ここが素晴らしき世界になるかどうかは貴方次第です!! 作:ふわふわおにぎり
「全く!! 空気読めないカズマのせいで、危うく全てが終わるところでしたよ!」
「おーい、何言ってんだ!? 俺が死んだのはお前のせいだろーがっ!!」
俺たちはどことも知らぬ小道の真ん中で、激しい言い合いをしていた。
それを眺めているアクアの瞳に光は無い。
むしろ、そんなふたりをただの風景かのように呆然と見つめていた。
その口からは常にぼーっという効果音か呻きか分からぬ言葉が漏れ出ていた。
「ま、まて、二人とも落ち着いてくれ! はっきり言ってあの状況下では誰が死んでもおかしくなかった!」
ダクネスが何とか仲裁に回る。
恐らくダクネスは俺が死んだ原因の戦いのことを言っているのだろう。
それは恐らく俺もめぐみんも分かっている。
が、俺の記憶に強く残っているのはその後の、あの神に対する恐怖だ。
あんな恐怖を目の前にした後なので、俺は少しでも早く日常を取り戻したかった。
少なくとも俺はそうだ。
故に、あまり取り正すことの無いような話題まで引っ張り出して俺はめぐみんにぶつけた。
「だ、大体、お前途中で呪文言い間違えてただろうが!! 紅魔族としてどうなんだ!?」
「はぁー? よく言いますねー!! カズマだっていつも通りのクズさでダクネスを盾にしてたじゃないですか!!」
「こいつは盾にする以外なんの、取り柄も、ないの!!」
隣で悶え始めたダクネスを無視して、口撃を続けていると、アクアがゆったりとその顔を上げた。
俺はその表情を見て、つい口を止める。
俺の顔を見て、ハッとしためぐみんもアクアを振り返った。
「カズマさん……? その話今必要?」
「ア、アクア……?」
ゆらゆらっとアクアの頭が左右に揺れる。
なんでこいつさっきからホラーチックなんだ?
「私、わたし……女神なのにぃぃぃぃ!!」
突然の咆哮だった。
それを見た俺は何故か、唐突にほっとした。
ふとめぐみんの顔を見ると、めぐみんも同じらしく、アクアを見て微笑んでいた。
なんだ。めぐみんも俺と同じく、日常に戻りたがってたのか。
俺はそう思った。
「カズマさぁぁん!?
ねぇ、ここがどこか知る以上に重要なことってある!? ねぇ、私女神なのよ!?」
「そうだな、ありがとう」
へ? という表情でアクアが俺の顔を見る。
俺もあまりに自然に出たお礼に驚いたが、今はともかく感謝を伝えたかった。
あの時のアクアの勇敢さには、感謝してもしきれないくらいだ。
なんたってあの恐ろしいゼウスに口を聞いてくれたんだから。
「アクアがゼウスから庇ってくれたおかげだ」
「そうですよ! それは間違いないです!!」
2人揃ってアクアに詰め寄る。
アクアは俺とめぐみんを交互に見て、そこそこ誇らしげに胸を張った。
「あ、当たり前じゃない!!
だって私、ゼウス様の一番弟子だもん!!」
「えぇ、お前それで信者ゼロにn……」
やべ。
俺は口を慎んだ。今はともかく感謝の気持ちを。
そう思ったが、既に遅く駄女神は俺をじど──っと眺めている。
「あら、やっぱりカズマだけ地獄送りにするべきだったかしら?」
「嘘嘘嘘嘘!! 俺が信者1号になる!!
いや、信者1号はダクネスだから、俺2号だぁぁぁ!!」
「クズマ」
アクアから俺、めぐみんの流れで、日常の会話が進んでいく。
アクア。お前に何も無い駄女神なんて言ってすまなかったな。
お前は日常とか俺たちらしさの要になってくれてたんだな。
ま、駄女神なことには変わりないけど。
……いや、地上に落とされたから堕女神だな。
そんなことを考えていた俺は、ある可能性にふと気がついた。
……あれこれって。
「……よく考えたら俺たち、もう魔王を倒さなくて良くなったんじゃ?」
「倒すも何も不可能ですよ。
あの世界にいた魔王軍が、別の世界にまでくるわけないですし」
めぐみんが平然として同意した。
え、という間の抜けた声に振り返って見ると、ダクネスが呆然と突っ立っていた。
え、え、と母音を繰り返しつつ、先程のアクアのように光の無い目で宙を見ていた。
「お、おーい、ダクネスー?」
「魔王……軍が、いな……い……?」
ダクネスは謎のショックを受けているようだった。
まぁ、魔王軍は今までダクネスに、幾度もドMイベントを与えていたからな。
ショック受けるのも無理は無い。
イベントの度にダクネスが張り切って騎士だのなんだと権号を吐いていたのは知っている。
ダクネスの性格であれば、ドMの心を癒してくれる魔王軍の存在は大切だったのだろう。
「じ、じゃあ、私は誰と戦えばいいんだ……!? 誰に狙われ、襲わr……」
「いや、魔王どころか、敵すら居ないかもしれないぞ」
俺はダクネスを無視して、周りの風景を見渡しつつ言った。
「カズマ? もしかしてここを知ってるの?」
「いや、俺が転生前に住んでた世界に似てんだよな……」
アクアの問に答えつつ、俺はあるものを探す。
都会的なコンクリートジャングル、見慣れた道路のブロック、電柱。
全てが懐かしい。それに加えて……。
あれ、さえ見つかれば、ある意味決定的な意味になる。
「あ、あった。あれ、日本語の標識」
俺は通りの先の方に見える、青色の看板標識を指さした。
やっぱり間違いない。
ここは恐らく日本だ。
この日本語が標準で使われている以上、俺の住んでた環境に近いはず。
「……あれ、あの文字、見た事ある気がするんですけど」
めぐみんがその看板の文字にじっと目を凝らす。
そしてハッとして思い出したように、続ける。
「あ、私の紅魔の里にあった……」
「おーい、やめろ? 神が転生させたアホのことを思い出させるなー? 信仰心に響く」
「……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア!!」
突然、アクアが大声を出して立ち上がった。
──な、なんだ!?
「か、神といえば!! 思い出したわ!!
〝神説第5条、神間で結ばれた約束は決して消えない〟」
「さっきからなんなんだアクアは……。突然難しそうなこと言って……」
俺がそう言った途端、アクアが俺の胸ぐらを掴んだ。
俺の首がしまり、ぎゅえという音が鳴る。
「カズマカズマ!! なんてことしてくれたのよ! カズマのせいよ! 全部カズマのせい!!」
「な……なんだよ……は、な、せ」
「ア、アクアさん、一体どうしたんですか?」
めぐみんはアクアを止めようと、あわあわと俺の近くに駆け寄る。
するとその途端、アクアはぱっと俺を離して地面に突っ伏してしまった。
俺は咳き込みつつ、アクアを怖々と見下ろす。
「ア、アクア……? 今日のお前、ちょっと怖いぞ?」
「エリスと結んだ約束は、何があっても絶対なのよ……ここの世界の魔王を倒さない限り、私戻れないのよ……」
「え!?」
「ん?」
「はぁぁ!?」
めぐみん、ダクネス、俺は同時に叫ぶ。
アクアはそんな三人など眼中にないのか、ブツブツと道端の葉っぱをちぎっている。
完全にいじけてしまっている。
俺はアクア以外の2人をこいこいと招き寄せる。
そして、話ができないアクアを置いといて、会議を始めた。
「ダクネス、めぐみん……。この問題、どうする?」
「し、しかし、ここの世界には魔王なんて居ないのだろう?」
ダクネスはしょぼんとしつつ答える。
いたら良かったのに、とでも言いたげだ。
「まぁ、居ないだろうな……」
当然知っているかのように話す俺に、めぐみんがある疑問をぶつける。
「でも、カズマ。いくらカズマの故郷にここが似ているとはいえ、同じ場所とは限らないのではないですか?」
「でも文字や風景も一緒なんだぞ? こんな偶然あるか?」
「…そんなもんいくらでもあるわよ」
隅っこの花壇からアクアの声がした。
相変わらず、花をブチッブチッとちぎりまくっている。
おいおい、お前本当に水の女神か?
「私が知ってる中でも、この場所に似てて言語が同じ世界なんて一万通りぐらいあるわよ」
「カズマ、アクアは一体何者なんだ? さっきも神と話していたように思えたが……」
「ん? 堕女神だよ? 堕ちたほうの堕女神だよ?」
ぐるっとアクアの首がこっちを向いた。
俺とダクネスはさっと目線を外して、そっぽを向く。
「カズマ!? あんたこの状況の重大さを理解してないみたいね!?」
「いや、不味いのはお前だけだろうが!! 俺はむしろ里帰り出来たみたいで清々しい気分だよ!!」
「何が里帰りよ!! あんたがいた日本とは全く違う日本の可能性だってあるんだから!!明日世界が終わってもおかしくないんだから!!」
これには流石の俺もぐぅの音もでなかった。
確かに、アクアが言うように、ここは日本によく似ただけの全く別の世界かもしれない。
黙り込む俺を見て、アクアが気持ちが良くなったらしく更に畳み掛けてくる。
「まぁ、ただの人間にそこまで理解しろって言うのは無理があったかもしれないわね。
さぁ、このアクア様を称えなさい!?」
さっきまでの、アクアを一生称えようと思っていた心が急激に萎むのを感じた。
こいつ、結局、駄女神だ。
まぁまぁ女神っぽい部分があったとしても、俺の神経を逆撫でする言葉の数々で、信仰心が撃沈する。
そんな駄女神アクアに、何か一つでも言い返してやろうと口を開いた瞬間だった。
──ードォォォン!!
俺たちはものすごい爆発音と地面の揺れを感じた。
その後すぐに、ゴゴゴゴという轟音が耳に伝わってくる。
「な、なんだ!?」
「うっ、何が波動のようなものを感じます!」
めぐみんが中二ぶってカッコつけているのを無視して、俺は姿勢をかがめる。
アクアはあれだけ世界の終わりを豪語していたくせに真っ青になってめぐみんにしがみついている。
「おいアクア、まさか本当に終わる世界に連れてこられたんじゃないだろうな!!」
「そ、そんなの私が知るわけないでしょ!?」
ま、それもそうか。
「……みんな!!」
するとダクネスがすぐさま剣を抜いて、みんなの前に立つ。
「音の正体を確かめてくる。ここで待っていてくれ!!」
そういえば、こういう時に真っ先に動いてくれるのはダクネスだった。
俺は心の芯からジーンとするのを感じた。
ダクネスと名前を呼ぶ前に、さっと住宅地の間を縫うように走り抜けて行ってしまう。
ダクネス!! お前ってやつは!!
あの後ろ姿を戦士と言わず、なんというのだろう。
「おい、アクア、めぐみん。ダクネスは待ってろっていったけど、一応見に行くぞ」
「えぇー!? なんで!?
そんな危険なことする必要ないんですけど!?」
「あるだろ!! ダクネスのことだから刺激に飢えてる今、自分から戦いに巻き込まれる可能性もある」
「まぁ、確かに、それもそうよね」
「まぁ、確かに有り得ますね」
2人とも、番上一致で同意だった。
ダクネス……あいつ。
仲間を守るって名目で向かったのに。
こんな認識のされ方って不憫すぎるだろ。
「よし、とりあえず走っていくぞ!!」
「えぇぇぇぇ、疲れだ──!! ダクネスなら強いから平気よー」
そう喚き始めた駄女神を引っ張る。
そして、俺たちは爆発音の麓、ダクネスの後につづき走り出したのだった。