グリッドマン ユニバース:Selected of two Souls Sigma Story. 作:キャメル16世
悪のグリッドマンもその一つ。
「……っ」
突然、目の前が真っ暗になる
目元には人肌程の温もりを感じ、背中にはほのかな柔らかみと温かみを感じる。仰け反るような体制のまま、男は後ろの者の遊びに促されるがままとなっていた
「だーれだっ!」
「…ひめ…遊ぶのいい加減にしてください」
「おー!よくわかったね〜流石はガウマ〜」
正解を言い当てた男は彼女の手を持って後ろに振り返る
彼の背後には豪華な装飾で身を固めた可憐な女性がにこやかな表情で立っていた
「ねぇねぇガウマ、カニ食べようよ、カニ!」
「またカニですかぁ?…まぁ良いですけど。もう何度も食べてるじゃないっすか…」
「わ・た・し・は!ガウマと食べるカニが美味しいのっ!」
「…っ」
時々思う
彼女は、俺にとってなくちゃならない存在だと。
彼女にとっても同じであればいいのにと、何度思った事か
俺にとって彼女は希望であり、俺を縛りあげる呪いのような存在だった。いつどんな時でも、彼女は俺の中にいた。俺は彼女を、縛りたくはなかった。
「……ねぇガウマ、私と逃げない?」
「…えっ?」
突然、彼女は俺にそう言い放った
その目はいつものからかいの表情ではなく、偽っている様子は無い。その言葉は、正真正銘彼女の本心から放たれた言葉なのだと、すぐに分かった。
「…な、何を言い出すんですか…?冗談、っすよね…?」
「……」
「……っ」
なーんちゃって、という言葉を期待した。でも、待てど暮らせど彼女の口からその言葉は聞き取れなかった。
「……出来ません。俺は、貴女を幸せにする自信がありません。俺には、貴女を幸せにする資格なんて無い…」
「……」
彼女の目はずっと俺を捉えていた
まるで、言いたい事はそれだけか、とでも言いたげな表情だった。もちろん言いたいことなど山ほどある。だが今更それを口にしたところで、彼女に俺の手が届く筈がない。届いたとしても、必ず引き剥がされる。それが怖いんだ。
「……ガウマ、私は幸せだよ」
「…え?」
「ガウマと、この大好きな国を見守る事が出来て。ガウマの仲間に出会う事が出来て。ガウマの話を聞く事が出来て。ガウマお喋りが出来て。ガウマと一緒にカニを食べる事が出来て……でも、それって特別な事?」
「……」
思わず首を横に振る
「…私は、いつかきっと貴方を裏切るかもしれない。怪獣を操る力は、とても危険よ」
「……っ」
ここで、俺は気付き始めた
彼女が俺と逃げようと言った、その本意を。
「…でも今の私には、私を見つけてくれる人が居るから」
「……」
「……ガウマ…」
彼女の手が、俺の左頬に触れる
暖かいようでとても冷たい手が、俺の手を重ねさせた
とても小さな手。俺の手では余るくらいに、守りたいと思った。
「…ガウマ。世の中には、人として守らなければならないものが、3つあります」
「…えっ?」
彼女はいつも突拍子もない事を言う
そう、この時だった。俺が志すようになった、3つの守るべきもの。それを初めて教えてもらったのは……
「……約束と、愛と…そして──」
『おかけになった電話番号は現在使われておりません。電話番号をご確認の上、もう一度おかけ直しください』
「…蓬君と連絡取れないって…どういう事?」
「俺にもわかんねぇよ!……でも、きっともう蓬君達の世界は……クッ…くそっ!」
マルチバースの消滅。それは実質的に仲間の消滅を示唆し、その繋がりも記憶も、全て虚構であった事が証明された
夜の街の中で、グリッドマン達が戦っている。相手は圧倒的な強さを持った者。彼等だけで勝てるとは到底思えない。
「どうすんの…!?……このままじゃ…裕太が…」
「……六花……っ」
すると、内海は二人の背後に気配を感じた
「…も、問題ない」
「キャリバーさん…!」
「マックスの奴…突然連絡つかないと思ったら、まさか敵に捕まってたとはなぁ〜」
「ボラーさん!」
「グリッドマン達が負けるのも時間も問題だろうねー」
「ヴィットさん!皆さん、来てくれたんですか!?って痛ったぁ!」
集結した新世紀中学生のメンバー、ボラーはみなまで言うなとばかりに油断しきった内海の脛にキックを食らわせた
「来てくれたも何も、グリッドマンが負ければそれこそこの世の終わりだ」
「あの偽物のグリッドマン、マックスを利用して何するつもりなんだろうねー」
「と、とにかく…俺達もジャンクに急ぐぞ」
夜道を颯爽と走る5人
ビルの隙間からグリッドマンとグリッドナイトの悪戦苦闘する声が響く
「……裕太…!待ってろよ!」
ジャンクの目の前に到着した新世紀中学生の3人は、すぐさまその名を叫んだ
「アクセスコード!グリッドマンキャリバー!」
「アクセスコード!バスターボラー!」
「アクセスコード、スカイヴィッター…!」
ジャンクに吸い込まれる3人
内海と六花はその行く先を見届ける事しか出来なかった
「…ぐわぁっ!」
「だぁっ!」
「ふぬァァ!」
マックスと合体したグリッドマンダークは、グリッドマンとグリッドナイトに猛威を振るっていた
すると、夜空に青い紋章が3つ現れ、そこから3体のアシストウェポンが飛び出して来た
「助けに来たぜ!グリッドマン!」
「…ヴィット!」
大空を飛ぶ群青の翼を持った巨大な戦闘機を模したアシストウェポン。スカイヴィッター
ヴィットの本来の姿であり、大空を縦横無尽に駆け巡る。
「俺達もいるぜぇ!」
「…ふんっ…!」
「ボラー、キャリバーまで…みんな、来てくれたのか!」
仲間の登場に安堵するグリッドマン、グリッドナイト
一方のグリッドマンダークはまたしても余裕そうな表情であり、何故だかアシストウェポンの登場に喜びを感じているように見えた
「形勢逆転。合体だ!グリッドマン!」
「仕方ねぇ!グリッドナイト!また力貸してやるよ!」
「…あぁ!」
「…フッ…はぁっ!」
飛び上がるグリッドマン。ヴィットは分裂し、グリッドマンの脚部とドッキング。背中に翼を備えたグリッドマンが完成した。
一方のグリッドナイトは、形を変えたボラーと胴体でドッキング。ガトリング砲とミサイル、両肩にはパラボラアンテナ状に展開する大砲を装備したグリッドナイトが完成した。
「「大空合体超人、スカイグリッドマン!!」」
「「武装合体騎士、バスターグリッドナイト!!」」
日常の崩壊は、いつだって前触れもなく訪れる。眠る事を忘れ、目覚める事すら忘れる。日々の思い出を、過去を巡る余裕もない。それでも、いつか来る終わりを求めて、人は歩むのかもしれない。
「……ガウマ…ガウマ…!」
「……」
荒れる声、乱れた髪、早く屋根下に行かなきゃ…その綺麗な衣装が、可憐な姿が、泥水で汚れてしまう。
頬を垂れる雫が、雨粒なのか涙なのか、今ではもう分からない。
「…ガウマ…なんでよ……なんで…!」
「……」
一体、俺は前世でどんな行いをしたのだろうか。どんな徳を積めば、こんな美しい女性に死を看取って貰えるのだろうか……
俺はしあわせ者だ。
「なんでよ…あの料理は……あの料理だけは食べちゃダメだって…あんだけ言ったのに…!」
「……ひめ…」
まだ俺に意識があるのを知って、彼女は最期に俺に文句をぶちまけた
「……ごめん……約束…守れなくて…」
「……うぅ……グスッ…」
「……でも……それでも…君を危険な道に歩ませたくはなかった……俺が生きていれば…きっと貴女の命も危うくなる…」
「……」
国は俺を生かすつもりは無い。怪獣を操る者は彼らにとっても怪獣そのもの。俺達を危険視した国は俺達を利用するだけ利用し、毒殺を測った。
それに反旗を翻した俺達だったが、そんな彼らを俺は止め、やがて刻が来た。
「……君は国の宝だ……失う訳にはいかない……この世に生ませてきて…君と出会って…俺は…しあわせでした…」
「……」
俺達の出会いはひょんな事からだった。この国に迷い込んだ俺を、君は救ってくれた。きっと俺一人だけだったら、その場で死んでいたかもしれない。君は俺の命の恩人だった。
「…君と出会えた、その奇跡に…俺は感謝します」
「……ガウマが死んだら……私の未来は真っ暗だよ!」
「……」
ひめは嘆いた。俺の式がどんどんと近付く中で、それでも俺の存在を必要としてくれた。
「……なら…」
「……」
掠れる声でひめを見つめる。ひめにはもう自分を取り繕う余裕は無かった。
「……また…来世で会いましょう」
「……え…?」
「…何年…何十年…何百年……何千年掛かっても…君を見つけて、幸せにすると誓います。君と明るい未来を見る事を誓います……君に教えられた、3つのものを守ると…誓います……約束と…愛と……そして……」
「……ガウマ…?」
「……」
「……ガウマ……ガウマぁ!」
彼女の泣き叫ぶ声と、雨が地面を跳ねる音と、何処から来たのか…ホトトギスの鳴き声が俺の中で木霊した。
あぁ…死ぬのは怖いが、何より…
君との別れが、何より……
「……っ!?」
だからこそ、この時は驚いた
俺は現代に蘇り、生前彼女が大切そうに保管していた竜の置物を握っていた。俺は新しい命と使命を与えられたと思い、この世界で怪獣から世界を守る為、そして貴女と出会う為に戦って来た。結局この世界で貴女とは出会えなかったけど、最期にダイナゼノンを託した理由が分かった気がした。
「……あれ、ガウマ?」
「……ひめ…」
だが、運命は巡ってくるのか…俺は君とまた出会う事が出来た。だが、もう俺は…俺であって“俺”じゃない。新しい自分を受け入れた俺にとって、彼女はもう“過去の存在”だった。そう思い申し訳ない気持ちと切なさを感じていたが、彼女は既に未来を見ていた。
「世の中には、人として守らなければならないものが3つあります…」
「…約束と、愛と……」
「……賞味期限ですっ!」
賞味期限……そう、俺達の関係こそ、もう既に“賞味期限切れ”なのだ。だからもう、俺が過去に囚われる事も無い。君の事は忘れない、でももう…俺にとって君の存在は…
約束、守れなくてごめんなさい
愛を、守れなくてごめんなさい
色々遅くなってしまって、ごめんなさい
そして、ありがとう
「……ううおぉぉぉおおおぉぉおおおおお!!!!」
「えっ!?だ、誰ぇ!?」
「先輩!この人勝手に部屋に上がり込んできてぇ!」
「何言ってんだちせ!暦!記憶喪失になってる場合じゃねぇぞぉ!」
「え、蓬君この人と知り合い?」
「いや!知らない知らない!誰ですか貴方!」
「蓬!夢芽!…忘れてんなら思い出させてやる!」
「え、ちょっそんな勝手に…!」
抵抗する蓬に、俺は強引にダイナソルジャーを押し付けた
「……ガウマさん…?」
ダイナソルジャーに触れた蓬は、俺との記憶を全て思い出した。それは夢芽も、暦も、ちせも同じだった。
全てを忘れるのも、悪くなかったのかもしれない。だからこそ、また勝手に関係を作ってしまう事、申し訳ないと思う。
「…行くぞ、蓬。グリッドマンを救いに」
「……はいっ!」
それでも受け入れてくれるのが、今の“俺”の仲間達だ
「ツインバスター…!」
「グリッド〜…!」
「「ストームッ!!」」
バスターモードとなったツインドリルから紫色の巨大なビームを放つバスターグリッドナイト。相対するグリッドマンダークは屈強な両腕でその攻撃をガード。
「……ふふ…っ!」
「はぁぁっ!」
そこにキャリバーの攻撃が飛び交う。怯むグリッドマンダーク。すると、苛立ちを露わにしてきた。
「小賢しい奴だ……お前も、ボクの一部となれ!」
「…クッ…なにっ!?」
すると、キャリバーがまるで吸い込まれるかのようにグリッドマンダークの掌に収まった。するとその刀身は漆黒に染まり、意志を感じる事が出来なくなった。
「剛力大斬暗黒超人…マックスキャリバーグリッドマンダーク!!」
「なんだと!?」
「キャリバーまでもが…奴の手中に…!」
「怯むなグリッドマン!俺達も向かうぞ!」
「…あぁ!」
大空を飛行するスカイグリッドマンは、グリッドマンダークに向けて左腕を突き出す。
「「スカイグリッドビームッ!!」」
扇状に拡散された光線がグリッドマンダークを包み込む。だが、次の瞬間グリッドマンダークは飛び上がり、スカイグリッドマンの目の前までやって来た。
「マックスグリッドキャリバー…ダークエンドッ!!」
「ぐわぁぁぁあ!」
グリッドマンダークの攻撃を受け、地面に落下するスカイグリッドマン。グリッドマンとヴィットの合体が解け、それぞれが力尽きるように倒れ込む。
「グリッドマン!」
「おいおいやべぇぞ!このままじゃヴィットまでやられる!」
「「バスターグリッドナイト!フルバーストッ!!」」
全ての砲口から追尾砲弾、ミサイル、ビームを発射するバスターグリッドナイト。
「マックスキャリバーグリッドビームッ!!」
一方のグリッドマンダークはキャリバーを両手で組み、その刀身とタンカーキャノンから漆黒のビームを放つ。
そのビームはバスターグリッドナイトの攻撃を跳ね除け、直撃した。
「ぬわぁぁぁあ!」
その攻撃に耐えきれなかったバスターグリッドナイトの合体も解け、グリッドマンダークはそんな無防備になったボラーとヴィットに近付く。
「…グリッドマン…君の仲間はもう来ない。全てのマルチバースは消滅し、残る希望はこの世界に取り残された君だけだ。そんな君を倒せば…ボクはこの世界の覇者となれる!」
「全てのマルチバースが消滅…?一体何を言っている!?」
「…おや、教えてあげなかったのかい?ナイトくん…それなら、ボクが教えてあげよう」
「……?」
ヴィットとボラーに触れるグリッドマンダーク。その二機は色を変え、またしてもその意志が消えた。
「今、君が作り出したグリッドマンユニバースが次々と消滅していってるのさ!世界を生み出す君の力が弱まっているからねぇ…だが、悪いのは君じゃない」
「…なにっ?」
「…全ての原因は、グリッドマンの心に常に影響を与えている存在…!」
「…やめろ!それ以上は…!」
必死に止めようとするグリッドナイト。だが、時はもう既に遅し。グリッドマンと、響裕太の耳に、真実が流れ込んで来る。
「響裕太!君の心が、グリッドマンを弱くした!グリッドマン自身の弱さは強さに変わるかもしれない…でも君の弱さは、グリッドマンの弱さだ!君がグリッドマンを弱くしたのさ!ははは!はははははははははは!」
「……な…に…?」
『……俺が……グリッドマン…を…?』
「…クッ…貴様ァァ!」
「……さぁ、仕上げといこうか…!」
ボラーとヴィットを掴み上げたグリッドマンダークは、更にその二体と合体し、漆黒の巨大なロボへと姿を変えた。
「超暗黒超人…フルパワーグリッドマンダーク!!」
次回
「だからどうした、私はまだ負けてない」
第5回「凌・駕:グリッドマン同盟の隠し事」