ジョジョと艦娘の奇妙な冒険 星魂滅棲   作:猫神瀬笈

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続きを書くのにやる気と葛藤


第2話 猫と骸骨の幽波紋

 

 

謎の存在に抱かれ、鎮守府を移動する吹雪。

 

執務室のある本館から外に出ると、そこにも地獄が広がっていた。

 

爆発音、悲鳴、嘆き…。

 

 

 

「いやぁぁぁ!やめてぇぇ!」

 

「痛いッ!やだ、やだぁ!」

 

「死ぬな!目を開けてくれよ、姉貴!」

 

 

 

仲間たちの痛ましい姿と、絶望する様子が目に映る。

 

その中には、武器を持ち、艤装を持ち、攻撃する仲間の姿もあった。

 

 

 

「天龍さん、どうし、て…。」

 

「頼むッ!誰でもいいから、殺してでも俺を止めてくれッ!」

 

「お願い!止まってよ、陸奥さん!」

 

「止まれないの!もう私の意思では止められない!お願い、逃げてッ!」

 

「お願いだから、僕を止めて!誰も殺したくないよぉ…。」

 

「止まって、皐月ちゃん!いやぁぁぁ!」

 

 

 

仲間を襲うのは、首にチョーカーを着けている仲間。

 

制御ができておらず、暴れているようだった。

 

その様子を見ることしかできず、吹雪はそのままどこかに連れていかれる。

 

連れていかれたのは、鎮守府の端にある工廠だった。

 

工廠の前に着くと、謎の存在は消えた。

 

なぜ消えたのか分からない。

 

立つ気力もなく、工廠の前でへたり込む。

 

執務室での光景、少し遠くに見える惨状に涙を流す。

 

吹雪は自分を責めた。

 

自分が希望を持ったから、提督が変わってしまったのだと。

 

目の前の惨状を作り出したのは自分だと。

 

あの時負けた自分のせいだと。

 

考えれば考えるほど自己嫌悪に陥る。

 

涙も溢れ、泣き出した。

 

頭を抱え、塞ぎ込む。

 

 

 

「あ…ぅあ、あああああ!」

 

「誰!…って吹雪ちゃん!どうしたの、しっかりして!」

 

 

 

工廠の扉を開けたのは、ピンク色の髪をした艦娘、『明石』

 

明石は、工作艦という特殊な艦種で、出撃よりも武器の開発や改修、艦娘の修理などを行っている。

 

工廠が仕事場のようなもので、今日も朝から工廠にいたのだが、吹雪の叫び声を聴いて扉を開けたようだ。

 

 

 

「しっかりして!何があったの!」

 

「私の、私のせいで皆が!司令官がッ!」

 

「吹雪ちゃん…『きゃあああ!』…ッ、此処も危険ね。誰か、吹雪ちゃんを運ぶの手伝って!」

 

 

 

明石が叫び、工廠の中から何人か出てくると、吹雪を抱えて工廠に入った。

 

しばらく扶桑たちが慰めた後、落ち着いた吹雪は話を聞いた。

 

どうやら此処に居る艦娘たちは、騒動を知った明石に匿われたそうだ。

 

しかし、此処がいつまでも安全とは限らない。

 

いずれ、此処も襲われてしまうだろう。

 

しばらく考えた明石は、工廠の端に移動し、ある装置を起動させる。

 

その装置の奥の壁が上がり、地下まで続く長い坂が見えた。

 

 

 

「妖精さんと極秘で作っていた地下シェルターです。ここなら、バレることは無い筈ですので、早く避難を。妖精さんたちは、今のうちに資材を運んでください。」

 

「明石さんは、どうするんですか?」

 

「私は、この入り口を塞ぐために残ります。この装置を破壊すれば、此処から入ることはできなくなるので。」

 

「それじゃあ明石さんが!」

 

「…死ぬでしょうね。でも、それで構いません。今、この現状で優先されるのは、吹雪さんの生存ですから。」

 

「明石さ…」ガンッ

 

『クソッ!体が言うことを聞かねえ!誰か止めてくれ!』

 

「もう来ましたか。妖精さんたちは、今持っている物を最後にシェルターに避難してください!吹雪ちゃん、貴方も急ぎなさい。今からあの入り口を閉鎖します。」

 

「…分かりました。必ず、生き延びてください。」

 

「約束はできないけど、出来るだけの事はするつもり。だから——」

 

「…ッ!」

 

「分かったら行きなさい!早くッ!」

 

 

 

吹雪はシェルターに向かって走った。

 

自分の無力さを恨み、歯を食いしばって涙を堪えて走った。

 

締まるシェルターの音と砲撃音、叫ぶ明石の声を耳にしたが、振り返ることなく全力で。

 

 

 

 

 

~現在~

 

 

 

「避難した後は、皆さんと妖精さんたちと一緒に、なんとかここで4ヵ月を過ごしました。これが、この鎮守府で起きたことです。」

 

「最初に工廠に避難してきた夕張さんの話では、朝からチョーカーが付いていたと、本人たちから聞いたそうです。そして、みんな一斉に暴れ出したと。」

 

「貴方たちは、何もされなかったの?」

 

「この子たちのお世話で朝から工廠にいましたので、夕張さんが来るまで気づきませんでしたよ。吹雪さんが来て、この子たちが工廠に運んで、落ち着かせてから先ほどの話を聞きましたし。」

 

「運がいいわね、その子たちも。」

 

 

 

浄花は、眠っている少女たちを見ながら微笑んだ。

 

それと同時に急がなければと思った。

 

今の話しを聞く限り、提督は「あれ」を持っている。

 

このままでは大本営だけでなく、この辺りにいる一般人にも被害が及ぶ可能性がある。

 

そう考えた浄花は、立ち上がって扉の前に向かった。

 

 

 

「浄花、もう行くの?」

 

「ええ。これ以上の被害を出さないように、急がないといけないから。」

 

「了解、それじゃあ…ん?」

 

 

 

白露も立ち上がろうとしたが、時雨が離そうとしなかった。

 

服を強く掴み、体重をかける。

 

楽しい場所から帰りたくない子供の様に、白露の体を抱きしめていた。

 

 

 

「こら、離せ。」

 

「白露…行っちゃうの?」

 

「ごめんな、時雨。お姉ちゃんは、これからやることがあるから、此処でいい子にしてな。」

 

「…だ。」

 

「何?」

 

「嫌だ!行かないでよ、白露ッ!ずっと此処に居てよ!もう、居なくならないで…。」

 

「………。」

 

「はぁ、やれやれね。私は外で待っているわ。待っても5分よ。」

 

「ああ、浄花さん。待ってください、少しお話しが…。」

 

 

 

浄花が部屋を出て行くと、それを追うように吹雪も部屋を飛び出していく。

 

部屋に残された者たちは、どうしようかと考えていた。

 

白露は行く気であるが、時雨がそうさせない。

 

泣きながら、何度も『行かないで』と繰り返す。

 

扶桑たちも、この状況に口を挟んでよいものかと悩んでいた。

 

すると次の瞬間、不思議なことが起こった。

 

時雨の体が少しずつ、白露から離れていく。

 

まるで時雨だけが、無重力になっているかのように身体が宙に浮いたのだ。

 

 

 

「はあ。こんなところで、力をあまり使いたくないんだけどな。」

 

「え…なんで?」

 

「時雨⁈なんで宙に⁈」

 

「深く考えなくていい、これは能力の一端だ。掴み上げただけでお前たちに害はない。」

 

 

 

宙に浮いた時雨は、誰かに後ろから羽交い絞めにされたように、体が固定された。

 

抵抗しようとするが、思うように体が動かない。

 

その姿を見ながら、立ち上がる白露。

 

その目は、獲物を狙う捕食者のように鋭く、どこか悲しげな顔をしていた。

 

ほんの数秒、時雨を見続けた後、扉に向かった。

 

扉に手を掛ける前に、背中を向けたまま、指を鳴らす。

 

すると、時雨は扶桑の傍にゆっくりと降りた。

 

体の自由も戻っている。

 

戸惑っている時雨をよそに、白露は口を開く。

 

 

 

「吹雪の話を聞く限り、お前たちの提督も能力者だ。もしかしたら、浄花よりも強いかもしれないし、負ける可能性もある。」

 

「なら…!」

 

『此処に居よう』って言うなら黙ってろ!それは具体案を何一つ出さない、馬鹿共の綺麗事と一緒だ。わが身可愛さに反発も抵抗もせず、自分の妹すら守れず、文句ばかり垂れていた、あのクズ共と!」

 

 

 

声を荒げ、肩で息をする白露。

 

扉に掛けようとした手は、握り拳に変わり、扉を殴っていた。

 

扶桑と山城は、その光景を見ているだけで、特に何も言わなかった。

 

白露の過去は、自分たちが想像する以上の事だと思ったから。

 

時雨は、どのように声を掛けたらよいか分からず、名前を呼ぶ。

 

 

 

「白露…。」

 

「私は、浄花の盾だ。お前たち妹たちの姉だ。お前たちのため、浄花の命令なら何でもする。殺人だろうと、反逆だろうと、体を売ることもしよう。そのためなら悪にも染まるし、全てを敵に回す。それが私の決めた生き方だ。」

 

「もし…もしも、僕たちが立ち塞がったら……?」

 

「…あくまで、私の最優先は浄花、次にお前たちだ。浄花の命令なら敵対する。だが、殺しはしない。まあ、どうしようもないクズになっていたら、そうする可能性もある。それだけは頭に入れておけ。今は、此処で大人しくしてろ。」

 

 

 

最後にそう言って、部屋を出る。

 

扶桑と山城はその姿を見送り、時雨はその場に、涙を浮かべながらへたり込んだ。

 

 

 

 

 

~同時刻:浄花と吹雪~

 

吹雪は浄花を追って走る。

 

浄花は入渠施設の部屋、その前まで進むと立ち止まり、吹雪と対面する。

 

 

 

「…聞きたい事って何かしら?」

 

「先ほどの話を聞いて、浄花さんは『被害を出さないように、急がないといけない』と言いましたよね?どうしてそんなことが言えたんですか?」

 

「心当たりがあるの。貴方が見たという髑髏(どくろ)と、助けてくれたっていう黒いローブに。」

 

「心当たり、ですか?」

 

「ええ、提督は貴方に対して『適性がある』と言った。つまり、髑髏は提督が出したもので、特定の者にしか見ることができない、ということが推測できる。」

 

 

 

それは、浄花が良く知っている力。

 

今までの人生で、何度も助けられたその力。

 

その特徴が一致していた。

 

それを確認するために、浄花は話を続ける。

 

 

 

「黒ローブの行動にも覚えがあった。その動きは、主を守るために守護者のようで、自分を生かす悪霊のよう。」

 

「悪霊……。」

 

 

 

そう言いながら、吹雪と距離を取って構える。

 

その構えは、ビスマルクと対峙した時、吹雪が煙幕を出す前の行動。

 

猫の手を作り、戦隊ヒーローの変身ポーズのように、自分の前でクロスさせる。

 

すると、浄花は緑色のオーラを纏い、その力の名を呼んだ。

 

 

 

「来い!『ミニ―アスケイプ・キャット』!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

それと同時に、浄花の陰からあるものが出てきた。

 

黄色く光る鋭い目と白い牙を持つ、大きな緑色の猫。

 

その大きさは、シベリアンハスキーと同等のサイズだ。

 

それを見た吹雪は、驚きのあまり、少し後退りをして言葉を発した。

 

 

 

「大きな、猫?一体どこから…。」

 

「やっぱり、見えているのね。」

 

「え?」

 

「この力は、普通では見ることはできない。人間に限らず、動物にも、貴方たち艦娘にもね。見ることができるのは、同じ力を持つ者のみ。私も、貴方や提督と同じ力を持っている。」

 

「浄花さんは、この力と悪霊について、何か知っているのですね?」

 

 

 

吹雪も、祈るように手を合わせると、オーラを纏う。

 

ガラスのように薄い水色のオーラ、それと共に現れるのは、黒いローブ。

 

話しの中に出てきた、突然現れて吹雪を守った謎の存在だった。

 

 

 

「これは超能力の概念に像を与えたもの。そばに現れ立つというところから、その像を名付けて、幽波紋(スタンド)と呼び、使い手の事を『幽波紋使い』『本体』と呼ぶ。」

 

「『幽波紋』に『幽波紋使い』…。それが今の私と黒いローブの正体?」

 

「そうよ。ちなみに、幽波紋使いは他にもいるわ。今のところ私が知っている限りで5人、可能性有りが2人と言ったところかしらね。」

 

「そんなに沢山……。」

 

「少ないけどね……、さて、話はまた後よ。白露がようやく来たわ。」

 

 

 

浄花が指をさし、吹雪はつられてその先を見る。

 

そこには睨んだ目でやってくる白露が見えた。

 

合流し、入ってきた場所へ向かう3人。

 

白露は吹雪を睨み続けていたが、なぜ睨まれているのか、吹雪は理解できていなかった。

 

そんな吹雪に気づいた浄花は、移動しながら説明する。

 

 

 

「吹雪、幽波紋を引っ込めなさい。そのまま外に出れば、提督に見つかってしまうわ。」

 

「あ、ごめんなさい。」

 

「白露も警戒を解きなさい。彼女は、幽波紋について何も知らないわ。さっきの時間で少し教えたくらいよ。」

 

「…分かった。」

 

 

 

白露は睨むのを止めた。

 

浄花の命令を最優先にする彼女らしい行動だった。

 

一方で、吹雪はリラックスしていた。

 

睨まれたことで、殺気を感じていたが、それが無くなったことで体の緊張が少し解けたからだ。

 

軽くリラックスできた状態で、3人は地上に出た。

 

吹雪がゆっくりと扉を開けて外に出て、周囲の確認をする。

 

人影は無いことが分かったため、浄花と白露も外に出る。

 

吹雪の先導で、建物に隠れながら本館へと移動する。

 

本館の中は、お化け屋敷のように不気味だった。

 

薄暗く、辺りに散らばる肉片と血痕に群がる無数の虫。

 

憲兵隊のような艦娘の死体が、床一面に広がっていた。

 

その光景に、浄花は静かに見つめ、白露は静かに怒り、吹雪は近くに倒れている、胸に穴が開いた艦娘を抱きしめながら涙を浮かべた。

 

 

 

「ひどいわね。」

 

「皆、ごめんね。私のせいで…。」

 

「…浄花、対象はどこにいるの。」

 

「考えられるのは2か所、執務室か自室。艦娘に指示を出す以上、特定の場所に来るように指示するでしょうから、そこかしらね。」

 

「司令官なら、恐らく執務室に居ます。あの人はあの一件から荷物を執務室にまとめていましたから。」

 

「そう。なら執務室に……吹雪、手を見せなさい。」

 

「え?は、はい。こうでいいですか?」

 

 

 

吹雪が手のひらを見せると、浄花は目を見開く。

 

顔をしかめ、何かに驚いていた。

 

 

 

「……どういうこと?」

 

「あ、あの、私の手に何か?」

 

「どうして、血が付いているの?」

 

「え?あ、あれ?」

 

 

 

吹雪の手に付いていたのは、抱きしめている艦娘の血。

 

しかし、それはありえない。

 

此処の艦娘たちは、4か月前に死んでしまっている。

 

吹雪の手にベッタリつくような血が、残っているはずがない。

 

不思議に思った浄花は、死体の首元を見る。

 

首には、例のチョーカーが着いていた

 

 

 

「チョーカーが着いている。どうして着いている子たちまで殺された?提督にとって、彼女たちは利用するだけの駒のはず。用済みになったから?」

 

「まさか、天龍さんたちのようにビスマルクさんが?」

 

「それだったらこんな死体にならないと思うけど?」

 

 

 

浄花たちはビスマルクについてよく知らない。

 

しかし、天龍たちを消し、白露を大破させるほどの火力があるのは、よく分かっている。

 

この死体のように、体に穴を開ける必要は無い。

 

吹雪との会話から提督がやったと考えられるが、その理由が掴めない。

 

殺すことによるメリットは何か。

 

それを考えていると、上の階から大きな物音がした。

 

 

 

バキッ!ドガッ、バタンッ!!

 

 

 

何かが壊れたような、大きな破壊音。

 

浄花は、2階に行く中央階段へ最短距離で向かい、白露も続くように、吹雪は遅れて追いかける。

 

音の大きさと建物の高さから、建物の3階の右側だろうと推測し、そこまで走る。

 

階段を登りきり、右の廊下を見ると、そこには砂煙が上がっていた。

 

波紋を練って警戒を続けていると、白露と吹雪も登りきる。

 

それと同時に煙が晴れると、そこには女性が血まみれで倒れていた。

 

 

 

「ビスマルクさん⁈」

 

「ったく、手間取らせやがって。」

 

「浄花、誰か出てくる!」

 

 

 

白露が叫び、さらに警戒する。

 

そこに現れたのは、白色の軍服を赤黒い血で染めた、やつれた顔をした若い男。

 

怒りを露わにしている顔は、引っ掻いた様な傷が無数にできており、まるでゾンビのようだった。

 

 

 

「司令、官…。」

 

「誰かと思えば吹雪じゃあないか。今までどこに行ってたんだ?お前が姿を眩ませたせいで、ビスマルクもこんな姿になっちまったよ。どう責任取るんだ?」

 

「何を、言って…。」

 

「お前が希望なんて持たせるから、全員が俺を倒せると思って攻撃してきやがった。チョーカーがあったのにも拘らず、だ。まあ、その結果がこいつと同じで、無様な姿だったがな。」

 

「そんな…。」

 

 

 

ニタニタと鳥肌が立つぐらい気味の悪い笑顔を見せる提督。

 

吹雪はその男から発せられる言葉を素直に受け取ってしまい、頭を抱えて伏せてしまう。

 

その様子を見て、さらに気味の悪い笑みを浮かべると、浄花達に近づいてきた。

 

 

 

「さて、大本営の命令でこんなところに来たようだが、残念だな。憲兵たちを見て帰らなかったのは感心するが、その結果、ここが君たちの墓場になるんだからな。」

 

「寝言は寝てから言いなさい。ここに立てる墓は、今まで貴方のせいで死んでいった者たちだけで十分よ。」

 

「そうか。なら、今此処でその夢を現実にしてやろうッ!『デスペアー・エクスタシー』!」

 

 

 

提督は黒いオーラを放ちながら、髑髏の化け物、幽波紋『デスペアー・E』を呼び出した。

 

その姿を見た吹雪は、その姿を見たことで、4か月前のことがフラッシュバックする。

 

涙を流しながら、顔を青くさせ、怯え始めた。

 

浄花は、吹雪の前に立って構えた。

 

 

 

「あ、ああ……。」

 

「ッ白露!無理やりでもいいから、吹雪を連れてここから離れなさい。」

 

「私も戦う!」

 

「吹雪を連れて離れなさい!貴方の能力じゃあ、こんな狭いところで満足に戦えないでしょ!」

 

「逃がすか!死ねぇい!」

 

 

 

提督のデスペアー・Eが、大きな爪で3人を襲う。

 

胸に光る顔は、提督と同じように、不気味な笑みを浮かべる。

 

 

 

「ミニ―アスケイプ・キャット!」

 

「何ッ―!貴様も適正者だとッー!」

 

 

 

しかし、その大きな爪は、浄花の幽波紋の猫パンチによって弾かれた。

 

不気味な笑みは驚愕へと変わり、それが怒りへと変わる。

 

今にも血管がキレそうな、ゆでだこのような赤色の肌へと。

 

 

 

「どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがって!今すぐお前を殺して、吹雪と白露も殺してくれる!全員あの方への供物にしてやる!」

 

「あの方、ね。裏に誰がいるのか、洗いざらい話してもらうわよ!」

 

 

 

鎮守府の廊下という、2人横並びに立てば道が塞がってしまうほど狭い空間。

 

此処での戦いは、階段に近い浄花の方が動きやすく、有利なように見える。

 

しかし、幽波紋使い同士の戦いは、能力の相性もあるが、優劣はあまり無い。

 

何故なら幽波紋は、名前に『幽』とあるように、壁を幽霊のようにすり抜けることが可能であるからだ。

 

また、破壊力がある幽波紋であれば、破壊してしまえばそんなことは関係なくなる。

 

提督の幽波紋は、まさにその破壊力があるタイプのスタンドである。

 

その大きな爪で壁を壊しながら、浄花へ攻撃をする。

 

浄花は、幽波紋でその攻撃を弾きながら、飛んでくる壁の破片を躱す。

 

幸いにもここは本館の右寄りの中央に位置している。

 

浄花の後ろには、長い廊下が続いているため、浄花は躱しながら後方へ、背中を向けることなく逃げていく。

 

 

 

「この女!ちょこまかと逃げやがってッ!」

 

「動きが遅いのよ。椅子に座り過ぎて動きが鈍いんじゃあないの?」

 

「黙れぇ!」

 

 

 

提督を煽る浄花。

 

作戦のように思えるが、これは単なる彼女の私怨。

 

何度もこういう人間を見ているからこそ、愚痴の一つでも零しておかないとやっていられないという、彼女の本心である。

 

そんなことを知る由もなく、提督はさらに顔を真っ赤にし、浄花を攻撃する。

 

攻撃は相変わらずの大振りで、速度も速くなったわけではない。

 

だが、廊下の端という終わりは近づいていた。

 

 

 

「追い詰めたぞ、女ぁ!」

 

「…貴方の幽波紋について、いくつか分かったことがある。」

 

「あぁん?すたんど?」

 

「貴方の幽波紋は、完全な近距離型で射程距離もない。遠距離攻撃も無いと考えると、能力は自己強化か、発動条件が厳しい特殊能力の2つ。」

 

「何を言って…。」

 

「そして、吹雪から聞いた貴方の求める『絶望の感情』。以上の事を踏まえると、貴方の幽波紋能力は『他者の抱いた絶望という感情を力に変える』もの。それも、定期的に摂取しないといけない。」

 

「…ッ!」

 

 

 

提督は全身に汗をかく。

 

それは図星故、自分の能力を言い当てられてしまったからだ。

 

全て気づかれてしまった。

 

彼女の存在が大きな誤算だった。

 

彼自身、同じ力を持つ者を3人知っていた。

 

吹雪と、『あの艦娘』、そして『あのお方』

 

しかし、それ以外に同じ力を持つ者を知らなかった。

 

その結果が、この状況を作り出してしまった。

 

 

 

「チョーカーを着けた艦娘たちが、なぜ殺されたのか。最初にここを見た時に感じたどす黒いものを、今感じない理由は何なのか。能力がそうであるなら、この状況に説明がつくし、本来の力を発揮できていないということも分かる。絶望という感情がこの近くにない以上、貴方の能力は怖くない。このまま確保してもいいけど、それだと大本営で力を発揮してしまう。だから、此処で再起不能にする。」

 

「や、やれるものならやって見ろ!さっきから逃げてばかりのお前に、出来るとは思えないがな!」

 

「…はぁ。なら、今から全力で貴方をぶん殴る。此処の艦娘たち、死んでいった憲兵たちの分も込めて!ミニ―アスケイプ・キャット!」

 

 

浄花の呼ぶ声に反応した幽波紋は、浄花の体の中へと入っていった。

 

それを見て、戻ったと思った提督は、自分の幽波紋で攻撃をする。

 

鋭い爪を振り上げ、浄花に向かって振り下ろした。

 

 

 

「絶望しながら死んで行けぇ!女ッ!」

 

「スゥー、星の白銀(スタープラチナ)!ボラァ―ッ!」

 

 

 

しかし、その爪は、浄花の手を覆うように現れた、金色の丸いスタッズを輝かせる『紫色の手甲』によって右手ごと粉々に砕け散った。

 

 

 

「ぐぎゃー!俺の、俺の腕がッ!」

 

 

 

幽波紋の特徴の一つとして、幽波紋は幽波紋同士で無いと攻撃ができないが、攻撃を受けると、幽波紋使い本人に同じダメージが入る。

 

つまり彼の右手は、肘から先の骨が、ガラスのようにバラバラに砕けている状態になっている。

 

その痛みは、計り知れないものだろう。

 

見た目だけでも、折れた枝のように垂れているのだから。

 

幽波紋使いと言っても、普通の人間である彼が、この痛みに耐えられるはずもなく、悶絶しながら地面を転がる。

 

幽波紋を出す精神力も、耐え難い痛みによって削られ、幽波紋は姿を保つことができずに消えてしまう。

 

そんな彼の下へ、浄花はゆっくりと近づく。

 

その目はとても冷酷で、養豚場の豚を見るように冷たい目をしていた。

 

 

 

「…その痛みは、吹雪を絶望へと落そうとした貴方の罪。」

 

「ヒィ―ッ!」

 

 

 

浄花の目を見て怖くなった提督は、全力でこの場から逃げようとしたが、浄花に首根っこを掴まれ、宙へと投げられる。

 

体は回転し、浄花の方を向く形になった。

 

 

 

「そしてこれはッ!今まで死んでいった者たちと貴方に贈る、絶望という名のレクイエムよッ!」

 

 

 

そう叫びながら、浄花は拳によるラッシュを叩きこむ。

 

 

 

「ボララララララララララーッ!」

 

「ぐべばっ!」

 

 

 

ラッシュによって、顔が直視できないほど歪んだ提督は、鮮血をまき散らしながら宙を舞う。

 

浄花は、ラッシュが終わると同時に、こう言うのだ。

 

 

 

「ボラーレ・ヴィ―ア!」

 

 

 

この言葉は、とある少年の決め台詞。

 

浄花にとって、思い入れのある言葉だ。

 

この言葉を口にすると、とても安心する自分がいる。

 

だが、すぐに後ろに下がり、戦闘態勢を取る。

 

彼女の波紋探知に反応があったのだ。

 

反応は2つ。

 

1つは目の前にいる提督のもの。

 

再起不能に追い込んでいるため、その反応は弱い。

 

問題は2つ目の反応。

 

それは提督よりも奥にあり、少しずつ近づいてくる。

 

吹雪でも、白露でもない、かなり弱った反応。

 

それはこの場にいる、もう1人の人物。

 

戦闘前に提督によって倒され、血まみれになっていた艦娘『ビスマルク』が、フラフラな状態で、壁に寄りかかりながら近づいてきていた。

 

 

 

「貴方、生きていたのね。」

 

「…。」

 

 

 

ビスマルクは何も言わない。

 

ただ、浄花の方へ向かって歩き続けるだけだ。

 

ふらつきながら、吐血して服を、綺麗な金色の髪を汚しながら。

 

浄花は何もせず、ビスマルクがやってくるのを待つ。

 

時間をかけて、浄花の下に向かうビスマルクは、最初の場所からおよそ20mの距離、現地点からおよそ15mを5分かけて歩き、浄花の目の前に立つ。

 

 

 

「…別館…D…2…B…右…下…裏…。」

 

「何かの暗号?そこに行けばいいのね?」

 

「…。」

 

「……そう、分かったわ。後の事は、任せなさい。」

 

 

 

浄花は、ビスマルクに自分の服を掛けると、執務室へと向かった。

 

ビスマルクは、浄花に対して向けた笑顔のまま、その場に立ち尽くしていた。

 

この戦いで建物に開いた穴から、隙間を通ってやってきた鳥たちが、その体を止まり木にしても、少しも動くことは無かった。

 

 

 

 

 

「…はい。提督は能力者でした。他人の絶望を力にするので、周りに誰もいないような独房が好ましいかと。」

 

 

 

浄花は執務室にある電話を使って、大本営に連絡をしていた。

 

相手はお義父さん、元帥だ。

 

軍人としての電話のため、敬語を使っている。

 

今はこの鎮守府の事、生き残りがいる事を伝え、今後の行動について話をしている。

 

 

 

「まだ全体を調べ切れていないので、憲兵隊を先行させてください。私は白露と生き残りの艦娘と合流、まだ見ていない場所の調査と、此処の艦娘であるビスマルクが残した暗号を解読します。…はい、失礼します。」

 

 

 

電話を切った浄花は執務室を後にして、提督を掴んで1階へと向かう。

 

1階には、壁に背を預けて手を組んでいる白露と、白露のスカートの裾を掴み、塞ぎ込んでいる吹雪がいた。

 

 

 

「あ、ごめん浄花。吹雪がずっと塞ぎ込んじゃって。」

 

「いいのよ。吹雪にとって辛いことが多かったから、今は心を休ませてあげないと。」

 

「これからどうするの?浄花が来たってことは、あいつは倒したんでしょ?」

 

「ええ。今からやるのは、まだ調べてない場所の探索。しばらくすれば憲兵隊が来るから、それまでは調査を続けるわ。行きたいところもあるから。」

 

「行きたいところ?」

 

「別館の方に何かあるかもしれないの。そこに行くついでに探索。後、皆に伝えないとね。」

 

「なら私は、皆を呼んでくるよ。吹雪の方が建物に詳しいだろうし、誰かが傍に居た方が良いでしょ?」

 

「そうね。吹雪、立てるかしら?」

 

「……」

 

 

 

吹雪は動かない、返事もしない。

 

ただ塞ぎ込んでいるだけだった。

 

白露はため息をつきながら、吹雪を俵のように肩に担ぐ。

 

 

 

「仕方ないから連れていくよ。扶桑といた方が元に戻るだろうし。」

 

「それじゃあ、そっちは任せるわね。私は別館に行く予定だけど、その前に工廠を覗いておくわ。設備と明石の事も気になるから。」

 

「分かった。気を付けてね、浄花。」

 

 

 

お互いの無事を祈り、白露は扶桑たちのところに向かった。

 

浄花はその姿を見送り、工廠の方へ急いで向かった。

 

 

 

 

【⇦ To Be Continued】

 




次回はしばらく先。

何回も書き直してるから
来月頭には出せたらいいな

本文の文字数はどれぐらいがいいか。

  • 約1万字(プロローグ~2話)
  • 約5000字(第3話)
  • 約3000字
  • お前が決めるんだ……
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