へちょラモーヌさんと妹アルダンさんのなんてことはない日常   作:雅媛

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4 姉様と減量とぶどうジュース

「今年もいい出来ね」

 

 ワイングラスに入れた紫色の液体に口をつけながら、お姉様がつぶやきます。

 

 メジロの御屋敷の庭。すでに日も暮れて暗くなった時間帯、室内からの光と月明かりだけが私と姉様を照らしています。

 ちょっとした軽食と、お互いが持つワイングラス。

 

 月の光に照らしながら、優雅にそれを飲む光景は、とても絵になるのではないかと思います。

 

 他のメジロのウマ娘達も部屋の中にいるでしょうが、誰も声をかけてきません。この独特のお姉様の雰囲気に気圧されているのでしょう。

 

 

 

 まあ、単純に姉様が減量中、というだけなんですけどね。

 姉様は非常に体質的に太りやすいので、放置するとぶくぶく太ります。結構やばい具合に太ります。

 少し肉がついたぐらいなら色っぽい、で済みますが、すぐそれを超えた太り方をしますので油断ができません。

 ここ最近へちょっていることが多かったので、当然のようにお姉様の体重は危険水域に到達しました。それでも現実を認めようとしないお姉様に、私は心を鬼にして、お姉様のお腹をさすりながらこう言ってやりましたよ、「生まれるまであと何か月ですか?」って。

 

 さすがに私の容赦ない指摘にショックを受けた姉様は、こうして減量をしているわけです。

 なので、ぶどうジュース一杯と、このチーズの盛り合わせが私たちの夕食になります。おしゃれでこうしているわけではなく、トレーナーさんに指定された食事がこれだというだけです。

 

 本当は私は減量する必要が全くないのですが、姉様だけにするとすぐへちょってさぼるのでこうやってお付き合いせざるを得ない訳です。

 

 ちなみにお姉様が飲んでいるぶどうジュースは、小岩〇農場の純水ぶどう(果汁20%です)。メジロ家に常備されているぶどうジュースはもっと高いものもいっぱいある、というか、姉様が飲んでいるレベルのものは普段常備されていないのですが、姉様が100%ぶどうジュースが苦手なので、姉様用に特別に買ってきてもらっているものです。素直にニンジンジュースを飲めばいいのに、そこはよくわからないプライドがあるようです。

 当然ですが、市販の安いやつなので、今年の出来も何もありません。

 

 最もメジロの他のウマ娘達には、姉様は特注のぶどうジュースを飲んでいる、と思われているらしく、特別視されています。特にマックイーンとか。今でもこちらをあこがれのまなざしでチラチラ見ていますし。

 でもこれ、今あなたが飲んでいるぶどうジュースの半分も値段しませんよ。私も室内で飲まれているぶどうジュースの方がいいです。

 

 ですがそんなことを指摘すれば、姉様は拗ねてへちょって炬燵の中かクローゼットで籠城を始めて私がキレるのが容易に想像できるので、我慢するしかできません。

 

 そんなことを考えながら、手を伸ばしてきた姉様の手首をつかみます。

 

「姉様」

「アルダン」

「ダメですよ」

 

 私の分を取らないでください。

 お皿に乗っているチーズは2人分です。

 もう半分食べたんだから残りは私の分ですよ。

 

 そんな気持ちを視線に乗せます。

 物足りないのでしょうが、食べさせ過ぎると姉様がまた肥えますし、正直私も全然足りてないので譲るつもりは一切ありません。

 

「アルダン、ね」

「ダメです」

 

 手首を掴んだ手に姉様が指を這わせ、そのまま恋人握りをします。

 室内から黄色い声が小さく上がるのが聞こえます。きっと彼女らは色っぽい何かを妄想しているのでしょう。単にチーズをめぐって姉妹喧嘩をしているとは欠片も思っていないに違いありません。

 他の子たちが見ている中であまりはしたないことはしたくありませんが仕方ありません、残りをそっとかき集め、優雅に見えるような所作で全部口に詰め込みます。

 月明かりしかなく薄暗いのが助かりました。

 

「アルダン」

「んっ」

 

 姉様は寄ってくるとそのまま頬にキスをしました。いや、キスをするように見えたでしょう。単に私が慌てて食べたため、頬に残ったチーズの欠片がついており、それを目ざとく見つけた姉様が舐めとっただけです。姉様、卑し過ぎます。

 ですが室内から見ている子たちにはそんな真相はわからないでしょう。私の頬にキスを落としたように見えたはずです。

 室内からまた黄色い声が上がっていました。

 

 

 

 後日、この光景を見ていたドーベルが、漫画を描いたと言って持ってきました。

 内容はもう、目をつぶりたいぐらいのもので、私は頭を抱えましたが、姉様が面白がって印刷して配り始めたので、かなり広く広まってしまいました。

 私は勝手なことをした姉様の食事を一日抜きにするぐらいしか、反撃はできませんでした。

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