「馬体もいいし機嫌がよさそ……いやいいのかこれ?」
『ふんふんふん……待ってなさいあの自意識過剰俺様牡馬……!私が撫で切ってやるんだから!』
ゴゴゴゴ……と不穏な闇のオーラを放つマヴに少し心配するも、返し馬も抜群にいいしこれはいける、と新発田は思った。
今まで日本馬が優勝してないジャパンカップ。
その初代に……マヴならできる。
しかし今の日本の牡馬と牝馬には歴然とした力の差があると思われており、二冠牝馬ながらマヴは低人気であった。
掲示板がいいほうだろう……と。
それは悔しい。
確かに牝馬の中距離以上での古馬混合G1勝ちは新発田が騎乗した1980年天皇賞秋のプリテイキャスト以来ない。
斤量とスピードを生かすことでしか牝馬は牡馬に勝てず、マイル以下だとその有利で勝てるが中距離以上だとタフさで牡馬に負ける。
フケを抑える薬や牝馬に対する調教技術も発達していない。
そんななか、マヴは恐らく、いや絶対、その風潮を壊すことのできる牝馬だ。
気性が荒くてムラがあるものの、走りと言うものをわかっている。
牡馬と走ることへのプレッシャーもなく、むしろ闘争心が有り余ってるくらいだ。
だからこのジャパンカップは勝たないといけない。
結果次第では有馬記念も視野に入れている。
新発田が気を引き締めると、マヴもフンス!と鼻を鳴らした。
『あっ、いたわ!新馬戦以来ねシンボリルドルフ!今日は借りを返しに来たわよ!』
『…………マヴ、だったな』
『ふん、名前覚えてたのね。あんた、具合悪そうじゃない。まともに走れるわけ?』
『当然だ。俺は勝つべくして勝つ。借りを返す?やってみろ二冠牝馬。』
『……肩書で煽る牡馬ってきらい。そんな状態でわたしに勝てるわけないわ。ええ、ぜったいにね!さよなら皇帝さん!』
馬同士が話していると、鞍上の新発田と岡辺も同期ということで話し始める。
「マヴは本当にルドルフを目の敵にしてるんだな……」
「新馬戦で負けたのが相当堪えたみたいだ。シンボリルドルフって名前を聞くと暴れる」
「そうか……ルドルフもこいつにしてはマヴのこと気に入ってるんじゃないかな。性格は猛獣みたいなやつだけど」
「そういえば、ルドルフは下痢で体調崩してるって報道されてたけど持ち直したのか?」
「いや、まだ本調子じゃないよ。けど……きっと勝てる。勝たせて見せる」
無敗の三冠馬という重い期待に応えなければならない、と語った。
例え相手が外国馬であろうと、二冠牝馬であろうと、前年三冠馬であろうと……。
「ミスターシービーも追い込みか………史上に残る三冠の脚が見れるぞマヴ」
『だれそれ……三冠馬?ルドルフと同じ?どうせいけすかないやつでしょ』
少し機嫌が悪くなったマヴ。
牝馬は性格が繊細だけどマヴは違う意味で気を使わないとだな……。
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「第四回ジャパンカップ、スタートしました。スタートばらついて、先頭をとったのはなんとカツラギエース。人気馬は牽制しあってるか?三冠馬ミスターシービーは一番後ろ、その五馬身ほど前に二冠牝馬マヴ。集団の後ろを陣取ってます。」
宝塚記念馬、カツラギエースが逃げたことはわかったが……
「どれだけ逃げてるのかわからないな……」
『後ろにいるのがミスターシービー?話しかけていい?』
「ちょい、落ち着いてくれ」
そわそわしだすマヴを宥めながら、周りを見る。
いや、観客のざわめきがいやにうるさい。
確か今年秋からターフビジョンが設置されてレースがよく見えるようになってて……
ミスターシービーは一頭ぽつんと離れたところに控えている。
なぜだ?追い込みとはいえきついんじゃ……
まさか
「すまんマヴ、追い上げるぞ!」
『えっ、もう!?』
カツラギエースが作った超スローペースの大逃げ。
位置をどんどん上げていき、3コーナー前、二番手にマヴが並ぶと
「……まじか」
『ちょっと!あんなに前にいるんですけど!』
もうカツラギエースは二番手に大差をつけたまま3コーナーを回ろうとしていた。
騙された……!
危機を感じた後続が一斉に追い上げる。
だが先頭は、カツラギエース……!
「最終直線先頭カツラギエース、ミスターシービーまだ後方だ。ベッドタイムとシンボリルドルフが外から先頭に接近している!」
外国馬ベッドタイムとシンボリルドルフが外から差そうとするが、カツラギエースは粘る。二の足を使う。
「先頭カツラギエース、カツラギエース粘っている!外を回ってマジェスティープリンスとシンボリルドルフ!ミスターシービーまだ中団。大外を回って勢いよく突っ込んできたのはマヴだ!」
「……いけるか!?」
『ぐぬぬぅ……がんばる!』
「マヴが三番手から二番手に上がってきたが、なんとカツラギエース!!カツラギエース堂々の逃げきり勝ち!」
ゆっくりマヴをクールダウンさせ、興奮してるので落ち着かせる。
「負けたな……」
『あと、もう少しだったのに……』
「ごめんな、俺のミスだ」
直線一気ではなく、まくるべきだった。
どうしても騎手の視界は狭いとはいえ、マヴはあんなにいい脚を使って二着まで上がってきたのに。
一着はカツラギエース。日本馬初のジャパンカップ優勝。
二着はマヴ。日本牝馬としては初のジャパンカップ二着。
三着はベッドタイム。外国馬最先着となった。
四着はシンボリルドルフで、体調不良ながらこれはよくやっただろう。
マヴの上がり3ハロンタイムは32.9。
……きっと自分の騎乗が原因で負けた、と新発田は思った。
直線一気はマヴの得意とする戦法だが、これで勝てるほど古馬レースは甘くないということだ。
『あいつは……四着ですって?まったく、なにやってんのよ』
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「マヴが大外回ってやってきたが、シンボリルドルフー!ジャパンカップのリベンジを成し遂げました!無敗三冠馬はやはり強かった!二着はマヴ、三着はカツラギエースです」
続く有馬記念、ジャパンカップの反省からカツラギエースを単騎二番手で捉えにいったシンボリルドルフが勝利。
前壁により外を回らざるをえなくなり仕掛けも遅れたマヴは一馬身半離れた二着。
連敗してしまった。
マヴは本当にすごいのだ。
牝馬がジャパンカップと有馬記念で二着に入るなんて。
ここまで牡馬と対等に戦えるなんて。
だからこそ、騎手の新発田含め陣営は悔しい思いでいっぱいだった。
『絶対、絶対このままじゃ終われないんだから……!』
タイトルはカツラギエースのヒーロー列伝から
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