ジョジョと艦娘の奇妙な冒険 星魂滅棲   作:猫神瀬笈

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最近体調が良くなくて
小説の進みが全体的に遅いです。


第1話 波紋と敵対する者

 

艦娘

突如、世界中の海に現れた正体不明の存在『深海棲艦』

それと同時期に現れた、戦船の力を持った少女たちのこと。

 

駆逐鑑、潜水艦、戦艦などの艦種が存在し、その見た目は幼稚園ぐらいの女の子から大人の女性の姿をしている。

 

見た目や肌触り、体の構造は人間と変わらないが鉄の体をしている。

「金属探知機には引っ掛かるが、磁石はくっ付かない」などと言った不思議な体をしている。

 

そのため、詳しいことは未だに調査中である。

 

 

 

 

 

 

浄花と白露は、女性と少女と向き合った。

 

2人の首には、チョーカーが付けられていた。

 

つまり、2人は艦娘である。

 

 

 

「貴方たちは艦娘ね。大本営の資料に載っている姿を見たことがあるわ。少し姿が違うけど、『天龍』『皐月』で良かったかしら?」

 

「なんだ知っていたのか。なら、話が早い。さっさと帰りな。ここは、お前のようなヒヨッコが来るところじゃあねえ。」

 

 

 

天龍は、自分の得物(えもの)を浄花に向ける。

 

浄花に向ける視線は、獲物を狙う獣のように鋭い。

 

下手に動けば殺されるだろう。

 

しかし、浄花はそんな目を見ても平然としていた。

 

 

 

「あら、それは脅し?」

 

「脅しじゃあ無い。帰らないならここでぶっ殺す。それだけだ。」

 

「ねえ、早く帰りなよ。天龍さんは君のために言ってるんだから。そこの雑魚を連れて、早く帰ってくれないかな?」

 

 

 

天龍と同じように、皐月は得物を抜いた。

 

言葉だけではないことを見せつける。

 

本当に追い出すつもりなのだろう。

 

 

 

「悪いけど、帰るわけにはいかないの。覚悟して此処に来たのに、『はい、分かりました』って帰るわけがないでしょ。」

 

「そうか。なら、もう何も言わねえ。皐月やれッ!」

 

「了解、死んじゃえーッ!」

 

 

 

皐月は、腰から抜いた獲物、ではなく、腕に付けた機銃を向け、撃ち込んだ。

 

それは、駆逐艦に装備できる『7.7㎜機銃』

 

浄花は、その攻撃を防ぐための行動に移る。

 

白露の前に立ち、自分の髪の毛を数本抜くと、特殊な呼吸をしながら前方に投げる。

 

すると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

撃ち続けられる機銃の弾は、弾切れになるまで、浄花と白露に当たることは無かった。

 

 

 

「チッ、弾切れした。こいつ何者なの?一発も当たらなかったんだけど。」

 

「あいつと同じ能力者か?なら、手加減する必要もないな!」

 

 

 

皐月が撃ち終わると、天龍は地面を蹴って浄花に肉薄する。

 

浄花は能力を解除したところで、髪の毛は地面に落ちている。

 

そこには、次の行動までの隙ができていた。

 

絶好のチャンスだと、天龍は見逃さなかった。

 

すぐに目の前まで移動し、剣を振り下ろす。

 

浄花は殴るモーションに入っているが、スピードもリーチも足りない。

 

 

振り下ろす時には、顔が正面に来ているだろう。

 

 

 

「その拳じゃあ、俺には届かねぇ!」

 

 

 

天龍は、確信した。

 

この剣は、目の前の女性を上から、綺麗に真っ二つに切り落とす。

 

自分の勝ちは決まったと。

 

だがそれは、慢心に他ならなかった。

 

 

 

「もらったぁ!」

 

「ズームパンチッ!」

 

「ぶべあぁっ!」

 

 

 

天龍は、変な声を出しながら、皐月の方へ飛んでいく。

 

何が起こったのか、理解できなかった。

 

剣が当たると思ったら、自分が吹っ飛んだ。

 

剣が当たるよりも先に、浄花の拳が当たった。

 

訳が分からなかったが、考える間もなく、白目をむいて地面に倒れた。

 

これが浄花の力の一つ、『波紋』である。

 

東洋では仙道と呼ばれている特殊な呼吸法。

 

体を流れる血液の流れをコントロールして血液に波紋を起こし、太陽光の波と同じ波長の生命エネルギーを生み出す。

 

身体能力の向上、老化が遅くなるなどの効果がある。

 

本来は医療技術として使われ、骨折を治すことも可能。

 

性質上、液体や金属を電気のように伝導する。

 

今回、浄花が波紋を用いて見せた2つの技。

 

1つ目は『波紋ヘアアタック』

 

引き抜いた髪の毛を周囲にばら撒くことでバリアを作る方法。

 

髪の毛には水分が含まれているため、1本1本に波紋が帯電することができ、皐月の機銃を全て弾くことができたのだ。

 

2つ目は『ズームパンチ』

 

自分の腕の関節を外すことで、急に手元でグーンと伸びるパンチ。

 

関節を外した際の痛みを、波紋で和らげるという、波紋の基本。

 

浄花は、体を捻って、剣を回避しつつ、その捻りを利用して、天龍の顔に拳を届かせたのだ。

 

拳には波紋を纏っていたため、普通の人間のパンチよりも良く効いた。

 

これにより、天龍を一発で倒すことができたのである。

 

 

 

「よくも天龍さんをッ!絶対許さないッ!」

 

「お前の相手は、こっち!」

 

 

 

天龍がやられたことに、驚きと苛立ちを隠せず、浄花に向かって走り出す皐月。

 

だが、そこには白露が割り込んだ。

 

 

 

「邪魔するな、未改装の雑魚は、引っ込んでいろッ!」

 

「さっきの雑魚って私かよ!」

 

「どう考えてもお前だろ!」

 

「でも、その未改装に手こずるあんたの方が、雑魚なんじゃあないの!」

 

 

 

皐月は、二振りの木刀を使って白露に攻撃するが、白露は、それを全て手の甲と足先だけで弾いていく。

 

攻撃は大振りだが、一撃一撃が強い白露の攻撃に、皐月は苦戦する。

 

戦い方が、武術のようなものではなく、喧嘩のようなもの。

 

滅茶苦茶な攻撃なのに、勝ち筋が見いだせない。

 

手数では勝っているが、力にねじ伏せられる。

 

特に足による攻撃が、刀から皐月の体を痺れさせるほどの威力を与えていた。

 

 

 

「なんだよその靴!硬すぎる!ただの艤装なんかじゃあないなッ!」

 

「そりゃあ、私専用の重りの入った靴だからね。戦艦でも動かせない代物さッ!」

 

「クソッ!雑魚の癖に!」

 

 

 

雑魚だと思っていた相手に、皐月は段々と苛立ちを覚えた。

 

それは思い出したくない、とある艦娘。

 

自分たちがこうなった、元凶の艦娘。

 

全てを力でねじ伏せた、あの艦娘。

 

目の前にいる艦娘が、その艦娘と重なって見えた。

 

そのせいか、攻撃が荒くなる。

 

 

 

「…さっきより攻撃が荒い。どうしたの、そんなにイラついちゃってさ?」

 

「黙れぇ!お前を見ていると、あいつみたいで腹が立つんだよッ!」

 

 

 

皐月の攻撃は、激しさを増した。

 

攻撃の速度が上がり、徐々に白露を傷つけていく。

 

だが、白露は、気にしていなかった。

 

『傷が何だ』と、平気な顔で、その攻撃を受けていた。

 

 

 

「誰の姿に私を重ねているか知らないけどさ、イラついて、勝手に重ねて、その鬱憤を私で晴らすんじゃあない!」

 

「ぐがっ!」

 

 

 

白露の蹴りが、皐月の鳩尾に入り、攻撃が止まった。

 

あまりの痛みと衝撃で、皐月は、自分の獲物を落としてしまう。

 

 

 

「吹っ飛びなッ!」

 

「ぁぐがっー!」

 

 

 

白露は、その隙を逃さず、皐月の顎を目掛け、アッパーカットをした。

 

皐月は、真上に打上げられ、脳を揺らされ、意識を落とす。

 

天龍と同じように宙を浮く。

 

駆逐艦だからか、それとも白露の力が強かったからか。

 

皐月の体は、天龍よりも高く浮き、ゆっくりと縦に回転する。

 

次第にその体は、重力に従い、地面へと向かう。

 

回転はしなくなったが、落下の速度は上がる。

 

白露は、すぐに落下点へと移動し、皐月が地面に叩きつけられないように、受け止める。

 

某『天空の城』で、少年が少女を抱き止めたように、両手でしっかりと。

 

 

 

「…ごめん、なさい…おねえ、ちゃ……」

 

「……」

 

 

 

白露は、皐月の言葉を聞いた後、何かを言おうとしたが、それを止めて米俵のように抱える。

 

そのまま天龍のところに行くと、天龍の服の襟を掴んで、死体から少し離れたところに下ろした。

 

 

 

「優しいのね。貴方にしては、珍しいじゃない?」

 

「…気まぐれだよ。なんというか、あんなこと言ったけど、この2人も戦わないといけなかった被害者なんだなって。」

 

「そうね。この子たちの本心はどうなのか分からないけど、被害者であることには変わりないでしょうね。」

 

「皐月は…謝ってたんだ。『お姉ちゃん』って。大切な人のために頑張っていたんだと思う。どこか私と似てた。」

 

「憶測だけど、お姉さんを人質にされているのかもね。皐月のように姉妹を人質にされている子が、少なくとも後10人は。」

 

「急ごう、妹たちも此処にいるかもしれないから。」

 

「そうね、切り替えていきましょう。」

 

 

 

天龍たちを置いて、2人は目の前の建物、鎮守府に向けて走り出す。

 

浄花はしっかりと、白露はひしひしと、建物から放たれている大気を感じ取る。

 

気持ちが悪いが、そんなことを気にしてはいられない。

 

2人は、急いで建物を目指す。

 

警戒を厳にしながら走っていると、建物の左側から気配を感じた。

 

そこに目を向けると、そこから誰かが出てきた。

 

出てきたのは、大きな艤装を背中に背負い、首に天龍たちと同じチョーカーを付けた金髪の黒と赤の服の女性だった。

 

その女性は一度浄花たちを見ると、向きを変えて砲を天龍たちに向けた。

 

 

 

「Feuer!」

 

 

 

着弾と共に轟音を響かせる。

 

門の方には大きなクレーターが。

 

そこにあったはずの、天龍と皐月の体は()()()()()()()()()()()

 

その行動に、浄花は唖然とし、白露は怒りを覚えた。

 

 

 

「こいつ、あの2人を!」

 

「なんで…もう、用済みということ?」

 

「Feuer!」

 

 

 

目の前の艦娘の行動に、理解ができなかった浄花は反応が遅れた。

 

すでに2発目を撃つ準備はできており、その砲は浄花を狙っていた。

 

 

 

「やばッ!避けられない!」

 

「浄花、危ないッ!」

 

 

 

浄花に向いた砲は、大きな弾丸を飛ばす。

 

その弾丸を、白露が体を張って受ける。

 

 

 

「うああああ!」

 

「白露ッ!ぐうっ」

 

 

 

砲撃を受けた白露の体は、浄花を巻き込み大きく吹き飛ばされる。

 

浄花は白露を抱き止め、なるべく衝撃を和らげる。

 

体制を整え、倒れないように踏ん張った。

 

 

 

「一発大破…。白露、しっかりしなさい!」

 

「うっ…流石に…この、威力は…この体だと耐えられない、か…。」

 

 

 

白露は、砲撃を受けたことで服はボロボロになり、頭から血を流していた。

 

人よりは頑丈であると言っても、このままの状態はあまり良くない。

 

だが、目の前にいる艦娘は、浄花達を逃してくれそうになかった。

 

再び、浄花達に砲が向けられる。

 

 

 

「逃がさないわよ。貴方に恨みはないけど、ここで消えてもらうわ。」

 

「このままだと、まずいわね。使いたくなかったけど、出し惜しみできそうにない。こうなったら…。」

 

 

 

浄花は、この状況を打開するために力を使おうとした。

 

それは、波紋とは違う特殊な力。

 

『紫色の手甲』や『銀色のレイピア』を出す、浄花のもう一つの力。

 

奥の手にしようと考え、使いたくなかったが、使わざるを得ない。

 

左手を白露の腰に回し、自分の方へ寄せる。

 

右手を、変身するヒーローのように、体の前で構える。

 

手は猫の手のように、指先を曲げる。

 

そして、能力の名を叫ぶ。

 

 

 

「来い!ミニ―ア…」

 

「そこの方、伏せてください!」

 

 

 

叫ぶ前に誰かが叫んだ。

 

その言葉通りに伏せると、艦娘の目の前に爆弾のようなものが投げ込まれた。

 

それが地面に着くと、一瞬にして周囲を白い煙で覆った。

 

 

 

「ぐうっ!何よこれはッ!」

 

「これは…。」

 

「ただの煙幕です。長くは持ちませんので、早くこちらへ!」

 

 

 

浄花は、白露を抱きかかえ、声のする方に走る。

 

煙を抜けると、鎮守府本館より少し小さいが、同じ外観の建物がいくつかあった。

 

その建物の方から、黒い襟のセーラー服を着た一本結びの少女が手招きする。

 

 

 

「…貴方、何者?」

 

「詳しいことは隠れ場で話します。今は、ここの司令官と敵対する存在とだけ。」

 

「…分かった。」

 

 

 

浄花は、少女の言葉を信じて付いて行く。

 

もちろん警戒は怠らずに。

 

少女の案内で、本館からかなり離れた敷地の端へと進む。

 

そこは、木々や雑草が生い茂っていた。

 

雑草は、少女の首の高さまで伸びている。

 

かき分けて奥に進む少女について行くと、少し開けた場所に出た。

 

その地面には、両開きの鉄の扉があった。

 

扉を開くと、下に下りる梯子が見える。

 

 

 

「これは、地下室?」

 

「緊急用のシェルターです。妖精さんと明石さんが、こっそりと作ったので、司令官は知りません。ここで4か月生活してきたので、安全は保障できます。」

 

 

 

4ヵ月、1年の1/3もの時間をシェルターで過ごしてきたそうだ。

 

この地下には、それだけの備蓄がされていたのだろう。

 

少女が先に中に入り、続くように浄花も中に入る。

 

梯子を下り、壁にかかったランプの小さな灯りしかない薄暗い階段を、少女の先導で下りていく。

 

浄化は警戒を解き、階段を下りながら話す。

 

 

 

「今更だけど、私をここに連れてきていいの?貴方の敵かもしれないのに。」

 

「ビスマルクさんと戦闘をしているのは、司令官の敵である証拠です。あの人は提督の指示に従順ですから。」

 

 

 

ビスマルクとは、砲撃をしてきた艦娘だろう。

 

少女の言う通りなら、皐月と天龍を消したのが、提督の指示である可能性が高い。

 

提督と戦うには彼女が一番の壁になるだろう。

 

その事を頭に留めつつ、少女との会話を続ける。

 

 

 

「そう言えば、自己紹介をしていなかったわね。私は空条浄花。階級は少佐よ。」

 

「やはり、司令官でしたか。私は『吹雪』と申します。前まで、此処の秘書艦を務めていました。」

 

「秘書艦か。チョーカーは?着けられなかったの?」

 

「着けられそうになりましたが、急いで逃げたので大丈夫です。」

 

 

 

助けてくれた艦娘の名前は吹雪。

 

秘書艦という提督に一番近い場所にいたそうだ。

 

浄花が、チョーカーのことを聞いたのはそのため。

 

有益な情報を聞けるだろうと判断し、話を続ける。

 

 

 

「ここは、シェルターなのよね?あなた以外に、生き残りはいるの?」

 

「私の他に7人います。1人は怪我をしていますが。」

 

「吹雪を含めて8人、生き残り含めても数十人か…。ここには、300人近い艦娘がいたはずだけど…。」

 

「…皆、死んでしまいました。先月まで、間宮さんと鳳翔さんが、鎮守府から支援してくれていたのですが…。」

 

 

 

吹雪の声が、弱々しくなる。

 

一定の距離に置かれているランプが、吹雪の顔を照らす度、吹雪の悲しげな顔が見えた。

 

その顔を見て、浄花は、その2人がどうなったのかを悟った。

 

 

 

「支援をしていたのが気づかれた。それで始末されたのね。」

 

「…ッ!よく分かりましたね。なぜ、そう思ったんですか?」

 

「貴方、顔に出過ぎよ。その2人が、『もうこの世にいないんだ』って、教えているようなものだから。」

 

「そんなに出てました?」

 

「ええ、しっかりとね。それに此処の提督は、大本営から送られてきた艦娘を、プラモデルみたいに四肢を解体して、箱に詰めて返してくるようなやつよ。そんな奴が、自分の周辺でウロウロしている鼠を生かしておくことはしないでしょう。」

 

 

 

提督のことは話でしか聞いていないため、あくまでも浄花の憶測になる。

 

しかし、これまでの話を聞けば、間違いなく殺されているだろう。

 

大本営の艦娘を綺麗に解体している以上、そう判断するのが妥当だ。

 

だが、納得できていないことがいくつかあった。

 

 

 

「気になるわね、なぜ殺したのかしら。」

 

「先ほど言っていたように『ウロウロしているから』ではないのですか?」

 

「それだけなら、逃げられないように捕まえて、拷問をした方が良いわ。裏切り者なら、その繋がりを聞き出すだけでいい。運が良ければ、知りたいであろう貴方の情報が芋づる式に見つかるし、そうでなくても、襲撃されるリスクが減るのだから。」

 

 

 

浄花がこう言うのは、とある世界を知っているからだ。

 

それは、マフィアの世界。

 

とある組織は、ボスの正体を探ることがタブーとされており、正体を探ろうとしたものが死の制裁を受けている。

 

浄花は、そこで1人の少年が新たなボスとなり、組織の浄化を行う姿を見ている。

 

芋づる式にグループの残党を見つけ、始末する様子も。

 

だからこそ、提督の行動に納得がいかなかった。

 

世界が違うとは言え、敵が明確に分かっているなら吹雪の情報を聞きだすだろう。

 

それに、人質にするために生かすという手もあったはずだ。

 

 

 

「まあ、『人質が足りていた』という場合や、『拷問されても話さないから殺した』という場合があるから、気にするだけ無駄でしょうけどね。」

 

「そう、ですかね…。」

 

「分からないのなら、そう考えておく方が良いわ。仲間を信じるなら、そう信じておけば、少しは気が楽になるわよ。」

 

「…そう、ですね。」

 

 

 

吹雪は少し考えて、気持ちを切り替えた。

 

その顔はさっきまでの顔ではなく、前を見据えた顔をしていた。

 

その吹雪に対し、浄花はまだ考えていた。

 

それは提督の行為。

 

今までの殺し方、残虐性が異常だったからだ。

 

この行為には、何かしらの『理由』があると考えていた。

 

何が目的なのだろうか?

 

そう考えていると、階段を下りきった。

 

長かった階段を下りた2人の目の前には、長い廊下が続いていた。

 

 

 

「ここから先がシェルターの中心で、必要な施設は揃っています。まずは、入渠施設に向かいましょう。」

 

「ええ、早く行きましょう。白露、もう少しの辛抱よ。」

 

「…ぅ……」

 

 

 

呻き声を出す事しかできない状態の白露を抱き、廊下を急いで進む。

 

ランプの小さな灯りから蛍光灯の強いライトに変わり、廊下をしっかりと照らす。

 

しばらく進むと、周囲の壁に扉が見え始めた。

 

このあたりが中心になるのだろう。

 

しばらく進むと、吹雪が1つの左側の扉の前で立ち止まった。

 

その扉を開けて中に入ると、そこには洗面台や木の棚、木の籠が置かれており、さらにその先の半透明な扉を開ける。

 

そこには、天井は低いがホテルにありがちな浴場があった。

 

その浴場の横には、1人分の大きさの個別風呂のような場所があった。

 

吹雪は、浄花をそこに誘導し、白露を入れる。

 

すると、そこの壁にあるデジタル時計のような装置に、『01:00:30』と表示された。

 

 

 

「これで大丈夫ですね。バケツもありますけど、使いますか?」

 

「そうさせてもらうわ。少し休憩したら、すぐに出る予定だし、1時間だと少し長いから。」

 

 

 

吹雪は確認を取ると、一度浴場から出て、緑色のバケツを持ってきた。

 

そのバケツには『修復』と書かれている。

 

中に入っているのは、独特の香りを放つ緑色の液体。

 

それを、白露が入っている浴槽に入れる。

 

すると、お湯が()()()()()()()

 

同時に装置に書かれた数字が『00:00:00』となり、白露が気持ちよさそうな顔をしていた。

 

 

 

「ん~!気持ちいい!ああ、スッキリした!」

 

「やっぱりすごいわね、『高速修復材』。私の体もこんな早さで治ればいいのに。」

 

「さすがに人の体には、効果がないかと…。」

 

 

 

ボロボロだった白露の体を、服ごと治した特殊な液体。

 

高速修復材という特殊な物で、艦娘の体を一瞬で治すことができるものだ。

 

本来艦娘は、船のように損傷を負えば修復が必要になる。

 

その修復を行うのが『入渠』という行為。

 

簡単に言えば入浴である。

 

今、白露を入れているのが『入渠ドック』と言われる、修復を目的とした湯船。

 

少しのケガであればほんの数分で治り、大きな怪我も最長3日以内で治ると言われている。

 

今回の白露で言えば、1時間と30秒入渠することで傷が完全に治る。

 

その入渠の時間を待たずに、一瞬で直すことができるのが『高速修復材』である。

 

バケツ1杯で1人分、且つ使い捨て。

 

入手はそこまで難しくはないが、貴重であることに変わりはない。

 

敵次第では、2000も3000も有って無いような状況になる場合もあるからだ。

 

そのバケツで完全復活した白露。

 

心なしか、肌も艶々しているように見える。

 

そんな白露と共に、吹雪の案内でシェルターを歩く。

 

着いたのは大きな扉の部屋。

 

いかにも大物がいるような扉だった。

 

吹雪はその扉にノックする。

 

扉の向こうから、おっとりとした声で「どうぞ」と入室の許可が出た。

 

吹雪は扉を開ける。

 

部屋の中には艦娘が揃っていた。

 

シェルターというには少し豪華な部屋に、5人の艦娘がいた。

 

中央にある高そうなソファに、巫女服の女性が座っており、その膝で水色ロングヘアの少女と緑色のショートカットの少女が眠っている。

 

その横には、ソファにいる女性と同じ巫女服を着た車椅子の女性が、白露と同じ黒のセーラー服を着た少女と話していた。

 

部屋に入ると、全員が浄花達の方を向き、黒セーラーの少女は、目を見開いて立ち上がると、白露に抱き着いた。

 

 

 

「白露、白露ッ!」

 

「おっと…。」

 

「良かったッ!生き…生きてた…。」

 

「…私は『時雨』のお姉ちゃんじゃないお姉ちゃんだ。お前の知っている白露じゃあない。白露って名前の別人だ。でも、白露型の2番艦という立場は変わらない。」

 

「しらつ、ゆ…」

 

「だからこう言うよ。『ただいま。助けに来たぞ、時雨』。

 

 

 

泣きじゃくる時雨を抱きしめ、優しく頭を撫でる白露。

 

その姿を見て、涙を浮かべる巫女服の女性。

 

涙を拭うと、浄花達の方を向く。

 

 

 

「おかえりなさい、吹雪さん。白露ちゃんとそちらの方々は?」

 

「私は空条浄花。元帥の命で、横須賀の調査と解放・提督を確保しに来た少佐よ。貴方たちが生き残りよね。此処の現状は、ある程度聞いているわ。」

 

「そうでしたか。私は、戦艦『扶桑』と申します。水色の子が『五月雨』、緑色の子が『高波』。こっちは妹の『山城』です。」

 

「山城です。このような姿でごめんなさい。ある戦いから、ずっとこのままなので。」

 

「それって、6か月前の?」

 

「はい。聞いていましたか?」

 

「ここの事を知った時にね…。」

 

 

 

左足が無く、右足に包帯を巻いている山城。

 

こうなった原因が、6か月前の例の事件。

 

その頃の浄花は、大本営にはいなかった。

 

大本営から離れたところで、提督になる勉強をしていたからだ。

 

だが、心当たりがないわけではない。

 

この一連の騒動の元凶は、浄花が知っている艦娘の可能性が高い。

 

この事については、此処での任務が終わり次第話そうと思い、今は情報を得ることにした。

 

 

 

「ここで何があったか、教えてもらえるかしら?生憎、大まかな事しか聞いていないから、詳しくは知らないのよ。」

 

「分かりました。立ち話もなんですから、そちらにお掛けください。詳しいことは吹雪ちゃんが知っているので、吹雪ちゃんに話してもらって、知らないところは、我々が補足する形で話しますね。」

 

「ええ、よろしくお願いするわ。」

 

 

 

扶桑は、浄花を自分の対面に座るように促す。

 

白露は時雨を抱いたまま浄花の隣に、吹雪は横にある椅子に腰かける。

 

そして、吹雪が話を始める。

 

それは、このシェルターに隠れることになった理由と当時の状況である。

 

 

 

 

 

~4か月と少し前:横須賀鎮守府~

 

 

 

1人の艦娘に敗北した横須賀鎮守府。

 

約2か月の間、提督は意気消沈していた。

 

山城は大きな怪我をし、他の主力も塞ぎ込んでしまった。

 

全力を持って挑み、蚊を払うようにあっさりと負けた。

 

吹雪も、同じように塞ぎこんでいた。

 

初期鑑として鎮守府に着任してから、初めての大敗。

 

ショックは大きかった。

 

自分の強さに自身があったこともある。

 

しかし、それ以上にショックだったのは、一緒に過ごしてきた信頼できる提督の指揮が、その艦娘に通用しなかったことだ。

 

どんな戦局でもひっくり返して、自分たちを救ってくれた指揮。

 

その指揮に狂いはなかった。

 

無かったのに、勝つことができなかった。

 

その事実が、吹雪にショックを与えていた。

 

提督と同じくらい、それ以上のショックを。

 

鎮守府に戻るときも、ずっと泣いていたぐらいだ。

 

だが、吹雪は心が強かった。

 

主力の中で、誰よりも早く立ち直り、みんなを元気付けていた。

 

誰よりも長く居る自分が、いつまでも塞ぎ込むわけにはいかないと。

 

負けたことをバネにし、鍛錬を開始し、みんなに笑顔を振りまいた。

 

その影響はとても大きく、艦娘たちの気持ちを高めた。

 

次第に、塞ぎ込んでいた主力メンバーが表に出るようになり、少しずつ鎮守府に元気が出てきた。

 

ただ1人、提督だけは、出てくることは無かった。

 

吹雪は、何度も部屋に向かった。

 

毎日休むことなく、提督の部屋を訪れた。

 

だが、提督が出てくることは無かった。

 

そして、活気が戻ってから数日が経ったある日。

 

事件が起こったのである。

 

 

 

「もうっ!なんでこんな日に限って寝坊したの、私!せっかく司令官が出てきてくれたって言うのに!」

 

 

 

叫びながら廊下を走る吹雪。

 

この日の吹雪は、いつもより2時間ほど遅く起きてしまった。

 

昨日遅くまで、書類作業の手伝いをしていたからだ。

 

この鎮守府が活動を開始するのは『09:00』

 

今の時間は『08:56』

 

完全に遅刻である。

 

そのため、中途半端に服を着て、乱れた髪を結びながら廊下を走っていた。

 

周りには笑われたが、それを気にしないぐらい嬉しくなっていたのだ。

 

艦娘たちも、提督が出てきたことに喜んでおり、鎮守府全体が少し騒がしかった。

 

この時の吹雪は、賑やかないつも通りの鎮守府に戻った。

 

そう思っていた。

 

しかし、その考えは、執務室を開けた途端に崩れ去った。

 

 

 

「失礼します!遅れて申し…わ、け……え?」

 

「やあ、久しぶりだね。元気にしていたかい、吹雪?」

 

「指令…官……、なん…で……。」

 

 

 

目に映るのは、()()()()()()()()()()()()()()

 

床も壁も天井も窓も机も本棚も。

 

バケツに入れられたペンキをぶちまけたように、血で塗られている。

 

周りには、何人かの艦娘が倒れている。

 

ある者は腹に穴が、ある者は首が無く、またある者は上下に真っ二つ。

 

誰一人息をしておらず、普通ではありえない死に方をしていた。

 

そして目の前には、提督の後ろで宙に浮き、苦しそうにしている主力の艦娘がいた。

 

 

 

「逃、げろ…ふぶ、き…うッ」

 

「長門さん!」

 

「提督、は…奴ら、と…!」

 

「チッ、これ以上余計なこと話されるのは面倒だ。今、楽にしてやる!」

 

 

 

すると、長門の腹に大きな穴が、鮮血を散らしながら、縦に四つ開いた

 

左上から湾曲を描くように、まるで獣の爪のようで、それ以上に大きな丸い穴だった。

 

 

 

「ガッ!かはっ…」

 

「長門、さん…。なんで、どうして殺したんですか!」

 

「何故か?それはな、お前の顔だよ吹雪。絶望したお前の顔を見たかったんだよ。」

 

「なにを、言って…。」

 

「あの時は好都合だった。正直ショックだったが、あの戦いのお陰で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だが、吹雪。お前のせいで、俺の計画は滅茶苦茶だ!希望なんか持ちやがってッ!」

 

 

 

提督は怒りの表情を見せる。

 

歯が軋むほど、手から血が流れるほど、血管が浮き出るほど、全身に力が入っていた。

 

そのままゆっくりと吹雪に近づく。

 

すると、徐々に何かが見えてきた。

 

それは、草の冠を付けた鋭い爪をした髑髏(どくろ)

 

髑髏の口は開いており、水色の光を放っている。

 

その光には、笑っている顔が映っていた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ヒッ!何ッ!化け物!」

 

「ふっ、ふふ…あはーあはッあはッあはッ!素晴らしい、実に素晴らしい!まさかお前にも適性があったとはッ!いい発見をしたッ!あの方もお喜びになるだろうッ!それに、お前のその顔、その目、その感情ッ!ああ、最高だッ!それが欲しかったッ!」

 

「い…いやぁ……。」

 

「さあ、おいで吹雪。この私が艦娘を超える存在になったことを、祝おうではないかッ!」

 

 

 

吹雪は逃げようとした。

 

早く逃げなければ、早くこのことを伝えなければ。

 

そう思ったが、体が動かない。

 

何かをされたわけではない。

 

今見えている化け物を見て、恐怖し、体が震えてしまったのだ。

 

動けと願っても体は全然動かない。

 

提督は、ジリジリと吹雪に近づいてきた。

 

「吹雪ッ!吹雪ッ!吹雪ッ!吹雪ッ!吹雪ッ!吹雪ッ!吹雪ッ!吹雪ッ!吹雪ッ!吹雪ッ!フブキッ!フブキッ!フブキッ!フブキッ!フブキッ!フブキッ!フブキッ!フブキッ!フブキッ!フブキッ!」

 

「いやぁーーッ!」

 

吹雪は目を瞑り、悲鳴を上げた。

 

すると、体に浮遊感を感じた。

 

それと同時に、提督の叫びが聞こえた。

 

 

 

「こいつは一体!パチッ 何ッ!一体どこに消えた⁉吹雪―ッ!」

 

 

 

その叫び声を聞いた吹雪は、何が起きたのか、目を開けて確かめる。

 

目に映るのは、発狂して周りの物に当たる提督の姿。

 

そして、仲間たちの亡骸(なきがら)

 

体は宙を浮いて、部屋から離れていく。

 

振り向くと、そこには黒いローブの何かがいた。

 

それは、包帯に巻かれた腕で吹雪を抱き、一目散に執務室から離れていった。

 

 

 

【⇦ To Be Continued】

 




今回は色々と説明回

次は少しは進むかな

本文の文字数はどれぐらいがいいか。

  • 約1万字(プロローグ~2話)
  • 約5000字(第3話)
  • 約3000字
  • お前が決めるんだ……
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