「次はジャパンカップ、ですか?」
「あまり間隔が開いてないが、有馬記念よりジャパンカップのほうがマヴは走りやすいと思う。疲労はあまり溜まってなくて、輸送疲れも軽度だったから……」
「先生がおっしゃるなら……マヴは様子どうですか?」
「勝ち負けがわかるんだろうな、落ち込んでたよ。イライラしてたし」
「やっぱり……ジャパンカップまで落ち着いてくれるとおっちは楽なんですけど」
「まあマヴだし」
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『ねえ、ここわかるわ。ジャパンカップでしょう』
パドックで二人曳きされたマヴは厩務員のネクタイを、はむっと咥えて言った。
「こらマヴ。この日のためにお気に入りのいいネクタイつけてきたしネクタイピン飲み込んだら危ないからやめなさい」
『怒ってる……これおいしくないしやめるわ』
あーあ、今すごい林檎食べたい気分……とマヴは遠い目をした。
『久しぶりねあなた』
『誰よ……』
『トリプティク!凱旋門賞で走った!四着の!』
『ごめん、聞いたことないわ』
フレンドリーに話しかけてきた外国牝馬を軽くあしらい、いつも通り頭をぶんぶん振りながら歩く。
『凱旋門賞は惜しかったねマヴちゃん』
『あんたは……ギャロップダイナ?まだ現役続けてたのね』
『僕も一応ロンシャン遠征してたんだけどな~!』
『知らないわよそんなの。あっ、あいつ産経大阪杯でわたしに勝った……!絶対ゆるさないんだから!あとギャロップダイナ、あんたも倒すから』
『僕、先輩……』
しょんぼりするギャロップダイナを置いていき、さっさとゲートインする。
「いつもここまではすんなり行くんだよな……」
『なんか失礼なこと言われた気がする』
「暴れるのはやめてくれよ……ラストランだからな」
新発田の気持ちが通じたのか大人しくしてるマヴ。
『最後なら、やっぱり一番強いわたしを見せたいわ』
「なんか嫌な予感、するなあ……」
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「大外サクラユタカオーゲートインして……今スタートが切られました。ハナを行くのはクシロキング。アレミロードも続きます。圧倒的注目度マヴは最後方ポツンと一頭。新発田政人懸命に押している!」
「動いてくれよ……!?」
『いやだわ、わたしにはわたしの考えがあるの!』
手綱をぐいぐい押してもびくともしない。
新発田はがっくり肩を落とした。
「はあ……なに考えてるんだよ」
『ここでゆっくりポジション上げて……っと』
もう諦めて馬の思うままにしだした。
マヴは鞍上からの抵抗がなくなり喜んで自分の好きなようにレースをする。
最後方にいたマヴだがレースが進むにつれだんだん位置取りを上げた。
ついに三番手ミホシンザンのとなりにぴったりと並んだ。
『これでよしっと』
「もうどうにでもなれ……」
捲ったマヴが満足したのは最終直線の直前。
今までの最終直線大外一気だとあまり着差がつかないので、位置を上げて着差をつけたいという魂胆であった。
「マヴもう三番手!ミホシンザン追走!早すぎるかマヴ!最終コーナー回って直線コース!府中の長い直線で追い比べ勝負だ!」
「脚残ってるか!?」
『いくわよいくわよ!!』
新発田は持ったままで押すと、マヴは反応して最高級の末脚を炸裂させる。
その速さ、まさにワールドクラス。
凱旋門賞二着は伊達ではない。
『あんなに、速い……!この引き剥がされる感覚……まるであのときの、有馬記念のシンボリルドルフの強さ……!』
『はあ?今シンボリルドルフって言った?わたしは!あいつより強いっつーの!!!』
懸命に追走するミホシンザンや外国馬を一蹴し、マヴは駆け抜ける。
妖精女王の凱旋、ラストラン。
レコードタイムで、後のホーリックスのジャパンカップで越えたものの、2023年現在、マヴの上がり3ハロンタイムと並んだ馬はいても、越えた馬はいない。
数回改修し、現代では世界屈指の高速馬場となった府中競馬場。
1986年、古の馬場で出した31.4の衝撃。
その伝説は、未だ語り継がれる。
「マヴだ、マヴが独走!やはり世界を捕えた末脚は日本でも健在!日本牝馬初のジャパンカップ制覇!マヴ、マヴが勝ちました!最後まで強く居てくれてありがとうマヴ!」
上がり3ハロンを出しやすいのはアイビスサマーダッシュです。
少し前にリバティアイランドが上がり3ハロン歴代トップタイになったことで話題になりました。
マヴは昔の馬場で31.4出してるのでホントにやばい。
掲示板とかでUMAとか言われる。