平行世界亜種特異点『追蹤の城塞 極東』   作:ゆしゃ

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時折、夢を見る。

赤乱雲が発生し、赤い雨が降っている夢。

私は1人、神機兵の陰で雨が止むのを待っていた。

 

助けは来ない。

来るはずがない。

あの時助けてくれた、あの人はいない。

晴天の空のような綺麗な目をした、優しいあの人はいない。

 

赤い雨が手に触れる。

心の無い兵器を守れと命じられた。

私はこの兵器よりも、必要ないと判断されたただの道具。

 

私が死のうが、生きようが、「損害が出た」としか言わず、局長は私に関心を持たない。

損得でしか判断出来ない哀れな愚者。

 

 

手に触れた赤い雨は、夢なのに──氷のように冷たかった。

 

 

蜘蛛の形の黒い文様が、痛みと共にこの身を蝕んでいく。

世界の特異点となり、霊長の王となったかつての仲間の御前に、私は立ち尽くす。

 

目まぐるしく世界はやり直される。

人類は消え、草木だけが新たに作られる。

地球が最前と見なしたかつての姿へ。

 

そうして、何時しか夢から覚める。

 

 

あの人がいないというifの世界。

有り得たかもしれない世界の末路。

この世界は、あの人によって命拾いをしたというのに。

あの人が「喚起」しなければ人類は滅びていた。

あの人の優しさで人類は救われているのに。

私は兵器に成り下がり、まともな心すら持たなかったはず。

私も早々に命を落とし、世界の糧となっただろう。

あの人が生きていた、その事実だけで、今を過ごしている。

 

楽しいわけがない。

いない。

見つからない。

見つからない。

どこにもいない。

どこにも形跡がない。

見つからない。

生きていて。

どうか、生きていてください。

それだけでいい。

生きていてくれるだけで、私は救われるのだから。

 

 

──今日も、夢の中の赤い雨は止みそうにない。

 

 

 

 

: : :

 

 

 

 

 

 

 

──俺はね、「生贄」だったんだ。

 

唐突に投げかけた言葉にエミヤは目を丸くさせた。そりゃそうだ、突拍子もないんだから。

 

俺の生まれはフェンリルが管理していない区画の小さな集落だった。

その集落はアラガミを狂信していて、産まれて数年経った子供を生贄にすることで生き残ることが出来る。そんなありえない話を集落の住人は盲信し、実際に子供を生贄として生きていた。ある時は別の集落から、子供を攫ってまで生贄にしたらしい。

 

俺も例外ではなく、6歳になった日。大人たちは口々に「もういいだろう」とぶつぶつ呟き、暴れる俺を押さえつけ廃教会へ連れていった。祭壇に縛り付け、大人たちは近くにいたアラガミを引きつけるように教会へ誘った。

 

──それは、黒い、狐のようなアラガミだった。

 

本でしか見たことはなかったけど、確かに狐だった。

アラガミは鈍い足音を立てて、こっちへ近づいた。味見するかのようにべロリと顔を舐められ、発光する黄色の目と目が合う。

 

(くわれる…!)

 

ヒュンと、尾からレーザーが発し、隠れていた大人たちは次々と殺されていった。アラガミは俺から離れ、他の人間たちに目をつけたみたいだった。地面に流れる血溜まりや、食いちぎられた身体の一部。不思議と恐怖は湧かなかった。

 

その後、狐のような黒いアラガミは、集落の人間を食らうだけ食い、俺をちらりと見ただけでどこかへ去っていった。当時は分からなかったが、おそらく偏食が関係していたんだろうと思う。

数時間後に現れた神機使い(ゴッドイーター)たちに俺は保護され、フェンリル直轄の孤児院で過ごすようになった。

 

奇しくも俺は、アラガミによって生き長らえることとなった。

 

 

2074年、極東支部周辺に近寄る強大なオラクルの反応。

原初の荒神。キュウビの変異種。命を喰らう殺生石を振りまく多大なる脅威。

黒い狐のようなアラガミは──マガツキュウビと名付けられた。

 

そのマガツキュウビは間違いなく、幼い頃に見たアラガミだった。

マガツキュウビと最後まで対峙していたのは俺だけだった。他の仲間たちは既に死にかけており、戦線復帰は見込めない。なんとか安全な場所までは避難させているが、俺までやられてしまうと後が無い。

 

マガツキュウビと共に現れたハガンコンゴウとセクメトは何とか分断して倒すことが出来た。創痕の防壁は狭い通路が多く、マガツキュウビが発する殺生石の範囲にどんぴしゃで掛かる。その所為か、体力が残り少ない。頭がぼぅっとする。あと1回、何かしらの攻撃を受けてしまったら……考えている場合じゃなかった。なるべく距離をとって、攻撃し続けなければ。

 

刀身から銃身に変え、撃った。右脚へ、左脚へ、そして額へ。額へバレットが当たったと同時にマガツキュウビの身体が崩れ落ちた。いつの間にか壁際に来ていたのか、後ろには下がれない状態。倒れたマガツキュウビとの距離は、30センチくらいしかない。

あと一歩遅ければ、俺は殺されていただろう。食えなくても、殺すことは出来るから。

 

かくして、俺を助けてしまったアラガミは、俺によって倒された。

 

 

 

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「途中話が脱線したけど、これが俺の出生ね。………って、あれ。エミヤ?エミヤさん?口、開いてますけど」

「……いや、まあ、強烈すぎて、な」

「ですよねー」

「マスター、君は一般人では無かったのかね」

「一般人だよ?」

「何を平然と、どの口が語るんだ」

「いやいやだって()が無くなれば、ただの一般人だ。どう足掻いたって、それは変わらない。俺はあの世界では力もない平凡な存在だった。それだけだよ」

「…君は本当に、斜め上を行くのだな」

「褒めてる?」

「褒めているわけがないだろう、たわけ」

 

 

 

 

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「マスターの話を聞いたわりには、立派な部屋じゃないか」

「まあ、元は客室だからね。俺たちが異動した時にそのまま割り当てられたんだ。

それと、このアナグラ内は立派さ。立派で当たり前(・・・・)なんだ。エミヤあたりは外部居住区を見たら卒倒しそうだなぁ」

「…そんなに酷いのかね」

「うん、酷いよ。こことは天と地の差と言っても過言じゃない。上層部は命を救う者と救われる者の差だって言い述べたけどね。昔に比べてかなり改善されたけど隅々まで配給や物資が満足に行き届かないのは事実。

そのために、安全な別拠点を散策、稼働する組織(クレイドル)が立ち上がったんだから。

あ、ターミナルにメールが来てる。サカキ博士かな…えーと、ん…?」

「どうした、マスター」

「いや…サカキ博士の悪い癖だ」

 

『このメールが届いてから300秒後に自室を出て、ラウンジへ来るように』

 

「…何秒で来てくれってすぐには分からないんだよなぁ。300秒は5分だってことは分かるけど……………んんん??」

 

『追記 同行者もいるのだろう?着いてきてもらうといい』

 

「あの人千里眼でも持ってんの?それともただの監視カメラ?」

「これは……末恐ろしいな」

 

 

 

 

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「よし5分たったな。行こう、エミヤ」

「足が震えてるぞ、マスター」

「だって怖いんだよぅ。かつての仲間が殺しにかかってくるかもなんだよぅ」

「なんて物騒な」

「うん、まあ、その時はその時だ。道中見つからなきゃいいんだけど」

 

自室から出て、ブラッド隊の自室がある区画に辿り着く。ラウンジへ行くには普段神機使いたちが使っているエレベーターでないと向かうことが出来ない。

 

「……お?誰もいない…?」

「エントランスとやらには確実に誰かいるんだろう?」

「だと、思うけど…」

 

エレベーターを降りてエントランスに着いたが、誰もいない。

 

「……あれ?」

「…不気味なほど静かだな」

 

そんなことはありえない。少なからず誰かは在中しているはずだ。オペレーターとか。

 

「どうしたんだろ…」

「とにかく、ラウンジに行こう。マスター、場所はこっちかね」

「うん…突き当たりのエレベーターから行けるよ」

 

エレベーターの前まで来るとエレベーターが使用中なのに気がつく。思わずエミヤの背後に隠れるが現れたのは見知った相手だった。

 

「隊長!」

「………隊長(・・)?」

「そろそろ着く頃合いかと思いましたので迎えに来ました」

「シエル!」

「…………」

「…彼が、同行者ですね。私はシエル・アランソン。隊長の部下(・・・・・)、です。どうぞよろしくお願いします」

「そうか。私はエミヤ。マスターの部下(・・・・・・・)、だ。よろしく」

 

ひええ、ブリザードだ。ブリザードが2人の間で吹き荒れている!

 

「ここで争うのもどうかと思いますので、どうぞ、こちらへ」

「ああ、そうさせてもらおう」

「ひぇ、二人とも怖いよ…」

 

 

 

 

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極東内の神機使いやスタッフが集まっているのか、ガヤガヤと賑わうラウンジ。そのラウンジが、俺が入ると同時に静まり返った。

 

「お、主賓が来たね」

「サカキ博士…これは、一体」

「君には言ったろう?サプライズだよ。彼らへのね」

 

サカキ博士は一息置いて、動揺で固まる彼らへ向け、高らかに宣言した。

 

「諸君、急で申し訳ないが、ブラッド隊のリツカ隊長の帰還(・・)パーティーを今、開催しよう!」

 

おぉぉぉぉ!と男女様々な声が歓声をあげた。

 

「そちらの彼とは初めてましてだ。リツカくんの同行者で間違いないね?」

「あ、ああ、私はエミヤ」

「私はペイラー・(サカキ)。しがない研究者且つ人類最後の砦、フェンリル極東支部の支部長をやっているよ」

「…サカキ博士、俺の頭が追いつかないんですけど」

「うん?君の帰還パーティーだよ。帰ってきた(・・・・・)んだ、それくらいやらないと」

「いや、俺は…」

「ほら、行っておいで。みんなが待っているよ」

「マスター!」

「エミヤ、ちょっとだけ待ってて!」

「…支部長殿、どういうつもりかね」

「まあ、君たちの事情はなんとなくだが分かっているよ。我々と、同じ事情を抱えている。

しかし、彼らにとっては半年ぶりの再会、リツカくんにとっては十数年ぶりの再会だ。積もる話もあるのだろう。このハレの場でくらい、みんなの輪の中に入れてくれても構わないだろう?

このラウンジ内では君も好きにするといい。制限はかけないよ」

「…是非、そうさせてもらう」

 

 

 

 

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再会したスタッフたちと談笑していると凄い勢いでラウンジを駆ける轟音が聞こえた。

 

「先輩!先輩先輩先輩!せーんーぱーいー!!!」

「ぐぇっ、エ、エリナ…」

 

勢いよく俺の腹目掛けて特攻かけてきたのはフェンリル極東支部第一部隊隊員エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ。

俺を先輩と呼んでくれていた、可愛い後輩の一人。

 

「一人でどっか行っちゃうなんて…!わたし、地獄にだってついていくって言ったんだから!」

 

涙を堪え、叫ぶエリナ。思わず、緑掛かった髪を梳かすように、頭を撫でてしまった。

 

「…っ!先輩がどんな所にいたって関係ない!わたしの先輩はあなただけだもん!

もう、勝手にいなくならないで…お兄ちゃんみたいに、死なないでよ(・・・・・・)!」

 

エリナは兄を失った悲しみと、俺を失うことを重ねてしまっているらしい。

 

「…ごめん、エリナ。約束は出来ないよ」

「……先輩のばか。即答しなくてもいいじゃん…。うん…分かってる。先輩なら、そう言うと思ってた。

でも、よかった。生きてた。先輩は、生きていてくれた…!」

 

辛いのだろう、俺が居なかったことが。まだ幼さがある顔と体躯。鞭を打って人類のために駆けている。いつ死んでしまうかわからない世界。いっぱいいっぱいのはずだ。

 

「死なないように、努力はするよ。

…ミッション終わりなんだろ?休んでても良かったのに」

「先輩が戻ってきたって帰投待機中に連絡が来て、いても立ってもいられなくて…」

「それでも、やっぱり疲れてるんだろ。部屋まで送るよ」

「大丈夫!わたし、報告書提出しなきゃだし。ほら、先輩は他の人たちに会ってきて!コウタ隊長はクレイドルの別ミッションだけど、エミールはそろそろ来るだろうし。ね?」

「そっか…じゃあまた後で会おうな」

「うん!」

 

悲しさの残る笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

リツカがエリナのもとから立ち去り、エリナはラウンジを出て、1人呟く。

 

「わたしだって、もう子供じゃない。分かってる、分かってるのに……貴方の居なかったこの半年は、あまりにも大きかったんだよ、先輩」

 

静まり返ったエントランスロビー。現在この支部に在中する皆がリツカのためにラウンジに集まった。連絡を受けた他の神機使いやスタッフも急いで帰ってくるだろう。

皆、待ち望んでいた。この極東支部は、リツカという1人の神機使い(ゴッドイーター)を引き摺って歩いている。死と隣合わせの職場。一何時何が起こるかわからない状況の中で、リツカが死ぬとは誰も思わなかった。ずっと、居るものだと思っていた。

MIA(作戦行動中行方不明)と聞かされ、全員が動揺し、困惑した。一番酷かったのは、リツカが所属していた特殊部隊ブラッドの面々。

特に、その一月前に螺旋の樹からリツカたちに助けられ現隊復帰を果たしたジュリウスだった。彼は特にリツカを信頼していたのか、落ち込みようは見ていて辛いものだった。寝る間も惜しんで捜索にあたり、他のブラッドの隊員に連れ戻されていた。

前に進めない。リツカがまだどこかに居るかもしれない。可能性が捨てきれないのなら、有り得ることもあったのだろう。

 

螺旋の樹発足時に、誰かがジュリウスを神聖化したように。ここ(極東)にいる誰かは、リツカを英雄(・・)のように思っているらしい。

先程、ラウンジで職員の1人が言っていた。

 

──『嗚呼、我らが英雄(・・)の御帰還だ』、と。

 

 

「さぁて、報告書報告書っと」

 

無い背中を追って、引き摺って歩き続けるわけにはいかない。いつかはその重りのついた枷を外し、前に進まなくてはならない。

 

(先輩が、引き摺って歩いていくことを望むわけないもんね)

 

でも今は、今だけは、どうか喜びに浸らせてほしい。だって、帰ってきた。わざわざ帰ってきてくれた。

 

居ない神様に願うなんて、可笑しな話だけど。

 

 

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「リツカ!」

「リッカ!」

「久しぶりだね。元気にしてた?」

「元気元気!リッカも元気そうだね」

「今日も神機のメンテが多くって」

「楽しいんだろ?」

「まあね。好きでやってるんだし。

あ、そうだ。君に言いたいことがあったんだ」

「?」

「…私だって、心配したんだから!」

「リッカ…」

「勝手だけど、君のことは弟のように思ってた。名前もよく似てたし、君はよく神機について私に質問しに来てくれてたから。リンクサポートやブラッドレイジのデータ採集にも協力してくれてたし。

……………うん、ま、良い実験体ともいうかな」

「感動の再会とは一体」

 

 

 

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マスターから、ここは『世界に仇なす存在に対抗するための組織』と聞いていた。そのため、軍のような組織なのかと思っていた。階級制度こそ軍のようだが想像以上にアットホームな組織だった。

一端の支部だからなのか、境地に陥ったから故か。まだ、()こそ見てはいないが、異常であることに変わりはない。

 

久方ぶりの再会に、もみくちゃにされるマスターを遠目に見ながらカウンターの椅子に腰掛ける。この様子では長丁場になりそうだ。

 

「ごめんなさーい!通してください!」

(幼い子供?なんでこんな所に)

 

10歳ほどの少女だろうか。大量の食材を詰め込んだ箱を台車に乗せ、こちらへ向かってきた。

 

「ふぅ…やっと着いたぁ」

「すまないが、少し良いだろうか」

「はい?何ですか」

「見ると、ここにはキッチンがあるようだが、食材の運搬は君が?」

「食材の選別も私がやっていますよ。ここ最近になって、レーションやトウモロコシだけじゃなく、他の高品質なお野菜が手に入るようになったので、私が直に見て食材を選んでいるんです」

「そうか、食事事情もままならないとマスターが言っていたな……」

「マス、ター…?」

「…む?ああ、あそこでもみくちゃにされているのが私のマスターだ」

「マスターって、リツカさんのことだったんだ!凄いなぁ、リツカさん。

じゃ、私も、帰ってきたリツカさんのために美味しいお料理を作ってあげなくちゃ」

「君が、作るのか…?」

「そうですよ?あ…そう言えば、ご挨拶がまだでした。

改めまして、私は千倉ムツミと言います。ここ、ラウンジの切り盛りをしているんです。こう見えても調理師の資格を持っています。言っちゃえば、シェフですね!」

「……………うん?」

 

素っ頓狂な声を出してしまったのは仕方がないのではないだろうか。

 

 

 

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「おお!久しいな、我が親愛なる友よ!」

「おーブラッドの隊長さんか。死んでたとばかり」

「隊長さん!」

「珍しい面子!エミールに、ハルさん、そしてテルくん。でも、何で?」

「前に俺が、ケイトの夢を継いで、教師でも目指してみるかって言ったの覚えてるか?」

「うん、覚えてますよ」

「俺は外部居住区出身だ。ハッキリ言うと、学がない。…学校じゃ、ナンパした記憶しかないしな。D.D.先生のとこのサテライト拠点に毎日通うわけにもいかない。ミッションがあるからな。そこでだ!エミールを見てほしい」

「うん?」

「彼は貴族出身だ。まあ、何であれ、学がある。で、あればだ。同じ極東の仲間、エミールに御教授願おうという算段に至ったわけだ」

「最初は僕も何の事だと煩慮していたものだ。話をよくよく聞いてみればなんと素晴らしいこと!夢を持ち、叶えるために努力を怠らない…。

我が騎士道にかけて必ずや、貴殿を立派な教師とすることを約束しよう!…と、言ったのがおよそ1ヶ月前の話だな」

「おおっと、結構最近」

「ちなみに私はたまたま(・・・・)、ハルオミ隊長のところに居合わせただけですよ」

「テルくんが辛辣」

「一応僕にも話が回ってきたんです。とはいえ、僕も育ちは同じ外部居住区。兄さんと変わりありません。…まあ、間違いなく兄さんよりは全然マシとは思いますが。

兄さんの夢は確かに素晴らしいものです。ええ、認めますとも。しかし、貴重な神機の資料確認の時間をこのバ……失礼。邪魔されたくないので」

「あっ、テル、おま」

「兄さんはもう少し後先考えて行動して!」

「まあまあまあまあ、兄弟とは啀み合いながらも日々高め合うものだと聞いている。兄弟の間にしか分からない絆もあると。極東のことわざでこんな言葉があるという。兄たり難く弟たり難し、と!」

「合ってるけどこの状況には相応しくないかな!」

「なんと!僕の勉強不足か…?

すまないハルオミ殿、僕は貴殿に教えるほどの技量をまだ持ち合わせていない…!先の約束事を違えたことは素直に謝ろう。すまなかった。だがいずれッ!必ずやッ!貴殿には僕の持ちうる知識を授けようとも!この騎士道にかけて今一度約束しようッ!

それでは僕は失礼する!我が友リツカよ、また後で会おう!」

「あ、うん。じゃあね」

「エミール…!カムバッーク!」

「さて、仕事があるので僕も行きますね。ナンパするなとは言わないけど、兄さんもちゃんと仕事は仕事でしてくれないと」

「わーってるって」

「…心配だ、本当かなぁ…?ま、何かあっても自業自得。あの世で義姉さんにこっ酷く叱られればいいんだ。

隊長さん。こんな兄さんは放っておいていいですからね?」

「過度なナンパは流石に止めるから。テルくんは行った行った。じゃ、またね」

「私も隊長さんにまた会えて良かったです。では、また」

 

 

「よし、テルは行ったな……ところでだ、青年(リツカ)

「はい?」

「聖なる探索は、忘れてはいないな?」

「──原点回帰、終わりなき円環、聖なる探索は繰り返される…」

「ああ、そうだ。この機会に今の俺のムーブメントを教えてやろう。

 

今のムーブメントは──デコルテだ」

「……!」

「首筋から胸元にかけての美しきライン。そのラインによって齎される色気は男たちを魅了してやまない!

原点回帰にて、俺は胸は素晴らしいものと言った。確かに素晴らしい。だが、考えてほしい。

その素晴らしい胸を、更に引き立たせるのは一体なんだ、と。そう、それこそが──デコルテ。

美しいラインの末に、辿り着くのは胸。デコルテの色気と美しさは俺たち男に多大なる恩恵を齎すことだろう。モデルを紹介したいが…共にミッションへ向かうことが出来ない。ああ、なんて残念なんだ」

「俺たちの探索に、終わりはない。…そうでしょう?師匠…!」

「ああ…!そうだ。俺たちは男である限り、探索を続けるとも!俺の弟子よ、約束の地は、永遠だぜ…!」

「はい…!」

「──ハルさん!やっと見つけたっすよ!ん?隊長も一緒だったのか」

「お、ギルか」

「ハルさん、ほら、行きますよ」

「行くって…どこに?」

「医務室。ハルさん、ミッションで負った怪我が軽傷だったからって医務室に行かなくってな。廊下で会った桐谷が珍しくボヤいてたんだ」

「マジか!ヤエちゃんのためならなんとやらってな。うんうん、ナースはいいぞ」

「ハルさん!」

「ま、ヤエちゃんは学生だ。学生に手を出すほど俺は落ちぶれちゃいないさ。目の保養だよ、目の保養。

んじゃな、同士(聖なる探索者)。今度は一緒にオススメの写真集でも見ようや」

「心底楽しみにしてます!」

 

 

 

 

: : :

 

 

 

 

「隊長、ここでしたか」

「隊長!楽しめてるー?」

「シエル!ナナ!あ、そういえば、他の神機使いは?」

「クレイドルや、他のブラッドのメンバーはサバイバルミッションへ向かっているので明日当たりに帰ってくるはずですが」

「防衛隊の人たちは自分の隊の面倒があるみたいでこっちにはまだ来れないみたい」

「そっか…みんな、それぞれ進んでるんだな」

「僅か半年ですが、あれほど後悔したことはありませんでした。一番、歩みを進めたくはなかったのは、私だったのかも知れません。

過去のものとしなければならなかった君を、ずっと引き摺って歩いていたのですから」

「シエルちゃんの気持ちはすごく分かるよ。私だってあの頃ははおでんパン10個も食べれてたのに、8個しか食べれなくなっちゃったもん」

「俺は8個でも多いと思う!」

「えー、そうかなぁ?あ、後で隊長におでんパンあげるね!いっぱい!」

「1個でいいからね!」

「ふふ…懐かしいです。あの頃はこんな風に、過ごしていたんですね」

「…今更だけどなんだか、隊長が遠くに感じるなぁ。今はここに居るのに」

「そうですね、ナナさん。…隊長は、私たちとは違う時間を生きたんです。遠くに感じるのも、通りでしょう」

「そんなこと言われると寂しいなぁ。俺は、まだシエルたちに隊長と呼ばれることを望んでいる。

俺には偏食因子がないから、神機にも触れない。隊長になんか、戻れないのに」

「……この話はやめましょう。どうであれ、一度はこちらへご帰還されたのです。ここに、いらっしゃるのですから、素直に喜びましょう?」

「…うん。嬉しいものは、やっぱり嬉しいもんね。実家に帰ってきたみたいに思ってよ。

おかえり、隊長!」

「おかえりなさい、隊長」

「二人とも…ああ、ただいま」

 

 

 

 

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「配給が少ないとレパートリーも減っちゃうけどみんなには美味しい料理を食べてもらいたい。その思いでここのシェフをやってるんだもん。

それに、リツカさんは凄く美味しそうに私の料理を食べてくれるから、作り甲斐があって…」

「ふむ、それには同意しよう。彼の食べっぷりは作り手も喜べるものだ。

ただ…少しだけ寂しそうな表情して食べていたのが気になっていたのだが……君と話して納得がいった。君の作る料理が、彼の『お袋の味』なのだろう。素晴らしい出来だ」

「えへへ、褒めても何も出ないよー?

あ、ジャイアントトウモロコシは実を削いでコロッケの具にに使おうかなって。大味だから一味足してあげないとね」

「芯はスープでいいだろうか」

「実は大味だけど、芯の方は割と味が濃い目だからスープに最適なんだ。お米があれば炊き込んでも良いんだけど…贅沢は言えないから」

「チョコ味のレーションは一度ペースト状にして、味を整えてから牛乳…はないんだったな。豆乳と混ぜて焼いてみるかね。簡易的なスイーツにはなるはずだ」

「それいい!このタイプのレーションは重みがあって持ち運ぶのが大変だから結構余っちゃうの。配給で居住区に配るにしても運ぶ時にかさばるしね」

 

 

「エミヤたちが凄い仲良さそうで俺、泣きそう…」

「隊長、しっかり!」

「お気を確かに…!」

「………マスター?」

「リツカさん!」

「お…」

「お?」

「大っきくなったねぇ、ムツミちゃん。あんなに小さかったのに」

「伸びるよ!成長期だもん!

あ、そんなことより、リツカさん。ご飯食べてかない?」

「彼女と意気投合してね。見ての通りだが、沢山作ってしまったというか…現在進行中というか…。

マスターはこちらへ来てから何も食べていないのだろう?是非、食べていくといい」

「う、じゃあ…お言葉に甘えて…」

「私も食べたーい!」

「私もよろしいですか?」

「いいよいいよ!たくさんの人に美味しく食べてほしいからね!」

「ムツミちゃんは変わらず天使か」

 

 

 

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「食事中のところ申し訳ないけれども、ちょっといいかい?」

「サカキ博士」

「リツカくん。楽しめたかな?」

「はい!もう、みんなに会えないとばかり思っていたので」

「楽しめたのなら私も嬉しいよ。

……ここからは、仕事(・・)の話だ。いいね?」

「…目下、それが俺たちの目的なので」

「ラウンジで話すのもなんだし、場所を変えよう。役員区画の会議室に来てくれ。私はここをお開きにして、準備をしてから向かうよ。

シエルくん、ナナくん。君たちはギルバートくん、及び、第一部隊…コウタくんは別ミッションだったね。エリナくんとエミールくんを会議室に集めてくれるかい?

まだ本部には公にできない話だから……内密かつ、迅速にね」

 

 

 

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「エミヤ、今大丈夫か?」

「ああ、ムツミが『後は任せて!リツカさんをお願いね』と、残りの片付けをしてくれている」

「ムツミちゃんはホントにいい子だなあ、もう」

「ムツミとの会話は久しぶりに胸が踊ったよ。彼女は食材の有効的な使い方をよく知っている。あれで10歳と言うのだから驚きだ。

所で、マスター。先程支部長殿が言っていた仕事(・・)の話だが…」

「俺がこっちに来たときにサカキ博士から何点かは聞いたんだけど……聖杯の在り処の見当はついたよ」

「…何?」

「極東支部に来る途中で奇妙な()を見かけたんだ。俺がいた頃…ここだと半年前まではなかったものでさ。俺が居なくなってから出現したらしくって…実害がどれだけのものかは分からない。

だけど、その城が異常であることに変わりはない。聖杯がそこにあると考えるのが妥当じゃないかな。ま、ダヴィンチちゃんたちに確認してもらわないとだけどね」

「しかし、城か…庭などは見えたのかね?」

「うーん、ヘリから見下ろしてたけど城壁の中はわからなかった。こう、靄が掛かってるっていうか…城壁の中だけ霧?みたいな…」

「戦力が露見しないことには対策の打ちようがないな」

「サカキ博士たちの調査内容も気になるよなあ」

 

 

 

 

 

: : :

 

 

 

──役員区画、会議室。

 

巨大なモニターがあるだけの鉄板で構成された無機質な部屋。

俺、エミヤ、シエル、ナナ、ギル、エリナ、エミールは呼び付けたサカキ博士を今か今かと待っていた。

自動扉が開き、手に記録ディスクを持ったサカキ博士が入ってきた。

 

「みんな集まっているようだね。早速始めよう」

「始めるって…何をだ?」

 

腕を組み、不機嫌そうにギルが問う。

 

「情報交換、といったところかな。我々と、リツカくんが所属している組織と、でね」

 

淡々と述べるサカキ博士だが、その手は機器を操作するために忙しない。

 

「……先輩、どういうこと?」

 

あ、エリナが怒ってる。

 

「エリナさん、今は抑えてください。詳細はきっちり(・・・・)、問いただしておきますので」

 

きっちり、の所を強調するあたり、シエルは本気だろう。

 

「…しかし、しかしだ!我々と、その組織とで何の関係がある?

幾ら、我が友リツカがその組織に所属していたとしても、情報を渡すに値しないのではないのかね」

「戦力は多いに越したことではないよ。今回こそ、本部に知られるわけにはいけないからね。

あの城も、この極東での異常も。何より、リツカくんのことは特に秘匿しなくてはならない」

「…MIA(作戦行動中行方不明)に認定された神機使いが、帰ってきただけでもざわつくのに。それに加えて、2度目(・・・)の偏食因子の喪失。

…本部の連中に目を付けられるだけでは済まねぇだろうな。良くて監視付き、悪くて……実験材料だ」

「ええ?!実験って、お腹を裂かれたりしちゃうの?!」

「…それで済んで生きていれば、まだいい方でしょうね。かつてはもっと酷い方法取っていたと噂もあります」

「だからこそ、情報を共有し、リツカくんに人らしくあってもらおうと言うわけさ。

…アラガミになんかさせないためにね」

 

隊長権限で、極東でかつて何が起きていたのかNORNで確認したことがある。

マーナガルム計画、エイジス計画、アーク計画。その全てにサカキ博士は関わっている。

 

マーナガルム計画も、アーク計画も。そして、フライアのクーデターでも、人間が人為的(・・・)にアラガミ化してしまうという事件が起きた。不慮の事故だったとしても、行ったことは全て人の手で行われたことだ。

サカキ博士はそれを悔やんでいる。悔やんでいるからこそ、俺を本部の犠牲にはしたくないのだろう。

 

「リツカくん。今、君の仲間と連絡は取れるかい?」

「あ、はい、出来ますけど…」

「お願いしてもいいかな?」

「少し、待っててください」

 

 

 

 

「ごめん、マシュ、ダヴィンチちゃん。聞こえる?」

『うんうん、バッチリ聞こえてるよー。彼らが、君の言っていた精鋭たちか』

「うん、そう。この世界を守る精鋭たちだ。…あれ、マシュは?」

『ここに、居ます…』

『あー、マシュには資料の調査をお願いしていてね。今回は特異中の特異(・・・・・・)だからね。

過去に平行世界の調査記録がないか探してもらっていたんだ。調査記録も膨大でねぇ』

『ダヴィンチちゃん、すみません…見つかりません』

『ん、仕方がない。そこまででいいよ、マシュ。それで、立香くん。何の御用かな?』

「こっちの責任者…フェンリル極東支部支部長がダヴィンチちゃんたちと連絡を取れって…」

「リツカくん。繋がったかな?」

「サカキ博士」

『…博士?』

「ああ、失礼。私はペイラー・(サカキ)。研究者であり、フェンリル極東支部の支部長をやっている」

『…私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。人理継続保障機関フィニス・カルデアの技術開発部部長で、責任者だ。立香くんがお世話になったようで』

『わ、私はマシュ・キリエライトです』

「キリエライトくんか。…レオナルド・ダ・ヴィンチ?ほう、大層な美女だったとは」

『だろうだろう?流石は天才ダヴィンチちゃん。誰が見ても美女と呼ばれるボディ…!』

「美しいのはふむ、認めるとして…この通信方法は不便だね。…少し待っていてくれすぐに終わるよ」

 

そう言うと、サカキ博士は巨大モニターの側面を弄り始めた。

 

『先輩。どういう状況なのでしょうか?』

「あー…情報交換が本題なんだけど…」

『…巨大なモニター…。なるほど、なるほどねぇ。サカキ殿がやりたいことが天才ダヴィンチちゃんには手に取るように分かるよ、うん。さて、私も準備しておこうかな』

『ダヴィンチちゃん?!何処へ?!』

『ちょっとね〜』

「ダヴィンチちゃんまで…?」

 

 

: : :

 

 

『準備オーケーだ!』

「こちらも準備は完了だ」

 

パっと、フェンリルのロゴが表示されていたモニターの半分にダヴィンチちゃんの顔が映った。

 

『あーあー、音声もバッチリ。解像度も申し分ない。きちんとリアルタイムでの通信のままだ。

ほほう、しかもその部屋全体のカメラ情報も見れるとはね…』

「ここのモニターだけでなく、ターミナルに特殊なキーを入力することで通信が可能になるように回路を弄らせてもらったよ」

「あんたこの短時間に何やってんだ…?!」

「データの転送もしたいのだが…ダヴィンチ氏、これらのファイルは届いているかな?」

『お、来た来た。大丈夫、全部問題なく開けているよ』

「ならそのファイル形式で進めさせてもらおう。待たせたね、諸君。

それでは始めよう──作戦会議だ」

 

 

 

: : :

 

 

 

こちらの神機使いたちと、ダヴィンチちゃんたちの簡単な自己紹介を行い、顔合わせは完了した。

終始エリナが不機嫌そうにしていたが「…先輩の隣なら機嫌治るかも」と言うので、俺の隣を陣取っているのは右にエミヤ、左にエリナだ。シエルの目が笑っていないように見えるのは気の所為だ。多分。

 

『特殊部隊ブラッド…先輩は隊長職に就いていたのですね。指示が的確なのはそのためですか』

「隊長とはいえ、後衛強襲に回るのが多かったからなぁ。バレットを撃ちながら命令を出すことが多かったかも」

「事実、隊長以上の階級を持っている神機使いは極東には居ないはずだぜ。特進措置もあって中佐……ま、MIA(作戦行動中行方不明)だからこその特進措置だろ」

「あーそっか、隊長は居ないことになってるんだ」

「…に、したって特進し過ぎてない?」

「元々、様々な貢献が認められ、螺旋の樹の一件後は大尉の位でしたからね。妥当な判断かと」

「素晴らしい友人を持ってこの僕も鼻が高いぞ!」

「うるさいエミール。黙ってて」

「む」

『立香中佐、かぁ』

「やめてよダヴィンチちゃん!」

 

にやついた顔で、中佐か、中佐ねぇと連呼するダヴィンチちゃんを叱咤し、サカキ博士に早く話を進めてくれとアイコンタクトを送った。サカキ博士もにんまりと笑い、口を開いた。

 

「そろそろいいかな?話を始めよう。

最初にそれぞれの目的を明らかにしておこうか」

 

モニターには極東支部周辺の地図が映し出されており、赤く点滅している大きな点、その周囲を囲むように小さな点が打たれている。

 

「極東支部としては突如発生した城、及び付近のアラガミの異常捕捉の解決を視野に入れている。

少なくとも起こり得る異変の最少化は確実にしたいところだ」

『我々カルデアは異常検知された原因の解明、処置を行いたい。自己紹介の時に話したけど、魔術的要因(・・・・・)が関わっているのは確かだ。

そこに関しては我々が専門に対処出来る。そして、何より行いたいのは特異点(・・・)の終息化、聖杯(・・)の回収かな』

「…特異点(・・・)?」

「あ、サカキ博士。こっちの特異点とダヴィンチちゃんの言う特異点は同じものじゃないですよ」

 

こっちの特異点は「終末捕喰」を引き起こすために必要な個々たるもの。所謂、錠前を開ける鍵である。

俺たちカルデアが追う特異点は「もしもの世界」に成り得るもの。正史から外れ、あの歴史的な戦争が終わっていなかったとしたら?という分岐点(ターニングポイント)にあたる。

 

「まあ、そうだろうね。…では、聖杯とは?」

『何でも叶える万能器、ってやつだね。おそらくだけど、そちらで起こっている異変は聖杯によるものではないかと予測しているんだ』

「ふむ…利害は一致。私たちは異変を治めたい、君たちも異変を治めたい、且つ聖杯を回収したい、と」

『話は纏まったね。現段階情報を出し合おう。…と、言ってもこちらは一つとして情報がない。申し訳ないけど、そちらから情報を開示してくれないかな』

「了解した。皆、この映像を見てほしい」

 

モニターに映し出されたのは、ヘリで上空から見たあの城の外壁。

 

「ドローンで撮影したのだが…殆どが破壊されデータが残っておらず、何機かはそのまま戻ってこない。城壁内は外部へのジャミングを施されているのか、反応がない」

 

映像は切り替わり、城壁内の霧へ向かっていく。濃霧に巻かれ、先が見えない。

 

「この映像だけは何とか死守したものだ。危険を承知で買って出てくれた偵察班には感謝しきれないね。

……特に目を凝らしてほしいのはブラッドの諸君、君たちだ」

 

濃霧を抜け、映し出されたのは──

 

「……なっ?!」

「有り得ない、有り得ません…!」

「これって──フライア(・・・・)、だよね…?」

「……しかも、修復後の物じゃねぇ。初期の物だ。神機兵保管庫に位置する部分の外装が、前のやつだぜ、あれは」

 

移動要塞フライア。

かつて、特殊部隊ブラッドが本部直轄支部フェンリル極致化技術開発局所属だった頃の拠点だ。

クーデター事件の時に神機兵保管庫が引き剥がされ、神機兵保管庫は孤立化。残ったフライアはレア博士を主体に修復を行い、有人神機兵稼働拠点として再スタートした。

 

しかし、螺旋の樹の一件時、修復されたフライアは暴走した螺旋の樹に呑み込まれ、帰ってくることはなかった。

だからつまり、あるはずの無いものが損傷もせずに存在していることになってしまう。

記憶に残るフライアが寸分変わりなく、天守の真横に鎮座していた。

 

『…ちょっと待ってください。付近を悠々と、飛んでいるのは…まさか』

『あれは、ワイバーンだ。ほら、フランスのオルレアンで出現した』

 

フライアばかりに気を取られていたが、無数のワイバーンが周囲を飛び回っている。映像が暗くなったかと思えばノイズに切り替わった。ここでカメラを壊されたのだろうか。

 

「他のドローンを破壊したのはこの生命体だろう。既存のアラガミとこの生命体が一致するか映像を解析してみたのだが…現段階では骨格、皮膚の状態で当てはまるものはなかったよ」

『やはり…私たちの知るワイバーンと仮定するべきでしょうか』

『うーん、実物の反応を見ないことにはそうと言い切れないけどね。八割方、聖杯の影響かと思う』

『こちらも、先輩と連絡を取れたあとに周辺をレーダーで探索を行ったのですが、その城の辺りだけは妨害されていたんです』

 

…外側からの接触は意図的に妨害されている、と。

 

「ああそうだ、リツカくん。私は君に半年前に君が消えた後、あの亡骸からナニか(・・・)が這い出た形跡があったと言ったね?」

「え、あ、はい」

「実はついさっき進展があってね。ソーマ博士からだ。

入口(・・)が見つかったんだよ」

「待ってください、サカキ博士。先輩が消えてしまった事件と、その入口に何の関係があるんですか?」

 

今まで不機嫌ながらも大人しかった隣に居るエリナが声を上げた。

 

「極東支部のメンバーが知っているように、城は約1週間前に突如発生した。城壁には入口がない。

ソーマ博士からの報告だと、聖域──萌芽の神域、鎮魂の座。その異形の亡骸の足元に大きな穴が開いていたそうだ。小型自動探査機を投入し様子を見たところ、抜けたんだ」

「抜けた…?」

「…件のフライアの中にね。レーダーが使えたということはジャミングは無し、アラガミの反応も無し、それどころか生命体の反応がフライアにはまるっきり無かったんだ」

「しかし…本当にフライアだったのだろうか。見て取れる証拠は無いのだろう?」

「それはオペレーターとして着いていったフランくんが確認済みだ。レーダーによる構造の配置、録画こそ出来なかったが彼らは実際に映像での確認もしている。

そこで、だ」

 

モニターが切り替わり聖域の簡易的な図が表示された。

 

「早速ではあるが、調査に乗り込もうと思う」

『…無謀では?』

「外部からの接触は不可能だ。いずれにせよ、城壁の内側には行かなければならない。ならば被害が表立つ前に明らかにしていた方がいい。

何、交戦するわけではないよ。今回はあくまでも内側からのスキャニングが目的でね」

「構造を知らないことには対処も出来ないということか」

「そういうことさ。決行は明日、10:00(ヒトマルマルマル)からのブリーフィング後、11:00(ヒトヒトマルマル)から聖域へ向かう。

聖域から城壁の中に突入するのはリツカくん、エミヤくん、そちらからの応援人員。フライアを熟知している今居るブラッドのメンバー。

突入時周囲のアラガミを対処するのに、エリナくん、エミールくん。それと、ソーマ博士とコウタくんもベースキャンプから合流して応戦してくれる予定だ」

『人が多いと何者かに勘付かれる恐れもあるね。リツカくん、突入時のサーヴァントはなるべく少ないメンバーで、尚且つ信頼を置けるサーヴァントを連れて行ってくれ』

『準備は念入りに行ってください。今回は今までと状況が一変していますので…』

「決まりだね。明日、またここへ来てくれ。

リツカくん、君たちは明日までゆっくりするといい。あ、但し過度な行動は控えてくれたまえ。それでは解散しよう」

『じゃあね、リツカくん。また明日の朝に連絡を取ろう。マシュ、私たちは調査を続行しよう』

『先輩、明日に備えしっかり身体を休めてくださいね。僭越ながら私も通信越しではありますがお力になれるよう頑張りますので』

「ああ、ありがとう。マシュも、ダヴィンチちゃんも無理はしないでね」

 

ダヴィンチちゃんとマシュとの通信が切れ、モニターの表示はフェンリルのロゴに戻った。

 

「マスター、この後はどうする?」

「そうだなぁ…エミヤ以外のサーヴァントの誰を喚ぶか考えないと……。

あの、ほら…古代王組とか喚んじゃうと収拾がつかなくなりそうだから…」

「…確かに」

 

おそらく、サーヴァントはアラガミに対抗出来ないだろう。アラガミの強固さはよく知っている。神機、というか偏食因子を組み込んだ武器による近接攻撃や銃撃以外で傷は付けられない。

まして、核兵器ですら喰ってしまう(・・・・・・)。足止めは可能かもしれないけど、変に応戦しないのが吉だ。

 

「部屋に戻って考えるか…。あ、エリナ、俺たち一旦部屋に戻るよ」

「そっか。じゃあ用があるときは先輩の部屋に行くね」

「む、戻るのか。折角良い茶葉が手に入ったというのに。振る舞えなく僕は残念だ」

「また後で誘ってよ。エミールがいれてくれる紅茶は美味しいもんね。じゃ、後で」

「じゃあね、先輩。…あ、わたしも報告書出さなきゃ……」

 

会議室を後にし、エミヤと共にエレベーターに乗り込んだ。

 

「…私たちはアラガミという脅威を知らない。君から聞いた被害の数と状況で想像するしかない」

「…ま、脅威はアラガミだけじゃない。人口が半数まで減ったのは人間同士の争いも加速したからだし、失って初めて危険な状態なのか、を知り、協力するようになった。

明日、聖域へ向かう道中で知るはずだよ。燃え盛る壁の淵、崩壊した街──」

 

エレベーターを降り、自室へ向かう。お隣さんはまだ居ないようだ。忙しいもんなあ、彼女。

 

「カルデアのみんなに見てほしいんだ。これが、衰退した世界だと。これが──人が築き上げた奇跡の産物なのだと」

 

明日、彼らは知る。

有り得るはずの未来。起こしてはならない世界。起こり得てしまったこの世界に、今日も派手に抗っている。

 

明日、何かが変わる。…そんな気がした。

 

 

 

 

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