午前七時。日が登り、街が少しずつ目を覚まし始めた龍門のマンションの一部屋にアラームの音が規則的に鳴り響く。
ベッドから起き上がり、アラームを止めようと試みるもそれは隣で寝ている彼女によって叶うことはなかった。
「ん……んぅ……」
「まだ眠ってるか……流石に一晩だけじゃ疲れは取れないよな」
俺の腕を抱き枕の様にして掴んでいる龍の角を生やした彼女の名はチェン・フェイゼ。
龍門近衛局のトップにして、誰よりも龍門の事を考え、行動している──俺の彼女だ。
チェンとの馴れ初め話は置いておくとして、チェンを起こさない様に俺も再びベッドに潜る。
チェンは近衛局のトップとして働いているが、トップが故に周りの近衛兵の人よりも働き詰めで俺自身いつ倒れるかヒヤヒヤしている。
出会った頃だって、とてもじゃ無いが健康的な顔はしていなかったのを覚えている。
だからこうして、たまの休日にチェンがゆっくりできる様に俺から近衛局に頭を下げてに行った事があった。
近衛局の面々も同じ様なことを思う人が多く、意外とあっさりチェンの休暇が取られた。
本人に黙っていたことで後々怒られる羽目になったが、以前より休みが少しだけ増えたことで仕事にも力が入りより一層治安が良くなっていると聞く。
龍門は感染者、非感染者の区別をハッキリと分けている。
非感染者はごく普通の扱い、感染者はスラム街へと追いやられ貧しい生活を余儀なくされていたのが数年前までの龍門だった。
しかし、ロドス・アイランドという龍門とも親交が深いと言われていた製薬会社が鉱石病に対するワクチンの開発に成功し、少しずつ龍門全体に真の平和というものが訪れつつある。
ただ、その分近衛局の仕事が増えるのだとチェンはため息をついていたが心なしか少しだけ嬉しそうな顔をしていた。
「チェンはいつも頑張ってて偉いよ。俺なんかよりもずっと……」
未だ眠り続けるチェンの頭を撫でながら、俺よりも小さな体を抱きしめる。
俺よりも小柄だと言っても、チェンの力は凄まじく、一度だけ訓練を見せてもらった事があったが流石はトップと言った実力を持っている。
本人はあまり見られたくはないと言っていてが、チェンが普段どんなことをしているのか恋人としては気になるところはあった。
「ん……レイ……」
「おはよう、チェン」
「おはよう……今は何時だ?」
「午前七時だ。言っておくが今日はゆっくりしてもらうからな」
「流石に、私もそこまでバカじゃない。一度こっ酷くお前に怒られてからはしっかり休む様にしているだろう?」
半年前だったか、一度だけチェンが休日に仕事をしている所を偶然発見した俺は体を休めないチェンにキレてしばらく口を聞かなかった事があった。
あの時のチェンの慌て様は今でも覚えている。
最終的に何度話しかけても反応してくれない俺に涙を流して泣いてしまったチェンをもう休みの日には仕事をしないと約束し、事なきを得た。
「念のためだ……それで、今日は一日中寝て過ごすか?」
「いや、休みといっても体を動かさなければ鈍ってしまう。後で一緒に走ろう」
「了解──っと、電話だ」
ようやく解放された腕はまだ少しだけ彼女の温もりが残っていて、少しだけ名残惜しい気持ちになった。
携帯に表示されたのは極東に移り住んだ妹の名前だった。
「もしもし」
『あ、お兄ちゃん? 元気してる〜?』
「元気だよ。そっちはどうなんだ?」
『こっちも上手くやってるよ。最近ようやく馴染めてきたけど』
「ははっ、そりゃ大変だな」
『うんうん。そういえば彼女さんとは上手く言ってる?』
「上手く言ってるよ。今も隣でぐっすりだった」
『ひゅ〜、熱々だねぇ。まぁ元気ならよかった。久しぶりにお兄ちゃんの声が聞きたかっただけだから。それじゃ、愛してるぞお兄ちゃん!』
「おう、俺も愛してるぜ」
嵐のような性格をしている妹は、電話でも嵐の様だった。
ふと、隣からの視線がやけに鋭いことに気が付いた。
「チェン?」
「今のミキとは誰だ? まさか……浮気じゃないだろうな」
「え? 別に浮気じゃ──」
「ならなんだ! 私にも言わない様な『愛してる』なんていう相手が浮気相手以外どこにいる! 私というものがありながら、私だけでは満足できないというのか!」
「いや、あの、話を聞い「聞きたくない!」えぇ……」
なぜか妹のことを浮気相手だと勘違いし始めたチェンが、暴走を始めた。
妹のことは前にも話した事があったし、チェンが知らないはずはないが……まさか忘れてたりするのだろうか。
愛してるに関してはチェンには小っ恥ずかしくて中々言えてはいないし、妹という家族ならではのノリで言っているためチェンに言う愛しているよりも重さが違う。
「私は、お前だけなのに……お前さえ居れば、何も要らないのにっ!」
「チェン……」
涙を流しながらもなお、叫び続ける彼女の顔はどこまでも悲しみに包まれていた。
俺の説明不足で彼女をこんな顔にさせてしまった。
それこそ、俺は彼氏失格なのかも知れない。
でも、勘違いで終わらせてしまってはいけない。
「私は……私はっ! ──んっ」
目の下を赤くするチェンを俺は押し倒し、強引に唇を奪う。
最初こそ、辞めろと暴れていたチェンは気づけば全てを委ねて俺を求めてくれていた。
それからどれくらいの時間が過ぎたのかは分からない。
ようやく話された唇と唇には僅かな糸が引かれていた。
「チェン、勘違いしてるみたいだから言っておくけど──電話の相手妹だからな?」
「やっぱり、浮気相手──妹?」
俺の言葉を聞いた瞬間、チェンはキョトンとした顔をした後、理解できたのか顔を真っ赤にして枕に顔を伏せた。
「お、おーい。チェンさーん」
「み、見るな! 今は人に見せられる様な顔はしていない!」
「人には見せられなくても彼氏には見せられるだろ?」
「っ! 恋人の妹だと知らず、話を聞かなかった。それなのに勝手に勘違いをして浮気だと極め付けたんだ……私は恋人失格だ……」
明らかに今度は違う意味で泣き始めるチェン。
いや、流石に俺も何も言われずに唐突に電話相手に愛してるなんて言われたら嫉妬する。だから、チェンは悪くない。と、言いたいのだがどうやってもチェンは顔を上げてくれない。
「チェン」
「……」
「たまに思うんだ、俺は君に釣り合う男になれているのかって」
「お前以外、釣り合う男など居ない……」
「そうは言ってくれるけど、矢張り周りの目は気にする。俺はチェンをチェン・フェイゼという一人の女性として見ている。でも、周りは違う。近衛局のトップである、チェン隊長として君を見ているんだ」
「……」
「付き合った当初は、毎晩頭を悩ませたよ。チェンに釣り合う男になるために、毎日トレーニングして自分を変えようと頑張った。でも、チェンに『そのままのお前で居てくれ』って言われた日から俺はチェンだけを信じることにしたんだ」
「……」
「チェンは俺だけしか要らないと言った。でも、それはチェンだけじゃない。俺もまた、チェンがそばに居てくれたらそれだけで良いんだ」
そうだ、俺はチェンの恋人で誰よりもチェンを支えれる人間だ。今までも、そしてこれからもそれは変わることはないだろう。
「でも仮に、それでもまだチェンが俺の言葉を信じれないのなら……少しだけ待ってて欲しい」
「どこにいくんだ」
「あるものを取りに行ってくるだけだ。少し待ってて」
俺はチェンを残して部屋を出ると、隣の仕事部屋の机の上に置いた小さな白い箱を手に取ると再びチェンの場所へと向かう。
本当はもっとムードがある場所で渡したかったが、このタイミングでしかチェンに俺の気持ちを伝える事ができないと思った。
「チェン、そこに立ってくれないか?」
「……ここか?」
窓際にチェンを立たせると、俺はチェンの前に行くと片膝をついてチェンを見上げる。
未だ何をするのかさっぱりわからないと言ったら表情のチェン。
そんなチェンに見せる様に、俺は小さな箱を取り出し、チェンの目の前へ差し出す。
その箱を開くと、チェンの表情が驚きに変わる。
そして、俺はただ一言。彼女への愛を囁いた。
「チェン、俺と結婚しよう」
「……」
しばらく沈黙が流れる。
俺は不安になり、チェンの表情を確認すると彼女は口を手で覆い、また涙を流していた。
「え?! ちょ、チェン?!」
「いいや、なんでもない……なんでもないさ。この涙は悲しい涙じゃない。嬉しい涙だからな」
「え? って事は……」
「ああ。不束者だが、これらも末長く共に生きよう」
その言葉を聞いた瞬間、俺はチェンへの想いが抑えきれなくなり彼女を抱きしめた。
「チェン。君は絶対に幸せにするから」
「ははっ! それは、私より給料を上げてから言ってくれるよ?」
「うっ……痛いところ着くなぁ」
「ふふっ。まぁいいじゃないか、これから頼むぞ? あ・な・た」
悪戯っぽく笑うチェンの笑顔はどこまでも眩しくて、どこまでも幸せに満ちた笑顔だった。
感想、評価、宜しければまたよろしくお願いします。
そして、前回評価と感想を書いて頂いた皆様誠にありがとうございます! いまだキャラは解像度が低いのは否めませんが少しずつ高めていければなと思っております。
そして、良ければアンケートの回答もよろしくお願いします!
オペレーター視点も書いた方がいい?
-
書きなさい
-
書かなくてもいい