れた。