遊戯王GX〜社畜童貞のオッサン、糞上司の悪意でキマイラと共に転生する〜   作:SOD

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 帝王と呼ばれる兄との決戦前に、自分の道に迷う丸藤翔。果たして彼のロイドは自らの行く先を定め目的地に辿り着けるのだろうか?





丸藤翔の静かな旅路

 翔が棋譜をコピーして食堂に着くと、小さなあんよをプラプラとさせながら自分の頭と同じ位のサイズのビデオカメラを見ていたネズ太郎が居た。

 

 「あ、こんにちはっス」

 

 「…………うんー」

 

 動画を観るのに集中していて生返事なネズ太郎。しかしそれだけ真面目に翔のデュエルを観てくれていると言うことでもある。

 自らの進むべき道に迷い、どういった方向性に定めるべきなのか? 少しでもヒントが欲しい翔には、実力あるデュエリストが本腰を入れて参加してくれることは大きなメリットだ。

 頭の下がる思いでネズ太郎の横の席に座り、自分もデュエルを俯瞰的に確認しようとカメラをのぞき込む。

 

 「…………」

 

 

 《あぁっ! やっ、フローシャくん……激しくしないって、約束っ♡ イジワルしないでぇ♡ ダメなのぉ!  らめえええぇえぇぇぇええーー♡♡♡♡♡》

 

 

 

 「--ってイケないビデオ観てるううううううううううーーーー!!!?」

 

 

 

 

 「ん?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 「--というわけでぇ、これから丸眼鏡くんと芋ジャージちゃんのデュエルの棋譜を配るのでぇ。それぞれ確認して気になる所を指摘していってくださぃ」

 

 ネズ太郎の個人的な趣味の方のカメラを仕舞いこんで、ウサギが途中まで録画していたデュエルの動画をリピート設定しつつ上映。足りない部分は棋譜とウサギの説明で補っていく寸法だ。

 

 それでは、感想戦のためのイカれたメンバーを紹介しよう。

 

 「えっと、皆さんどうぞよろしくお願いするっス」

 

 当事者1 丸藤翔。今回フルボッコにされる人。

 

 「ウサギは一応終始全部見てたので、分からないことがあったら聞いて下さいねぇ~」

 

 参加者1 ウサギ。中堅デュエリスト枠(キマイラ教・狂徒(アニマルズ)比)

 

 「私もデュエルは見てたけど……凄いねえこれ、棋譜って言うの?

 

 そのターンのフェイズ毎に、手札・場・墓地・除外状態の中から使ったカードは勿論。使うまでに何秒掛かったのかまで書いてあるよ!?」

 

 参加者2 マナ(ブラック・マジシャン・ガール)。ヤムチャ視点。

 

 

 「これが今回の感想戦の棋譜か……『【キマイラ教】の流儀』とはデッキの構成が全然違うな。

 

 改めて彼らがオイラたちとは別種のスキルツリーだと分かる」

 

 参加者3 ネズ太郎。『偽遊の理論派デュエルに最も近い』枠

 

 

 「………………」

 

 参加者4 火武羅遊乃。コンセプトデッカー枠。

 

 

 今回はこの五人で感想戦。今回のデュエルを論理的に解体・分析して内容の良し悪しを始め、好手、妙手、悪手などを話し合う。そしてその末に翔の成長の方向性や強化案を出していくのだ。

 

 

 「さて、それでは早速ですがぁ。意見がある人はいますかぁ?」

 

 

 ウサギが司会進行としては下の下と言える発言をした。これがまさに悪手の見本だ。

 和を乱さない、目立たないことが処世術になりがちな日本においてこの100%他者におんぶに抱っこな発言。これで話が進むと思う者は司会向いて無いので、今すぐ一から勉強だ。

 

 「はい」

 

 なお、今回は我の強い女と気遣いが出来る有能な女とそもそも人間じゃない女。と普通の女は一人として居ないので、感想戦は進行する。

 因みに挙手したのは、黙って映像と棋譜を見ていた『方向性の炎上案件』火武羅遊乃。果たして何を宣うのか見て行こう。

 

 「最初に聞きたいんだけど、翔くん」

 

 「は、はい! 何でしょうか」

 

 「()()()()()()()()()()良い?」

 

 「え……?」 

 

 「「--!!」」

 

 「……??」

 

 遊乃の確認に、翔が一瞬きょとんとして。狂徒の二人が真剣な面持ちで目を細めた。マナは何も分かっていないので手はお膝だ。

 

 

 「これから私が言おうとしてること、何処まで言ったらキミは耐えられないのかな?」

 

 「耐えられ……ない?」

 

 

 (いきなり核心にぶっこみますねえ。流石は【放火魔】ですぅ)

 

 (妙手を打ってくれてありがたいぜぇ。オイラも迷ってたとこだ)

 

 

 「こういう、みんなでアイディアを出し合って一人の成長を助けよう。って言うのはさ、結局受け取り手が『どれだけ見たくない物を見る覚悟があって、傷つく真実と向き合えるのか』が重要なわけなんだけどさあ。

 

 私の中で翔君って、()()()()()()()()()()()()なんだよね」

 

 「か、覚悟が足りてない側の人間……!?」

 

 遊乃の発言に、翔は驚愕する。

 学園でのこの一年。目覚ましい成長を遂げた自分が、虚路居偽遊のしごきにも耐えて戦ってきた自分が、覚悟が足りてない側の人間と言われたのだ。

 

 「それは、どう言う視点から言われてるんすか?」

 

 「一番最初かな」

 

 「一番最初……? なんの話っすか! はっきり言って欲しいっす!!」

 

 「じゃあ全部本気で言っちゃうね。

 

 翔君さあ、あの時。校長室で二人呼ばれた日に私が『卒業模範デュエルを受けます(キリッ)』みたいな厳かな感じに言ってたらどうしてた?」 

 

 「ど、どうして急にそんな話になったんすか?」

 

 突然随分と前の話を持ち出した遊乃。その時の話を知る者はこの中では二人しかいない。三名はとりあえず『聞き』に回った。

 

 

 「あのね翔君。キミはあの日のこともそうだけど、圧倒的に『わがまま』が足りてないんだよ」

 

 

 「「「「………………?」」」」 

 

 聞いていた四人が全員ぽかんとした。

 

 わがままが足りない? そりゃあ火武羅遊乃と比べりゃ殆どの学生が品行方正で我欲を制御出来る大人だろうが。

 

 などと考えていると、突然核心に迫る話が湧いて出た。

 

 「一つ大切なことを言うね。

 デュエルは『相手に自分のやりたいことを押し付け切った方が勝つ』ゲームなんだよ」

 

 「え……!?」

 

 その言葉はマナ以外の全員が聞いたことがある。嘗て虚路居偽遊が同じことを言っていたから。

 

 「--なるほどな。だから『覚悟が足りてない側の人間』の話になるのか」

 

 「言いたいことは分かりましたねぇ。てっきりここから『覚悟が決まる壺』とか売りに走るのかと思いましたよぉ~」

 

 偽遊の教えが絡んだことで、狂徒の二人が光速的に理解する。遊乃が何を言っているのか。何を言いたいのか。

 

 「…………あの~優乃ちゃん? 良く分からないので、分かるように教えて欲しいな」

 

 控えめに手を上げて質問するマナ。翔と同じくピンと来ていない。

 

 「OK。

 つまりね翔君。キミはあの日、私と亮での公式戦による模範デュエルが決まりかけた時に何もせずに受け入れるところだった。

 考えが変わったのは、キミがわがままを通す覚悟をしたからじゃなくて私が不真面目に見えたから。

 

 つまり『お兄さんの大切なデュエルアカデミアでの最後の公式戦』にケチが付く。って言う大義名分があったから動けたに過ぎないんだよね」

 

 「そ、それの何が問題なんすか?

 そりゃあ、お兄さんだって遊乃さんとデュエルしたかっただろうし。実力だけなら遊乃さんの方が僕より適任で……」

 

 「--なんてつまんねえ言い訳ばっかしてっから、覚悟足りねえって言ってんだろうがよ!!」

 

 「--っっ!」

 

 「あの日やろうとしてたことは何だ? デュエルだ。

 『自分のやりたいことを押し付けたもん勝ち』のデュエルなんだよ!!」

 

 「…………」

 

 遊乃の言葉に、翔はついに返す言葉を喪った。

 

 「映像とこの棋譜で、キミがマナマナとどんなデュエルしてたかは良く分かったよ。

 

 先攻だってのに、攻撃から身を護る準備してるだけ。もう既に相手に『自分のやりたいことやってください』って言ってるようなもんだよね?

 

 返しのターン、マナマナは何した? 『スターダスト・ドラゴン』と『スターダスト・ドラゴン/バスター』を召喚して、キミが準備した防御を一つ残らず剥ぎ取って、更に次のキミのターンを好きにさせないための準備も出来てるよ?

 

 どっちがやりたいことやってる一巡目だった?」

 

 「それは……」

 

 「第二巡目。キミはスターダスト・ドラゴンとスターダスト・ドラゴン/バスターを『魂の解放』で処理した。

 上手いね。好手を打ったと思うよ。

 でも、場に残った『パワー・ツール・ドラゴン』は相手のターンに何が出来る? 厳しいことを言うけど、戦闘で破壊されない壁でしかないよね?

 

 一方でマナマナは次のターンでエルフの聖剣士とウィルスメールのコンボでダメージ与えながらドローして、エクシーズまでしてる。

 そこから『ヌメロン・フォース』を使ってキミの場の戦術の要だったカードを全部無力化した。

 やっぱり自分のやりたいことを通して、相手のやりたいことを妨害までしているよね?」

 

 「はいっス……」

 

 「第三巡目……は、手札の関係で動け無さそうだからキミの方は仕方ない。仕方ないよコレは。

 

 マナマナは『シャイニングドロー』と『リ・コントラクト・ユニバース』って言う反則技を使っているとは言え、やっぱりやりたいことを通した。

 

 …………うん。これはいくらなんでも理不尽だから、三巡目は触れないでおこう」

 

 

 「『リ・コントラクト・ユニバース』は絶対にイカサマですぅ」

 

 「その……なんだかごめんなさい。私の相棒(バディー)が」

 

 

 「四巡目。ようやくキミは攻撃のチャンスを得て、ホープを破壊しながら大きなダメージを与えてなおかつ最低限の防御を置くことが出来た。

 これは良かったね。でもここに来るまでにあまりにも相手に好き放題させ過ぎたキミはガンマンラインに対応出来る力が残って無くて、バーンで決着……っと」

 

 そこまで言い切ったところで、遊乃は椅子の上で胡坐を掻き始める。

 

 「こうして箇条書きにして言われると、かなりスロースタートと言うかぁ。

 

 ぶっちゃけ丸眼鏡くんは勝つ気あるんですかぁ?」

 

 「そ、そんなのもちろん有るっスよ!」

 

 「でもでもぉ、さっきのデュエルを間近で観てたウサギから言っても何が勝ち筋なのか全然分からなかったですよ?」

 

 「か、勝ち筋……って何スカ??」

 

 「「「え?」」」

 

 翔の疑問に、ウサギ、遊乃、ネズ太郎が同時に目を見開く。

 

 「え、なんすか??」

 

 戸惑う翔。しかし女子三人はそれを無視して三者目配せすると、固まって話し出した。

 

 

 「誰か、翔君が偽遊さんと修行とかしてるトコ見たことある人は?」

 「オイラは無いな。少なくとも対イチでは」

 「ウサギも無いですね。あっても興味無いから忘れてるですぅ」

 

 「あ、あのー?」

 

 「あの理屈バカの偽遊さんが、勝ち方について教えるのに『勝ち筋』について聞かせてない理由ってナニ? これ勝手に教えたら怒られる??」

 「いや、怒られは発生しないと思うぞ。

 これは予想だけど、アイツは大将が初めて教育と言うか育成したデュエリストなんだ。最近でこそ無駄を削いで洗練した教師役をしつつあるが、初期の大将の授業は色々と試行錯誤の段階だったんだ。

 だから多分……きっと…………実戦で実感してるだろうなぁ的な。その、察するにだなぁ……うーん……う~~ん?」

 「よーするにですねぇ。実験体第一号だったからぁ、ボス本人は教えてたつもりでいたけどぉ、ポンコツかまして教えてなかったってことですぅ。

 ボス、あの威圧感のある顔でデュエル以外のオツムはアレですからねぇ~」

 「…………おいウサギ、オイラがなるべく包み込めるオブラートを探してるトコにお前は」

 「だってぇ~デュエルアカデミアじゃなかったら落ちこぼれって位に成績悪いですしぃ。この前だって、宿題が出来ずに朝まで真っ白になってたからウサギが教えてあげたんですよぉ?」

 

 「ちょっとー? みなさーん? 無視しないで欲しいっすー??」

 

 「じゃあつまり、翔君に教えても良いんだねコレ?」

 「ああ、良いと思うぞ。と言うか教えてやらないと、この棋譜見る限りでもアイツのデッキかなり()()()()()()()()()()だぞ」

 「ふふーん、ボスの失態をフォローして上げてマウントとってやります~♪」

 

 くるっと同時に翔の方を向く三人。ちょっと光景がホラーでビクッとなるマナ。

 

 「翔君」

 「ボクちゃん」

 「丸眼鏡くん」

 

 「な、何でしょうか…………?」 

 

 三者三様に名前を呼ばれた翔が身構える。

 

 

 「「「勝ち筋って言うのは--」」」

 

 

 「効率よく相手の命を焼き払っていくための解剖手順書」

 「抵抗する相手を数の暴力で四方八方から削る継戦力」

 「相手の自由を奪ってひたすらマウント取り続ける煽り(チカラ)

 「だよ」

 「だぞ」

 「ですぅ」

 

 

 「………………」

 

 三人が揃って「分かった?」とでも言いたげな顔で翔を見てくる。

 

 

 (言われた内容が抽象的な上に一貫性すら無い……だと!?)

 

 

 遊乃は勝ち筋をライフを焼く効率と説いている。

 ネズ太郎は妨害とかされても止まらない手数と語る。

 ウサギはロックやパーミッションで敵の行動力を奪いつつ自分だけ自由に動ける主導権だと言う。

 

 (ロックやパーミッションと速攻なんて対極に位置する戦術だし、妨害されても止まらない手数ってそれもうタダの虚路居偽遊じゃないっすか!?)

 

 「………………どうしよう。何も分からないっス」

 

 絶望的な表情で下を見るだけの生き物になってしまった翔。それを見かねてか、陰キャの相棒(バディー)のプロ。ブラック・マジシャン・ガールのマナ、満を持して動いた。

 

 「えっと、今の説明ってみんなが『自分の勝ち方』を説明してるだけだよね? それって『勝ち筋』の説明なのかな?」

 

 「そうだよ」

 「そうだぞ」

 「そうですぅ」

 

 「そうかなあ!?」

 「あんまりピンと来ないんすけど!? 結論が迷子っす!!」

 

 

 「なぁに言ってんだ? 結論なら出てるだろ。

 『勝ち筋』って言うのは、自分がコレを相手に押し付け続ければ勝てる。って言う勝ちパターンのことだぞ」

 

 「--!! 自分がこれを押し付ければ勝てるもの……」

 

 「これは私が一番わかりやすいよね。

 

 バーンで焼いて相手のライフを焼き切ったら勝ちます。これが私の『勝ち筋』です」

 

 「た、確かに遊乃さんは効果ダメージでライフを0にするスタイルっす」

 

 「オイラは、相手が防御しても防御しても捌ききれないくらい戦力を導入していって体力が切れた所でタコ殴りにする攻撃が途切れないスタイルを主にしてる。コイツがオイラの『勝ち筋』でーす」

 

 「ウサギは、相手がやりたいことをひたすら無効にして煽って。相手が息切れしたりミスったりしたところをアドバンテージ差を利用して、チマチマでも良いから安全に負けない立ち回りで戦っていきますぅ。そしたらその内勝ってます。コレがウサギの『勝ち筋』ですぅ」

 

 

 「「「では、貴方のデュエルの『勝ち筋(勝ちパターン)』とは何ですか?」」」

 

   

 「………………僕の、勝ちパターンは………………無いっす」

 

 

 「それが私の言う『わがままが足りない』ってことだよ。

 キミはね、どういう方法で勝ちたいとか。どんなモンスターで勝ちたいとか。そう言うのが、少なくともデッキを構築している段階でちゃんと考えられていないの。

 勝てたらいいな~くらいは考えてるのかもしれないけどね」

 

 「んなぁ~それじゃあお前、運が良かったから勝ちました。としかならないぞ?

 デッキを組む時に必要なのは何度やってもなるべく同じ戦い方が出来る『再現性』だ。

 

 大将もそうだろ? 色んなカード使ってくるけど、大将のデッキはいつもキマイラから始まって縦へ横へと、必要に応じて自分の意思で伸びていく世界樹だ。それはキマイラから始まるけど、キマイラが無くても伸びていける枝となる」

 

 「それが退屈でつまんないと思うんなら、せめてどんなカードを引いても同じ戦い方が出来るように設計する必要があるですぅ。

 

 遊乃ちゃんは何処を取ってもバーン戦術の千歳飴。ウサギは相手の妨害が多く入ってて、取り合えずリソース管理で相手の力を削ぐ方向に統一されてるですぅ」

 

 「えっとね、翔くん。

 (マナ)ちゃんは憧れの人達の使ったカードや、旅で出会った人たちから貰ったカードでデッキを組んでるんだ。

 それは三人の言うような、理路整然としたデッキとは違うかもしれない。

 

 けど、憧れの気持ちやなりたい自分をイメージすることが、キミの気持ちの整理を助けられる力になるかもしれない。

 

 えへへ。ごめんね、みんなみたいにちゃんとしたこと言えなくって……」

 

 「どんな戦い方。どんなモンスターで勝ちたい。

 必要に応じて必要な枝を伸ばせる構築。どこを切っても同じ戦法が取れる構築。

 憧れ、なりたい自分のイメージ。

 

 確かに、今の僕にはどれも無いっす。

 

 

 ……………………でも、なんとなく。どうすれば良いのか分かった気がするッス」

 

 

 そう言って、瞳を閉じて沈黙する翔。それはさっきまでの気落ちや反省、暗い感情のものではない。もっと静かで深い。今まで見たことのない自分自身とデッキとの出会いを求める旅への第一歩。

 

 

 「…………わたし、そろそろ帰るね。恵のお昼ご飯作らないとだから」

 

 「…………オイラも帰るかな。実はドンキーの設計図を集めてる途中だったんだ。ハイドアウトに行きたくてなぁ~」

 

 「…………じゃあ、私はそろそろ(マナ)ちゃんの様子を見に行ってくるよ。偽遊君のことも心配だし」

 

 三人が口に手を当てて、しーっのポーズで静かに立ち上がって移動する。

 

 残ったのは、翔とウサギだけだ。

 

 

 

 

 「………………やれやれですねぇ。ウサギ一人だけ、丸眼鏡くんと居残りですかぁ」

 

 

 「…………」

 

 

 目を閉じたまま、静かに自分自身のこれまでとこれからに向き合っている翔。

 頬杖付きながら退屈そうに眺めるウサギ。

 

 

 

 

 

 

 「仕方ないですねぇ。乗りかかった船ですぅ。

 

 …………もう少しだけ。眺めていてあげるですかねぇ」

 

 

 

 

 もうすぐチャイムが鳴って、腹を空かせた若者の群れが押し寄せる。そうなれば静けさもへったくれも無いだろう。

 

 だからそれまでの間だけ、ウサギは翔の静かな旅を見守っているのだった……。

 







 さあ、準備は整った。



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