インフィニット・オルフェンズ 鉄の華   作:狼ルプス

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義兄弟の盃

 

「(すげぇ…まじで宇宙に街があるんだな)」

 

一夏は小惑星に街を築き上げている事に内心驚きながら見渡していた。

 

歳星に着いた鉄華団はテイワズのトップ、マクマード・バリストンの屋敷に来ていた。

 

「良いかぁ?この先に居るのは圏外圏で一番恐ろしい男だ。くれぐれも失礼の無いようにな」

 

名瀬の言葉に鉄華団は気を引き締める。

 

「よう。久しぶりだな」

 

名瀬さんが目の前の黒いスーツを着たスキンヘッドの男に話しかける。

 

「お久しぶりですタービン様。失礼ですが本日のご用件は?」

 

「ああ。親父に会いに来た」

 

名瀬さんが用件を言うと門が開く。

 

「さ~て……んじゃ行くか」

 

案内の黒服の後ろを歩き出す名瀬の後について行く一同。そして部屋に通されると和服姿の男性が盆栽の手入れをしていた。

 

「ん?おう、来たか名瀬」

 

目の前の男性が俺達に気づき、手を止めてこちらに体を向ける。この人物こそテイワズのボス、マクマード・バリストンだ。

 

「ひっ!?」

 

「ユージン、なに鋏にビビってんだよ。あれはあの木を手入れする用のやつだよ」

 

「び、ビビってねぇよ!んなわかってるわ!」

 

その手に握られた鋏の切っ先にビビるユージンに一夏は冷静に説明する。

 

「成る程、お前らが話は聞いてるぜ。良い面構えしてるじゃねえか。おーい、客人にカンノーリでも出してやれ。クリームたっぷりのな」

 

「へい」

 

「うちのカンノーリはうめえぞぉ、パリッとした皮にたっぷりのクリームでなぁ」

 

友好的な感じで鉄華団にカンノーリの美味さを語るマクマード、一夏はイメージしていたのとは違うと思うのだった。

 

「で名瀬、お前はどうしたいんだ?」

 

「こいつらは大きなヤマが晴れる奴だ。親父、俺はこいつに盃をやりたいと思う」

 

「!?」

 

「(あれ?聞いていた内容と違う…)」

 

「ほう、お前が男をそこまで認めるか。珍しい事もあるものだな。まあ、良いだろう。俺の下で義兄弟の盃を交わすと良い。タービンズと鉄華団は晴れて兄弟分だ」

 

 

「タービンズと俺らが、兄弟分?」

 

 

「で、貫目は?」

 

「五分で良い、どっちが上も下も無い」

 

「ふ、お前が良くてもな周りが許さんだろう。こいつらには荷が重い、せめて四分六にしておけ」

 

その後、クーデリアと別の話があるらしく、護衛に一夏と三日月の2人残して他は庭のテーブルと長椅子の所で終わるまで待つことになった。

 

 

「アンタが…火星独立運動家のお嬢さんか。時の人と会えて光栄だ」

 

歳星の社長室では、マクマードとクーデリアが話を始めた。クーデリアの護衛として一夏と三日月が扉の側に立っている。

 

「火星経済の再生策として、地球側が取り纏めていた火星のハーフメタル資源の規制解除を要求。火星での独自流通を実現する為、わざわざ地球くんだりまで交渉に出向く。アンタの目的は、それで間違いないな?」

 

「はい」 

 

「うちで仕入れた情報じゃあ、現アーブラウ首長である蒔苗は本気でそれを通そうとしているらしい」

 

「…!本当ですか!?」

 

「ああ。だが下手すりゃ戦争になるな。新たな利権を得ようと東西南北様々な組織が暗躍する。それこそどんなあくどい手を使ってでも…な。しかもこいつは長引くだろう。利権を勝ち取ってもその後の各組織間では軋轢が残るからな」

 

「(何かを成し遂げるには相当なリスクを伴う。束さんが造ったISは元々宇宙で自由な行動ができる為のパワードスーツだった…白騎士事件でISは兵器として扱われ世界は変わった…)」

 

一夏はマクマードの話を聞いて束のISを造った理由を思い出す。

 

 

「その資源の商売役として、テイワズを指名しちゃくれないか?お嬢さんが直々に指名した業者って言う大義名分を得られれば、当座の問題に関しちゃこっちでなんとかやれる。ま、避けようもねぇ事もあるかもしれねぇが…」

 

「(しっかりし儲けを得ようとしてるなこの人…)」

 

「そ、それは…もう少し考える時間を頂けますでしょうか…」

 

マクマードの言葉にクーデリアは淀み思わず助けを求めるように2人に顔を向ける。

 

 

「…こればかりはクーデリア、自分で決める事だ」

 

「うん、たぶん俺や一夏が最初に人を殺した時と同じクーデリアのこれからを全部決めるような決断だ」

 

「ああ。どっちにしろこれからも犠牲は避けられない。今まで事を振り返ればクーデリアならわかる事だろ?だからこれは自分で選択しないといけない」

 

「………」

 

「成る程、確かにそいつは一大事だ。いいだろう、そうそう長くは待てんが…」

 

「ありがとうございます。では…今日はこれで…」

 

クーデリアは2人の言葉を噛み締め部屋を後にし、それに続き2人も退室しようと歩き出す。

 

 

「若い衆2人。名前は?」

 

退室しようとするとマクマードが一夏と三日月を呼び止め名前を聞いてくる。

 

「…織斑一夏です」

 

「三日月・オーガス」

 

「モビルスーツ乗りか。よし、お前らのモビルスーツをうちで見てやろう」

 

「「え?/は?」」

 

マクマードの提案に2人は思わず素っ頓狂な声が出る。

 

「そう警戒するな、うちの職人は腕が良いぞ?ジジイの気まぐれだ。取り上げようって訳じゃねえ」

 

「(何企んでるんだこの人は…だが)わかりました。任せてもいいんですね?」

 

「おう、さっきも言ったがうちの職人は腕はいい」

 

「いいの一夏?勝手にそんなこと決めて…」

 

「大丈夫だろ。ここはマクマードさんの気まぐれに甘えよう。それにマルコシアスとバルバトスは専門家に見せなきゃ直せなかったしな」

 

「……わかった。一夏がそう言うなら」

 

 

勝手に決めている事に不安を待つ三日月だが、結果マクマードの提案を了承する。三日月も今のバルバトスの状態で戦えないのはわかっているので受け入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、オルガ達の方も話が終わって無事に資金も手に入り一夏達そのまま歳星のショッピングモールに向かい、買い物をし一度イサリビに戻り、子供たちに大量の菓子を渡す。

 

「うわ~っ!!」

 

テーブルには山積みのお菓子の数々、年少の子供たちが背の高いテーブルに顎をつけて目をキラキラさせていた。

 

「すっげぇ!」

 

「これもらっていいの!?」

 

「ああ!どれでも好きなのを選べ」

 

「やったぁ!」

 

「俺、こっち!」

 

「ふふっ…(この光景、和むなぁ…)」

 

年相応にお菓子に飛びつき始めた。殺し合いを生業にしているような少年兵だが、鉄華団は幼い子供が多く、一夏はこの当たり前の日常の光景を見て心が癒されるのだった。

 

「だめだって!ちゃんと公平、ちゃんと順番!」

 

「ほら、アトラも」

 

「あ、はいっ!………これ、自分でも作れるかな?」

 

「今度機会があれば教えてやろうかアトラ?」

 

促されたアトラは、興味津々に手近なケーキを眺め、横から聞いていた一夏はアトラの言葉に反応し教えようかと促す。

 

「え…一夏さん、作れるんですか…これ?」

 

「ああ、だけど材料とかそれを作る機材も必要だし、殆どが作れるわけじゃないがそれでもいいか?」

 

「も、もちろんです!時間がある時にお願いします!」

 

「おう、任せとけ!三日月に作ってやったら喜ぶと思うぞ?」

 

「は…はいぃ」

 

一夏はアトラが三日月に特別な感情を持っているのは知っている。そのため一夏の言葉にアトラは否定できず頬を赤くしながら返事をする。

 

 

「団長ー!俺らにはなんもねーのか?」

 

食堂に顔を覗かせたシノが悪戯っぽく笑いながら言うと、その後ろには昭弘やチャド、ダンテの姿もあり、オルガはにぃっと笑い返しながら、

 

 

「あぁ?あるに決まってるだろ!」

 

その一言に一部のメンバーを連れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「イエーイ!」

 

「イヤッホー!」

 

「ははははははは!」

 

歳星のとある酒場で仲間たちが騒ぎまくる。

 

 

「みんな遠慮しないで思いっきり楽しめよ!」

 

オルガが言うとみんなは次々と注文をしたり、色々な話をする。

 

「飲んで食ってちゃ物足りねえよ。やっぱここは女だろ女!」

 

「え?」

 

「タービンズと一緒になってストレス溜まってんだよ。乳ぶらぶらさせてる女が居るのに手が出せないんだぜ?なあ!ユージン?」

 

「俺は女なんて、別に」

 

「たく、くだらねえ」

 

「おらおら、何やってんだ?今日はとことん飲んでいくぞぉ!!」

 

「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

みんなはより一層テンションを上げる。

 

「想像以上に凄い事になったな。やっぱりみんなストレスを溜めてたんだな」

 

「そうだね」

 

「三日月は飲まないのか?」

 

「俺、この匂い苦手だから飲まない、一夏は?」

 

「俺も飲まないな。俺達はこっちだな。ほら…」

 

一夏は三日月にオレンジジュースを渡す。

 

「何これ?」

 

「オレンジジュース…俺達はこれで十分だよ」

 

「美味しいの?」

 

「うん、美味しい」

 

その後も宴会は続いたが途中でオルガが気分を悪くし、一夏と三日月はオルガに付き添う事になった。

 

「げっほ、げほげほ…はあ……うぅ」

 

「大丈夫オルガ?」

 

「うぅぅ…」

 

三日月は吐いているオルガの背中をさすりながら聞くがオルガはうめき声を上げるだけだった。

 

「大丈夫じゃないこりゃ…ちょっと薬買ってくる。三日月、オルガをたの「これ、良かったらつかって」…む?」

 

一夏は薬を買いに行こうとしたら金髪の女性がオルガにハンカチを渡してきた。

 

「う、うん?」

 

「大人になるんなら、いろんな方との付き合い方を覚えなくちゃだめよ」

 

そう言うと金髪の女性はそのままこの場を去った。

 

「…誰?」

 

「さあ?」

 

「まぁ、一応気を遣ってくれたのか?あの!ありがとうございます!」

 

一夏はハンカチを渡した女性にお礼を言う。オルガは手にしたハンカチを嗅ぎ始める。

 

「…女くせぇ」

 

「なに嗅いでんだよお前…」

 

「いや、なんとなく」

 

「なんとなくって」

 

「な、なんだよ、その呆れた顔は」

 

「別に?もう大丈夫みたいだから俺は戻るぜ。後そのハンカチ、お前が洗って返しておけよ。一応また来る時があれば返せる機会はあるだろうし」

 

「あ!おい一夏、待てよ!」

 

オルガは一夏を呼ぶが、それを無視して酒場に戻った。おそらくあのハンカチは何かしら香りで落ち着かせる成分が含まれていたのか先ほどより気分は良くなったオルガを置いて行き一夏は食べたい物を食べ飲み食いし宴会を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして宴会が終わり、その場はお開きとなった。

 

「んじゃ、俺らはここで」

 

「お、俺はあれだからな。シノがどうしてもと言うから…」

 

「ああ、分かっているよ。行ってらっしゃい」

 

ビスケットがそう言うと二人はそのままどこかに行った。

 

「………」

 

オルガは規則正しい寝息を立てながら昭弘に背負われて眠っていた。

 

「こんなオルガ、初めて見た」

 

「同じく」

 

三日月と一夏は初めて見るオルガの姿にそう言うと何かを呟く。

 

「やっとだ…やっと…家族を作ってやれる…お前らにも…やっと…胸をはって帰れる…居場所を…」

 

「オルガ…」

 

「家族…か…」

 

オルガの言葉を聞いた昭弘は上を見上げながら呟く。

 

「昭弘、どうした?」

 

「いや、何でもない」

 

「…そうか」

 

一夏は唯一昭弘の心情を察した。姉の織斑千冬がいるからこそ分わかってしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

イサリビに戻った俺は三日月とビスケットといまだ寝ているオルガと共に食堂に居た。

 

「ほら、こんな所で寝たら風邪引くよ、オルガ」

 

三日月は自分の上着をオルガにかける。

 

「そっか、クーデリアさんは実質、テイワズ預かりになるってことか」

 

「反対した方が良かったかな?」

 

「どうして?」

 

「テイワズが間に入ったら、儲けが少なくなるだろうし。こんな大事な事、オルガに聞かずに決めて…」

 

「三日月、組織間の戦争なんてことになったら俺達じゃ手に負えないってことはオルガにだって分かっているはずだ。俺はこの判断は正解だと思ってる」

 

「今まで上手く行ったから良いけど、本当は俺達には手に負えない事ばかりだったよね」

 

「でも、オルガの意地のおかげで、俺達の夢が見れた」

 

「…だね」

 

「そうだな」

 

「まあ、オルガにはもう少し俺達に頼って欲しいんだけどね」

 

「だな。オルガは全部一人で背負おうとするしな。足りないところは俺達で補わないと」

 

オルガをそのまま寝かせ各自部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、名瀬とオルガが兄弟の盃を交わす式が行われる会場で一夏と三日月は名瀬と一緒に居た。名瀬は筆で式で使う文字を書いていた。

 

名瀬が今書いていたのは左に『名瀬蛇亞瓶』…右に『御瑠我威都華』と書かれていた。

 

「変わった絵だね」

 

三日月は名瀬さんが筆で書いた文字を見て言う。

 

「字だよ。これでオルガ・イツカって呼ぶんだ」

 

「字?」

 

「式に使うんだ」

 

「へえ、この字って俺のにもあるの?」

 

「お前の?ふむ…」

 

名瀬は三日月の名を書き始める。その紙を三日月に渡す、そこに書かれたのは『三日月王我主』と書かれていた。

 

「これが、俺の?」

 

「ああ、どうだ?」

 

「俺、クーデリアから教わった物よりこっちの方が好きだな。何か綺麗だ」

 

「(おっ?三日月、珍しく興味示してるな…)」

 

三日月が農業以外に興味を示し、その様子を珍しそうに見つめる一夏。

 

「名瀬さん、俺も書いても良いですか?」

 

「ん?お前、字が書けるのか?」

 

「はい、昔教わったことがあったので」

 

「そうか、なら良いぞ」

 

「ありがとうございます。ただ名瀬さんのように達筆とはいきませんけど…」

 

名瀬に渡された紙と筆で一夏は自分の名前を書く。

 

「ほぉ、本当に文字が書けんだな。名前からしてもしかしてとは思ったが…お前さん本当に火星生まれか?」

 

名瀬は一夏のフルネームを聞いた時から何処か違和感を感じてはいたようだ。

  

「あはは…」

 

一夏は誤魔化しながら苦笑いを浮かべ、書いた名前を三日月に見せる。

 

「これが一夏の?」

 

「ああ、これが俺の名前、織斑一夏だ」

 

「へぇ…」

 

三日月は一夏の名前の文字をじっと見つめる。

 

「失礼します」

 

入口から和服姿のオルガが入って来た。ちなみに一夏達もいつもの服の上に羽織を羽織っている。

 

「お待たせしました」

 

「おお!似合っているじゃないか!」

 

「どうも…ん?」

 

オルガは字が書かれた紙を見る。

 

「これって式に使うものですか?」

 

「ああ」

 

「ほら、こっちは俺、こっちは一夏の。一夏のは入ってないけど、俺とオルガに同じ字が入っている」

 

「え?」

 

三日月は自分の名前が書かれた紙と俺が書いた紙をオルガに見せる。

 

「それは御留我の我に、王我主の我だ。『われ』とも言う」

 

「われ?」

 

「自分って意味さ。これからどんどん立場が変わる。自分を見失うなよオルガ。でねえと、家族を守れねえぞ」

 

「!?……はい」

 

名瀬の言葉にオルガは目を見開くが直ぐに顔を引き締めて答える。

 

「じゃあ、そろそろ行くか」

 

「うん」

 

「はい」

 

「分かりました」

 

 

「団長さん!」

 

するとそこで、ドレスを着たクーデリアが来た。

 

 

「クーデリア?」

 

「どうしたの?」

 

「ありがとう一夏、三日月、私…決めたわ」

 

「え?」

 

「…その様子、覚悟はできたんだな?」

 

「はい。団長さん」

 

クーデリアが何かを決心した顔でオルガに向ける。

 

「いえ…オルガ・イツカ、お話があります」

 

その後、式は問題なく終わり、鉄華団とタービンズは歳星を出発した。

マルコシアスの姿について

  • 厄際戦当時の姿に改修される
  • 一部厄際戦当時に近い姿で改修される
  • バルバトスのように形態変化で行く
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