Machinery Gear Armies 作:ナイン(あかいろのすがた)
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目を開けばコックピットの中。正面のモニターが起動し、カメラから送られる映像と、搭乗している機体の武装状態が表示される。人の気配など感じられない廃墟も、機体が持つ単発式のビームライフルも、この3日間で見慣れたものだ。
それらの情報に変化がないことを一目で把握し、周囲を警戒する。半ばから先の無いビル、積み上がった瓦礫の山、身を隠せるところなどいくらでもある。
───しかし、それは全く無警戒のところから攻撃を開始した。
上空からの急降下。周囲にそこまで高い建物が存在しない故に警戒していなかった行動だ。動きを感知したレーダーが警戒音を発するよりも早くバックステップで着地点から離れる。着地した瞬間の隙を狙い襲撃者に対しビームを放つが、遥か頭上からの降下の衝撃など無かったと感じさせる動きで軽々避けこちらに向かってくる。
近づかれる前に何とかもう一発ビームを放つ。狙いすました一撃だったが、銃口の向きから予測されたか再び回避される。最早銃が役に立つ距離ではない。
右手のビームライフルを投げ捨て、腕を勢いよく振るうと同時に手首に搭載されたエネルギーブレードを展開する。が、それすらも読んでいたのか、身をかがめた相手にあっさりと回避される。
勢いはそのままに、隙だらけの自身の機体のど真ん中にブレードが叩き込まれる。残念ながら機体を覆う黒い装甲は簡単に貫かれた。胸に風穴の空いた状態で動ける機体など無いと、当然の様に機体は機能を停止する。例え修理したとしても、乗り手ごと致命の一撃を受けたその機体が動き出すことは決して無い。
文明の跡地である廃都市の一角にて行われた、同型機による一対一の戦い。同条件のはずのそれの結果はしかし、勝者がどちらかなど一目瞭然である圧倒的な勝利によって締めくくられた。
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「……また負けた」
先程までいたコックピットはどこへやら、少年は真っ白な部屋に立っていた。通算74回目の挑戦。今回の結果も残念なままに終わったことに悔しさを感じながらも、目の前のウィンドウを捜査しログアウトする。
一転し真っ暗になった視界は、フルフェイス型のゲーム機を取り外せば一気に開けた。見慣れた自身の部屋を出て一階に降りる。夕食の準備をしている母はこちらには気づいていないようなので、机の上のお茶を飲んだ後風呂へ向かう。
さっとカラダを洗い湯船に浸かる。現実の体は動かしてなどいないのだが、抱えた疲労は本物だ。芯まで暖まる心地良さを感じながら先程の戦いを思い返す。
「さっきの動きは、見たことあったんだけどなぁ」
頭上からの奇襲はレーダーの感知外から高速で接近するのに有効な手段である。落下の速度が加速に乗るため、凄まじい勢いで地面へと向かうためだ。本来なら着地時の衝撃で破壊されそうなものだが、奴は芸術的なまでの操縦技術で衝撃を流しあまつさえ自身の加速へと繋げてくる。初見の時などそのまま一撃で倒されてしまったくらいだ。
今でも挑戦を続けているのは紛れもなく自分の意志だが、時々本当にアレに勝てるのか不安になってしまう。
世界初のVRゲーム、Machinery Gear Armies。先程までプレイしていたゲームの
風呂を上がり体を拭く。用意しておいた寝巻きに着替えてリビングに向かえば、丁度夕食が出来上がった所だった。箸やコップを出すのを手伝い、自分の席に付く。
「そういえば、前に言ってたとっても強い敵には勝てたの?」
夕食を取りながら雑談をしていた最中に振られた母の質問に、思わず苦い顔をしてしまう。それを見て察したのか、苦笑いで頑張ってねとこちらを応援し食事を再開した。こちらも野菜炒めやら鮭の切り身やらを食べ進める。
最後の一口に肉じゃがを選び、ごちそうさまを言って食器を運ぶ。すぐに洗面台に向かい歯磨きをする中で無意識に、己の壁となっている機体のことを思い浮かべた。
アレは根本的な動きからしてこちらとは違う。同じ武装、同じ機体、同じ環境で戦っていてあれほど明確な差が生まれるのは、それらを使うパイロットの技術が劣っているからに他ならない。
純然たる事実として、おそらく今から1週間あっても奴に勝つことはできない。唯一チュートリアルで、あのステージだけはクリアしなくても先に進めるようになっているのは、運営からのメッセージだと考えている。
このゲームを極めれば、初期の機体でもこれ程までに強くなれるのだと。これだけの動きをするNPCと、いつか戦うことになるのだと。しかし今はまだ、プレイヤーが勝つことはできないのだと。そう言っているのだ。
最初は姿すら見ることが出来なかった。16回目の挑戦で、なりふり構わず逃げの姿勢をとり初めて相手の機体を視認した。全く同じ機体を使っているのだと気づいたときには驚愕したものだ。
2日目の挑戦を終える頃には、たった1度だけだが敵の攻撃にまともに対処できるようになっていた。得られた戦果こそ僅かだったが、機体を動かす操作レバーや液晶画面を動かす腕が嘘のように軽くなっており、明らかな成長を感じられた。
そして3日目の今日、ついに戦闘と呼べるだけのやり取りが成立するようになった。相手の動きの意図をその場で分析し行動に移せるようになってきているのだ。
ここまで多くの発見があったというのに、未だに一撃も加えられていない奴の強さには脱帽するばかりだ。故に不安はあるが、しかし諦めようとは全く思えない。
歯磨きを終え口の中をゆすぐ。ポケットからスマホを開き時間を見てみれば、まだ19時半を回った所だった。今日はまだ何回も奴に挑めることができる。また奴に近づくことができる。
まだまだ彼のゲームは──