オペレーターの恋人、あるいは友人   作:猫又侍

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彼女も、立派なロドスのオペレーターだと私は思うんです。


#4.フロストノヴァ

 ふと窓の外を見てみると、白い物体が空から無数に龍門の街並みに降り注いでいた。

 

「……雪か」

 

 龍門でこの時期になれば降ってくるものであり、さして珍しいものでもないがここ数年は天災の影響か何かで雪は降れど積ほどの雪が降ることはなかった。

 

 それに比べると、視界を埋め尽くすほどの雪は久しぶりだった。

 

 台所でホットミルクを作り、窓際の椅子に腰を掛ける。

 

 一人で座るにはいささか大きい椅子も、もうしばらくすれば起きてくる彼女によって空いた空間は埋まるだろう。

 

「む……居ないと思ったらここにいたのか」

 

 しばらく外の景色を眺めていると、寝室のドアがゆっくりと開きまるで雪のような白銀の髪を靡かせた彼女──エレーナが立っていた。

 

「おはよう。丁度雪が降り始めて来てね、久しぶりに積もりそうだから眺めてるんだ」

「そうか。隣、失礼するぞ」

「ホットミルクいる?」

「……お前のを飲む」

 

 エレーナは隣に座ると僕の肩に頭を預けて来た。

 相変わらずひんやりしているがホットミルクを飲んだからか、少しだけ暖かく感じた。

 

「それにしてもエレーナが早起きなんて珍しいね。いつももう少し寝ているだろう?」

「……しばらく会えないんだ。少しくらい長く隣にいたいのは当然だろう?」

「そう言えば今日からだっけか」

 

 ロドスのオペレーターとして働いているエレーナは基本的には龍門に滞在しているが、時々ロドス本艦に合流して活動するのが決まりらしい。

 期間は大体二、三ヶ月と言った所で世界の様々な鉱石病患者のためにエレーナも大変になる時期だ。

 

「次帰ってきた時は何が食べたい?」

「そうだな……考えておこう」

 

 ちびちびとホットミルクを飲むエレーナの横顔から外に視線を向ける。エレーナは普段はクールだが、こうして仕事でしばらく会えなくなる日が近づくと甘えてくる。

 

 エレーナ元々、アーツのせいで人肌にまともに触れることが出来なかったらしい。それがロドスに加入する際に一時的にアーツの力を失った事で、アーツの力が弱まり通常時であれば肌に触れれるようになったのだとか。

 

 そのおかげでエレーナと触れ合えるのだから、ロドスの人達には感謝しても仕切れない。本来なら死に絶えるはずだったエレーナやスノーデビル小隊のメンバーを救い出し、ロドスへと加入させてくれたドクターという人には特に頭が上がらない。

 

 ふと、エレーナが手を絡めてきた。

 

「……どうしたの?」

「少し、怖い夢を見た」

「怖い夢?」

「スノーデビルの皆が……お前が去って行ってしまう夢だ」

 

 手を絡めていなければ分からないほど弱々しく震える彼女に、僕はただ肩を抱き寄せることしか出来なかった。

 いくらアーツの影響が弱くなったとは言え、彼女が傷ついてきた跡が消えることはない。

 

 何もできない自分が、惨めで仕方がなかった。

 

 でも……それでも、少しでもエレーナの気持ちが楽になってくれるのなら僕はずっとそばにいようと誓っている。

 

「大丈夫。僕もスノーデビルの皆んなも、君を置いて行きはしない。ずっと、そばに居るよ」

 

 いつか、君の心の傷が癒えるその日まで僕は共に歩もう。願わくば、その先の未来でも君と手を取り合い笑っていたいとは思う。

 

「そうか……そうだな。済まない、すこしネガティブになっていた」

「いや、もっと気軽に甘えてくれてもいいんだよ? その時はたっぷり甘やかすから」

「……お前と居ると、いつかダメになってしまいそうだ」

「ダメになってもいいんじゃない? きっと、誰も責めはしないよ」

 

 そうだ、エレーナはもっと人に甘えるべきなのだ。今まで我慢してきた分、存分に。

 

「だが……」

「まあ、無理に甘えてとは言わないよ。ただ、甘えたくなったら言ってね?」

「……わかった」

 

 納得いかないような返事をしているが、耳が嬉しそうにピコピコと動いている。それがどうしようもなく愛おしくて、たまらなかった。

 

「そうだ。帰ってきたらパーティーをしよう。スノーデビルのみんなも呼んでさ」

「……いいのか?」

「エレーナを支えてくれてる人たちだ。たまにはお礼もしなくちゃ」

「そうか……そうだな。では、アイツらにも伝えておこう」

 

 スノーデビル小隊は、僕がエレーナと出会う前まで彼女の体を案じて無理を止めようとしてい大切な家族。彼女が今こうして僕の隣で触れ合い、笑っていられるのは彼らの存在が大きい。

 エレーナから彼らの好みを事前に聞いておいて、料理の腕を振るおうじゃないか。

 

「……そろそろ時間だな」

「寂しい?」

「当たり前だ。アイツらと同じように、お前も私の大事な家族だ」

「そっか……じゃあ、その大切な家族を心配させないためにも無理はしない事だね。スノーデビルの皆んなに見張るように言ってるから、もし帰ってくるまでに無茶したらしばらくは離れて寝るからね?」

 

 エレーナはスノーデビル小隊の代わりに体を張ることが多々あると聞いているし、もしそんな事をして帰らぬ人になってもらっては僕が寂しくてどうにかなってしまう。

 そのためにも、釘は刺しておかなければならない。

 

「……それは困る。お前の体温が心地良過ぎて虜になった私にそれを言うのは意地が悪いぞ」

「君がここに帰ってくるためなら君に嫌われる覚悟もしているからね」

 

 

 そうだ。彼女はもう、十分すぎるくらい戦った。十分すぎるくらい、体を張ってくれたんだ。

 だから今度は、君を幸せにしなくちゃならないんだ。

 

 ──僕の人生を賭けて。

 

「エレーナ」

「どうした?」

「──愛してるよ」

「っ! ……私もお前を愛している」

 

 気づいた時には、彼女の顔がすぐ近くにあった。

 その唇はひんやりとしていて、その中に彼女の暖かさが感じられた。

 

 わずか数秒の口付けは、僕にはずっと長く感じられた。

 

「いってらっしゃい、エレーナ」

「ああ、行ってくる」

 

 ロドスへと向かう彼女の背中を見送りながらふと思う。

 

 この大地は、決して生やさしいものではない。

 

 それを僕もエレーナも知っている。

 

 でも……それでも願わずにはいられない。

 

 彼女の行く道が、暖かく晴れ渡っている事を。

 

 そして、僕の隣で君がずっと笑っていられる事を。

 

 ふわりと雪が鼻に付く。

 

「……寒い」




解釈違いや! とか言われるかも知れませんが、彼女がこうして幸せになれる結末があっても私は良いと思うのです。
アニメ本編の結末がわかっていても、もしかしたらと願わずにはいられなかった私の思いをうまく表現できたかは分かりません。
今日、私が住む街では初雪が降りました。なにか、運命を感じずにはいられません。

フロストノヴァと言うロドスの立派なオペレーターが、いつまでも幸せである事を私は願っております。
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