身をゆだねろ――
作戦室から転送後、肌の焼けた黒い短髪の少女――帯島ユカリがバッグワームを着込む。周囲を見回しても暗すぎて見え難い。数瞬その場で止まって様子を見る。
『夜だな、それも曇り空の。暗視モードいれっぞー!』
「有難いッス。自分は一度近くの建物に隠れます」
視界が暗い緑色となり、近場のものはある程度見えるようになる。だが、それでも平時と比べれば視界は狭く、視界の利かない中で動くことの危険性を考慮して建物へと身を隠す。
暗視を入れた男勝りな振舞の女声――藤丸ののへと言葉を返し、自身の方針を伝えるとすぐに男声が帰ってきた。
『目的は?』
「荒船隊の八郷さんの索敵から逃れる事っすね。迂闊に動き続けて遭遇戦、となると自分では鎧を削るので手一杯。なので弓場さんと合流する、或いは外岡さんの狙撃の射線が通る場所での相対が望ましいっす」
『よォし、大体は抑えてるな。荒船隊の目的は割り切れてねェが、少なくとも八郷の奴ァ
『あいよ。っと、マップを転送すっけど窓から離れておけよー』
小さい不協和音の後に、視界右下に小さなマップ。
弓場隊のメンバーの位置とは別に北の通路から大鉄橋に向かう1つ。南の河原敷団地に1つ。北東の住宅街に2つ。南東の自然公園に1つ。
「…自分たちを除いてマップ反応は6っすね、狙撃手はバッグワームっすかね…?」
『北の通路
『そンなら俺は南を索敵、見つけ次第点を取りに行く。北に八郷が居る以上、荒船隊は十中八九射線を通している。日浦は指示次第だが、狙撃手の数を考えるに迂闊に撃つことは出来ねぇ。南に射線を通すことは難しいだろォな。外岡は帯島と共に西のマンション、
『了解。…八郷くんがバッグワームを持っていないから奇襲出来ないのが救い。だけど、装衣のせいで狙撃を少なくとも一度はやり過ごせるから全く救いにならない…』
『外岡さん、一度マンション付近の住宅で合流しましょう。ピンを立てるッス』
「各部隊転送完了!今回選択されたマップは河原敷A!北に大鉄橋が通り、西側に住宅街とマンション、東側に自然公園とショッピングモールが存在する広いフィールドです!そして荒船隊は既に動いているようだ!」
実況画面とは別に、マップが展開される。
北西の住宅街には那須、外岡。
西のマンション最上階には日浦、マンション付近の住宅街に若村。
南西の住宅街に帯島、香取。
北の通路――西マンションからの死角に穂刈、上空に八郷。
中央の住宅街公園に弓場。
南の河原敷付近団地に三浦。
北東のマンション建築地に半崎、大鉄橋に荒船。
南東の自然公園に熊谷。
「荒船隊は転送位置に恵まれましたが、何故あそこまで素早く移動できたのでしょうか?」
「夜の曇りとなると、光源が一切ない。荒船隊はそこで
「光源の無い状況という前提があっから即座に動けたんだろうよ。八郷以外は装衣を黒に統一してっから、暗視を前提とした戦略だなこりゃ」
「狙撃手を見つけるチャンスだな、これは」
「と、言うのは?」
桜子の疑問。
「上空の八郷が原因で少なくとも北の通りは荒船隊と分かる。現在八郷を射程に収められるのは日浦・外岡。だが八郷を狙撃した地点で荒船隊は
「現在日浦隊員・外岡隊員に対しては穂刈隊員が八郷の被弾後に反撃できる。装衣/重装でアイビスであっても狙撃1発は耐えられるのも相まって、ダミービーコンの処理と同じように八郷の撃破には大きなデメリットが付きまとう」
「成程、荒船隊の3人が狙撃手である以上カウンタースナイプを警戒して狙撃手は動けないと」
「狙撃は一撃必殺が前提である以上、八郷隊員は重装であるから空中という
「おっと、此処で動いたのは――」
桜子の楽しそうな声と共に、戦端は開かれた。
マンション最上階より、周囲を見回す赤髪のおさげとキャスケット棒が特徴の少女――日浦茜が上空で
「…見つけました、八郷さんは北の通路です」
通話先の少女――那須玲が少し考え。
『
「分かりました!」
『了解、すぐに向かうわ』
その言葉を聞いていそいそと給水タンク梯子から降りていく。
隊長である那須の言葉には何一つ疑問と思うことは無い。…もしも先程八郷隊員を狙撃したらどれだけの部隊が動くのか。
「志岐先輩、八郷さんを狙撃した後
『…多分だけど香取隊、荒船隊。香取隊だけ
『私も同意見。弓場隊はむしろ動いた後の荒船隊の狙撃手の位置を確認したいと考える筈。狙撃手の人数が私達と弓場隊の狙撃手の人数以上で、荒船隊の狙撃手を落とす事には利害が一致するから。ただ索敵の為にただ浮いている可能性もあるし、
自然公園から抜け出したのか、土を踏む音の無くなった少女――熊谷友子が返し。
――見つけた。
背筋の悪寒と共に梯子から手を離し落ちる。直後ザン!と鉄心と混凝土の壁を切り裂く音。着地し、硬直した体勢のまま見上げる視界の先には。
「先ずは、1ポイント」
跳ねた髪先をはためかせる少女が、スコーピオンを振り抜いた。
「香取隊が日浦さんを落としたわ」
八の字に結った個性的な髪形をした少女――加賀美倫が隊員たちに伝える。
『落としたのは?』
「香取さんね、狙撃手が居ない以上今後の戦闘を考えて動いた感じかしら」
『那須さんの性格を考えると、仇討ちしにいく。主戦場は西マンションになりそう』
八郷の言葉に加賀美が頷く。
ごぉ、ごぉ。
瞬間的に吹き出されるレイガストのスラスター音。
「ええ。そうなると…外岡くんは見つかった?」
『まだ。でも香取さんに点数を稼がせるつもりはない。那須さんが接敵した所を狙う、荒船隊長』
『あいよ、俺も異論はねェ。穂刈はそのまま西マンションを狙撃可能な位置を陣取れ』
『了解、それなら行く。此処に』
マップにピンが建てられる。中央に存在する送電塔――マンションに程々近く、ある程度高さが迫れるが、少しばかり危険な位置取り。
「大丈夫?穂刈くん」
『カメレオン、バッグワーム、ダミービーコン。いくらでも偽装できる。位置を』
『半崎はバッグワームを解除して待機。俺は熊谷を取りに行く。警戒はしているだろうが大鉄橋で遮蔽は取れない。――この距離なら、外さない』
『了解です、荒船さん』
ボボボボボッ。
スラスターの起動音が連続して響き――奏楽が玲と葉子で新たに切られた戦端へと介入する。豊富なトリオン値をふんだんにスラスターへつぎ込んだそれの速度は、マップ上ですらかなりな速度だ。
「レイガストのスラスターで空を飛ぶなんて、八郷くん位よ」
「…思った以上に近い、か」
「麓郎、那須はアタシの方に向かってる?」
『後ろ姿は確認している、葉子。ただ、那須さんはメテオラをセットしてたはずだから、早めに離れたほうがよさそうだ。那須隊に狙撃手が居なくなった以上、
「雄太は?」
『弓場さんが来たからカメレオンでやり過ごしてるよ、葉子ちゃん。ただオレの位置からだと射線を通せる場所は葉子ちゃんの居るマンション位、の筈。華、確認してもらってもいい?』
数秒後、茶色の短髪と眼鏡が特徴の少女――染井華が返す。
『少なくとも半崎さん以外から全域を通せるのは西マンションと中央送電塔。ただ半崎さんに限って1kmを狙撃できるから、北東のマンション建築地或いは大鉄橋から通される。ピンを指したから』
バッグワームを纏いながら窓ガラスを拳銃で割り、飛び降りる。――
あとはマンション付近の小さな雑木林に落ちるだけ――
『葉子ッ』
親友の声。
咄嗟にスコーピオンを盾にし――横からの衝撃と、スコーピオンの砕かれる感覚。この威力はバイパーではない。そしてメテオラなら広範囲でスコーピオンによる受けは成立しない。よって
「…八郷ッ」
八郷のレイガスト。それも、
「三つ巴だ、香取さん――此処で落とす」
「ハッ、あんたが落ちなさい!頭が高いのよ、いつもッ」
『葉子、今向かう!』
そのやり取りの裏で、華が雄太に指示を通す。
『雄太、カメレオンを解除した後、西マンションまで誘導できる?』
『ハウンドには気を付けたうえでだが、大丈夫か?雄太』
『…ろっくんに確認するけど、弓場さんってグラスホッパーとか積んでないよね?』
『少なくとも一番新しい記録でグラスホッパーは使ってなかった』
『なら、大丈夫。いけるよ』
真っすぐ行ってぶっ飛ばす
右ストレートでぶっ飛ばす
戦闘スタイルはスラスターで三次元機動をしつつ重装甲で耐えてレイガストでぶっ飛ばす
トリオン10から放たれるスラスターのエネルギー量が多いと仮定して空を飛べるのでは?という着想から
尚全キャラ恐らくできる戦術の為特殊戦術は無いに等しいが、飛べる時間を考えると奏楽限定の戦術に等しい。
その上でこの性質によってトリオンの成長が約束されている(ぇ