グリッドマン ユニバース:Selected of two Souls Sigma Story. 作:キャメル16世
とても長い夢を
どこまでも浮かび上がるように、どこまでも落ちていくように
もう二度と目覚めない程に、心地よく、清々しい気持ちだった
『………………裕太…………』
…………
『…………裕太……』
……誰かが俺を呼んでる
『……裕太…!……目を覚ますんだ…!』
……この声は……グリッドマン…?
『…裕太…!目を覚ますんだ…!』
グリッドマンが…俺を呼んでる…
……そうか…
俺は目覚めなければならない…!
こんなところにいる場合じゃない…!
『…裕太…!覚醒するんだ…!』
そうだ……目覚めろ…!
俺──っ!
pipipipi...
pipipipi...
「……っ!」
目覚めた俺、響裕太はベッドから勢い良く身体を起こした
「……ふわぁ〜…おはよぉグリッドマン…」
『あぁ、おはよう裕太。調子はどうだ?』
「絶好調だよ。ありがとう、今日も起こしてくれて」
『そろそろ裕太が起きる時間だと思い、声をかけさせてもらった』
目覚めの良い朝だ
こんなに目覚めのいい朝はもう来ないかもしれない
俺はそんな事を思いながら、左腕に装着されたデバイス、『プライマルアクセプター』を見つめる
あの戦いの後、俺とグリッドマンは共に居る
このアクセプターを肌身離さず身に付け、何か困ったことがあればお互いに助け合う約束をした
そんな俺は、それをいい事にほぼ毎朝グリッドマンに夢の中で起こしてもらっていた。アクセプターで心が繋がっていれば夢の中だろうと関係ない。その即効性と目覚めの良さから、俺はグリッドマンに甘えてしまっていた
『今日から新学期なのだろう?私はよく知らないが、頑張ってくれ。君なら、どんな困難にも立ち向かえる』
「そんな大した事じゃないよ。じゃあ、行ってきます」
『あぁ!』
赤いリュックを背負った俺は小走りである場所に向かった
最終的な目的地はもちろん都立ツツジ台高校だ
だけど、その前による場所がある
それが毎朝の楽しみであり、グリッドマンに起こしてもらってるのはこの為とも言える程だ
「いってきまーす……ん、裕太」
「あ、あぁ〜おはよぉ六花ぁ〜」
「な〜に?そのよそよそしい挨拶〜」
「い、いやぁ〜…六花は今日も可愛いなぁって〜……」
「…もぉ〜…それ言うの何回目だよぉ〜…」
彼女は宝多六花
ツツジ台高校に通う同級生の女の子…だったのだが
後夜祭の時に告白し、なんと彼女と付き合う事が出来た
そう、つまり今の六花は俺の彼女であり、俺はほぼ毎朝こうやって六花と登校している
ポケットに手を突っ込みながら俺の前を歩く六花
俺の事なんか気にしてないかのように淡々と歩いていた
「……」
「……」
俺は密かに思う事がある
それは……
「……わりぃ〜遅くなったぁー……んで、話って?」
「…俺、六花と手を繋ぎたい」
「……は?」
その日の放課後、俺は親友である内海将を呼び出し、真剣な相談を持ちかけた
「裕太さんよぉ〜…六花と付き合ってもう2ヶ月でしょ〜?手も繋いでないってどういうことよ〜」
「そーなんだけどぉ……」
「そもそも!」
内海は人差し指を立てて迫って来た
「デートは今まで何回くらいしてんの?」
「……い、1回…」
「かぁ〜!温泉デートが最初で最後とは…六花さんも大変だな…」
「だってあのデートで喧嘩になりそうだったんだよ!?今度は結構慎重に考えてですねぇ…」
「ほうほう…」
俺は意気揚々とスケッチブックに書いた次回のデートプランを内海に発表した
「…今度は、自然を感じられる登山デートを──」
「却下」
「…サプライズで──」
「却下!」
「最後まで聞いてよぉ!」
呆れた目で即答する内海を見て俺は少しだけ悲しくなった
すると、2人しか居ない教室に六花が入って来た
慌ててスケッチブックを隠す俺
「お、噂をすれば六花じゃん」
「また2人で内緒話?…ん、裕太今何か隠した?」
「え!?い、いやなんでもないよ!」
「……そう…あ、内海君ちょっといい?」
「え?…あぁ……」
内海を連れ出した六花
2人が出て行った後に俺は机に伏せる
「……はぁ〜…」
ふと、無意識にアクセプターを見つめる
「……っ」
それに気が付いた俺は慌ててアクセプターから視線を外す
これじゃダメだ…
こんなんじゃいつまで経っても六花にいい所見せられない…!
「…グリッドマン…俺は決めたよ。もうグリッドマンに頼りっきりにはならない……自分で出来る事は、自分でやってみせるから…!」
そう言うと俺は、アクセプターを左腕から外した
「…へ〜…それじゃあ私たちって、グリッドマンさんから生まれた虚構の存在なんだ」
「え、それ簡単に飲み込められんの?」
「だって現実味ないじゃん。現に私たち生きてるんだし」
「まぁそっか…内海さんも同じような事言ってたな……」
放課後の学校
俺の膝の上に頭を乗せる少女、南夢芽
彼女は俺の恋人であり、今は椅子に寝っ転がり俺に体重を預けている
「…蓬はまだ受け入れられない?私たちが虚構の存在だって……」
「ん〜…事実なんだろうな、とは思うけど……でも、今俺たちがここに居る。そういうのが大事なんだって、裕太達のおかげで気付けた…」
俺は夕日が射し込む窓を眺めた
外では複数の生徒たちが各々の部活動をしていた
「…きっと受け止められなくても、俺がこの世界を好きな事は変わりないし」
そう言って俺、麻中蓬は夢芽のエメラルドグリーンの瞳を見詰めた
「…好きな人がこんなに近くに居るっていう幸せを、俺はいつまでも感じていたい」
「……っ」
俺の言葉に頬を真っ赤に染める夢芽
勢い良く起き上がったと思ったら、いきなり荷物を持って俺から離れてしまった
「…か、帰るよっ」
「……うん」
「……っ」
夕日に照らされているからなのか、彼女の顔がいつもより赤く感じた
まったく…こういう所が可愛いんだよな……
そんな事を思いながら、夢芽の横を歩く
「……ねぇ蓬」
「…ん?」
すると、今度は彼女から話しかけて来た
「……私も…感じてるから」
「…え?」
「……蓬と居る……幸せ…」
「……」
「……それだけっ」
立ち止まる俺を放って走り去る夢芽
「……ぃ」
一方の俺はそれどころではなかった
今のは刺さったぁ〜…!
鼓動が早くなるのを自覚しながらも、俺も帰路へと足を進めた
「……」
家に帰りベッドに寝っ転がった俺は、ふと右手の甲の傷跡を見詰めた
あの戦いの後に、俺たちに刻まれるように現れた傷
夢芽はずっと消えない跡になるといいねって言ってたけど……
ある時思った
この傷は消えないんじゃなくて
消せないんじゃないかって
「……ふぅ〜…」
枕に鼻息を吹き掛ける
「……明日バイトか…」
「……」
受付の席に座った俺は、店員さんの帰りを待っていた
「…山中暦様」
「は、はい」
「こちらへどうぞ」
俺は就活の為、ハローワークを訪れていた
まぁ、めぼしい就職先も見つからず、呆れて家に帰った
「…ん、先輩おかえりなさ〜い」
「ただいま、ちせ」
帰ると、俺のベッドに寝そべる俺の従姉妹、飛鳥川ちせがいた
ちせは俺のタブレットの液晶にペンを走らせていた
「…何してんの?」
「絵描いてるんですよ」
「ふーん…最近はタブレットにも絵が描けるんだ」
「時代遅れですね〜、ほら」
「……お」
ちせが見せてくれたのは、新たな力を手に入れたゴルドバーン、ビックゴルドバーンの絵だった
「…かっけーじゃん」
「でっしょ〜?やっぱゴルドバーンは私の世界一の友達ですよぉ〜」
「……もうあの戦いから、2ヶ月経つんだね」
「早いものですね〜…でも、良かったと思いません?」
「…え?」
ちせはそう言うとベッドから起き上がりカーテンを勢い良く開いた
「……うわっ」
俺はあまりにもの眩しさに目元に腕で影を作る
「……こんな眩しい日を見れるのは全部、隊長やヨモさん、南さんに先輩。グリッドマンさんや他のみんなのお陰……きっとあの戦いがなかったら、私忘れるところでしたよ」
「…え?」
「…世界のどこかには、私を認めてくれる誰かが居るって事を……」
「……ちせ」
ちせはある日から、左腕のアームカバーを付けなくなった
どういう心境の変化なのかは、本人にしか分からない事だろうけど
ガウマさんやゴルドバーンとの出会いや、蓬君や南さん
そして裕太君達との日々が、ちせにとっては宝物なのだろう
「…ちせ、俺…就活頑張るよ」
「……はいっ!」
振り向いたちせは元気よく返事をしてくれた
「…そういえば、ちせは将来なりたいものとかあんの?」
「……ん〜…そうっスね〜…」
ちせはしばらく考えた後、俺に視線を戻した
「……私、ニートになりたいッス!」
「…いや、そこは画家でしょ」
「…先の『マッドオリジン』が引き起こした、マルチバースの融合とそれによる終末を目論んだ事件。皆はどう捉える?」
話し合いの最中、顔の大半を金属マスクで覆う大柄の男、マックスが新世紀中学生のメンバーに問い掛ける
「どう捉えるも何も、奴は消滅して統合された宇宙は元通りになった」
「結果オーライだよね〜…ま、懸念は残るけどね…」
「ア、アレクシス・ケリヴか……」
すると、小柄で金髪の長い髪をツインテールに編んだ新世紀中学生のメンバーの一人、ボラー。清潔感溢れる見た目と色気のある声の男、ヴィット。無精髪の目立つ猫背の男、サムライ・キャリバーが返事をする
先日起きた事件、グリッドマンを利用し宇宙を混沌の渦に巻き込み全てを終焉に導こうとした凶悪な、後に『マッドオリジン』と称された怪獣が起こした事件。
この世界に一時的に戻って来た新条アカネと彼女により封印が解かれたアレクシス・ケリヴのアシストにより、自身を取り戻したグリッドマンがマッドオリジンを葬ったことにより事件は幕を閉じた。と、思われたが…
「皆も知っているように、先日からまた別の事象が発生している」
「今度はグリッドマンによって生み出された宇宙がどんどん消えていってるんだよなぁ?」
「考えられる事は一つ、グリッドマンの創造の力が弱まってるって事だよね〜」
「こ、このままでは…別の宇宙が次々と消えていってしまう……」
「……君はどう考える?レックス」
「……」
マックスはもう一人のメンバーに声を掛ける
桃色の髪に同じ色の色付きサングラスを身に付け竜のバッジを着けているガラの悪そうな男、レックスは顔を上げる
「…グリッドマンの創り出した宇宙が消える。それはつまり、いずれ俺達の世界も消えるって事だよな」
「……」
レックスは元よりグリッドマンが創り出した別の宇宙の住人だ。それはつまり、先の事件が進行すれば、いずれはレックスの宇宙も消滅してしまうという事だ
「かと言ってどうこう出来ないけどねー…グリッドマン本人に宇宙を消してる自覚なんてないだろうし」
「そ、早急に原因の究明に当たらなければ…全てのマルチバースが消滅してしまうぞ」
「我々は次の消滅の恐れがある宇宙へと向かう。レックス、君は君の宇宙に戻り、仲間に今の現状を伝えてくれ」
「…わかった!」
マックスの言葉に、レックスは強く頷く
「内海達にはどう説明すんだよ?」
「グリッドマン同盟には、俺から説明しておこう」
「…グリッドナイト」
5人の前に現れたのは白髪の剣を腰に装備した青年、ナイト。そして、彼の横に立つ深緑色の髪をしたメガネ姿の女性、2代目
彼らは新世紀中学生のメンバーには入らないが、グリッドナイト同盟として別行動をしている連中だ
かつてはナイトも新条アカネによって生み出された怪獣の1人だった。だが、自身に与えられた命の意味を知る為、そして彼女の心を救う為怪獣の力でグリッドマンの力と姿をコピーし一人の騎士へと覚醒した。それが現在の彼だ
「グリッドマンは今でも響裕太と行動を共にしている。もし件の事件の原因が再びグリッドマンにあるのだとしたら、それは響裕太も関係していると思われる」
「…どういう事だ…?」
ナイトの言葉に、レックスは疑問を抱く
「これはあくまで私達の推論なのですが、裕太さんが六花さんと交際を始められたのはご存知ですか?」
「…ま、まぁ……」
「グリッドマンと響裕太の心は繋がっている。響裕太の浮かれきったその心が、グリッドマンの心にも影響を与えている可能性が高い」
「…えっ!?」
ナイトと2代目は淡々と続ける
「…つまり、グリッドマンの力が弱まっている原因が、響くんにあるって事?」
「あくまで、推論だ」
「……」
そこで、刹那の沈黙が流れる
「…とにかく、この事は裕太やグリッドマンには伝えない方が良いだろう。どんな事が起こりうるかわからん」
「だな。またグリッドマンが裕太に負い目を感じて〜なんて事があったらたまったもんじゃねぇ」
「だ、だがグリッドマンの力無くして、俺達は戦えない」
「そこは俺が戦おう」
「私も、出来る限りの事はします!」
話し合いが済み、各自解散となった
そんな彼らを見守る、一つの存在があった
『……』
それは形を持たないエネルギー体
何を言うでもなく、『それ』は世界のどこかに消えてしまった
『…………兄さん…』
次回
「例えそれが、間違いでも」
第2回「疑・心:ユニバースの危機」