平行世界亜種特異点『追蹤の城塞 極東』   作:ゆしゃ

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「未来の日本の特異点?」

「そう。と、言っても平行世界の未来だ。この世界の延長上じゃない。しかし、小さな可能性も潰しておいて問題はないだろう」

「………」

「立香くん?」

「あ…いや。ダヴィンチちゃん、ちなみにどんなところなの?」

「西暦2075年、『アラガミ』と呼ばれる未知生物がうようよいる時代だね」

「うわ、ま、じか…」

「ああ、『アラガミ』の相手は『フェンリル』と呼ばれる…駆除集団がいるから、そちらさんに任せた方がいい。君にはその『アラガミ』とは別の、聖杯を持つ相手を見つけてほしい」

 

 

 

 

:::

 

 

 

 

「…あーあ、本当に来ちゃったよ。まさか戻ってくるとは思わなかったなぁ」

 

例によって、レイシフトは俺一人だけだ。カルデアからの通信も実は、意図的に切っている。

 

ワケは、数時間前に戻る。

 

 

レイシフトして直ぐに異常に気が付いた。ひび割れた壁、動かない大きな時計。

 

「ここは……ッ?!」

 

そして、黒い四足歩行の異形の姿。

 

『先輩!先輩!どうしたんですか?!』

 

マシュからの通信が聞こえるが、構っていられなかった。声を出せる状況ではないし、身を隠すのに必死だった。

 

(まずいまずいまずい!あのアラガミ…ディアウス・ピターか!しかも、ここ「贖罪の街」だ!アラガミを前にして、大きい声を出すのはやばい。気付かれる。

というか、現在進行形で俺の命がやばい!

ゴメン、マシュ。通信と映像切らせてもらうね!)

 

 

 

:::

 

 

 

「先輩!応答してください!先輩!」

「マシュ!レーダーはどうなっている?!」

「映像、通信、レーダー共に応答不可!一体、何がどうなって…」

「とにかく、通信が繋がるまで立香くんの無事を祈るしかない」

「…はい」

「何、大丈夫さ。彼は人理を救った。必ず生きているよ」

(そうだと、いいのですが…)

 

 

:::

 

 

 

この右腕に黒い腕輪はない。

あるのは右手の甲の赤い令呪のみ。

 

2度目の『生命の再分配』により、この身体からオラクル細胞はまたも掻き消えた。P66偏食因子には適合するだろう。だが、自分にはやらねばいけないことが出来てしまった。

レイシフトを繰り返すにつれ、あの世界の人たちに情が湧いてしまった。あの世界を愛している。

 

偏食因子もない俺は、「魔術師」でもなく、「ゴッドイーター(神を喰らう者)」でもなく、ただの人間だというのに。

 

 

俺が生きていた世界。

突如現れた「オラクル細胞」はあらゆる物を『捕喰』していった。世界の半分以上を喰らい尽くした天敵たちを恐れていた人々は、天敵を八百万の神々になぞり『アラガミ』と呼んだ。

 

アラガミを退けるため、人々は苦渋の選択を行った。自らにアラガミを構築するオラクル細胞を移植し、『神機』と呼ばれるアラガミに対抗できる武器を携え、彼らは今も戦い続けている。

 

 

『フェンリル』という組織は「人類の保護と科学技術の復興」を掲げ、活動する事実上の世界の盟主である。フェンリルに所属するゴッドイーターたちは日夜人々の未来のため命をかけていた。

斯く言う俺も、かつてはフェンリル本部直轄支部の「フェンリル極致化技術開発局」に所属していた。

極致化技術開発局は移動要塞フライアを拠点とし、人が戦わなくても済む「神機兵」と旧世代を導く存在として設立された「特殊部隊ブラッド」の研究を行っていた。

 

俺はブラッドに入隊し、僅か数ヶ月の間に副隊長を経て隊長を務めていた。

ブラッドは「血の力」と呼ばれる特殊能力を持つ部隊。俺は「喚起」の能力を開花させ、次々と他のゴッドイーターが特殊中の特殊なアラガミに対抗するための能力を開花させてきた。

俺がゴッドイーターとなってからは二回ほど世界の危機に遭遇した。

二回目の世界の危機──世界のリセットとされる『終末捕喰』。

終末捕喰を引き起こす「特異点」。

特異点を失い、正常な終末捕喰が行われない『再生無き永遠の破壊』。

 

奇跡は起きた。

「喚起」の能力を持つ俺だけが出来た自分の神機との同調。誓約を履行することによって神機の力を最大限引き出すことが出来る…暴走ともいうが。

その力を用い、「世界に抗う意志」を持ち、仲間たちと共に、一帯をアラガミが生存出来ない地帯へと変えた。その際、俺たちの中にありオラクル細胞が死滅し、死んだはずの仲間が生き返っていた。

そう、つまり、『生命の再分配』が局所的に行われた。世間はその場所を「聖域」と呼び、極東が主体となって調査を進めることとなった。

 

そして、ある時、俺は2度目の『生命の再分配』に立ち会うこととなる。

場所は聖域──萌芽の神域、鎮魂の座。

 

 

かつて、慈母の如く愛を注いでくれた。

かつて、俺たちを生贄として、その手の上で踊らせた。

かつて、世界を飲み込まんとし、俺たちの手で止めを刺した。

かつて、世界に危機を齎した。

そう、例えるなら──人類悪。

 

その彼女の、異形な姿の亡骸がある場所が鎮魂の座だった。

四肢はなく、ところどころから木々や花を生やし、天を仰ぐ、その姿は知らぬ者が見れば聖女のようだろう。

 

 

大破した神機兵の回収のため、変容の神門から萌芽の神域にかけて現れたアラガミ郡を駆逐するのが俺の任務だった。最終フェイズの萌芽の神域──鎮魂の座に進行する前に大破した神機兵は樹林で見つかり、愛機を求めて俺に付いてきたパイロットには帰ってもらった。

一人アラガミを駆逐した俺はと言うと、ここまで来たついでに鎮魂の座に現れたハンニバル神速種も倒しておこうと帰投申請だけ出し、神機を銃形態に変え駆け出した。これと言って何もなく、ハンニバル神速種を倒し、後はヘリを待つだけ。

そこで、事は起きてしまった。

地面が揺れ、彼女の亡骸から鈍い光が漏れる。開いてはいけない何かが開いたと、瞬時に理解した。

 

『お逃げなさい、リツカ。過去へ、幼き姿で』

 

刹那──優しくも懐かしい声と同時に俺の意識は黒く染まった。

 

 

 

:::

 

 

 

(待て、落ち着け…幸い俺がいるここは贖罪の街の中でも目立ちにくい場所。やり過ごせる可能性は高い。だけど、慢心は命取り)

 

ふはははは!と高らかに笑う金色の王様が頭に過ぎるがそれは後々。

地面に振動が伝わる内は相手に気付かれる恐れがあるため、身動きが取れない。幸い、ディアウス・ピター以外のアラガミはいないらしい。ディアウス・ピターが離れた隙にここを立ち去るのが吉だろう。

ただし、ディアウス・ピターは聴覚が若干疎いかわりに視界がやや広い。完全に背を向け、立ち去った後でなくてはいけない。

見つかったら…喰われる。

 

木箱の裏に身を隠し、様子を伺う。フェンリル極東支部からはおそらくゴッドイーターが送られてきているはず。

教会への入口付近には人間の右腕が落ちていた。赤い腕輪があることからゴッドイーターの誰かが喰われた後の残骸だろう。その捜索のため、間違いなくゴッドイーターはここへ来る。彼らがディアウス・ピターを引き付けてくれればいい。倒してくれるのなら尚更。

しかし、ヴァジュラ神属第一種接触禁忌種とされているディアウス・ピターは強敵だ。間違っても一般ゴッドイーターが単騎では適わない。

 

(畜生…!俺にも神機があれば…!俺なら、単騎でもいけるのに!)

 

己の技量を慢心していた訳では無い。本当に、単騎で勝てる相手だった。ブラッドレイジ、あれが使えれば問題なく戦えた。

だが、それはもう無理だ。

俺はゴッドイーターじゃない。ブラッドの隊長じゃない。カルデアのマスターとして、この状況でサーヴァントを喚び出すわけにもいかない。共倒れだけは勘弁だ。

 

(ゴッドイーターはまだか…!)

 

ディアウス・ピターは今も視線の先でウロウロしている。

 

(一か八かガンドでも撃ってみるか…いや、魔術礼装は制服だから無理だな。回避?1度きりだから逃げきれないし、俺自身にかけられるか分からないままやるのは危険過ぎる……ん?!)

 

バシュンとバレットを撃つ音が聞こえた。バレットはディアウス・ピターの前脚に当たり、ディアウス・ピターは体制を崩し、咆哮をあげる。

 

(あれは…複数回貫通している。スナイパーの貫通破壊狙撃弾…ブラッドバレットか…?)

 

続いて何発かレーザーが撃たれ、ディアウス・ピターは後退。やってきたゴッドイーターたちの姿が見えた。

白銀の髪、深緑色のスカート。その手にはスナイパー型の神機。

青い帽子に、顔に傷。焦げ茶のミディアムヘア。手にはチャージスピア型の神機。

特徴的な猫のような髪型に、露出の高いピンクの服。手にはブーストハンマー型の神機。

 

(ブ、ブラッドだーー!シエル、ギル、ナナの3人だーー!)

 

脳内で、はわー!と木箱の裏で興奮している俺は今は置いといて。

 

シエルはディアウス・ピターから距離を取り、スナイパーでサポートしつつ応戦。

ギルはディアウス・ピターの背後からチャージスピア特有の長いリーチを用いて脚を攻撃。

ナナは血の力「誘引」でディアウス・ピターの囮となりながらも、その持ち前の体力とスタミナでブーストハンマーをディアウス・ピターの顔面にぶち当てる。

 

頭、前足、マントはそれぞれ結合崩壊。ディアウス・ピターからオラクルが排出され攻撃が出来ない状態に。最後にシエルの狙撃弾で頭を撃ち抜かれ、ディアウス・ピターは地に伏した。

ディアウス・ピターはコアを抜かれ、地面に胡散した。

 

(これ俺助かったんじゃない?)

 

ディアウス・ピターという危機が去り、気が抜けたのか俺が隠れていた木箱がガタッと音を立てた。突然の音に3人は一斉にこちらに振り向いた。

 

(あ、やば)

「…誰か、いらっしゃるのですか?」

 

シエルが脇にしまい込んでいる拳銃を取り出しこちらへ近付いてくる。死角も殆どないこの場所では逃げることは出来ない。

ましてただの人間である俺が逃げるなんて。

 

(うわー、逃げられねー!)

 

心臓がばくばくしている。マシュに会いたい。無性に会いたい。

拳銃をこちらへ向け、目を見開くシエル。多分俺の顔は引きつっていて残念な状態だろう。

 

「…隊長 ?」

「あ、」

「……リツカ隊長、ですよね…?」

 

 

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