Machinery Gear Armies   作:ナイン(あかいろのすがた)

11 / 17
第3回イベント。

 

「よし、行くか」

 

いよいよ明日がイベント開始となった日に、少年は再びチュートリアルへ足を踏み入れていた。既に機体の準備は万全。なら後仕上げるべきは搭乗するパイロットの腕だ。

 

リハビリがてらの本気の戦いもこれで10回目。最初だけは油断から負けてしまったものの、それ以降は全勝している。初めてのイベントで苦渋を舐めることがないよう、彼は1日かけて入念な練習を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周囲から向けられる視線を気にする様子もなく、青髪の少女は堂々と道路の中心を歩いていた。行きつけのバトルシミュレーターへ向かう足取りは軽く、気分が良いことが伺える。

 

「『機械の歯車(マシーナリー・ギア)』のクリアだな?」

 

人混みの中から出てきた男が声をかける。何かの覚悟を決めた目をしており、ナンパなどではないことは明白だ。

 

「挑戦者ね?」

 

いつも通り問いかければ男は頷く。視線で付いてくるよう促ししばらく歩けば目的の施設が見えてきた。

 

バトルシミュレーター。自身の機体データをインストールすることで、過去に戦ったボスや他のプレイヤーと機体を壊さず戦うことができる施設だ。

 

「招待は貴方からお願いね?」

 

注意事項を告げ、暗黙の了解で少女の指定席となっている筐体に乗り込む。少し待てば1対1の戦闘の申請が届いた。慣れた手付きでYESを押し操作レバーを握り締める。

 

読み込みが終わり画面には荒野が広がる。見晴らしが良く高低差も小さいフィールドだ。射撃も格闘もできる機体を操る少女にとってはまずまずと言ったところか。

 

戦闘開始と同時に大きく横に跳ぶ。先程まで自身がいた場所に遠距離からのビームが飛んできたのを確認し、放たれた方向へと加速する。

 

ロックオンされたことを知らせる警告音がコックピット内に鳴り響くが少女は慌てない。集中力を高めビームが放たれる瞬間を見極める。

 

弾速の速さゆえに放たれてからの回避は不可能なはずのそれを前屈姿勢でやり過ごし、みるみるうちに距離を詰める。

 

射線の通るフィールドを選んだ時点で相手が遠距離戦を行うのは予想していた。ビームスナイパーライフルはクールダウンが通常のものより長いのも把握している。今の相手にこちらを止める手段は無い。

 

ビームが撃たれた地点に大岩があるのが見える。上に飛び全体を見渡そうとしたところで再び警告音。使い捨てのミサイルポッドから射出されるミサイルを左右への移動で一纏めにし、ビームで貫く。

 

間を空けず2発、3発と発射。片方は相手の右足を破壊した。相手は姿勢を崩しながらもこちらに狙いをつけスナイパーライフルを放つが、至近距離では狙いを読むのも簡単だ。

 

実際に回避するのは困難なことだが、彼女にとっては朝飯前。急加速の負担を涼しい顔で耐えつつ最後の一発を放つ。ビームは寸分の狂いもなくMGAの中心を貫いた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画面に表示されるVICTORYを流し見し、筐体から出る。対戦相手の男も外におり、悔しそうな表情を浮かべていた。

 

「いい試合だったわ。ありがとう」

 

「……こちらこそ」

 

握手を交わし、シミュレーターから去っていく男との戦いを振り返る。AIM力(射撃の狙いをつける能力)は高かったが、初手で撃ってきたのは愚策だった。

 

(試合開始時なんて、一番警戒が強いタイミングでしょうに)

 

位置を悟らせないよう隠密行動を行い、動きが精細を欠いたところを狙うべきだった。スナイパーをやるには忍耐不足と評価せざる負えない。

 

「サービス開始から実戦訓練問わず()()を誇るオマエには、ヌルい相手だったな」

 

「嫌味ったらしい言い方ね。私に負けたのがそんなに悔しかった?」

 

ここに来る度噛み付いてくる顔見知りに皮肉を返せば、親の仇でも見るような目で睨んでくる。

 

「流石は『狂犬』レオン。躾がなってないわね」

 

「……次のイベント、覚悟しておけ。お前らも他のクランも、全部潰してやるからよ」

 

「そ、楽しみにしてるわ」

 

相手チームになったらの話だけどね、と付け足し、少女は再びシミュレーターの中へ戻って行く。

 

(私を楽しませてくれる人はいないのかしら)

 

常勝無敗、完全無欠。初回イベントのトーナメント戦で優勝してから、個人団体問わず彼女は最強だった。自身が作り上げた機体の動きについてこれる者も、合わせられる者もいない。

 

2次応募での新規プレイヤーも同じで、彼女の後ろをついて来るのみ。誰かの背中を追いかけたことは戦闘中以外1度もなかった。

 

「次のイベントでも、無理でしょうね」

 

いずれ自身と肩を並べるだろうプレイヤーは存在しているが、今はまだ2回りは少女の方が強い。それ程の隔絶した実力を彼女は持っているのだ。

 

だから自らの手で他のプレイヤーを鍛えるのだ。毎日のようにシミュレーターに通い、誰の挑戦も拒まぬようにする。フリー対戦を繰り返し、自身の立ち回りを誰でも調べられるようにする。

 

それを強者の傲慢か、或いは涙ぐましい努力ととるかは人によって変わるだろうが、事実として成果は出ていなかった。

 

だが、彼女の飢えが満たされる日は近い。怪物じみた初心者との遭遇までそう遠くはないのだから。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。